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管理組合に弁護士は必要なのか
管理費を何年も払わない住戸がある。規約で禁止されているのに民泊をしている部屋がある。大規模修繕の工事で、施工会社との契約の内容に不安がある。マンションの管理組合の理事になると、こうした法律の判断が必要な場面に、思いのほか多く出会います。
管理組合の理事の多くは、会社員や主婦、年金生活者など、法律の専門家ではありません。ほかの住人との関係を気にしながら、限られた任期の中で判断を迫られることもあります。管理会社に相談しても、管理会社は法的な紛争の代理をすることはできず、管理会社自身との契約の問題では、中立の立場で助言してもらうことも期待できません。
こうした場面で頼りになるのが、管理組合の顧問弁護士です。顧問弁護士がいれば、トラブルが大きくなる前に相談でき、法的な手続きが必要になったときも素早く対応できます。トラブルが起きてから弁護士を探すのではなく、日ごろから相談できる体制を整えておくことが、管理組合の運営を安定させることにつながります。
この記事では、マンションの管理組合の相談を受ける弁護士の立場から、管理組合が弁護士に相談する場面、顧問弁護士に依頼できること、費用の考え方、顧問契約の結び方、弁護士の選び方、依頼するうえでの注意点までを説明していきます。
管理組合の運営は、区分所有者全員の財産を守るための大切な仕事です。そして、その判断の多くは、区分所有法や管理規約という法的なルールに基づいて行われます。法律の専門家の助けを借りることは、理事の負担を軽くするだけでなく、区分所有者全員の利益を守ることにもつながります。
管理組合が弁護士に相談する場面
管理組合が弁護士に相談することが多いのは、次のような場面です。日常の運営から、大きな紛争まで、幅広い場面があります。
| 場面 | 主な内容 |
|---|---|
| 管理費の滞納 | 督促の方法、支払督促や訴訟、差押え、競売 |
| 規約違反への対応 | 民泊、ペット、騒音、無断のリフォームなどへの差止め |
| 管理規約の見直し | 法改正や標準管理規約の改正への対応、使用細則の整備 |
| 総会の運営 | 決議の要件、議事の進め方、議決権の数え方 |
| 管理会社との契約 | 管理委託契約の内容の確認、管理会社の変更 |
| 大規模修繕 | 施工会社や設計事務所との契約、工事の不具合への対応 |
| 建物の欠陥 | 分譲会社や施工会社への修理や損害の賠償の請求 |
| 住人どうしのトラブル | 管理組合としての関与の範囲、対応の方法 |
| 建て替えや大規模な改修 | 合意の形成、決議の手続き、反対者への対応 |
相談の多い時期
管理組合からの相談は、総会の前や、理事が交代した直後に増える傾向があります。総会の議案の作り方や、決議の要件の確認、新しい理事会で引き継いだ未解決の問題の整理などです。こうした時期に、すぐに相談できる弁護士がいると、理事会の運営がスムーズに進みます。
建物の欠陥への対応
新築のマンションで、外壁のひび割れや、共用部分の雨漏りなどの欠陥が見つかった場合、管理組合として、分譲会社や施工会社に修理や損害の賠償を求めることがあります。構造や雨漏りに関わる欠陥は、引渡しから10年の保証の対象になるため、期限の管理が大切です。専門家の調査と法的な請求を組み合わせる必要があるので、早めに弁護士に相談しましょう。
建て替えや敷地の売却の検討
老朽化したマンションでは、建て替えや、建物と敷地をまとめて売却する方法が検討されることもあります。建て替えの決議には多くの賛成が必要で、反対する区分所有者への対応や、仮住まいの確保、権利の変換など、複雑な法律の手続きが絡みます。検討の早い段階から、弁護士の助言を受けることが大切です。
管理会社に任せられないこと
管理会社は、管理組合から委託を受けて、日常の管理の事務を行う会社です。滞納者への初期の督促や、規約違反者への注意の文書の作成などは行いますが、他人の法律事件について、報酬を得て交渉や訴訟を代理することは、弁護士でなければできません。また、管理委託契約の見直しや、管理会社の対応への不満のように、管理会社自身が当事者となる問題では、管理組合の立場に立った助言を管理会社から受けることは難しいでしょう。
マンション管理士との違い
マンション管理士は、管理組合の運営や、管理規約の見直し、長期修繕計画の作成などについて、専門的な助言を行う国家資格です。日常の運営の相談には、マンション管理士が向いている場面も多くあります。一方、滞納の回収の訴訟や、規約違反者への差止めの請求など、法的な紛争の代理ができるのは弁護士だけです。両者を上手に使い分けることが大切です。
大規模修繕の契約
大規模修繕は、管理組合にとって最も大きな支出の一つです。施工会社との工事請負契約や、設計や監理を担う事務所との契約には、工事の範囲、代金の支払いの時期、工事の遅れや不具合があった場合の責任など、大切な条件が定められます。契約の前に弁護士に内容を確認してもらうと、後のトラブルを防げます。施工会社の選定の過程で、特定の会社に有利な談合が疑われる場合の対応についても、助言を受けられます。
共用部分の活用の契約
屋上に携帯電話の基地局を設置させる、共用部分の一部を自動販売機の設置場所として貸すといった、共用部分の活用の契約を結ぶこともあります。契約の期間、使用料、撤去の条件、事故があった場合の責任などを、管理組合に不利にならないよう定める必要があります。共用部分の変更にあたる場合は、総会の決議の要件にも注意が必要です。
総会の運営の相談
総会では、議案ごとに必要な決議の要件が違います。普通決議でよいのか、特別決議が必要なのか、委任状や議決権行使書をどう数えるのか、議長を誰が務めるのかなど、手続きを誤ると、決議の効力が争われることがあります。重要な議案を諮る総会の前には、議案と手続きを弁護士に確認してもらうと安心です。
理事の負担を軽くする
理事は、多くの場合、ほかの住人と同じマンションに住む、ごく普通の一区分所有者です。滞納者や規約違反者に直接対応することには、心理的な負担が大きく、近所づきあいへの影響を気にして、対応を先送りしてしまうこともあります。弁護士が窓口になることで、理事個人の負担を軽くし、ルールに沿った対応を進めやすくなります。
顧問弁護士に依頼できること
では、顧問弁護士には何を頼めるのでしょうか。顧問弁護士は、顧問契約に基づいて、管理組合の日常の法律相談に継続的に応じる弁護士です。
| 業務 | 内容 | 顧問料に含まれることが多いか |
|---|---|---|
| 法律相談 | 理事会からの相談に、電話やメール、面談で応じる | 含まれることが多い |
| 文書の確認 | 管理委託契約書、工事の契約書、総会の議案などの確認 | 簡単なものは含まれることが多い |
| 規約の見直しの助言 | 管理規約や使用細則の改正案への助言 | 範囲による |
| 総会や理事会への出席 | 重要な議題の総会や理事会に出席し、説明や助言をする | 回数などを契約で決める |
| 督促の文書の送付 | 弁護士の名前で滞納者や規約違反者に文書を送る | 範囲による |
| 訴訟などの代理 | 管理費の回収の訴訟、差止めの訴訟などの代理 | 別途の費用がかかるのが一般的 |
文書の確認の具体例
顧問弁護士に確認を依頼する文書としては、管理会社との管理委託契約書、大規模修繕の工事請負契約書、共用部分の一部を貸し出す場合の賃貸借契約書、区分所有者に送る督促状や注意の文書、総会の議案書などがあります。契約書に、管理組合に一方的に不利な条項が入っていないかを、事前に確かめてもらうことで、後のトラブルを防げます。
顧問料に含まれない業務
訴訟や調停の代理、複雑な規約の全面的な改正、建て替えの手続きの支援など、時間のかかる業務は、顧問料とは別に費用がかかるのが一般的です。顧問契約を結ぶ前に、どの業務が顧問料の範囲で、どの業務から別の費用がかかるのかを、はっきりさせておきましょう。
早めの相談が効果を生む
顧問弁護士を置く最大の利点は、トラブルが小さいうちに相談できることです。滞納が始まったばかりの段階で督促の方法を相談する、規約違反の兆しがあった段階で対応の手順を確かめるといった形で、問題が大きくなる前に手を打てます。結果として、訴訟などの大きな費用を避けられることも少なくありません。
総会への出席の効果
規約の改正や、滞納者への法的な措置、大規模修繕の業者の選定など、区分所有者の関心が高い議題の総会では、顧問弁護士が出席して、法的な観点から説明することがあります。理事が説明するよりも、中立の専門家の説明のほうが、区分所有者に受け入れられやすいこともあります。質問にもその場で答えられるので、議論が円滑に進みます。
相談の方法
顧問弁護士への相談は、電話やメール、ウェブ会議、事務所での面談など、さまざまな方法で行えます。理事が集まる理事会の日に合わせて、弁護士にウェブ会議で参加してもらう管理組合もあります。相談の内容や回答は、理事会で共有し、議事録に残しておきましょう。
弁護士の名前で文書を送る効果
滞納者や規約違反者に、理事会の名前で何度注意しても改善しない場合でも、弁護士の名前で文書を送ると、状況が変わることがあります。弁護士からの文書は、法的な手続きに進む前の最終の通知として受け止められやすく、相手が対応を考え直すきっかけになるからです。
管理組合の実情を知ってもらう
顧問弁護士は、継続して相談に応じる中で、マンションの規模や住人の構成、過去のトラブルの経緯、管理会社との関係など、管理組合の実情を理解していきます。実情を知っている弁護士であれば、一般論ではなく、そのマンションに合った具体的な助言ができます。これは、必要なときだけ弁護士に相談する場合との大きな違いです。
理事の交代があっても一貫した対応ができる
理事は1年や2年で交代することが多く、前の理事会の対応の経緯が引き継がれないこともあります。顧問弁護士がいれば、過去の相談の経緯を把握しているため、理事が替わっても、一貫した方針で対応を続けられます。
顧問契約の費用の考え方
気になるのが費用です。顧問弁護士の費用は、法律事務所ごとに決められていて、決まった相場があるわけではありません。
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 顧問料 | 毎月または毎年、定額で支払う費用。相談の回数や業務の範囲に応じて決まる |
| 個別の事件の着手金 | 訴訟などを依頼する際に支払う費用。顧問契約があると割り引かれることもある |
| 報酬金 | 事件が解決したときに、得られた結果に応じて支払う費用 |
| 日当・実費 | 総会への出席の日当、裁判所への手数料、郵便代など |
顧問料の決まり方
顧問料は、マンションの規模、想定される相談の頻度、総会への出席の有無などによって変わります。住戸の数が多いマンションや、滞納や規約違反の問題を多く抱えるマンションでは、相談の量が増えるため、顧問料も高めになる傾向があります。提案を受ける際に、顧問料でどこまでの業務に対応してもらえるのかを、具体的に確かめましょう。
費用対効果の考え方
顧問料は、管理組合にとって毎年の固定の支出になるため、区分所有者から「本当に必要なのか」という声が上がることもあります。顧問料の額と、顧問弁護士がいることで防げるトラブルや、早期の解決によって節約できる費用とを比べて判断しましょう。滞納の回収で弁護士費用を滞納者に請求できる規約の定めがあれば、実質的な負担を抑えることもできます。
顧問料の予算の立て方
顧問料を予算に計上する際は、顧問料だけでなく、個別の事件が生じた場合の費用も、ある程度見込んでおくと安心です。予備費の枠を設けておけば、急に訴訟が必要になった場合も、総会を待たずに対応できることがあります。規約で、理事会の判断で支出できる範囲を確かめておきましょう。
弁護士費用を滞納者に請求する
管理規約に、滞納者や規約違反者に対して、督促や訴訟にかかった弁護士費用を請求できる定めがあれば、管理組合の負担を抑えられます。規約にこの定めがない場合は、顧問弁護士に相談して、規約の改正を検討するとよいでしょう。ただし、請求できる弁護士費用の範囲は、裁判所の判断によって限られることもあります。
必要なときだけ依頼する方法
小規模なマンションや、トラブルの少ないマンションでは、顧問契約を結ばず、必要なときだけ弁護士に相談する方法もあります。その場合も、いざというときに相談できる弁護士を、あらかじめ見つけておくと安心です。
顧問契約の結び方
管理組合が顧問弁護士と契約するには、管理組合としての正式な手続きが必要です。理事長の一存で契約するものではありません。
- 理事会で、顧問弁護士の必要性と、依頼したい業務の範囲を話し合う。
- 複数の法律事務所から、業務の内容と費用の提案を受ける。
- 理事会で候補を絞り込み、面談して方針や人柄を確かめる。
- 顧問料を予算に計上するため、総会で予算の承認を得る(規約に従う)。
- 顧問契約書を作り、業務の範囲、顧問料、個別の事件の費用、契約の期間と解約の方法を定める。
- 区分所有者に、顧問弁護士と契約したことを知らせる。
複数の候補を比べる
顧問弁護士を選ぶ際は、一つの事務所だけでなく、複数の事務所から提案を受けて比べるのが望ましいでしょう。業務の範囲と費用、マンションの問題の経験、担当する弁護士の人数などを比べ、理事会で話し合って決めます。選んだ理由を議事録に残しておくと、区分所有者への説明にも役立ちます。
契約書で決めておくこと
- 顧問料に含まれる業務の範囲(相談の回数、文書の確認の範囲など)
- 総会や理事会への出席の回数と費用
- 個別の事件を依頼する場合の費用の計算の方法
- 相談の窓口となる理事(理事長など)
- 契約の期間、更新、解約の方法
顧問契約の期間は1年とし、毎年の総会で予算とあわせて見直す形にしている管理組合も多くあります。1年ごとに、相談の実績や満足度を振り返ることで、契約を続けるかどうかを判断しやすくなります。
区分所有者への説明
顧問弁護士を置くことを決めたら、総会の資料などで、なぜ顧問弁護士が必要なのか、どんな業務を依頼するのか、費用はいくらかを、区分所有者に分かりやすく説明しましょう。区分所有者の理解を得ておくことで、顧問料の支出への不満を防げます。
相談の窓口を決める
顧問弁護士への相談は、理事長など、決められた窓口を通じて行うのが原則です。理事の一人一人が個別に相談すると、管理組合としての方針がぶれたり、顧問料の範囲を超えた相談が増えたりすることがあります。理事会で話し合ったうえで、窓口から相談する流れを決めておきましょう。
顧問弁護士の選び方
管理組合の顧問弁護士を選ぶときは、次のような点を確かめましょう。長く付き合う相手なので、慎重に選ぶことが大切です。
| 確かめる点 | 理由 |
|---|---|
| マンションの問題の経験 | 区分所有法や管理規約、マンションの管理の実務に通じているか |
| 説明の分かりやすさ | 法律に詳しくない理事や区分所有者にも、分かりやすく説明できるか |
| 連絡のとりやすさ | 相談したいときに、電話やメールで連絡がとれるか |
| 費用の明確さ | 顧問料と、個別の事件の費用が明確に示されているか |
| 中立性 | 管理会社や施工会社などと利害関係がないか |
面談で確かめたいこと
- これまでに扱ったマンションの管理組合の事件の内容
- 相談に対応する弁護士と、その連絡の方法
- 総会や理事会への出席に応じられるか
- 顧問料の範囲と、個別の事件の費用の目安
- 管理会社や施工会社との関係の有無
地域の弁護士か、専門の弁護士か
マンションの近くにある法律事務所の弁護士であれば、総会への出席や、現地の確認に来てもらいやすいという利点があります。一方、マンションの問題を専門的に扱う弁護士であれば、多くの事例に基づいた助言を期待できます。ウェブ会議での相談が広がった今では、遠方の事務所でも、相談の不便さは小さくなっています。
管理組合の規模に合わせる
大規模なマンションでは、相談の件数が多く、複数の弁護士が対応できる事務所のほうが安心なこともあります。小規模なマンションでは、一人の弁護士が継続して担当し、管理組合の事情をよく理解してくれる関係のほうが向いていることもあります。自分たちのマンションの規模と課題に合わせて選びましょう。
管理会社から紹介された弁護士
管理会社から弁護士を紹介されることもあります。紹介された弁護士が悪いわけではありませんが、その弁護士が管理会社の顧問も務めている場合は、管理会社との契約の問題や、管理会社の対応への不満について相談する際に、利益相反の問題が生じるおそれがあります。管理会社との関係を確かめ、必要なら別の弁護士も検討しましょう。
法改正への対応と顧問弁護士
マンションの管理に関わる法律は、近年、大きく改正されています。管理組合がこうした変化に対応するうえでも、顧問弁護士の役割は大きくなっています。
| 改正 | 管理組合への影響 |
|---|---|
| 改正区分所有法(2026年4月施行) | 集会の決議の要件の見直し、所在の分からない区分所有者への対応の手続き、管理が不十分な住戸への対応の制度など |
| マンション管理適正化法の改正 | 自治体による管理計画の認定制度など |
| 標準管理規約の改正 | 法改正や社会の変化を踏まえた規約のひな形の見直し |
| 民法・民事執行法の改正 | 時効、遅延損害金、財産の調査の手続きの見直し |
こうした改正は、管理組合の運営のしかたに直接影響するものです。改正の内容を理事会で理解し、必要な手続きをとるためには、専門家の助言が欠かせません。
規約を法改正に合わせる
管理規約は、作られた当時の法律や標準管理規約をもとにしていることが多く、法改正の後もそのままになっているマンションも少なくありません。規約の定めが法律と食い違っていると、総会の決議の効力が争われたり、滞納の回収で必要な定めがなかったりすることがあります。顧問弁護士に、法改正に合わせた規約の見直しを依頼しておくと安心です。
所在の分からない区分所有者への対応
相続で所有者が分からなくなった住戸や、区分所有者の行方が分からない住戸があると、総会の決議に必要な賛成を集めにくくなり、管理費の滞納の原因にもなります。改正区分所有法では、こうした住戸への対応の手続きが整えられました。どの手続きを使えるかは、事案によって判断が分かれるので、弁護士に相談しましょう。
管理計画の認定
自治体から管理計画の認定を受けると、マンションの管理の状況が一定の水準にあることが示され、売却の際の評価や、融資の条件にもよい影響があるとされています。認定を受けるには、管理規約や長期修繕計画、修繕積立金の額などが基準を満たしている必要があり、その準備の段階で、弁護士やマンション管理士の助言が役立ちます。
顧問弁護士に依頼するうえでの注意点
弁護士は管理組合の代理人
まず理解しておきたいのは、弁護士の立場です。管理組合の顧問弁護士は、管理組合という団体の代理人であり、個々の区分所有者の代理人ではありません。区分所有者が個人の問題を相談したいと考えても、その問題が管理組合と利害が対立する場合、顧問弁護士は相談に応じることができません。たとえば、管理費の滞納者や、規約違反を問われている区分所有者の相談は受けられません。
弁護士と理事会の役割分担
顧問弁護士は、法的な助言を行い、依頼を受けて手続きを代理しますが、管理組合としての方針を決めるのは、理事会と総会です。弁護士に判断を丸投げするのではなく、弁護士の助言を踏まえて、理事会が責任を持って決めることが大切です。
理事会の決議を経る
顧問弁護士に訴訟などの重要な業務を依頼する場合は、管理規約に従って、理事会や総会の決議を経る必要があります。理事長が独断で依頼すると、後で区分所有者から、手続きに問題があったと指摘されることもあります。弁護士に依頼する前に、必要な決議を確かめておきましょう。
利益相反への配慮
顧問弁護士が、管理組合と利害が対立する相手、たとえば管理会社や施工会社、特定の区分所有者の依頼も受けていると、管理組合のために十分な助言ができなくなるおそれがあります。弁護士には利益相反を避ける義務がありますが、管理組合の側でも、依頼の前に確かめておくと安心です。
理事個人の責任
理事が、管理組合の業務を行う中で、注意を怠って管理組合に損害を与えた場合は、理事個人が責任を問われることもあります。たとえば、滞納の時効が完成するのを放置した、必要な修繕を先送りして被害を拡大させた、といった場合です。顧問弁護士に相談しながら業務を進めることは、理事個人を守ることにもつながります。
理事会の決議を経ずに弁護士に依頼した場合、その費用を管理組合の支出として認めるかどうかが、後で問題になることもあります。規約に定められた手続きを守ることは、理事自身を守ることでもあります。
区分所有者への情報の共有
顧問弁護士への相談の内容や、弁護士の助言は、理事会の議事録などを通じて、区分所有者にも適切に共有することが大切です。ただし、滞納者の個人情報など、公開に配慮が必要な情報もあるので、共有の範囲は弁護士と相談して決めましょう。
具体例で考える|民泊の差止めに顧問弁護士が関わったケース
民泊をめぐる例を見てみましょう。ある都心のマンションで、一つの住戸がインターネットの予約サイトを通じて民泊に使われていることが分かりました。スーツケースを引いた見知らぬ人が頻繁に出入りし、深夜の騒音や、ゴミの出し方をめぐって苦情が相次ぎました。管理規約には、住戸を専ら住宅として使うという定めはありましたが、民泊を明確に禁止する規定はありませんでした。
困った理事会は、すぐに顧問弁護士に相談しました。弁護士は、まず、民泊の実態を記録として残すよう助言し、理事会は出入りの状況や苦情の内容を記録しました。そのうえで、弁護士は、民泊を明確に禁止する規約の改正案を作成し、総会で特別決議を得られるよう、区分所有者への説明の資料も用意しました。総会では、改正案が可決されました。
規約の改正の後、弁護士は、民泊を続けている住戸の区分所有者に、民泊をやめるよう求める文書を送りました。区分所有者が応じなかったため、理事会と総会の決議を経て、民泊の差止めを求める訴訟を起こしました。訴訟の途中で、区分所有者は民泊をやめることを約束し、和解が成立しました。
顧問弁護士がいたことで、事実の記録、規約の改正、差止めの請求と、段階を踏んだ対応を素早く進められました。理事が個人で住人に対応する負担も、大きく軽くなった例です。
この例のように、規約に明確な定めがない問題でも、規約の改正と法的な手続きを組み合わせることで、解決の道が開けることがあります。問題が起きたときに、規約の不備に気づくことも多いので、日ごろから規約を見直しておくことが大切です。
また、この例では、総会で規約の改正を可決するために、区分所有者への説明の資料を丁寧に用意したことも重要でした。特別決議には多くの賛成が必要なので、改正の必要性を分かりやすく伝えることが、決議の成否を左右します。
顧問弁護士がいることの安心
顧問弁護士の存在は、トラブルへの対応だけでなく、理事が安心して役目を果たすための支えにもなります。判断に迷ったときに相談できる相手がいることで、理事のなり手不足の解消にもつながることがあります。
管理組合の顧問弁護士に関するよくある質問
小さなマンションでも、顧問弁護士は必要ですか
必ずしも必要というわけではありません。住戸の数が少なく、トラブルも少ないマンションでは、必要なときに弁護士に相談する形でも足りることが多いでしょう。ただし、管理費の滞納や規約違反の問題を抱えている場合は、顧問契約を検討する価値があります。
顧問料は、管理費から支払ってよいですか
顧問料は、一般に、管理組合の運営のための費用として、管理費から支払うのが一般的です。予算に計上し、総会の承認を得ておきましょう。修繕積立金は、計画的な修繕のための積立てなので、顧問料に充てることは通常できません。
顧問弁護士を途中で変えることはできますか
もちろんできます。顧問契約書に定めた解約の方法に従って契約を終わらせ、新しい弁護士と契約します。弁護士を変える際は、それまでの相談の経緯や、進行中の事件の資料をきちんと引き継いでもらうことが大切です。
区分所有者の一人として、管理組合の運営について弁護士に相談したいです
管理組合の顧問弁護士ではなく、別の弁護士に、個人として相談することになります。管理組合の運営の手続きや、理事会の決定に疑問がある場合は、管理規約や議事録を持って相談しましょう。
