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プロの力を借りて建築紛争を解決! 自治体の調整制度を知っておこう
この記事で分かること
- 建築紛争は当事者が多くいるため、利害関係も紛争自体も複雑になりやすい
- 建築紛争を解決するために、各自治体で建築紛争調整制度が設けられている
- 建築紛争調整は専門家集団である「紛争調停委員会」の主導のもとで行う
建築に関する紛争を解決するには、ある程度専門知識が必要となる上に問題も複雑化しやすくなっています。そんな建築紛争について、柔軟に解決するために設けられたのが「建築紛争調整制度」です。
住宅の瑕疵によって起きる紛争
近年、建築紛争が増加しています。その背景にはマンションやアパートの供給過剰等がありますが、加害者と被害者間では利害に違いがあることに加えてトラブルに関する知識レベルにも差があるため、なかなか解決の糸口が掴めないケースが多いのが現状です。
建築紛争の現状世の中に
は多様な商品が存在し、その機能もまた様々ですが、中でも「住宅」は人々が暮らす上で最も重要な役割を果たす商品のひとつと言えます。そんな私達の生活に不可欠な住宅での快適な暮らしが脅かされたとき、「建築紛争」が起こるのです。
建築紛争とは
建築紛争とは、建物が本来備えているべき機能・品質・性能等の欠陥である「瑕疵」によって、建築主や住人、近隣住民が損害を被ったために被害者が建築業者と争うことです。通常、建築工事には施主や設計を担当する建築士、施工をする工務店等といった複数の立場の人間が関与するため、トラブルが起きたときに責任の所在の判断が困難なことが多いのが特徴です。
違法建築が建築紛争の原因になることが多い
通常建築物を建てる際には建築基準法等による規定に従わなければならず、違反した場合建築主は法的に罰せられます。例えば、近年増加している耐震度が偽装された建築物や 耐火性能が法律の基準を満たしていない建築物等が、建築紛争の火種となるケースは頻繁に見られます。更にこの様な瑕疵があったとしても一般人には見抜けず、立証がままならないケースが多いため、建築紛争の解決は難航しがちなのです。
建築紛争で争われる内容
また法律に定めのない事項が原因で建築紛争が起こるケースもしばしばあり、このことが建築紛争の解決をいっそう困難にしていると言えます。建築紛争で争われることの多いものとしては、以下のようなものがあります。
住環境に関するもの
- 隣の敷地に高い建物が建設されることによる日照の阻害やプライバシーの侵害
- 工事中に防音が施されていないために起こる騒音・振動の被害
- 住民の意向を無視した巨大ビルや商業施設等の建築
建築物の瑕疵に関するもの
- 建築後の建物に不均一な沈下が生じる等の地盤事故
- 完成引き渡し後の実際の施工内容と依頼主のイメージとの差異
- 耐震構造や施工法の不備
契約に関するもの
- 契約内容と施行内容が異なる、価格が妥当でない
- 施工の中断、放置等の債務不履行
リフォームでも業者と依頼主との間で生じる認識違い
リフォーム等でも、取付工事の効果に関して業者と依頼主との間での認識違いが発生しがちです。更に施工途中で追加工事をするに際して追加部分に関する取り決めを口頭で済ませた場合は、引き渡し後に料金等を巡ってトラブルが多く発生しています。これは書面に残さなかったことに加えて、どの様な工程にどの程度の金額を要するのか注文主は通常正確には認知できないことが原因と言えます。
各自治体に定められた建築紛争調整制度を利用する
争いが生じる原因は様々であり法律で判断することが難しいケースも多いため、杓子定規な方法では解決できないところが建築紛争の難しさと言えます。
話し合いで解決しない場合“建築紛争調整制度”を利用
建築紛争では話し合いでの解決が基本とされていますが解決に至らないケースも多いのが実際です。しかし、だからといって諦めるのは早計です。話し合いで解決しない場合のために「建築紛争調整制度」が用意されています。
建築紛争の解決は一筋縄ではいかない
建築紛争は民事上の問題であるため、本来ならば当事者間の話し合いにより自主的に解決することが基本となります。しかし、建築紛争では当事者間で知識レベルに差があったり利害関係も異なる等、複雑な事情が絡むケースがほとんどです。そのため、なかなか話し合いでは解決できないのが現状です。
話し合いで解決しない場合、まずは「あっせん」を利用
当事者同士の話し合いで解決しない場合は 、「あっせん」を利用することができます。あっせんとは、市区町村に設置された“建築紛争調停委員会”によって、紛争解決を公正中立の立場で支援することを目的に設けられた話し合いの場で、基本的には双方からの書面による申出により行われます。そこでも解決に至らない場合は、条例に基づく調整や“建築紛争調整制度”と呼ばれる裁判外の調停(ADR)で解決を目指すことになります。
建築紛争解決調整制度の特徴
建築紛争調整制度を利用する場合と通常訴訟を起こした場合とでは、どの様な違いがあるのでしょうか。ここでは建築紛争調整制度の特徴とメリット・デメリットについて解説していきます。
建築紛争調整制度は妥協・譲歩を通じて解決を図る制度
建築紛争解決制度は、当事者同士が柔軟に紛争解決のできる仕組みである「裁判外調停制度(ADR)」の一種です。この制度は、裁判のように白黒をつけるのではなく、双方の歩み寄りによって解決策を導きだすスタンスであることが特徴のひとつです。ほとんどの自治体では「中高層建築物高の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」等を制定して建築紛争調整精度を設けています。
建築紛争調整制度のメリット
主宰者の構成員に関しては、裁判では裁判官に限られますが、建築紛争調整制度では限定されていません。そのため事案に応じて様々な専門家からの助言が得られます。さらに、話し合いは原則非公開で行われるので、当事者のプライバシーも保たれます。
建築紛争調整制度のデメリット
裁判とは違って、紛争調整には強制力がなく、調停で決まったこと(仲裁判断)を履行しなくとも罰せられることはありません。また、建築紛争解決調整制度は基本的に双方の同意が必要なため、一方のみが申し出ても受理されないのが特徴です。さらに、仲裁判断を不服として同じ事案について再び調停の場で扱うことはできないことになっています。
建築紛争調整制度を深く知る
建築紛争調整制度で扱われる案件は、どのようなことで、当事者間の利害の調整はどのように行われるのでしょうか。ここでは、制度を利用する上で知っておきたいポイントを深く掘り下げていきます。
建築紛争調整制度の対象になるもの・ならないもの
建築紛争調整制度には、調整の対象となる事案と対象とならないものがあります。それはどのようなものでしょうか?両方について詳しく見ていくことにしましょう。
建設位置・高さ等
建築紛争調整制度は、以下のような事案を扱います。
- 中高層建築物の建築に伴って生じる日照、通風及び採光の阻害
- 風害、電波障害等の周辺の生活環境に及ぼす影響に関する近隣住民等と建築主との紛争
従って具体的には建築物の位置や高さの争議、振動・騒音を防ぐための装置の設置、電波障害の対策等が調整の対象になります。またプライバシーを保護するための目隠しの設置等も対象になります。
過去の事案や賠償金等に関する調整は行わない
過去に起こった事案は調整の対象とはなりません。また賠償金等金額にまつわるトラブルに関しても、本来裁判で解決すべき紛争であるため、対象外となります。建築紛争調整制度は、あくまでも「改善することによって周辺住民の生活環境の改善が期待できる建築の内容」を調整することなのです。
建築紛争を解決する専門家集団「紛争調停委員会」
建築紛争は単なるご近所トラブルではありません。双方の利害や法律の規定等、様々な要素が絡んできます。そのため、建築紛争をスムーズに解決するには専門家の知見が不可欠と言えます。
紛争調停委員会による調停
建築紛争調整制度では、紛争に関する争議を円滑に進行するために市区町村に設けられた 「紛争調停委員会」と呼ばれる機関が、建築紛争の調停や紛争の予防・調整に関する重要事項の調査審議を行います。法律・建築・環境問題の各分野から選出された専門家3~4名で構成されますが、人数等は自治体によって異なることがあります。
複数の分野から選出された専門家で構成される
建築紛争の争点は多岐に渡るため、スムーズな解決には各分野の専門家の知見が必要不可欠です。紛争調停委員会によって調停が行われれば、プライバシーの問題等では法律が絡んでくるので弁護士や司法書士の知見、建築物の構造等に関する問題では建築家の知識、日照や風通しの問題では環境問題の専門家による知見や助言を得られることとなります。
建築紛争調整制度を使って専門家の判断を仰ごう
建築紛争は複雑な事情が絡むため泥沼化しがちです。しかし各地方自治体に設けられた建築紛争調整制度を利用すれば、解決に近づくことが可能です。調停では専門家の意見をよく聞きながら紛争解決への糸口を探りましょう。
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