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失業保険の仮給付とは?解雇をめぐる係争中のお金の問題を解決

この記事で分かること

  • 解雇について争い失業が確定してはいない状態であっても、要件を満たせば、失業保険の基本手当が仮に受給できることを失業保険の仮給付という
  • 仮給付の手続きには「解雇」について争っていることが証明される書類と、解雇無効により賃金の支払いを受けた場合に受給した基本手当の返還を記した書類が必要
  • 復職の場合は失業保険の仮給付は全額返還、退職の場合は退職の日付により、返還の有無や程度がわかれる

失業保険の仮給付とは、解雇について争い失業が確定してはいない状態であっても、要件を満たせば、失業保険の基本手当が仮に受給できることをいいます。実際の手続きには、「解雇」について争っていることが証明される書類と、解雇無効により賃金の支払いを受けた場合に返還を記した書類が必要です。なお、不当解雇や失業保険の仮給付については、弁護士などの士業専門家や都道府県の労働局など公的機関の窓口などに相談すれば、様々な視点からアドバイスを受けることができます。

失業保険の仮給付とは?

失業すれば、働いて生計を立てる手段がなくなり、生活費などあらゆる面でお金を工面しなければなりません。このように失業している場合は、ある一定の要件を満たせば、失業保険(雇用保険ともいう)の基本手当を受給することができます。

一方、失業保険の仮給付とは、解雇について争っており失業が確定してはいない状態であっても、要件を満たせば、失業保険の基本手当が仮に受給できることをいいます。

じつは、この失業保険の仮給付は、厚生労働省やハローワークのサイトを閲覧しても、みつけられるものではありません。というのも、仮給付は法律で定められた制度ではなく、実務上の運用として行われているからです。

ここでは、失業保険の仮給付の趣旨から、実際の失業保険の受給とどこが異なるのか、説明していきます。

解雇を争っている場合でも、失業保険が受給できる?

事業主と解雇をめぐって争っている場合、失業保険の基本手当を受給することには、問題があります。それは、失業保険の前提である「失業」状態について、一方では否定し、もう一方では肯定することになるからです。

というのも、失業保険の受給要件は、以下の2つを共に満たさなくてはなりません。

具体的には、
①原則、離職(失業)の日以前の2年間に被保険者期間が通算12ヶ月以上であること
※倒産・解雇等の理由により離職した場合などは、要件が緩和されます。

②雇用の予約や就職が内定及び決定していない「失業の状態」にある

  • 積極的に就職しようとする意思がある
  • いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)がある
  • 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていない

失業保険を受給するということは、失業である、つまり「自分は解雇された」ことを自ら認めていることとなります。他方で、事業主と「解雇」の有効性につき争っている場合は、「解雇は無効だ」と主張していることになるのです。

本来であれば、解雇の有効性につき、裁判所が判断するなど、何らかの決着がついてから、失業保険の給付を行うことが理想です。各々の機関で判断の食い違いを避けることもできます。

しかし、解雇を争っているということは、事実上、失業状態と同じ状況といえます。失業保険は、失業しても安定した生活をしながら、1日も早く再度就職できるように支給されるという目的があります。その目的に合致しているにもかかわらず、給付が認められないのは、あまりにも労働者の保護に欠けると言わざるを得ません。

そのため、ハローワークでは、解雇について争っていると証明できる場合には、とりあえず失業状態と同じように扱って、要件を満たせば失業保険の基本手当を仮で給付する対応を行っているのです。なお、仮給付であるため、実際に解雇が無効と判断された場合などは、受給した基本手当を返還する必要があります。

通常の失業保険の給付と仮給付の違い

それでは、通常の失業保険の受給と仮給付は異なるのでしょうか。

結論からいえば、失業保険の基本手当の給付の内容については、変わりがありません。ただ、手続きにおいては、仮給付の際には提出しなければならない書類があり、その点では一部異なることとなります。

解雇理由(重責解雇の場合)にも注意!

なお、解雇の有効性で争う場合は、「解雇の理由」についても当事者間で食い違いが起きることもしばしばです。そして、解雇の理由によっては、失業保険の基本手当の振り込み時期が大きく変わることもあります。というのも、失業保険の受給までは、最初の手続き開始で受給資格が決定され、その後、説明会参加、求職活動、失業の認定、受給という流れをたどります。

この最初の受給資格決定がなされた日から通算して7日間を待期期間といい、その期間が満了するまでは、雇用保険の基本手当は支給されないこととなっています。これは対象者全員に一律に適用され、失業に至った理由は関係ありません。

しかし、解雇の理由によっては、さらに待期期間満了の翌日から3ヶ月間も、失業保険の基本手当の支給がなされません。これを給付制限といいます。この給付制限がつくのが、正当な理由なく自己都合により退職した場合と、自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合(重責解雇の場合)となります。

もし、ハローワークで重責解雇であると判断されれば、失業保険の仮給付の場合も、同じように3ヶ月の給付制限がつき、実際に基本手当が振り込まれるのは、かなり先の話となります。このように、解雇をめぐっての争いは解雇理由にも関わる場合もあるので、最初の手続きである受給資格の決定の際に、しっかりとハローワークにて説明をする必要があります。

ワンポイントアドバイス
解雇について争い失業が確定してはいない状態であっても、要件を満たせば、失業保険の基本手当が仮に受給できることを失業保険の仮給付といいます。通常の失業保険の給付と内容は変わりませんが、手続きなどで提出書類が異なる部分もあります。
なお、解雇の理由でも争っている場合は、失業保険の受給資格を確認する際に、しっかりと説明する必要があります。重責解雇と判断されれば、3ヶ月の給付制限がつき、失業保険の仮給付で実際に基本手当が振り込まれる時期が遅くなるので、注意が必要です。
場合によっては、弁護士などに相談して、同席してもらうことも選択肢の一つです。

失業保険の仮給付までの手続きの流れ

それでは実際に失業保険の仮給付はどのような流れで行われるのでしょうか。基本的には、通常の失業保険の手続きと変わるものではありません。最初の手続き開始で受給資格の決定をされ、説明会参加、求職活動、失業の認定、受給という流れになります。ただ、仮給付ならではの必要書類もあるため、注意が必要です。

仮給付独自の書類が必要

失業保険の仮給付の申請については、通常の失業保険の手続きに必要な書類と、仮給付独自の書類が必要となります。

失業保険の手続きに必要な書類とは?

もともと、失業保険の手続きをするには、下記の書類が必要となります。

  • 雇用保険被保険者離職票(1、2)

勤務していた事業所から交付されます。

  • 個人番号確認書類
  • 身元(実在)確認書類
  • 写真(最近の写真、正面上半身、縦3.0cm×横2.5cm)2枚
  • 印鑑
  • 本人名義の預金通帳又はキャッシュカード(一部指定できない金融機関あり)

個人番号確認書類や身元確認書類の一覧は以下のハローワークのサイトでご確認ください。

参考リンク:https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_procedure.html

解雇につき争っていることが証明される書類を入手しよう

仮給付の場合は、前提となる「解雇について争っていること」が証明される書類が必要となります。

例えば、不当解雇について争う場合は、裁判所にて労働審判や訴訟で判断してもらう、労働委員会のあっせんを利用する、などの手段が考えられます。実際に、上記の手段で係争している最中だと証明できればいいわけです。一般的には、裁判所であれば、訴状や仮処分等の申立書の写しに裁判所の受領印が押印されたものなどが考えられます。

また、場合によっては、内容証明郵便での通知書なども認められる可能性があります

具体的には、以下のような書類です。

  • 訴状の写しと受理証明書
  • 仮処分等の申立書の写しと受理証明書
  • 労働委員会のあっせん手続申請書と受理証明書
  • 内容証明郵便による通知書

解雇の有効性につき判断がなされ、解雇無効により賃金の支払いを受けたときは、受給した失業保険の基本手当を返還する旨の約束も必要となります。一般的には返還する旨を記した書類も併せて用意します。

途中で仮給付へ変更の裏ワザもあり

もし、不当解雇だと気付かずに、失業保険の給付申請をしてしまった場合はどうでしょうか。

つまり、解雇されてやむを得ないと諦めていたにもかかわらず、弁護士や労働局などの窓口に相談することで、不当解雇に当たる可能性が高いと言われたような場合です。既に、失業保険の給付申請をしてしまったとしても、じつは、この場合には、途中で仮給付に切り替えることも可能です。

労働審判や訴訟、労働委員会のあっせんを利用し、不当解雇だと主張して解雇の有効性を争うなどのアクションを起こせば、ハローワークに相談をして、仮給付への切り替えも検討しましょう。

ワンポイントアドバイス
失業保険の仮給付の手続きには、「解雇」について争っていることが証明される書類と、解雇無効により賃金の支払いを受けたときは、受給した失業保険の基本手当を返還する旨を記した書類が必要となります。
そもそも失業保険の受給自体は、手続きを開始すればすぐに基本手当が振り込まれるわけではありません。最短でも手続き開始から約1ヶ月はかかります。そのため、予め上記の書類を用意しておけば、最初の手続きもスムーズに行われるといえます。

失業保険の仮給付の返還

失業保険は、失業していることが前提で給付されるものなので、解雇をめぐって争った結果、解雇が無効、解雇の撤回などで雇用関係が認められ、賃金が支払われた場合は、失業保険の受給要件を満たしていないこととなります。

このため、失業保険の仮給付により振り込まれた基本手当を返還する必要があるのです。以下、解雇をめぐって争った結果、「復職」と「退職」に分けて、解説します。

復職したケースの返還

まず、解雇をめぐって争った結果、復職したケースが考えられます。
以下のような場合です。

  • 解雇撤回の場合
  • 解雇無効の判決などが出された場合(勝訴した)
  • 和解により解雇が無効などの内容で合意した場合

解雇無効により復職すれば、もともとの「失業の状態」という受給要件が失われます。そのため、失業保険の仮給付である基本手当を全額返還する必要があります。なお、復職の場合は、争っていた期間の出勤状態に比例して、満額ではない可能性もありますが、一定の賃金が支払われるため、生活面では問題がないでしょう。

また、どのような経緯で復職に至るかにより異なりますが、和解金や慰謝料などが支払われる可能性もあります。

退職したケースの返還

一方、解雇をめぐって争った結果、退職をしたケースが考えられます。以下、事情主側の主張通りの解雇の場合と、解雇は撤回されたものの復職せずに自己退職したなどの場合にわけてみていきます。

事業主側の主張通りに当初の解雇日に退職

退職するにしても、その経緯は様々です。
当初の解雇日に退職とは、以下のような場合です。

  • 解雇有効などの判決が出された場合(敗訴した)
  • 和解して、当初の解雇日に合意退職した場合

このようなケースも非常にシンプルで、もともと仮給付は「失業するかもしれない」不確定状態で、基本手当を給付された形です。ですから、「失業不確定」が「失業確定」となったわけですから、通常通りの失業保険の受給と同じ結論となり、返還不要となります。

解雇撤回後に退職

また、当初の解雇日とは異なる日付で退職となることもあります。

以下のような場合です。

  • 解雇撤回後に退職した場合
  • 和解して、和解した日付で合意退職した場合

このようなケースでは、退職日までの失業保険の仮給付を返還する必要があります。

例えば、和解した日付で合意退職した場合で例を挙げます。

事業主からの解雇通告 5月1日
失業保険の仮給付開始 6月~11月
和解が成立して合意退職した 12月1日

この場合、合意退職日までの失業保険の仮給付を返還しなければなりません。合意退職した日付までは、従業員であり、失業保険の前提である「失業状態」とは言えないからです。

なお、和解での合意退職は、和解金と引き換えに退職する結論となる場合が多く、和解金と、合意退職までの日付の賃金が、勤務状態に比例して支給されることとなります。

ワンポイントアドバイス
復職の場合は失業保険を全額返還、退職の場合は退職の日付により、返還の有無や程度が分かれます。
専門的な知識が必要となる部分です。早期に弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

失業保険の仮給付については弁護士に相談しよう

失業保険の仮給付は、実務上で運用されているものです。解雇について争っている場合は、失業していない状況だからと、失業保険の基本手当を諦めている方も中にはいます。

ただ、弁護士などの法律の知識を持つ専門家や、労働基準監督署、都道府県の労働局、失業保険の手続きを行うハローワークなど公的相談窓口を利用すれば、このような情報も手に入れることができるでしょう。

特に、弁護士などの専門家は、不当解雇での事業主との交渉まで併せて行うことができ、解決の糸口が早期に見つかるかもしれません。迷わずまずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

残業代未払い・不当解雇など労働問題は弁護士に相談を
  • サービス残業、休日出勤がよくある
  • タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
  • 管理職だから残業代は支給されないと言われた
  • 前職で残業していたが、残業代が出なかった
  • 自主退職しなければ解雇と言われた
  • 突然の雇い止めを宣告された
上記に当てはまるなら弁護士に相談