2,512view
会社が倒産!未払い残業代は支払われない?
この記事で分かること
- 会社が倒産しても未払い残業代の支払いは受けられる!
- 倒産した会社の未払い残業代を請求するには条件が5つある
- 手続きの仕方がよくわからない場合は弁護士に相談しよう
未払い残業代を請求するためには5つの条件をクリアしなければなりません。条件はやや複雑で、自分が支払いを受けられるのか、いくらまで請求できるかの判断が難しいところもあるでしょう。手続きは、弁護士に相談しながら進めましょう。
会社が倒産しても未払い残業代の支払いは受けられる!
会社が倒産しても、未払いであった残業代の支払いは受けられます。ただし、誰でもがどんな場合でも全額の支払いを受けられるわけではなく、いくつかの条件が課されています。
倒産した会社には、未払いの残業代を支払う能力が残っていないこともあるでしょう。その場合でも、労働者の福祉の増進を目的として設立された公的機関が未払い残業代を立替えます。
公的機関が未払い残業代を立替えしてくれる
倒産した会社の未払い残業代を立替えるのは「独立行政法人 労働者健康安全機構」です。労働者健康安全機構は、労災病院などの運営などを行うことにより労働者の健康および安全の確保を図るほか、未払い賃金の立替払事業を行っています。
昭和51年の事業創設から平成29年3月までの間に、約120万人に対して総額5,024億円の未払い賃金立替えを行っています。平成28年度の1年間では、21,941人に対して約84億円が支給されました。
労働者健康安全機構が未払い賃金の立替えを行うと、賃金請求権が労働者から機構に移動します。その後は、労働者健康安全機構が立替えの対象となった事業主に対して賠償を請求します。したがって、労働者健康安全機構が立替えを行ったからといって、事業主の賃金支払い義務が免除されるわけではありません。
倒産した会社の未払い残業代を請求する際の条件
労働者健康安全機構が行う未払い賃金の立替払事業は、残念ながら、誰でもがどんな場合でも全額の未払い賃金を受け取れるわけではなく、請求にあたっていくつかの条件が課されます。ここではその条件について見ていきましょう。
条件1 立替えの対象となる倒産
労働者健康安全機構の未払い賃金立替えを受けるためには、会社の「倒産」が、以下で示す「法律上の倒産」または「事実上の倒産」のいずれかに該当しなければなりません。
1.法律上の倒産
法律上の倒産とは、
- 破産手続開始の決定(破産法)
- 特別清算手続開始の決定(会社法)
- 再生手続の開始の決定(民事再生法)
- 更生手続開始の決定(会社更生法)
のいずれかがあった場合です。
2.事実上の倒産(中小企業の事業主のみ)
事実上の倒産とは、
「企業が倒産して事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払い能力がない状態になったことについて労働基準監督署長の認定があった場合」
を指します。なお、「事業活動停止」「再開の見込みなし」「賃金支払い能力なし」はそれぞれ、
「事業活動停止」とは
事業場が閉鎖され、労働者全員が解雇されるなどにより、その事業本来の事業活動が停止した場合。
「再開の見込みなし」とは
一般的には、事業主が事業の再開の意図を放棄し、または清算活動に入るなどにより再開する見込みがなくなった場合。
「賃金支払い能力なし」とは
事業主に賃金の支払いに充てられる資産がなく、かつ、資金の借入れ等を行っても賃金支払いの見込みがない場合。
を意味します。また、「中小企業事業主」とは、以下のいずれかに該当する事業主です。
一般産業(卸売業・サービス業・小売業を除く)
資本の額または出資の総額が「3億円以下」で、常時使用する労働者数が「300人以下」
卸売業
資本の額または出資の総額が「1億円以下」で、常時使用する労働者数が「100人以下」
サービス業
資本の額または出資の総額が「5千万円以下」で、常時使用する労働者数が「100人以下」
小売業
資本の額または出資の総額が「5千万円以下」で、常時使用する労働者数が「50人以下」
条件2 立替えの対象となる労働者
労働者健康安全機構による未払い残業代立替払いの対象となる労働者は、法律上の倒産の場合には裁判所への破産手続開始等の申立日、事実上の倒産の場合には労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請日の、
「6ヵ月前の日から2年の間にその会社を退職した人」
となります。
すなわち、自分が退職してから6ヵ月以内に裁判所への申立または労働基準監督署長への認定申請が行われなくてはなりません。また、申立または認定申請が行われてから1年半以内に退職していなくてはなりません。
裁判所へ破産手続きの開始については、その会社が申し立てます。それに対して、労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請は、未払い残業代の請求をする人が自分で行います。
条件3 立替え請求できる期間
労働者健康安全機構へ未払い賃金立替払いの請求ができる期間は、裁判所による破産手続開始などの決定日の翌日、または労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から、「2年以内」です。この期間を過ぎてしまうと立替え請求ができなくなりますので気を付けましょう。
条件4 立替えの対象となる未払い賃金
労働者健康安全機構による立替えの対象となる未払い賃金は、
「退職日の6ヵ月前から機構への請求日の前日まで」
に支払期日が来ている定期賃金および退職手当です。ただし、未払い賃金の総額は2万円以上でなければなりません。
「定期賃金」に残業代はもちろん含まれますが、
- 賞与やその他の臨時的に支払われる賃金
- 解雇予告手当
- 賃金の遅延利息
- 年末調整の還付金
- 慰労金など福利厚生上の給付金
- 旅費や用品代などの実費弁済金
などは立替えの対象となりません。
条件5 立替えの限度額
労働者健康安全機構によって立替えられる未払い賃金の金額は、「総額の80%」です。また、退職した時点での年齢によって未払い賃金総額に対する限度額が以下の通り決められています。
- 45歳以上 …370万円
- 30歳以上45歳未満 …220万円
- 30歳未満 …110万円
未払い賃金の総額が限度額を上回る場合には、支払われるのは「限度額の80%」となります。
倒産した会社の未払い残業代を請求する手順
労働者健康安全機構に対して未払い残業代の立替えを請求する手順は、法律上の倒産の場合と事実上の倒産の場合とで、それぞれ以下の通りとなります。
法律上の倒産の場合に請求する手順
法律上の倒産の場合に未払い残業代立替えを請求する手順です。
1.裁判所または証明者に対して証明の申請
まず、裁判所または以下の証明者に対し、立替払い請求の必要事項についての証明を申請します。
- 破産した場合 …破産管財人
- 特別清算した場合 …清算人
- 民事再生した場合 …再生債務者(管財人)
- 会社更生した場合 …管財人
請求に必要な事項の全部または一部について証明者から証明が得られなかった場合には、労働基準監督署長に対してその事項に対する確認申請を行えます。
2.必要書類を機構に送付する
裁判所や証明者から証明書が交付されたら、立替払い請求書および退職所得の受給に関する申告書、退職所得申請書に必要事項を記入して、証明書とともに機構へ送付します。
事実上の倒産の場合に請求する手順
事実上の倒産の場合に未払い残業代立替えを請求する手順です。
1.労働基準監督署長に認定の申請を行う
まず、労働基準監督署長に対して事実上の倒産を認定する申請を行います。未払い残業代の立替え請求する人が複数いる場合には、認定申請はそのうち1人が行えば良く、認定の効力は他の請求者にも及びます。
2.労働基準監督署長に確認の申請を行う
労働基準監督署長から認定通知書が交付されたら、ふたたび労働基準監督署長に対し、立替払い請求の必要事項についての確認申請を行います。
3.必要書類を機構に送付する
労働基準監督署長から確認通知書が交付されたら、立替払い請求書および退職所得の受給に関する申告書に必要事項を記入して、証明書とともに機構へ送付します。
倒産した会社の未払い残業代請求は弁護士に相談
倒産した会社の未払い残業代は一定の条件で支払いを受けることができます。ただし、手続きの方法は、裁判所や労働基準監督署、労働者健康安全機構など複数の窓口へ期限までに必要書類を送らなくてはなりませんので、やや複雑です。そのような時、未払い残業代の請求手続きを熟知した弁護士のような存在は、大変心強いものとなるでしょう。
- サービス残業、休日出勤がよくある
- タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
- 管理職だから残業代は支給されないと言われた
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
- 自主退職しなければ解雇と言われた
- 突然の雇い止めを宣告された