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妊娠したら退職を勧められた 本当に辞めるべき?

この記事で分かること

  • 会社が結婚・妊娠・出産を理由に社員を解雇したり退職に追い込むことは違法
  • 妊娠中、本人の希望により会社に軽易な業務への転換を求め、産休を申請できる。
  • 男女問わず最長で子が1歳6か月になるまで育休を取得できる。
  • 復職後は勤務時間の短縮を会社に要請することができる。

結婚して妊娠したことで、会社から退職を勧められることがありますが、法律では妊娠などを理由に不当に解雇したり、不利益な扱いをしてはいけないことになっています。退職や業務の変換はあくまで本人の希望によるものでなくてはいけません。また、希望すれば必ずもらえる産前産後休業についても、ここでしっかりと学んでおきましょう。

妊娠で退職を勧められたら受け入れるしかない?

妊娠・出産・育児と仕事を両立するためには、会社側の理解や協力が不可欠です。しかし悲しいことに、妊娠した女性に対して退職を迫る会社も少なくありません。このような行為は法律で明確に禁止されています。

会社が妊娠した女性を退職させようとするケース

女性が子育てと仕事を両立させやすい会社は、すでに複数の女性社員が妊娠・出産・子育てしながら働いていたり、業務量と人手のバランスが良いといった特徴があります。しかし、このような環境にない会社では、次のような理由で妊婦に退職を迫ることがあるのです。

妊婦は体調の変化で労働能力が落ちるから

妊娠した女性の体には様々な体調の変化が訪れます。つわりで吐き気がする、妊娠前は平気だった匂いで気分が悪くなる、眠気に襲われるといった症状です。仕事の面では、休憩が多めに必要になったり、集中力が欠けやすいといったデメリットが生じるでしょう。このため妊婦を辞めさせようとする会社の中には、「特別な配慮をしないといけないのは迷惑だ」「人手が足りないからしっかり働けない人は辞めてほしい」と主張するケースがあるのです。

出産後は子育て優先になるから

出産後の女性はすぐには働けません。育休が必要となったり、復職後も保育所への送り迎えなど子育ての時間が必要です。この間、会社は代替要員を確保したり、他の従業員に仕事を振り分けなければなりません。しかし会社によっては、復帰しても子育て優先の社員よりフルタイムで働ける人員に切り替えたいと考える場合があります。このため「うちは育休は取れない」「業務と子育ては両立できない」「出産したら退職するのが普通」などと退職を迫るケースがあるのです。

妊娠・出産を理由に辞めさせるのは不当

妊娠・出産を機に女性のキャリアが一時中断することは、どうしても避けられません。このため、女性が妊娠・出産後も安心して働けるよう、女性の雇用・労働環境を守る法律が定められています。

結婚・妊娠・出産を理由に不利益な扱いをすることはできない

男女雇用機会均等法第9条は、「結婚・妊娠出産したら退職する」という決まりをあらかじめ設けることを認めていません。また、女性社員が妊娠・出産や産休を請求したことなどを理由に解雇や不利益な扱いをすることも禁止しています。

出産前後に解雇してはいけない

労働基準法第19条は、産休中とその後の30日間は原則として解雇を禁止しています。ただし、天変地異ややむを得ない事情で事業継続が不可能になり、労働基準監督所に認められた場合は例外的に解雇が認められます。

会社・本人が合意して退職することは問題ない

妊娠した女性の中には「子どもが生まれたら子育てに専念したい」と考える人も当然います。出産を機に女性が主体的な判断で退職を希望し会社が合意した場合は、もちろん違法ではありません。

ワンポイントアドバイス
女性が妊娠・出産後も安心して働けるよう、女性の雇用・労働環境を守る法律が定められています。そのため、会社は妊娠・出産を理由に社員を解雇することや、退職勧告など不利益な扱いをすることは法律違反になります。

妊娠で退職を勧められても働き続けたい場合〜妊娠・産休編〜

もし会社に「出産するなら退職を」と迫られても、鵜呑みにしてはいけません。妊娠中の女性の雇用・労働環境を守る法律に基づき、会社に雇用の継続や対応の改善を求めることができます。具体的には「軽易な業務への転換」や「産前産後休業(産休)」です。

軽易な業務への変換

労働基準法第65条では、妊娠した女性が希望した場合は軽易な業務に転換させなければならないと定めています。具体的には営業職から内勤への転換などです。転換のためにわざわざ軽易な業務を設ける義務はありません。

営業職の女性が妊娠した場合

外回りの営業職を担当していた女性が妊娠した場合、体調の変化を考慮して内勤に配置転換の希望を出すことが可能です。営業は総合職、内勤は一般職に分かれ給与体系が異なる会社が多いですが、もともと総合職で採用された女性は転換後も総合職として扱われます。ただし営業手当がカットされるケースもあります。

あくまで「本人の希望」であることが重要

軽易な業務への転換は、あくまで妊娠した女性本人の希望に基づいて行われる対処です。会社が「正社員の女性が妊娠したら、負担を減らすために契約社員・パート社員に変える」などと一方的に決めて転換させることは認められていません。妊娠・出産による労働条件の不利益変更について、裁判所や行政は厳しい目を向けています。

産前産後休業(産休)について

産前産後休業(産休)は、本人が希望すれば必ず与えられます。たとえ会社の就業規則に産休の規定がなくても、労働者の権利として育児介護休業法で認められているのです。また産休は、正社員だけでなく、派遣社員や契約社員、パート社員など誰でも取得できます。

産休の期間

産休は産前休業と産後休業に分かれています。産前休業は出産予定日の6週間前から、請求した人なら誰でも取得できます。双子など多胎妊娠の場合は14週間前からとなっています。一方、産後は出産翌日から8週間は母性保護の観点から就業が禁止されています。ただし、医師が認めた場合に限り産後6週間後から就労可能です。

産休中の給料

産休は労働者に認められている権利ですが、休んでいる間の給料はどうなるのでしょうか。実は法律上は、会社は産休中の給料を支払う義務がありません。給料の規定は会社ごとに定める就業規則によって異なります。一般的には、会社から給料が支払われず、健康保険の出産手当金を受け取るというケースが多いようです。

ワンポイントアドバイス
妊娠中の女性は、法律に基づき会社に雇用の継続や対応の改善を求めることができます。本人の希望により会社に軽易な業務への転換を求め、就業規則に含まれていなくても産前産後休業(産休)を申請することができます。

妊娠で退職を勧められても働き続けたい場合〜育休・復職編〜

「うちの会社で子育てしながら働くのは無理だよ」と言われても、子育て女性の雇用・労働環境を守る法律に基づき待遇の改善を求めましょう。具体的には「育児休業(育休)」と「復職後の勤務時間の短縮」です。

育児休業(育休)

育児休業(育休)とは、1歳未満の子どもを抱える労働者が育児のために仕事を休業できる制度です。会社は希望した社員には育休を与える義務があります。育休は男性も取得でき、取得可能な回数は子ども1人につき1回となっています。

育休の対象

育児休業で注意したいのは、産休と違って取得できる人の要件が定められている点です。契約社員(期間の定めのある契約で働く社員)の場合、1年以上雇用されていれば育休を取得できます。一方、子どもが1歳6か月になるまでに契約更新されないことが明らかな人は対象外です。

育休の期間

育休の期間は、子どもが1歳になる誕生日の前日までの希望する期間です。また、1歳の誕生日を迎えた時点で保育所に入所できなかった場合などは、1歳6か月になるまでの期間にもう一度育休を申請することができます。

育休中の給料

産休の場合と同じく、会社は育休中の給料を支払う義務がありません。しかし会社の就業規則によっては給料を支払う場合もあります。一方、雇用保険に加入していて要件を満たしている社員は、「育児休業給付金」を受け取ることができます。

復職後の勤務時間の短縮

会社は、産休・育休から復職し社員からの希望に応じて勤務時間を配慮する義務があります。具体的には、残業や深夜業を制限したり、保育園への送り迎えなどのために勤務時間を短縮するといった対応です。

残業・深夜業の制限

3歳までの子どもを育てる社員が希望した場合、会社は残業を命じることができません。残業の制限は正社員だけでなく契約社員などすべての社員が対象です。また、子どもが小学校入学前で自分の代わりに世話をしてくれる家族がいない社員が希望した場合、会社は夜10時から翌朝5時までの深夜帯に勤務させることはできません。

短時間勤務制度

会社は、3歳未満の子どもを育てる社員が希望した場合に利用できる短時間勤務制度を設けなければなりません。短時間勤務制度は1日の労働時間を原則6時間とします。契約社員などを含むすべての社員が対象です。社員が制度を利用した場合、会社は就労していない時間の分の給料を支払う義務はありません。

ワンポイントアドバイス
出産後、育児をしながら無理なく働き続けたいと考えるのであれば、育児休業(育休)を取得し、復職後、勤務時間の短縮を会社に申請することができます。育児休業は女性だけでなく男性でも取得できますが、契約社員で雇用期間が1年未満の場合は対象外です。

妊娠をめぐって、会社とトラブルになったら、弁護士に相談

会社に「妊娠したら辞めて」と言われたり、就業規則がきちんと整備されていない場合でも、法律が女性の雇用・労働環境を守る味方となってくれます。一人で解決するのが難しい時は、労働問題に強い弁護士の無料相談などを活用してみるのがおすすめです。

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