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会社のお金をつい使い込んでしまった、預かっていた品物を自分のものにしてしまった、道で拾った財布をそのまま持ち帰ってしまった——。こうした行為は、すべて「横領罪」にあたる可能性があります。横領と聞くと、会社のお金を巨額に着服する大事件をイメージするかもしれません。ですが実際には、もっと身近な場面でも成立しうる犯罪なのです。
そして横領罪には、実は三つの種類があり、それぞれ刑の重さが違います。さらに、よく似た犯罪である窃盗罪や背任罪との区別も、意外とあいまいになりがちです。自分の行為がどの罪にあたるのかが分からず、不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。この記事では、横領罪の3類型と、窃盗罪との違い、そして刑罰までを、弁護士の視点から分かりやすく整理していきます。あわせて、処分を軽くするために何が重要になるのかも見ていきましょう。
横領罪とはどんな罪か|「預かったもの」を自分のものにする犯罪
横領罪をひとことで言うと、「自分が正当に預かっている他人のものを、自分のものにしてしまう罪」です。ポイントは、最初はちゃんとした形でそのものを持っていた、という点にあります。
たとえば、友人から「しばらく預かっておいて」と頼まれたカメラを、勝手に売り払ってしまう。あるいは、会社から管理を任されている売上金を、自分の生活費に流用する。いずれも、最初は正当に手元にあったものを、途中から自分のものとして扱ってしまった点で共通しています。この「信頼を裏切る」ところに、横領罪の本質があります。
横領罪が成立するには、おおむね次の要素が必要とされます。
- その物が「他人の物」であること
- 自分がその物を正当に占有・保管していること
- 委託された信頼関係があること(遺失物等横領を除く)
- その物を自分のものにする意思(不法領得の意思)が外に表れたこと
横領は、刑事事件の中でも財産に関する犯罪、いわゆる財産犯の一つに位置づけられます。刑事事件全体の中で横領がどのような場所にあるのかを知っておくと、理解が立体的になります。
横領罪の3つの種類
横領罪は、その状況に応じて三つに分かれます。名前は似ていますが、刑の重さがかなり違うので、自分のケースがどれにあたるのかを押さえておきましょう。
単純横領罪(委託物横領罪)
もっとも基本となるのが、単純横領罪です。委託物横領罪とも呼ばれます。これは、他人から預かっている物を自分のものにしてしまう、ごく一般的な横領です。
たとえば、友人に貸してもらった本を売ってしまう、預かった現金を使い込む、といったケースが当てはまります。仕事としてではなく、個人的な信頼関係のもとで預かった物について成立するのが特徴です。
業務上横領罪
三つの中でもっとも重いのが、業務上横領罪です。仕事として物やお金を管理する立場にある人が、その立場を利用して横領した場合に成立します。
経理担当者が会社の口座から金を抜く、店長が店の売上を着服する、集金係が集めたお金をくすねる。こうした行為が典型例です。業務として管理を任されているぶん、信頼の度合いが高く、それを裏切る罪も重く評価される、という考え方です。会社で起こる使い込みの多くは、この業務上横領罪にあたります。ここでいう「業務」とは、必ずしも給料をもらう仕事に限られません。継続して物やお金を管理する立場にあれば、町内会の会計係やマンション管理組合の役員などであっても、業務上横領罪が成立しうると考えられています。報酬の有無ではなく、反復・継続して管理を任されているかどうかが、判断の分かれ目になります。
また、被害額が一度に大きく動くとは限らず、少額の抜き取りを長期間くり返した結果、総額が膨らんでいたというケースも珍しくありません。発覚した時点で被害が高額化していることが多いのは、こうした継続性が背景にあるためです。
遺失物等横領罪(占有離脱物横領罪)
三つ目が、遺失物等横領罪です。占有離脱物横領罪とも言います。これは、持ち主の手を離れた物を、勝手に自分のものにしてしまう罪です。
道に落ちていた財布を拾って持ち帰る、置き忘れられた傘を持っていく、といった行為がこれにあたります。誰かから預かったわけではないので、委託の信頼関係はありません。その点で、ほかの二つとは性質が異なります。「落とし物を拾っただけ」と軽く考えがちですが、これも立派な犯罪なのです。
横領罪と窃盗罪の違い|「占有」が分かれ目
横領罪とよく混同されるのが、窃盗罪です。どちらも他人の財産を侵害する点では同じですが、決定的な違いがあります。それは、その物が「誰の占有のもとにあったか」です。
| 項目 | 横領罪 | 窃盗罪 |
|---|---|---|
| 物の状態 | 自分が正当に占有・保管している | 他人が占有している |
| 行為の内容 | 預かった物を自分のものにする | 他人の占有を破って奪う |
| 典型例 | 預かり金の使い込み | 店の商品を盗む |
分かりやすく言えば、すでに自分の手元にある物を着服するのが横領、他人が持っている物を奪い取るのが窃盗です。たとえば、店の商品を客が勝手に持ち出せば窃盗罪。一方、店の従業員が、自分が管理している在庫を自分のものにすれば横領罪、という具合に分かれます。
同じように「物を不当に得る」行為でも、出発点が違うわけです。万引きのような窃盗がどう扱われるのかを知ると、横領との違いがいっそうはっきり見えてきます。
なお、落とし物を拾って持ち帰る行為は、横領罪の一種である遺失物等横領罪になります。誰かが現に持っている物ではないので窃盗にはあたらない、という整理です。占有が誰にあるかで罪名が変わる、という考え方が、ここでも生きています。
横領か窃盗か、判断が難しいケース
占有が誰にあるかは、いつも明快とは限りません。たとえば、会社の制服を着て店内の商品を扱う従業員の場合、その商品を従業員が占有しているのか、それとも会社が占有しているのか、という点が問題になります。一般には、店内の商品はなお会社(店長など)の占有のもとにあると見られ、従業員が持ち出せば窃盗にあたると判断されることが多いとされます。
逆に、現金を集金して回る係のように、本人が独立してお金を管理している場合は、その人に占有があると評価され、着服すれば横領になります。このあたりの線引きは専門的で、自己判断は難しいところです。自分のケースがどちらにあたるのか迷ったら、早めに弁護士に確認するのが安心です。
それぞれの法定刑と刑の重さ
三つの横領罪と窃盗罪では、法律が定める刑罰(法定刑)が大きく異なります。並べて確認してみましょう。
| 罪名 | 法定刑 |
|---|---|
| 単純横領罪 | 5年以下の懲役 |
| 業務上横領罪 | 10年以下の懲役 |
| 遺失物等横領罪 | 1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料 |
| 窃盗罪(参考) | 10年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
こうして見ると、業務上横領罪が突出して重いことが分かります。単純横領罪には罰金刑の定めがなく、懲役のみとされている点も注目に値します。これは、罰金で済ませることが想定されていないほど、委託の信頼を裏切る行為が重く見られていることの表れだといえます。一方、遺失物等横領罪は比較的軽く、罰金や科料で済む可能性もあります。同じ「横領」という言葉でくくられていても、扱いはまったく違うのです。自分のケースがどの類型にあたるのかを早い段階で見極めることが、見通しを立てる第一歩になります。
もっとも、これはあくまで法律上の上限を示したものです。実際にどの程度の処分になるかは、被害額や、弁済・示談の有無、前科の有無などを総合して判断されます。法定刑が重いからといって、必ず重い刑になるわけではありません。罰金という刑罰がどういうものか、前科との関係も含めて知っておくと、見通しを立てやすくなります。
横領罪で逮捕・立件されるケース
横領罪は、どのような形で表面化するのでしょうか。窃盗のように現行犯で捕まることは少なく、後から発覚するのが特徴です。
典型的なのは、会社の経理処理の中で帳簿の不一致が見つかり、社内調査によって着服が判明する、というパターンです。最初は社内で問題化し、その後、会社が被害届を出したり告訴したりすることで、刑事事件へと発展します。
在宅で進む場合と、逮捕される場合の分かれ目
横領事件は、逮捕されずに在宅のまま捜査が進む「在宅事件」となることも少なくありません。本人が事実を認めていて、逃げたり証拠を隠したりするおそれが低ければ、身柄を拘束せずに捜査を進められるからです。仕事を続けながら手続きに対応できるため、本人の負担は比較的軽くなります。
一方で、被害額が大きい、本人が容疑を否認している、証拠隠滅のおそれがあるといった事情があると、逮捕・勾留に踏み切られる可能性が高まります。同じ横領でも、対応のしかた次第で、身柄を拘束されるかどうかが変わってくる。だからこそ、発覚した後の初動が大切なのです。
横領が発覚した場合、必ずしもすぐ逮捕されるとは限りません。会社が刑事告訴をせず、まずは弁済や退職という形で社内的に処理されることもあります。ただし、悪質性が高い、被害額が大きい、本人が事実を認めないといった事情があれば、逮捕・勾留される可能性も十分にあります。
横領が発覚したらどうなるか|手続きの流れ
横領が刑事事件として動き出すと、どのような流れをたどるのでしょうか。会社の中で疑いが持ち上がってから、実際に刑事手続きに進むまでには、いくつかの段階があります。大まかな道筋を示します。なお、すべてのケースが裁判まで進むわけではなく、途中の段階で弁済や示談が成立すれば、不起訴で終わることも十分にありえます。
- 発覚・社内調査……帳簿の不一致などから横領が疑われ、社内で事実関係が調べられます。
- 被害届・告訴……会社が刑事事件として扱うことを決めると、警察に被害届や告訴状を提出します。
- 捜査・取調べ……警察や検察による捜査が始まり、本人への取調べが行われます。
- 起訴・不起訴の判断……検察官が、起訴するか不起訴とするかを決めます。弁済や示談の有無がここで効いてきます。
- 裁判・処分……起訴されれば裁判となり、有罪なら刑が言い渡されます。
この流れの中で、運命の分かれ道となるのが、起訴・不起訴の判断です。ここで不起訴となれば前科はつきませんが、起訴されれば前科がつく可能性が高くなります。起訴と不起訴で、その後の人生がどれほど変わるのかを理解しておくことが大切です。
横領事件で示談と弁済が重要な理由
横領事件において、処分を軽くするためにもっとも効果があるのが、被害の弁償と示談です。横領は、被害者である会社や個人に、はっきりとした金銭的損害を与えます。その損害を回復することが、何よりの誠意の証になるのです。
被害額をきちんと弁済し、被害者と示談を成立させられれば、次のような効果が期待できます。
- 不起訴処分となり、前科を避けられる可能性が高まる
- 起訴された場合でも、執行猶予がつきやすくなる
- 会社との関係で、刑事告訴を取り下げてもらえることがある
とはいえ、横領は被害額が大きくなりがちで、一括での弁済が難しいことも少なくありません。その場合でも、分割での返済計画を示すなど、誠実に賠償へ向き合う姿勢を見せることが重要です。何もせず手をこまねくのと、できる範囲で弁済に動くのとでは、結果が大きく変わってきます。
会社が告訴を取り下げてくれることはあるか
横領事件では、被害者である会社との示談がまとまれば、刑事告訴を取り下げてもらえることがあります。会社としても、被害が回復され、本人が深く反省しているのであれば、刑事処分まで強く求めないという判断をすることがあるからです。告訴が取り下げられれば、不起訴につながる可能性が高まります。
ただし、会社の対応は事案によってさまざまです。再発防止や社内の規律を重んじて、あくまで厳しく対応する会社もあります。いずれにしても、誠実に弁済と謝罪を尽くす姿勢が、会社の判断を少しでもよい方向へ動かす土台になります。
刑事事件における示談がなぜそこまで重要なのか、その意味と注意点を押さえておくと、横領事件でも落ち着いて対応できます。
横領を疑われたら弁護士に相談を
横領の疑いをかけられたとき、自分一人で対応しようとするのは危険です。会社との関係がこじれたり、取調べで不用意な供述をしてしまったりと、対応を誤ると不利な方向に進みかねません。とくに業務上横領のように重い罪が問われる場面では、弁護士の関与が結果を大きく左右します。早い段階で相談しておくほど、打てる手の選択肢も広がります。
弁護士は、横領事件で次のような役割を果たします。
- 被害額の確定や、被害者である会社との示談交渉を代わりに進める
- 分割弁済の計画を立て、現実的な賠償の道筋を示す
- 取調べへの対応について助言し、不利な供述を避ける手助けをする
- 不起訴や執行猶予を目指して、検察官や裁判所に働きかける
費用については、刑事事件の弁護は、依頼時に支払う着手金と、結果に応じた報酬金という構成が一般的です。横領事件は被害額の確定や示談交渉に時間がかかることもあるため、費用の見通しを依頼前に確認しておくとよいでしょう。
よくある質問
会社のお金を使い込みましたが、全額返せば罪に問われませんか?
全額を弁済したからといって、横領罪が消えてなくなるわけではありません。犯罪が成立したという事実そのものは残ります。ただし、被害を回復し、会社と示談が成立すれば、不起訴になる可能性は大きく高まります。被害者である会社が「処罰を望まない」という意思を示すことは、検察官の判断に大きく影響するからです。弁済は、処分を軽くするうえで非常に重要な要素です。早めに弁済と示談に向けて動きましょう。
拾った財布を持ち帰っただけでも、犯罪になりますか?
はい、遺失物等横領罪にあたる可能性があります。落とし物だからといって自分のものにしてよいわけではありません。法定刑は横領の中では軽いほうですが、れっきとした犯罪です。とくに、財布の中の現金やカードを使ってしまえば、さらに別の罪に問われることもあります。拾った物は、その場で警察に届けるか、駅や店舗など施設の中で拾ったのであればその管理者に渡すのが正しい対応です。「誰のものか分からないから」と持ち帰ってしまう前に、まず届け出ることを心がけましょう。
横領が発覚すると、必ず逮捕されますか?
必ずではありません。被害額がさほど大きくなく、本人が事実を認めて弁済に応じている場合などは、逮捕されずに在宅のまま捜査が進むこともあります。一方、被害額が大きい、証拠隠滅のおそれがあるといった事情があれば、逮捕・勾留される可能性が高まります。
業務上横領は、初犯でも実刑になりますか?
被害額が大きい場合、初犯でも実刑となることがあります。横領は計画的・継続的に行われることが多く、悪質と評価されやすいためです。ただし、被害弁償が済んでいる、深く反省しているといった事情があれば、執行猶予がつく可能性もあります。少しでも有利な事情を積み上げることが大切です。
家族が代わりに弁済すれば、本人の処分は軽くなりますか?
本人に支払い能力がない場合、家族が弁済を援助して被害を回復することは、処分を判断するうえでプラスに考慮されます。誰が支払ったかよりも、被害が現実に回復されたかどうかが重視されるためです。実務上も、本人に資力がないケースで親族が立て替えて被害弁償を行う例は少なくありません。ただし、本人が反省していることも重要ですので、弁済とあわせて本人の真摯な対応が求められます。お金さえ返せばよいという姿勢では、かえって悪い印象を与えてしまうこともあるため注意が必要です。
少額の使い込みでも、前科がついてしまいますか?
金額が少なく、すでに弁済と示談が済んでいるような場合は、不起訴となって前科がつかないこともあります。一方、起訴されて有罪となれば、金額の多寡にかかわらず前科がつきます。前科を避けたいのであれば、早い段階での弁済と示談が何より重要になります。
横領罪と背任罪は何が違うのか
横領罪とあわせて知っておきたいのが、背任罪です。どちらも、信頼を裏切って他人に財産的な損害を与える点で似ており、会社での不正をめぐってよく問題になります。
大まかな違いを整理すると、横領罪は「自分が占有している他人の物」を自分のものにする罪であるのに対し、背任罪は、他人のために事務を処理する立場の人が、その任務に背いて、本人に財産上の損害を与える罪です。つまり、横領は特定の「物」を領得する場面を、背任はより広く任務違反による損害を問題にする、というイメージです。
| 項目 | 横領罪 | 背任罪 |
|---|---|---|
| 対象 | 自分が占有する他人の物 | 財産上の利益も含む、より広い損害 |
| 行為の中心 | 預かった物を自分のものにする | 任務に背いて本人に損害を与える |
| 典型例 | 預かり金の着服 | 不当な融資で会社に損害を与える |
実務では、ある行為が横領にあたるのか背任にあたるのかが、微妙になることもあります。たとえば、会社の金銭をめぐる不正でも、特定のお金を自分のものにしたと見れば横領、任務違反による損害と見れば背任、というように評価が分かれうるのです。一般に、横領罪のほうが背任罪より重く扱われる傾向があるため、どちらの罪名で立件されるかは本人にとって小さくない問題になります。どちらに問われるかで刑の重さも変わるため、専門家による正確な検討が欠かせません。
まとめ|横領は3類型と窃盗との違いを正しく理解しよう
横領罪には、単純横領罪・業務上横領罪・遺失物等横領罪の三つがあり、それぞれ刑の重さが違います。名前は似ていても、単純横領は5年以下、業務上横領は10年以下と、上限に大きな開きがあります。とくに会社の使い込みにあたる業務上横領罪は重く、被害額が大きければ実刑も視野に入ります。窃盗罪との違いは、その物が「自分の占有のもとにあったか、他人の占有のもとにあったか」という点にあります。日常では混同しがちですが、法律上はこの占有の所在が罪名を分ける決め手になります。
横領事件で処分を軽くするカギは、被害の弁済と示談です。被害を回復し、会社や被害者と示談を成立させられれば、不起訴や執行猶予につながる可能性が高まります。被害者との交渉は直接行わず、弁護士を通すのが賢明です。横領を疑われて不安なときは、一人で抱え込まず、できるだけ早く専門家に相談し、弁済と示談への道筋を整えていきましょう。
