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ある日突然、自分や家族が傷害事件で逮捕されてしまう。そんなことは、決して他人事ではありません。お酒の席でのいさかい、運転中のトラブル、ふとした口論。きっかけは日常のどこにでもあります。
逮捕されると、強い不安に襲われます。この先どうなるのか。いつ家に帰れるのか。前科がついてしまうのか。刑事手続きは専門用語が多く、流れも複雑です。一般の方が落ち着いて理解するのは簡単ではありません。
しかし、逮捕後の手続きには、明確なルールと時間制限があります。その流れを知っておけば、適切に対応できます。とくに傷害事件では、早い段階の弁護活動と、被害者との示談交渉が、その後の処分を大きく左右します。
この記事では、傷害罪・暴行罪で逮捕された場合の手続きの流れを、逮捕直後から起訴・裁判まで順を追って解説します。あわせて、逮捕されたときに取るべき対応や、示談の重要性についても説明します。いざというときのために、ぜひ知っておいてください。
傷害罪・暴行罪とはどんな犯罪か
手続きの話に入る前に、傷害罪と暴行罪がどういう犯罪なのか、簡単に確認しておきましょう。
傷害罪は、人にケガをさせた場合に成立する罪です。刑法204条に定められています。一方、暴行罪は、暴力をふるったもののケガには至らなかった場合の罪です。刑法208条が定めています。「殴っただけなら暴行罪、ケガをさせたら傷害罪」。これが一つの目安になります。
両者は似ているようで、法定刑には大きな差があります。この違いについては、で詳しく解説しています。本記事では、逮捕された後にどのような手続きが進むのかを中心に見ていきます。
どんなときに傷害事件になるのか
傷害事件は、特別な人だけが起こすものではありません。ごく普通の人が、思わぬきっかけで加害者になることがあります。たとえば、こんなケースです。
- 飲食店や路上で口論になり、相手を突き飛ばしてケガをさせた
- あおり運転のトラブルで、車を降りて相手に手を出した
- 家庭内のもめごとがエスカレートし、家族にケガをさせた
- 酔った勢いで他人にからみ、転倒させてケガを負わせた
- スポーツやレジャーの場で、感情的になって相手を殴った
どれも、日常の延長線上にあるトラブルです。「相手も悪かった」「ほんの一瞬のことだった」。そんな言い分があるかもしれません。でも、暴力をふるってケガをさせた事実がある以上、傷害罪に問われる可能性があります。誰にとっても、無関係な話ではないのです。
逮捕されてから48時間の流れ
傷害事件で逮捕されると、まず厳格な時間制限のもとで手続きが進みます。最初の48時間が、とても重要です。
逮捕の種類
逮捕には3つの種類があります。現行犯逮捕、通常逮捕、緊急逮捕です。傷害事件では、ケンカの現場で取り押さえられる現行犯逮捕が多く見られます。また、被害者が後日に被害届を出し、捜査の結果として逮捕される通常逮捕もあります。
どの逮捕であっても、その後の流れは基本的に同じです。逮捕された人は警察署に連れて行かれ、留置場に身柄を拘束されます。そして取り調べを受けることになります。
警察の取り調べと48時間ルール
逮捕されると、被疑者は警察で取り調べを受けます。この取り調べには、48時間という時間制限があります。
この間に、指紋を採取され、写真を撮られ、余罪や指名手配の有無を照会されます。すでに身柄を拘束されているため、これらに改めて令状は必要ありません。そして警察は、留置を続ける必要があると判断すれば、48時間以内に被疑者を検察官へ送致しなければなりません。これがいわゆる「送検」です。
注意したいのは、この段階では家族でも面会できないという点です。逮捕直後は、本人と連絡を取ることが難しくなります。家族にとっては、最も不安な時間かもしれません。
家族は会えなくても、弁護士には会える
家族が面会できない一方で、弁護士には会えます。これは被疑者にとって、とても大きな意味を持ちます。
知り合いに弁護士がいなくても、心配はいりません。逮捕された直後から、当番弁護士制度を使えます。警察に当番弁護士を要請すると、弁護士が接見に来てくれます。しかも、1回に限り無料です。どうしていいか分からないとき、まず頼れる制度です。家族が逮捕されたときに取るべき対応は、でまとめています。
家族にできること
家族が逮捕されたという知らせは、突然やってきます。動揺するのは当然です。それでも、家族にできることがあります。
まず最優先は、弁護士への相談です。前に述べたとおり、逮捕直後は家族でも面会できません。でも、弁護士なら本人に会えます。弁護士に依頼すれば、本人の状況を確認し、今後の見通しを家族に伝えてもらえます。
次に、差し入れです。留置場には、現金や衣類、書籍などを差し入れできます。内容には制限がありますが、本人の不安を少しでもやわらげる助けになります。また、勾留が長引く可能性に備えて、職場への連絡や、当面の生活の段取りを考えておくことも必要です。こうした点も、弁護士に相談すれば、適切なアドバイスがもらえます。
取り調べでは黙秘権がある
取り調べでは、すべてを話さなければならないわけではありません。被疑者には黙秘権があります。自分の意思に反して供述しなくてよい、という権利です。刑事訴訟法198条2項に定められています。
動揺した状態で取り調べに応じると、事実と違う供述をしてしまうことがあります。自分に不利な調書が作られることもあります。だからこそ、黙秘権の存在を知り、弁護士と相談しながら対応することが大切なのです。
逮捕されない「在宅事件」もある
傷害事件だからといって、必ず逮捕されるわけではありません。逃亡や証拠隠滅のおそれが低いと判断されれば、逮捕されずに捜査が進むこともあります。これを在宅事件といいます。
在宅事件では、被疑者はふだんどおり生活しながら、警察や検察の呼び出しに応じて取り調べを受けます。身柄を拘束されない分、負担は軽くなります。ただし、在宅事件でも起訴される可能性はあります。油断はできません。警察から呼び出しを受けたときの対応については、で解説しています。
検察官への送致から、起訴・不起訴まで
事件が検察官に送られると、今度は検察官による手続きが始まります。ここにも、厳しい時間制限があります。
検察官の持ち時間は24時間
被疑者が検察官に送致されると、検察官の取り調べが始まります。検察官は、被疑者を受け取ってから24時間以内に、引き続き身柄を拘束する必要があるかを判断しなければなりません。
拘束を続ける必要があると判断した場合、検察官は裁判官に勾留を請求します。勾留が認められれば、被疑者はさらに身柄を拘束されたまま、捜査を受けることになります。勾留の仕組みについては、で詳しく解説しています。
勾留は最大20日間
勾留請求を受けた裁判官は、勾留の理由があると判断すれば、勾留状を出します。理由がなければ、被疑者は釈放されます。
勾留の期間は、原則として10日間です。ただし、やむを得ない事情があるときは、さらに10日まで延長できます。つまり、勾留は最大で20日間にわたることがあります。
ここで、逮捕からの日数を合計してみましょう。逮捕から送致までの48時間、検察官の24時間、そして勾留の最大20日間。これらを合わせると、起訴・不起訴が決まるまで、最大で23日間も身柄を拘束される可能性があります。その間、仕事や学校に行けなくなることも珍しくありません。日常生活への影響は、決して小さくないのです。
弁護士との接見が、被疑者を支える
逮捕・勾留されている被疑者にとって、弁護士は心強い味方です。被疑者には、弁護士と接見し、アドバイスを受ける権利があります。
この権利を、接見交通権といいます。身柄を拘束されている被疑者は、立会人なしで弁護士と話し、書類などをやり取りできます。捜査機関に聞かれずに相談できる。これは被疑者の防御にとって、欠かせない権利です。
初回の接見が、なぜ大切なのか
逮捕されたばかりのときは、誰でも強く動揺します。これから何が起きるのか分からないまま、取り調べを受けることになります。その結果、事実と違う調書や、必要以上に不利な調書が作られてしまうこともあります。
いったん作られた供述調書は、後の裁判でも重要な証拠になります。だからこそ、取り調べで何に気をつけるべきか、どう答えるべきかを、早い段階で弁護士と打ち合わせておくことが大切です。初回接見の質が、事件全体の行方を左右すると言っても、言いすぎではありません。
起訴か不起訴か、決めるのは検察官
捜査が終わると、検察官が起訴するか、不起訴にするかを決めます。ここで知っておいてほしいことがあります。証拠が十分にそろっていても、必ず起訴されるとは限らない、ということです。
検察官は、犯人の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重、犯行後の様子などを考慮します。そのうえで、あえて起訴しないという判断ができます。これを起訴猶予といいます。起訴と不起訴の違いについては、で詳しく解説しています。
そして、この起訴猶予を勝ち取るうえで、大きな意味を持つのが示談です。被害者と示談が成立し、処罰感情がやわらいでいれば、不起訴になる可能性が高まります。
量刑はどう決まるのか
傷害罪は、刑の幅が広い罪です。では、実際の量刑はどのように決まるのでしょうか。裁判所は、おおむね次のような事情を総合的に考えて、刑を決めます。
| 考慮される事情 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 犯行の悪質性 | 暴力の程度、凶器を使ったか、計画的だったか |
| 結果の重大性 | ケガの程度、治療期間、後遺症の有無 |
| 動機や経緯 | 一方的な犯行か、被害者にも落ち度があったか |
| 反省の度合い | 本人が真摯に反省しているか |
| 示談・被害弁償 | 被害者と示談できているか、弁償したか |
| 前科・前歴 | 過去に同じような犯罪歴があるか |
この中で、本人や弁護士の努力で改善できるのが、反省の度合いと、示談・被害弁償です。とくに示談の成立は、刑を軽くするうえで大きな効果があります。だからこそ、弁護士による示談交渉が重要になるのです。
軽い事件なら、簡易な手続きで終わることも
すべての刑事事件が、法廷での裁判になるわけではありません。事件が比較的軽い場合は、もっと簡単な手続きで終わることがあります。代表的なものを紹介します。
略式手続
略式手続は、簡易裁判所が法廷を開かずに、書面だけで刑罰を言い渡す手続きです。被疑者の同意があれば請求できます。科される刑は、100万円以下の罰金または科料に限られます。
法廷に立たずに済むため、被疑者は早く事件から解放されます。罰金刑そのものについては、もあわせてご覧ください。
即決裁判手続
即決裁判手続は、争いのない軽い事件を、迅速に処理する制度です。原則として起訴から14日以内に公判が開かれ、その日のうちに判決が出ます。
略式手続との違いは、懲役や禁錮といった自由刑も言い渡せる点です。ただし、その場合の自由刑には、必ず執行猶予が付きます。執行猶予の仕組みは、で解説しています。
簡易公判手続
簡易公判手続は、通常の裁判の中で、証拠調べを簡略にする手続きです。被告人が有罪を認めた場合に使われます。ただし、実際に用いられるケースは多くありません。より迅速な即決裁判手続があるためです。
傷害罪・暴行罪の刑罰
では、傷害罪と暴行罪では、どのくらいの刑罰が科されるのでしょうか。法律で定められた刑(法定刑)を見てみましょう。
| 罪名 | 法定刑 |
|---|---|
| 暴行罪(刑法208条) | 2年以下の懲役 もしくは 30万円以下の罰金 または 科料 |
| 傷害罪(刑法204条) | 15年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 |
懲役で比べると、暴行罪の上限は2年です。傷害罪は15年。実に7.5倍の差があります。被害者にケガをさせたかどうかで、これだけ刑罰が変わるのです。
傷害罪の刑の幅が広いのには、理由があります。傷害といっても、軽いすり傷から、生死をさまよう重傷まで、その程度はさまざまだからです。だから、罰金から懲役15年まで、幅を持たせているのです。実際にどのくらいの刑になるかは、ケガの程度、反省の度合い、被害者の処罰感情など、いろいろな要素で決まります。
処分を左右する、示談の力
傷害事件で、その後の処分を大きく左右するもの。それが、被害者との示談です。なぜ示談がそれほど重要なのか、見ていきましょう。
示談がもたらす効果
傷害事件で示談が成立すると、被害者の処罰感情がやわらぎ、被疑者の反省も示されます。その結果、次のような効果が期待できます。
- 不起訴(起訴猶予)となり、前科がつかずに済む可能性が高まる
- 起訴されても、実刑ではなく執行猶予付き判決となる可能性が高まる
- 懲役ではなく、より軽い罰金刑にとどまる可能性が高まる
- 勾留が早く解かれ、身柄が解放される可能性が高まる
示談の進め方や、示談金の相場については、で具体的に解説しています。刑事事件における示談の意義全般については、もあわせてご覧ください。
傷害罪・暴行罪は親告罪ではない
ここで、注意点が一つあります。傷害罪も暴行罪も、親告罪ではないという点です。親告罪とは、被害者などの告訴がなければ起訴できない罪のことです。傷害罪・暴行罪はこれにあたりません。つまり、被害者の告訴がなくても起訴される可能性があります。
では、示談が成立していれば安心かというと、そうとも言い切れません。傷害罪・暴行罪は親告罪ではないため、示談が成立していても、不起訴になることが保証されるわけではないのです。それでも、示談の有無は処分を判断するうえで重要な要素になります。親告罪の仕組みについては、をご覧ください。
前科をつけないことの大切さ
傷害事件で、多くの方が心配するのが前科です。前科とは、有罪判決を受けた経歴のことです。罰金刑でも、有罪判決であれば前科になります。
前科がつくと、その後の人生にさまざまな影響が出ることがあります。一定の職業に就けなくなる。就職や転職で不利になる。こうした不利益が生じるおそれがあります。一方、不起訴になれば前科はつきません。起訴猶予による不起訴を勝ち取ることが、前科を避けるうえで決定的に重要なのは、このためです。
なお、不起訴になっても、警察や検察には捜査を受けた記録(前歴)が残ります。ただし、前歴は前科とは違います。一般に知られることは原則としてなく、職業の制限といった法的な効果も生じません。前科と前歴は、似ているようで別のものなのです。
未成年が傷害事件を起こしたら
傷害事件を起こすのは、大人だけではありません。未成年が加害者になることもあります。その場合、手続きは大人とは異なります。
未成年(20歳未満)の事件は、少年事件として扱われます。成人の刑事事件とは違い、原則として家庭裁判所に送られ、少年の更生を目的とした手続きが進みます。お子さんが傷害事件で逮捕された場合の流れと、家族が取るべき対応については、で詳しく解説しています。
もし身に覚えがないのに逮捕されたら
傷害事件では、冤罪のケースもあります。一方的に殴られて、やむを得ず反撃しただけ。お互いに手を出したのに、自分だけが逮捕された。そうした言い分の食い違いは、実際に起こります。
身に覚えがないのに逮捕された場合、絶対に避けたいのは、早く帰りたいからと事実でないことを認めてしまうことです。いったん認めてしまうと、後で覆すのは非常に困難になります。冷静に、弁護士と相談しながら対応することが大切です。暴行・傷害事件で言い分が食い違うケースの対処法は、で解説しています。
傷害事件でよくある疑問
被害者と示談すれば、必ず不起訴になりますか
必ずとは言えません。傷害罪・暴行罪は親告罪ではないため、示談しても起訴される可能性は残ります。ただし、示談の成立は処分判断に大きく影響します。不起訴になる可能性は、確実に高まります。とくに初犯で、ケガが軽いケースでは、示談によって不起訴となることが多くあります。
逮捕されたら、必ず勾留されるのですか
必ず勾留されるわけではありません。逃亡や証拠隠滅のおそれが低いと判断されれば、勾留されずに釈放されることもあります。弁護士が早く動き、本人に逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを主張すれば、勾留を避けられる可能性が高まります。
初めての事件でも、前科がついてしまいますか
有罪判決を受ければ、初犯でも前科はつきます。しかし、不起訴になれば前科はつきません。初犯で反省しており、被害者と示談ができていれば、起訴猶予による不起訴となる可能性は十分にあります。前科を避けるためにも、早い段階での弁護活動が重要です。
弁護士費用が心配です。相談だけでもできますか
多くの法律事務所が、初回無料相談を行っています。まずは相談だけでも受けて、見通しや費用の目安を確認するとよいでしょう。経済的に余裕がない場合は、当番弁護士制度や法テラスの利用も検討できます。費用を理由にためらわず、まずは専門家の意見を聞くことが大切です。
逮捕されたら、まず弁護士に相談を
ここまで見てきたように、傷害事件で逮捕されると、被害の程度、反省の度合い、示談の可否など、さまざまな要素が絡み合って、最終的な処分が決まります。
そして、見過ごせない事実があります。傷害罪・暴行罪は、いったん起訴されると、99%以上が有罪になるのです。日本の刑事裁判の有罪率は、極めて高い。起訴された時点で、有罪はほぼ避けられません。
だからこそ、起訴される前の弁護活動が決定的に重要になります。身柄の早期解放、被害者との示談、不起訴に向けた検察官への働きかけ。これらは、早ければ早いほど効果があります。逮捕直後から弁護士がついていれば、身柄が早く解放される可能性が高まり、不起訴を勝ち取れる可能性も出てきます。
もし自分や家族が傷害事件で逮捕されてしまったら。ためらわずに、刑事事件に強い弁護士へ連絡してください。弁護士選びのポイントは、を参考にしてください。
