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事故物件~ワケあり賃貸物件でトラブルにならないために
この記事で分かること
- 事故物件=他殺・自殺・孤独死などで人が亡くなり、心理的な欠陥のある物件。
- 事故物件には、過去に人が亡くなった事実を事前に伝える告知義務がある。
- 事故物件だと知らされずに契約してしまった場合、物件の買い手・借り手は契約を解除できる。
- 契約後のトラブルを未然に防ぐためには、事故物件の事実を含めたすべての情報を事前に伝えておく必要がある。
事故物件の賃貸契約は、貸し手側にとっても借り手側にとってもトラブルのきっかけとなるもの。ここでは、それぞれの視点から注意すべき点をまとめました。
事故物件・告知義務とはどういうものか
漠然と事故物件=過去に人が亡くなった物件というイメージを抱いている方は多いかもしれません。しかし実際には、事故物件の定義にはあいまいな部分もあります。そこでまずは、事故物件について整理するとともに、事故物件を契約するときに貸し手側(不動産仲介業者や物件のオーナー)にある「告知義務」について解説します。
事故物件とは
事故物件とは、その場所で人が亡くなったことにより、心理的な瑕疵(かし)を生じる物件を指し、「心理的瑕疵物件」と呼ばれることもあります。
“瑕疵”とは、キズ、または欠陥のこと。事故物件を広い意味で捉えるときには、雨漏りがする・床の一部が傷んで軋む、といった建物そのものの物理的な欠陥を含む場合もあります。しかし、一般的に事故物件といえば、人が亡くなったことによって、借り手が気持ちの面で住みたくないと思うような、心理的な欠陥のある物件を指すのが普通です。
ただし、“事故物件=人が亡くなった物件”とはいっても、人が亡くなった物件のすべてが事故物件扱いになるわけではありません。明らかに事故物件とされるのは、他殺・自殺、事故死(火災)のあった物件です。自然死(病死など)の場合は事故物件扱いとしないケースが多いですが、孤独死でご遺体の発見が遅れたケースなどでは、事故物件扱いとなります。
このように、事故物件かどうかは個々のケースによって判断がわかれる部分もあります。また、「心理的瑕疵物件」ともいわれるとおり、人の感じ方や捉え方に影響されるものですから、実はその定義もあいまいなのです。
告知義務とは
不動産仲介業者や物件のオーナーなど物件を貸す側は、「契約者にとって契約を締結するかどうかの判断を左右する重要な事項」はすべて、事前に契約者へ知らせておく必要があります。これを、「告知義務」といいます。
告知義務は、宅地建物取引業法、通称“宅建業法”という法律できちんと規定されているものです。事故物件である事実を知っていたのにあえて知らせない、事故物件ではないとウソをつくなど、告知義務に違反した場合、その賃貸契約は無効となります。
その一方で、告知すべき内容(人が亡くなった事実、死因、事件・事故からの経過年数など)や方法などに関して明確な規定がありません。そのため、貸し手側から「事故物件だと知らなかった」「年数が経っているため、人が亡くなっている事実が契約にかかわる重要事項だと思わなかった」などと言い逃れされ、契約後に事故物件だと判明しても契約を解除できない、などのトラブルが発生する一因となっています。
事故物件に住むことのリスク
事故物件は敬遠されるため、借り手を募るために、特に事件や事故の直後などは家賃が大きく減額(物件によって異なるが、相場は7割程度)されたり、条件が緩和(もともとペット禁止だった物件がペット可になるなど)されたりするケースが多くあります。そのため、事故物件であることが心理的に気にならなければ、むしろメリットが大きいのでは、と考える方もいるかもしれません。
しかし、契約者にとってメリットになると思える部分が、トラブルの引き金になることもあります。たとえば、マンションやアパートなどの集合住宅で、もともとの住人が「自分が契約したときには家賃が○○円だったのに」「ペット禁止だったから住むことを決めたのに」など、新しい入居者へ不満を募らせるケースです。
また、事故物件であると説明を受け、自身が納得して契約したのであれば問題ないかもしれませんが、仲介業者が嘘をついていたり事件・事故の事実を隠ぺいしていたりした場合、入居後の管理や対応などもずさんなものである可能性が高いと考えられるでしょう。
賃貸契約者が事故物件に当たらないためには
「契約後に事故物件だと判明した」といったリスクを避けるためには、物件の借り手側はどのようなことに注意すべきなのでしょうか?
事故物件の探し方
最近では情報の充実している物件情報サイトも多く、まずはネットで気になる物件がないか検索してみる方も多いでしょう。ネット検索で物件を探す場合は、物件詳細を確認し、「告知事項あり」などの記載があれば、事故物件であると判断できます。または、検索欄に「告知」と入れて検索し、事故物件を洗い出す方法もあります。
しかし、個々の物件情報に“事故物件”の詳細が記されることはないため、告知事項の内容に関しては、その物件を管理する業者に直接問い合わせるしかありません。
また、「告知事項あり」の記載がないからといって、必ずしも事故物件でないとは限りません。過去に人が亡くなった事実があっても、その事実が契約者に伝えるべき告知事項ではないと業者やオーナーが判断すれば、「告知事項あり」とは記載しないためです。
事故物件の見分け方
「告知事項あり」の記載がなくても、以下に該当する場合は事故物件の可能性が疑われます。気になる物件が当てはまったら、業者などへ「事故物件ですか?」「告知すべき事項はありますか?」などと確認することをおすすめします。
【1】価格が相場より低く設定されている
借り手がつかなければ家賃は減額されますが、問題は“なぜ借り手がつかないのか”という点です。
立地条件が悪い(最寄り駅から遠いなど)・建物が古いなど、目につくデメリットがないにもかかわらず、家賃が相場よりも低い金額に設定されている場合には、事故物件の可能性が高くなります。物件を調べる際は、希望価格に該当する物件があるかと同時に、比較のため物件を探している地域の家賃相場についても把握することがポイントになります。
【2】部屋の一部分だけがリフォームされている
もちろん、水回りなど目につきやすい部分や、老朽化している場所のみリフォームをするケースもあります。そのため一概にはいえませんが、たとえば、床のある部分だけフローリングが新しくなっていたり、建物や設備自体が古いのに一部屋だけきれいにリフォームされていたりする場合は、事件・事故の痕跡を消すためにリフォームが施されている可能性もあります。
【3】契約形態が「定期借家契約」である
定期借家契約とは、賃貸契約を結ぶ際にあらかじめ契約期間を決めておき、定められた期限が到来すれば賃貸契約が終了する契約形態です。
貸し手の合意が得られれば再契約をすることで住み続ける選択肢もありますが、1年に満たない短い期間での契約も認められているなど、貸し手側にとって比較的自由度の高い賃貸の契約形態であるため、空き家の有効な活用法としても近年注目を集めています。
しかし、定期借家契約が事故物件を隠ぺいする目的で悪用されるケースもあるのです。一般的に、事故物件に関する告知は、事件・事故が起きてから最初の入居者にだけすればよいと理解されています。
そのため、事故物件であることを隠し、最初の入居者だけ短い期間かつ低い家賃で契約し、期間満了後、つまり2人目以降の入居者に対しては、事件・事故の事実をなかったことにして、相場の家賃で入居者を募る、といった方法が取られる場合があります。
定期借家契約であるからといって必ずしも事故物件であるとは限りませんが、契約期間が1~2年未満と短い場合は、なぜそのような契約形態になっているかを事前に確認しておくほうが安心です。
事故物件を契約させられないために必ずすべきこと
くり返しになりますが、告知義務のある物件であるかどうかの判断は、その物件を管理する不動産仲介業者やオーナーの良心にゆだねられています。そのため、たとえば以下のケースなどでは、事故物件である事実が契約者へ渡らない可能性もあるのです。
- 事件や事故から一定の期間(目安は4~5年以上)が経過している
- 契約するマンションやアパートの部屋が事件・事故が発生した部屋から離れている
- 事件や事故が起こった後の1人目の入居者ではない
入居後に事故物件だと判明した、といった事態に陥らないためには、どのような物件であれ、契約前に業者やオーナーへ、事故物件かどうかの確認をするのがベストです。あえて契約者にとってデメリットになることはいわない業者もありますが、貸し手側には告知義務がある以上、契約者から聞かれたことに対してウソをつくことはできません。
「(契約にかかわる重要事項だとは思わず)聞かれなかったのであえて伝えなかった」などと言い逃れされないためにも、事前の確認は徹底しましょう。
契約条件をあらかじめ書面で提示するのも有効
物件を契約する前に、「過去に事件・事故・孤独死などで人が亡くなっている物件は契約しない」などの条件を、メールや紙の文書など、記録に残る形で提示しておくのも大変有効です。
こちらから先に条件を提示しておくことで、万が一事故物件である事実を知らされないまま契約に至ったとしても、より確実に契約解除の手続きを進められます。また、損害賠償請求など訴訟へ発展した際に、裁判で提示できる証拠としても有効です。
契約後に事故物件だとわかったら
万が一、事故物件であると知らされないまま契約させられ、その事実が入居後に判明した場合は、貸し手側の告知義務違反により契約を解除することが可能です。
また、状況によっては、契約を解除するだけでなく、引っ越しにかかった費用、契約締結時にかかった費用(仲介手数料や敷金・礼金)、新しい住まいを探すのにかかる諸経費、慰謝料などを損害賠償として請求できる可能性もあります。まずは、管理している不動産会社、もしくは物件のオーナーに問い合わせ、事実関係を確認しましょう。
事故物件を貸す際に物件オーナーが注意すべきこと
ここまで、事故物件を借りるときに注意すべきポイントを見てきました。では、残念ながら事故物件となってしまった場合に、その物件を貸したいときはどのようなことに注意すればよいのでしょうか?
可能な限りすべての事実を借り手側へ伝える
事故物件は心理的瑕疵(その事実を知っていれば契約には至らなかったと、心理的に嫌悪する欠陥)物件ともいわれるとおり、物件を借りようとするほうの感情に左右されるものです。契約者がどう感じるか・捉えるかが基準なのですから、事故物件の契約に際しては、借り手側が優位である側面もあります。
「そんな話を聞いていたら契約していなかったのに」といった契約後のトラブルを避けるためには、「自分が物件を借りる側だったらどのように思うか」という相手の立場に立った視点で、自身にとっては不都合な事実を含め、可能な限りすべてを契約者へ伝えておくことが最善の方法です。
とはいえ、告知義務に明確なルールがない以上、事故物件にあたるかどうか、また、どこまでが告知義務の範囲だといえるのかは、一般の方では判断が難しいところです。そのため特に事故物件の賃貸契約は、専門的な知識を持った業者に依頼することをおすすめします。
借り手が契約時に確認する重要事項説明書や売買契約書の記載内容、口頭で説明すべきことなどに関して、信頼できる業者に相談しながら決めていくのがよいでしょう。
不誠実な業者に仲介を依頼しない
契約者と実際に顔を合わせて交渉を行うのは業者ですから、賃貸契約に際して業者選びは非常に重要です。「事故物件だというと家賃が下がりますよ」「定期借家契約にして、1年やり過ごせば隠せますから」など、事故物件の事実を隠すように提案してくるような不誠実な業者には、仲介を依頼しないように十分注意してください。
物件は、契約してしまったら終わり、ではありません。告知義務を果たさずに物件を契約してしまったら、そのときは高い家賃で契約ができたとしても、契約後に思わぬトラブルに巻き込まれることになります。契約を解除されるどころか、多額の損害賠償・慰謝料を請求された、といった事態に陥らないためにも、業者選びは慎重に行ってください。
事故物件に関するトラブルは弁護士に相談
事故物件にかかわるトラブルでは、貸し手側に非があるにもかかわらず、契約解除や損害賠償請求に応じてくれず、訴訟に発展するケースもあります。
裁判で争うことになると、一個人対不動産仲介業者では、どうしても個人の側が不利な立場に立たされるもの。事故物件に関連するトラブルに巻き込まれたら、泣き寝入りするのではなく、できるだけ早く弁護士などの専門家へ相談しましょう。
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