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公然わいせつ罪で逮捕されるケースとは|家族が逮捕されたら弁護士に相談を!
この記事で分かること
- 公然わいせつには被害者はなき犯罪で法定刑は比較的軽い。
- 公然わいせつは行為をした人以外でも罪を問われることがある。
- もし、公然わいせつで逮捕されたら、早急に弁護士に依頼し対策を打つべき。
公然わいせつ罪と言えば、女性の前で下半身を露出、あるいはハプニングバーで過激な性行為をして逮捕されるなどの例がテレビや新聞等で話題になっています。公然わいせつ罪とはどのような場合に適用され、強制わいせつ罪などの犯罪とどこが違うのでしょうか。もし、身近な人が公然わいせつで逮捕されたらどうしたらよいのでしょうか?
公然わいせつ罪とは、どういう犯罪?
公然わいせつ罪は「人前で破廉恥な行為をすること」という漠然としたイメージがあるのではないでしょうか。基本的にはその通りなのですが、もう少し細かく見ていきましょう。
公然わいせつ罪の要件
公然わいせつ罪とはその名の通り、「公然とわいせつな行為をした」ことです。刑法174条では、「公然とわいせつな行為をした者は、6カ月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」となっています。つまり、人の目につくところでわいせつなことをした罪ですが、原則的に被害者は存在しません。
公然の意味
公然わいせつ罪における「公然」は「不特定又は多数の人が認識することのできる状態」を指します。実際に不特定多数の人が認識している必要はなく、認識の「可能性」があれば成立します。例えば、人通りの多い駅構内で自己の性器を露出させたとして、実際にそれに気付いた人はいなかった場合でも、駅構内は不特定多数の人が認識できる状態にあるため、やはり公然と言えます。
わいせつの意味
「わいせつ」の概念は抽象的で、また、時代とともに変化するため、定義するのは困難です。判例は「徒(いたずら)に性欲を興奮または刺激せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」ものとしています。これも抽象的な表現ですが、結局、その時代の社会通念に照らして、善良な性的道義観念に反するか否かで判断されることになります。
どこまで出せば、公然わいせつが成立?
公然わいせつかどうかの判断をはっきりとした線引きするのは困難です。しかし不特定多数の人が認識することのできる状態で性器を露出したり、公園や車内、カフェなどで性交したりする行為は公然わいせつにあたります。
ハプニングバー、カップル喫茶
最近、話題になるハプニングバーやカップル喫茶では、不特定又は多数の人の前で性行為を行っていることがあるようです。そのような行為が行われれば、性行為を行った者は公然わいせつ罪に問われる可能性があります。
公然わいせつと強制わいせつ
同じ「わいせつ」でも、公然わいせつ罪と強制わいせつ罪(176条)は犯罪の性質が異なります。
公然わいせつ罪は何を保護するのか
公然わいせつ罪は健全な性秩序や性的風俗を保護する趣旨です。特定の被害者を必要としないため、「被害者なき犯罪」と言われることがあります。
強制わいせつ罪との違いは何か
一方、強制わいせつ罪は個人の性的自由を保護する趣旨です。暴行又は脅迫などで、被害者の意思に反してわいせつな行為を行うもので、公然わいせつ罪とは法定刑において、大きな差が出てきます。
公然と強制わいせつをしたら?
たとえば路上で女性にわいせつな行為を行った場合、「公然」と「強制」わいせつを行ったことになり、公然わいせつ罪より重い強制わいせつ罪に処断されることになります。
公然わいせつ罪と量刑
公然わいせつ罪の法定刑は、強制わいせつ罪に比べてかなり軽くなっています。
意外と?軽い長期6か月
公然わいせつ罪の法定刑は6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。拘留は1日以上30日未満の自由刑(16条)、科料は1000円以上1万円未満の財産刑です。公然わいせつ罪はメディアでも取り上げられることが少なくない犯罪ですが、法定刑は軽いものとなっています。
それでも社会的制裁は強い
法定刑は軽くても犯罪として成立しますし、犯罪を犯した者へ科される社会的制裁は決して軽いものではありません。コンビニの駐車場から店内に女性に見えるように性器を露出し手淫した高校教諭が罰金10万円の略式命令を受けた事件で、懲戒免職されていますが、こうした事件はメディアから実名で報じられることもあります。公然わいせつ罪で受ける社会的制裁は、刑罰よりも本人にダメージを与えることがありそうです。
冤罪になる可能性も
公然わいせつで逮捕されたものの、実は冤罪だったというケースがあります。社内で着替えていただけだった、通報者に勘違いされただけだったなど、わいせつな行為をするつもりがなかったのにも関わらず逮捕されてしまった場合でも、早期に釈放されたいため、事実として認めてしまう人もいます。
実行していないのに公然わいせつ罪で逮捕されることもある
実際にはわいせつな行為を行っていなくても、公然わいせつ罪で逮捕されることがあります。どのような場合でしょうか。
公然わいせつと共犯
公然とわいせつ行為を行っている者には、共犯者がいる場合があります。その場合、共同正犯(60条)といって、自らわいせつ行為を実行しなかったとしても、生じた結果について刑事責任を負わなくてはならない場合があります。
劇場の支配人も共犯者
例えば、わいせつなストリップショーを行わせた興業主や、そうした内容を知りながら契約して演じさせた劇場の支配人などは共同正犯にあたります。
ハプニングバーで見る者も共犯か
それではハプニングバーで他人のわいせつな行為を見ていた場合は、共犯者として検挙されるのでしょうか?これまでの報道を見る限り、実際にわいせつな行為をしていない者は逮捕されず、行為に及んだ者とバーの経営者らが逮捕されているようです。しかし、見ているだけの客が絶対に逮捕されない保証はありません。たとえば明らかにわいせつな行為をけしかけたり、行為を行うように精神的、物理的に手助けしたりした場合には幇助犯(ほじょざい)として罪に問われる可能性はあります
幇助罪の事例
幇助犯は、正犯を幇助した結果、正犯の実行が容易になった場合に成立します
男女のカップルが相互にわいせつな行為をして、性的興奮を高める喫茶店の経営者が幇助犯と判決されました。(東京地判平成8年3月28日)。
酔っていたから・・で許されない!
公然わいせつ罪で逮捕された場合、「泥酔していたから覚えていません」という言い訳は通用するのでしょうか。
公然わいせつで捕まった芸能人の事件
元人気グループSのKが、お酒に酔って深夜の公園で全裸になって芝生の上に座り、公然わいせつ罪で逮捕された事件がありました。最終的に起訴猶予となりましたが、酔っていたからといって許されないケースもあります。
心神喪失での犯罪は処罰できない
「こういうことはしてはいけない」と知り、その他の行為が選択できたのに、あえて犯罪行為を行えば罪に問われます。しかし、行為者がそうした状況を理解できないような状態だった場合は罰することができません。つまり「精神の障害により、善悪を分別する能力がない、又は、行動を制御する能力のない状態の心神喪失者は罰せられないのです。
原因において自由な行為での処罰
では、泥酔するまで飲んで心神喪失状態になった人間は、何をしても罪に問われないのであれば、「酔っていて覚えていません」が免罪符になってしまいます。そこで、自ら飲酒などによって心神喪失状態になり、その状態で犯罪行為をすれば罪とすると実際の裁判ではとられています。
実際に逮捕された例、無罪になった例
既述のように、公然の概念、わいせつの概念ともに抽象的なものです。実際に公然わいせつ罪が成立した事例、成立しなかった事例をあげてみます。
砂浜のボートで性交した警察官
2012年7月31日午後4時20分頃、海水浴場の砂浜に置かれたゴムボートの上で、海水浴客ら不特定多数の者が容易に認識しうる状態で性交したとして、警察官だった男性が罰金30万円に処せられました(大阪地判平成26年1月31日)。
不特定ではないと無罪になった例
被告人は1967年に当時19歳だった女性店員を旅館の一室で3人の男性を前で全裸にし、陰部を写真撮影させるなどして公然わいせつ罪で逮捕、起訴されました。しかし、ここでは「公然」の意味する「不特定又は多数の人」に該当しないとされ、無罪となりました(静岡地沼津支判昭和42年6月24日)。
公然わいせつで起訴されたが無罪になった例
公然わいせつ罪で起訴されたものの、無罪になった例もあります(東京高平成24年6月19日)。50歳を過ぎた男性がバスに乗っていたところ、当時34歳の女性が、男性が性器を握っている印象だと110番通報しましたが、「被告人の手指を男性器と見間違えた可能性」を指摘し無罪としました。
参考:痴漢などの性犯罪は「強制わいせつ罪」~刑法改正で法整備が進む~
公然わいせつで逮捕されたら
もし、公然わいせつ罪で逮捕されたら、どのように事件が処理されていくのでしょうか?
公然わいせつの処理傾向
公然わいせつ罪の法定刑は軽いものの、中には起訴されるものもあるはずです。いったいどれくらいの割合で起訴されるのでしょうか?
起訴されても略式命令が7割以上
2015年、公然わいせつ罪で検察庁が処理したのは2,450人です。そのうち起訴されたのが1018人で41.5%。起訴された者のうち74.1%の754人は公判廷で裁判をせず、書面審理だけを行う略式命令になっています。懲役刑を宣告されたのは204人で、全員が執行猶予付き判決を受けています。(2016年検察統計より)
逮捕されたら弁護士に相談
公然わいせつ罪で逮捕された場合、弁護士に救済を求めて、早期に身柄の拘束から解放を目指すべきでしょう。
長期身柄を拘束されることは少ないが、検察官送致の危険もある
公然わいせつ罪で逮捕されても、長く身柄が拘束されることは少なく、数日で解放されることも多くあります。しかし、すべてがその通りにいくわけではありません。司法警察員が必要があると判断すれば、身柄の拘束から48時間以内に検察に送致されてしまいます。
微罪処分になることも、送検前に弁護士を
公然わいせつは原則として全件検察官送致しなければなりませんが(刑事訴訟法246条本文)、微罪処分の場合は検察官指定事件は送致する必要がありません。公然わいせつ罪の場合、微罪処分になることは考えられます。
送検されても起訴猶予、略式命令の可能性
仮に送致されても、略式命令になる可能性も高いのが公然わいせつ罪の特徴です。簡裁扱いの軽微な事案で検察官が公判手続きを必要ないと判断すれば、被疑者の同意を得た上で、書面だけで審理する略式手続きができ、早期に事件から解放されます。
公然わいせつ罪は、被害者がいないだけに比較的軽微な罪にあたります。早期に身柄の拘束が解けて、罰金刑などで終わることも多いものの、職場や近所に知られれば、その後の社会生活に支障をきたすでしょう。もし身近な人が公然わいせつ罪で逮捕されたら、早期に弁護士に依頼して身柄解放などの働きかけをしてもらったり、今後の対策を練るなどするとよいでしょう。
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
- 逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
- 23日間以内の迅速な対応が必要
- 不起訴の可能性を上げることが大事
- 刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
- 起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実