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深夜労働は残業代も割増に!深夜勤務の賃金計算ルール
この記事で分かること
- 休日労働は35%増し以上、深夜労働は25%増し以上です。
- そのいずれでもない時間外労働は25%増し以上で賃金が支払われます。
- 残業代請求権には2年の消滅時効が存在します。
休日労働は35%増し以上、深夜労働は25%増し以上、そのいずれでもない時間外労働は25%増し以上で賃金が支払われます。法定労働時間を超過した深夜労働の割増率は50%以上、法定休日の深夜労働の割増率は60%増し以上です。
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時間外労働に対しては割増賃金が発生する
一部の業種の労働者を労働基準法の労働時間や休日に関する規定の適用除外にする「高度プロフェッショナル制度」の導入が検討され物議を醸していますが、今や労働環境改善は我が国の喫緊の課題と言えます。
劣悪な労働環境の一つが、残業代が適切に支払われない状況です。とは言えそれを主張するには労働者の側が正しい法的知識を有していなければなりません。そこでまずは、残業代について基本的なところを見ていきましょう
時間外労働に対しては割増で賃金が発生する
言うまでもなく残業代とは、時間外労働に対して発生する割増賃金のことです。初めに残業代が発生する根拠や残業について押さえておきましょう。
労働基準法第32条で1日8時間、1週間40時間(法定労働時間)を超える労働は原則禁止となっています。
しかし業種や業務内容によっては法定労働時間を超過して労働せざるを得ないケースも出てきます。
そしてそのような場合に割増で賃金支払いをすることが義務付けられているわけです。これが残業代です。
三六協定の締結と届け出が必要
また、そもそも残業させるには労使間で三六協定を締結し、更にその旨を労働基準監督署に届け出ることが必要です。三六協定を締結し届け出ることで、時間外労働をさせても休日労働をさせても法律違反にならなくなるのです。これを「免罰的効果」と言います。
三六協定を結ばずに時間外労働をさせたり、三六協定で取り決めた時間を超過して労働させた場合、使用者は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられることとなります。
割増率は時間帯や条件によって異なる
そして賃金の割増率は時間帯や条件によって異なります。
通常の時間外労働、深夜残業の賃金割増率は25%増
まず通常の時間外労働の賃金割増率は25%以上です。
次に休日労働の割増率は当該休日が法定休日なのか法定外休日なのか、法定外休日の場合法定外残業なのか法定内残業なのかなど条件によって異なります。
法定休日労働では割増率35%以上、法定外休日の場合法定外残業なら25%以上、法定内残業なら割増は発生しません。
そして深夜労働(午後10時から午前5時の勤務)は通常25%増しで支払われます。
深夜労働の割増率は
つまり、労働者に時間外労働をさせた場合割増で賃金支払いをすることが使用者には義務付けられているのです。ここからは深夜労働について見ていきましょう。
割増賃金が発生する理由は
そもそも、なぜ割増賃金が発生するのでしょうか。深夜勤務の残業代ルールを把握する上では割増される根本的な理由を理解しておく必要があります。
深夜手当は心身の負担への“対価”
前述の通り残業をさせることは本来的には労働基準法32条違反にあたります。それゆえ、使用者へのペナルティーの意を込めて時間外労働に対しては割増賃金を支払う義務が課されるわけです。休日労働は労働基準法35条違反にあたり、休日手当も同じ理屈で発生します。
他方、深夜帯の勤務については労働基準法第37条で次のように規定されています。「使用者が,午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては,その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては,その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額、2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」
深夜労働は労働者に大きな精神的、肉体的負担を強いることになります。要は賃金を割り増して支払うことでその“埋め合わせ”をするのです。
つまり、深夜帯(午後10時から午前5時)の間の労働に対しては割増で賃金が支払われることとなるのです。これを深夜手当と呼びます。
深夜帯に法定労働時間外労働をした場合の割増率は
従って、単に深夜帯に働く場合と深夜でなおかつ法定労働時間を超過して勤務、すなわち深夜残業する場合では割増率が変わってくるのです。
では深夜残業をした場合、割増率はどうなるのでしょうか。
前述の通り、労働基準法第37条には深夜帯の労働に対しては2割5分増し以上で賃金支払いをしなければならないと規定されています。
例えば午前9時から休憩1時間を挟んで23時まで勤務した場合、法定労働時間は18時までとなりそれ以降は時間外手当が発生します。更に20時以降は深夜手当も発生することになります。
このような場合、割増率を足して計算します。
つまり深夜労働と法定労働時間が重なった場合の割増率は「時間外割増25%以上+深夜割増25%以上=50%以上」となるわけです。
その他の深夜勤務の賃金計算ルール
要は、労働者に負担がかかる「深夜勤務」という要素に、「法定時間外労働」という別の労働者に負担がかかる要素が加わったために、その補償として割増率が加算されるわけです。
とすれば、労働者に負担がかかる他の要素が重なった場合も賃金割増率が加算されることはお分かりでしょうか。
ここからは他の要素が重なった場合の賃金計算ルールについて解説していきます。
法定休日労働と深夜帯の労働が重なった場合
まず、労働が深夜帯に及びなおかつそれが法定休日労働であった場合について見ていきましょう。
労働基準法では使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えるか4週間に4回以上の休日を与えなくてはならない旨が定められています(35条)。
この、労働基準法によって定められた毎週1日以上、もしくは4週に4回以上の休日を「法定休日」と呼びます。
違反した使用者は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられることとなります。
なおこの休日は“最低限度”与えなければならないものであって、これより多い頻度で休日を与えられていても何ら問題はありません。実際に多くの会社が週休二日制を採用しています。
法定休日の深夜労働の割増率は35%+25%=60%
法定休日労働は本来労働基準法35条違反にあたり、法定休日に勤務した場合割増率は、35%以上となります。
そして勤務が深夜帯に及んだ場合、その時間の賃金は休日手当35%以上+深夜手当25%以上=60%以上となります。従ってこの場合の賃金は「通常の時給×60%以上」となります。
月の残業時間が60時間を超過した場合
また大手企業に関して一月辺りの法定時間外労働が60時間を超過した場合、割増を更に割増させる規定が平成22年に施行された改正労働基準法で設けられたことをご存知の方も多いでしょう。
では、60時間を超過する法定時間外労働と深夜業が重なった場合、賃金計算ルールはどうなっているのでしょうか。
一月60時間を超過する時間外労働に対しては50%増し以上で賃金が発生
過重労働問題などを受け平成22年に改正労働基準法が施行されています。そしてこの改正で、大手企業に限り、一か月60時間を超える法定時間外労働に対する割増率は5割以上とする規定が新たに設けられたのです。
一月60時間を超過する時間外労働と深夜業が重なった場合75%増し以上で賃金が発生
一月あたり60時間を超過する法定時間外労働と深夜業が重なった場合、割増率は5割以上+25%以上=75%増し以上となります。
ただ中小企業に関してはこのルールは今のところは適用猶予となっています。ですから現在は中小企業においては一月あたり60時間を超過する法定時間外労働と深夜業が重なった場合も割増率は50%となります。
けれども平成31年4月から、中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予が廃止されるので覚えておきましょう。
深夜勤務の賃金計算ルールについて知っておきたいこと
ここまで深夜勤務の賃金計算ルールについて解説してきました。
しかし計算方法についての知識だけ持っていても具体的請求の方法が分からなくては、たとえ未払い残業代があっても取り戻すことはできません。
そこで最後に、未払い残業代の請求の手順やその際のポイントなど深夜勤務の賃金計算ルールについて知っておきたい点を解説します。
残業代請求の手順
まずは、未払い残業代請求手順の説明をします。なるたけ波風が立たないよう段階的に進めていくことも大切ですが、一向に支払いに応じない場合、毅然とした態度で挑むことも重要です。
証拠を集める
未払い残業代を請求するときには、残業の事実が存在していたことを請求者側が証明する必要があります。
証拠となるのは例えばタイムカードや出退勤記録などです。そうしたものが確保できない場合、業務で使用しているパソコンの送受信記録やログなども証拠として有効です。
更に最近ではスマートフォンで「残業代アプリ」なるツールも出ています。これはGPS情報を使ってどの時刻に何処にいたかを記録できるもので、客観的に信頼に足る残業の証拠になります。
会社に請求する
証拠が容易できたら会社に未払い残業代を支払うよう請求しましょう。
この時のポイントは「内容証明郵便」で通達することです。内容証明郵便は差出人や宛先、送った日時などを郵便局が証明してくれるもので、通常の書面で請求するよりも心理的な圧力をかけることができます。
労働審判
支払いに応じてくれない場合、労働審判を起こすのも手段です。労働審判とは裁判外紛争解決手続き(ADR)の一つで、話し合いによる合意を図る制度です。
裁判よりも簡潔かつ迅速な解決が見込め、近年利用者が増加しています。労働にまつわるトラブル全般を扱いますが、裁判ではないので強制力はなく不調に終わることもある点に留意が必要です。
労働訴訟
労働審判でも話がつかなければ、訴訟です。労働審判が不調に終わった場合労働訴訟に移行することになるので、二度手間を回避するため端から労働訴訟を起こすケースもあります。ただ、訴訟は最終手段であり、一旦訴訟に持ち込んでしまうと労使の関係修復はまず不可能と思った方がよいでしょう。
残業代請求権には時効が存在する
また絶対に覚えておかなければならないのが、残業代請求権には消滅時効が存在する点です。
残業代請求権には2年の消滅時効を迎えれば原則請求できなくなる
労働者は全ての労働に対して賃金を請求する権利を有しますが、労働基準法はその第115条で次のように規定しています。
「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」
この“賃金”には残業代も含まれます。従って残業代請求権にも2年の消滅時効が存在することになるわけです。時効が完成した場合、原則請求はできなくなるので注意しましょう。
深夜労働者のリスク回避のために健康診断をきちんと受けよう
深夜業など特定業務に従事する労働者に対しては当該業務への配置換えの際及び6月以内ごとに1回、定期的に、健康診断が行われることが定められています。受診を拒否しても罰則はありませんが、体を壊しては元も子もないのでキチンと受診するようにしましょう。
- サービス残業、休日出勤がよくある
- タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
- 管理職だから残業代は支給されないと言われた
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
- 自主退職しなければ解雇と言われた
- 突然の雇い止めを宣告された