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万引きで逮捕されたら~逮捕後の流れと逮捕者が取るべき対応
この記事で分かること
- 万引き行為は窃盗罪になる
- 万引きの場合には簡単な手続きで済む可能性もある
- 逮捕されたときには示談交渉が有効
- 近年は万引き対策が進み万引き件数は減少している
- なるべく早く弁護士に相談することが重要
万引きは窃盗罪として処罰され、最大で10年の懲役、もしくは50万円の罰金に処される可能性があります。万引きで逮捕されて罰金刑となった場合でも前科がつくことになります。そのため逮捕されたときには、刑事事件に強い弁護士にできるだけ早く相談することをおすすめします。
万引きは何罪?
「万引き」は一般的に使われている言葉ですが法律上の用語ではありません。そこでまずは万引きという行為がどのような罪に該当するのか説明した上で、万引きで逮捕された場合の流れや逮捕された者が取るべき対応についても解説していきます。
万引きは窃盗罪にあたる犯罪行為
万引きは「窃盗罪」にあたります。刑法第235条に窃盗罪についての規定があります。
刑法第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
他人の財物を窃取することが窃盗罪の要件であり、万引きはこのうち特に商品を勝手に持ち去る行為のことを指して言います。この条文の後段に処罰の内容があり、窃盗罪を犯すと10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するとあります。つまり、万引きによって最大50万円を支払うこと、もしくは10年の懲役刑に処される可能性があるということです。
従来は窃盗罪に関する罰則は懲役刑しかなかったところ、罰金刑は後から追加されたものです。懲役刑は比較的重い罰ですので、被害額の小さな万引きなどであれば懲役刑に処すほどではないという理由などから不起訴処分になってしまっているという事情がありました。
この問題を受け、万引き犯等を処罰しやすいように罰金刑が導入されています。多くの場合、万引きで有罪となれば罰金刑で処されるようになります。逆に、何度も繰り返し万引きをしている、数回逮捕されている、被害額もかなり大きいといった事情があれば懲役刑になる可能性が高くなってきます。
万引きに失敗しても処罰の可能性
一定の犯罪については未遂を処罰する規定があります。そして窃盗罪には未遂罪が定められているため、万引きが成功しなかったとしても窃盗犯として逮捕、処罰されることがあります。
たとえば、ある店内で商品をポケットに入れようとしたものの警備員と目が合ったために棚に戻したというケース、万引きをしようと商品に付けられた防犯タグを外そうとしたもののこれが外れず断念したケースなどです。
未遂は万引きを達成していませんが、達成した場合には既遂と呼ばれるようになります。一般的に万引き犯が逮捕されるのはこの既遂に達したときでしょう。商品を店の外に持ち出したかどうかで区別されることが多いです。
未遂で処罰される場合でも窃盗罪における法定刑が適用され、懲役10年以下または50万円以下の罰金に処されることがあります。しかし既遂と異なるのは、未遂においては「刑を減軽することができる」という定めがある点です。「できる」という文言が重要で、未遂だからといっても減軽されず50万円の罰金が科せられることはあり得ます。
一方で、やろうと思えばできたものの自分の自由な意思で万引きをやめた場合には「刑を減軽し、又は免除する」と定められており、必ず刑が軽くなります。これを中止未遂と呼び、他方前述の未遂を障害未遂と呼びます。万引きをしたかったが警備員などに止められ(障害)盗めなかったという違いがあります。
万引きで逮捕された場合の流れ
一般的な刑事事件の流れ
基本的には万引きであっても、どのような犯罪であっても大枠の流れから外れた手続きは採られません。
逮捕後、取調べを受け、検察に身柄が移され、勾留の決定がなされ、起訴処分となったのちに刑事裁判が始まり、有罪判決であれば宣告された処罰を受ける、という流れです。しかし、その途中段階において異なるルートを辿ることは珍しくありません。
たとえば、逮捕後の取調べでは留置場で拘束されて警察からの取調べを受けるというイメージを持っているかもしれませんが、必ずしも身柄拘束されるわけではなく、むしろ身柄拘束をする特別の理由がなければ在宅事件として扱われます。自宅で普通に生活をすることができるのです。
犯人が逃げてしまうおそれや証拠を隠そうとしているのでなければ、釈放してもらえるかもしれません。また、ここでの警察の捜査によって軽微な罪であったと評価されれば後述の微罪処分として早期の釈放をしてもらえることもあります。
続けて捜査や処罰の必要性があるとみられる場合には検察に身柄が移されます。これは時間によって区切られています。逮捕後警察に身柄が置かれるのは48時間までと制限されているため、それ以後は送検しなければならないのです。そして警察から検察に引き渡されてからは24時間以内に勾留の有無が判断され、さらに身柄拘束を長期的にする必要があると判断されると勾留の請求が裁判官になされます。
裁判官もこれを認めれば勾留されることとなり、延長期間を含めると最大20日間は自宅に帰れなくなります。勾留決定がなされるほとんどのケースでは1週間から10日ほどは身柄拘束が続けられ、その後必要に応じて勾留の日数が追加されていきます。
なお、この期間には検察官による起訴・不起訴の評価が行われ、起訴処分となれば刑事裁判にかけられ、これまで容疑者としての身分だったのが被告人という立場に変わります。ここからは保釈金の支払いなどによって保釈が可能となり、これが許される場合には自宅に帰ることができます。
刑事裁判では有罪・無罪の審理が行われますが、日本においては起訴されると99.9%が有罪判決になるという実情がありますので、できるだけ起訴されないようにしなければなりません。
万引きだと簡単な手続きで済むことも
基本的には犯罪者は上の流れに沿って処罰されます。しかし、万引きのように比較的軽微な犯罪であれば、ここまで長い道のりを歩むことなく事件が終結することが多いでしょう。ひとつは「微罪処分」、もうひとつは「略式手続」というものが関係しています。
微罪処分とは、本来事件の捜査を行う警察がその後送検しなければならないところ、これをせずに刑事手続きを終了させる処分を言います。警察による判断が行われますが、どのような事件について微罪処分とすることができるのか、その範囲は検察官が定めています。
地域によって微罪処分として扱うことができる事件に違いはあるものの、多くの場合以下の場合に微罪処分とされる可能性が高いでしょう。
- 被害額が数万円以下
- 犯情が軽微
- 被害の回復がなされている
- 被害者が許している
- 再犯のおそれがない
微罪処分として事件を終結させられない場合でも、万引きであれば略式手続を採ることもできるかもしれません。略式手続は刑事裁判を簡略化したイメージです。公開の法廷で陳述などをする必要がなく、書面審理のみで手続きが進められ、迅速な解決が図られます。
略式手続とすることができるのは100万円以下の罰金または科料を科する場合に限られます。ただしこの場合、有罪になることは避けられず、前科にも残ってしまいます。
無理やり逃げると強盗になる可能性
万引きをしてしまった場合に注意したいのはその後の行動です。万引きがばれてしまったとしてもやけにならず、攻撃的な態度をとらないようにしましょう。
現行犯逮捕は警察官以外によっても行うことができますが、その逮捕の際に暴行や脅迫などをしてしまうと「事後強盗」と呼ばれる別の罪を犯してしまうことにもなりかねません。事後強盗については刑法第238条で規定されています。
刑法第238条
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
逮捕をされていなくても、盗んだ商品を取り返されないように暴行・脅迫を用いると同様に事後強盗となります。
法定刑は5年以上の有期懲役です。もはや罰金では済まされません。そしてこれについても未遂の規定がありますが、事後強盗においては脅迫等によって逃げることが成功したかどうかではなく、万引きが成功したかどうかで判断されます。つまり万引きに失敗しているにもかかわらず、その後の逮捕を免れるために暴行などをしてしまうと事後強盗未遂罪で処罰される可能性が出てきます。
ただし、強盗罪はかなり重い罪ですので簡単に適用されるというわけでもなく、要件としてはここで用いる暴行・脅迫が相手の反抗を抑圧するほどでなければなりません。歯向かうことができないほど畏怖させることによって成立するのです。
事後強盗よりさらに重い罪が「強盗致死傷罪」です。これは万引きの最中やその後、逮捕を免れるためなどの理由で抗い、相手を怪我させてしまった場合や死亡させてしまった場合に該当する罪です。万引きに成功していなくても逮捕を避けるために相手を怪我させると強盗致傷罪になる可能性が出てきます。刑法第240条に規定されています。
刑法第240条
強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
万引きで逮捕されたときに取るべき対応
示談
示談は本来民事上の紛争を解決するために行われるものですが、示談が成立していれば被害者の許しを得ていると判断してもらうことができ、刑事手続においても重要になってきます。
そこで、できるだけ早く釈放してもらうためにも早期の示談が必要になってきます。万引きの被害者である店側(店主など)と交渉を行い、示談金の支払いを済ませます。その際、示談が成立していることを示すため、証拠となる書類等は残しておきましょう。
ちなみに、示談は当事者が自由に交渉を行うため、警察などが介入するところではありません。万引きをしてしまった加害者であっても同等の立場で交渉を行います。もちろん穏便に話を進めるためには態度も重要になってきますが、相手の提示してきた金額に必ずしも応じる必要はないということです。
相場を超えたあまりに高い金額を指定されたのでは罰金刑に処された方が安いかもしれません。ただし早く釈放されたい、前科を付けたくない場合などにはその点も考慮して交渉していきましょう。
反省
逮捕後の反省の態度は釈放の有無、勾留の有無、起訴・不起訴の判断などに関わってきます。反抗的で捜査に対しても協力的でなければその後の再犯などを疑われることになりかねません。
冤罪なら罪状否認
万引きをしていないにもかかわらず間違って逮捕されることもあり得ます。その場合には「罪を認めれば早く釈放してやる」などと言われても決して認めてはいけません。特に否認事件においては自白調書を取られないようにしましょう。弁護士と相談するまでは、黙秘を貫くなどしてやり過ごすのも一つの手です。
弁護士を呼ぶ
逮捕後、どの段階においても弁護士がいることでアドバイスを聞くことなど、サポートを受けられます。できるだけ早く釈放してもらえるようにはたらきかけてもらうことや、被害者との示談を代わりにしてもらうことも頼めます。冤罪であったとしてもそのことにつき弁護をしてもらえるでしょう。
特に重要度の高い示談は紛争解決のプロである弁護士に頼む方が成立しやすく、そしてできるだけ相場の示談金に抑えることもできます。逮捕後から接見をすることができるのも弁護士だけですので、できるだけ早期に呼ぶようにしましょう。
近年の万引き事情
万引き件数は減少傾向
万引きの件数自体は、様々な要因によって減少傾向にあります。
色んな犯罪データをまとめている「犯罪白書」というものがあり、これによると平成20年から29年における万引きの認知数は、15万件ほどから11万件ほどに下がってきていることがわかっています。その理由のひとつには店側の対策によって万引きを行うのが難しくなってきている、ということが挙げられます。
万引きをするのも難しくなってきている
万引き犯に対抗して店側も様々な対策を行うようになっています。その結果、万引きの減少、そして万引き犯を捕まえやすくなっています。
対策の内容として、声掛けや挨拶などがシンプルながら大きな効果を発揮しています。売り場のレイアウトを工夫しできるだけ死角を作らないことや、照明で華やかにすることで万引きを抑止する心理効果を狙ったものなどもあります。
防犯意識も高まり、店内での防犯ガイドラインが整備され、従業員に対する教育も行われるようになっています。特に近年では防犯システムの導入が進み、さらに万引きのハードルが上がりつつあります。
たとえばICチップなどを利用し、レジを通していない商品を持ち出せばブザーが鳴る仕組みや、顔認識のできる防犯カメラによって不審者を自動で検知するものなどがあります。
万引きで逮捕されたら弁護士に相談
万引きは窃盗罪として処罰され、最大で10年の懲役、もしくは50万円の罰金に処される可能性があります。逮捕後、比較的軽微であれば微罪処分として釈放されることや、略式手続で早期終結することが多いです。
ただし悪質なケースであれば懲役刑が科せられることもあり、勾留期間などを含む長い間身柄拘束をされることもあります。これを避けようと、逮捕後に暴行・脅迫をしてしまうと事後強盗や強盗致死傷罪としてより重い刑に処されることがありますので、逮捕をされても力で抵抗するのではなく、弁護士を呼んで対応するようにしましょう。
刑事事件ではスピードが重要になりますので、万引きで逮捕された場合には、できるだけ早く刑事事件に強い弁護士に相談をして適切なアドバイスをもらったり、示談交渉を進めてもらったりすることをおすすめします。
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
- 逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
- 23日間以内の迅速な対応が必要
- 不起訴の可能性を上げることが大事
- 刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
- 起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実