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会社が突然なくなってしまったら
ある朝、出勤したら入り口に紙が貼られていた。事務所には誰もいない。社長とも連絡が取れない。そんな話を、私たちは決して珍しいこととして聞いていません。
頭に浮かぶのは、まず先月分の給料でしょう。そして、これまでずっと支払われてこなかった残業代のことです。会社がなくなったのなら、もう諦めるしかないのだろうか。そう考えてしまうのも無理はありません。
けれども、結論からお伝えします。会社が倒産しても、未払いの残業代がその瞬間に消えてなくなるわけではないのです。受け取れる道はいくつも残されています。
むしろ、倒産の場面では働いていた人を守るための仕組みがいくつも用意されています。使えるものを知らずに手を引いてしまうのは、あまりにもったいないことです。
その仕組みには、法律上の優先的な扱いもあれば、国が立て替えてくれる制度もあります。どれも、自分から動かなければ届きません。だからこそ知っておく価値があるのです。
逆に言えば、知ってさえいれば手は届きます。難しい法律の条文を覚える必要はありません。どこに何があるのかという地図さえ頭に入っていれば十分です。
ただし、動き出す時期によって取れる手は変わります。会社の資料が散逸する前か後かで、集められるものがまるで違ってくるからです。ここがいちばんの分かれ目になります。
実際、相談に来られた時点ではもう会社の事務所が引き払われていて、パソコンも処分されていた。そういう例は少なくありません。それでも道はありますが、手間は確実に増えます。
反対に、まだ在職中の段階で相談に来られた方は、必要な資料をひととおりそろえたうえで手続きに入ることができました。同じ会社の同じ状況でも、動き出した時期で結果が変わるのです。
この記事では、倒産といっても中身がいくつもあること、未払いの賃金がどう扱われるのか、国の立替払という仕組み、そこで埋まらない部分をどうするか、そして今のうちに何をそろえておくべきかを順にお話しします。
読んでくださっている方のなかには、まだ会社が続いているけれど雲行きが怪しい、という段階の方もいるでしょう。その段階でこそできることがあります。あとで詳しくお伝えします。
逆に、すでに解雇の通知を受け取ってしまった方もいるかもしれません。その場合でも遅すぎるということはありません。順番に見ていきましょう。
不安な気持ちのまま、何もしないで時間だけが過ぎていくのがいちばんつらいものです。まずは何が起きているのかを知ることから始めてください。
相談の場でよく聞くのは、迷惑をかけたくなかった、という言葉です。長く勤めた会社であればあるほど、その気持ちは強くなるのでしょう。ですが、働いた分の対価を求めることは、誰かを困らせる行為ではありません。
会社が立ち行かなくなった責任は、あなたにはありません。負い目を感じる必要はどこにもないのです。まずはご自身の生活を立て直すことを、いちばんに考えてください。
倒産といっても中身はいくつもある
倒産という言葉は、日常ではひとまとめに使われます。しかし法律の世界では、いくつもの異なる手続きを指しています。どれにあたるかで、あなたが取るべき動きも変わってきます。
大きく分けると、会社を清算してなくしてしまう手続きと、会社を立て直して続けていく手続きがあります。前者の代表が破産です。後者には民事再生や会社更生といったものがあります。
破産の場合、裁判所が選んだ管財人という立場の人が、会社の財産を集めて整理し、債権者に分け与えていきます。この管財人が、あなたの窓口になることが多いのです。
管財人は会社の味方でも、あなたの味方でもありません。中立の立場で財産を整理する役割です。ですから、遠慮せずに未払い分の内容を伝えて構いません。伝えなければ、把握してもらえないだけです。
立て直しを図る手続きでは、会社そのものは残ります。事業が続いている以上、賃金の支払いも続けられるのが普通です。ただし過去の未払い分については、手続きの枠組みに取り込まれる場合があります。
この場合、日々の給料は今までどおり支払われるのに、過去の未払い残業代だけが別扱いになる、という状況が生まれます。会社は続いているのだからいずれ払ってもらえるはずだ、と考えていると取り残されかねません。
会社が再建の手続きに入ったと聞いたら、自分の未払い分がどう扱われるのかを早めに確かめてください。届出が必要な場面があるからです。
やっかいなのは、どの手続きも取られないまま、事実上活動を止めてしまうケースです。これは俗に事実上の倒産と呼ばれています。裁判所が関わらないため、頼れる窓口がはっきりしません。
破産の手続きにも費用がかかります。その費用すら用意できない会社は、手続きを取らずに事業をやめてしまうのです。皮肉な話ですが、財産が乏しい会社ほどこの形になりやすいと言えます。
この事実上の倒産こそ、実は相談として最も多いパターンです。会社の代表者と連絡が取れない、事務所は閉まっている、しかし法的な手続きは何も始まっていない。宙ぶらりんの状態です。
ただし、この場合でも道は閉ざされていません。労働基準監督署が事実上の倒産にあたると認定してくれれば、後でお話しする国の立替払を使える可能性が出てきます。
ですから、まず確かめてほしいのは、いま会社がどの状態にあるのかということです。裁判所の手続きが始まっているのか、それとも何も動いていないのか。ここを取り違えると、遠回りになってしまいます。
この見極めを飛ばして、会社の代表者に何度も連絡を取り続ける方がいます。気持ちは分かりますが、破産の手続きが始まっていれば、代表者はもう財産を動かせる立場にありません。相手を間違えると時間だけが過ぎます。
確かめ方はいくつかあります。管財人からの通知が届いていないか。同僚が何か聞いていないか。取引先が事情を知っていることもあります。労働基準監督署に相談すれば、状況の整理を手伝ってもらえることもあるでしょう。
官報という国の広報にも、破産の開始が公告されます。会社名で検索すれば分かることもありますので、確かめてみる価値はあるでしょう。ただ、公告されるまでには時間差がありますから、載っていないからといって手続きが始まっていないとは限りません。
登記の記録を取り寄せる方法もあります。会社の本店所在地が分かれば、法務局で誰でも取得できます。破産の手続きが始まっていれば、その旨が記載されているはずです。
手続きの種類が分かれば、誰に対して何を言えばよいのかが見えてきます。まずはそこから足場を固めていきましょう。
なお、会社が小さいほど、代表者個人と会社の区別があいまいになりがちです。その場合、代表者自身の資力に目を向けたほうが早いこともあります。判断は状況によりますので、迷ったら早めに相談してください。
未払いの賃金は優先して扱われる
会社が破産すると、残った財産を債権者で分け合うことになります。このとき、あなたの未払い賃金はどう扱われるのでしょうか。
ここで知っておいてほしいのが、働いた対価としての賃金は、ほかの一般的な貸し借りよりも手厚く扱われるという点です。法律は、生活の糧である賃金を特別なものとして位置づけているのです。
取引先への未払い代金や、金融機関からの借入れと同じ列に並ばされるわけではない、ということです。この違いは、残った財産が乏しいときほど大きく効いてきます。
具体的には、賃金の債権には先取特権と呼ばれる優先的な地位が与えられています。取引先への支払いなどと同じ土俵で並ぶのではなく、一段上の扱いを受けられるということです。
さらに破産の手続きのなかでも、一定の期間に発生した賃金や退職金については、より早く支払いを受けられる区分に振り分けられます。順番待ちの列で前のほうに並べる、と考えると分かりやすいでしょう。
ここで大切なのは、未払いの残業代も、この賃金にあたるという点です。基本給だけが守られるわけではありません。支払われるべきだったのに支払われていない割増の部分も、同じように扱われます。
この点は誤解されがちです。残業代は特別なお金だから後回しになるのでは、と考える方がいます。しかし法律上、残業代はあくまで働いた分の賃金の一部です。区別する理由はありません。
同じように、退職金についても賃金に準じた扱いを受けられる場合があります。会社の規程で支給が定められているのであれば、それは会社の気持ち次第で決まるものではなく、支払われるべきものです。
ただし、優先されるからといって全額が確実に戻るわけではありません。優先されるのはあくまで順番の話であって、そもそも会社に財産が残っていなければ、分けるものがないからです。
実務では、残った財産が乏しく、優先的な地位があっても一部しか届かない例が多く見られます。だからこそ、次にお話しする国の制度が重要になってくるのです。
それでも、優先される立場にあることを知っているかどうかで、動き方は変わります。管財人に対して自分の債権を届け出るとき、これは賃金だと明確に主張できるからです。
債権の届出には期限が設けられます。管財人から書面が届いたら、必ず中身を確かめてください。放っておくと、受け取れるはずのものを取り逃がすことになりかねません。
書面には専門的な言葉が並んでいて、読むだけで気持ちが折れそうになるかもしれません。それでも、期限と提出先だけは必ず押さえてください。分からない部分は空欄のまま相談に持ち込んで構いません。
実際、届出をせずに期限を過ぎてしまい、後から気づいて悔やむ方がいます。会社が消えたのだからもう関係ないと思い込んでしまうのです。書面が届いたということは、あなたが権利者として扱われている証しでもあります。
そして届け出るには、いくら未払いなのかを自分で計算しておく必要があります。金額の根拠を示せなければ、認めてもらえない部分が出てくるからです。
国が立て替えてくれる仕組みがある
会社にお金が残っていない。それでも受け取る道があります。国が賃金の一部を立て替えて支払ってくれる仕組みが用意されているからです。
これは未払賃金立替払制度と呼ばれています。会社が倒産して賃金を受け取れなくなった働き手を救うために設けられた制度で、独立行政法人が窓口となって運用しています。
仕組みとしては、国が先に立て替えて支払い、その後で会社に対する請求権を国が引き継ぐという形になっています。ですから、あなたが会社の代わりに誰かへ返す必要はありません。
使うためにはいくつかの条件があります。会社が一定期間以上事業を続けていたこと、倒産の状態にあると認められること、そして退職の時期が定められた範囲内に収まっていることなどです。
会社が労働者災害補償保険の適用を受けている事業であることも条件のひとつです。ほとんどの会社は当てはまりますが、ごく短期間で終わった事業などでは外れることもあります。
あなた自身が正社員かどうかは問われません。パートでも、アルバイトでも、契約社員でも、賃金を受け取って働いていたのであれば対象になり得ます。ここは安心してよい点です。
ここでいう倒産には、裁判所の手続きが始まった場合だけでなく、先ほど触れた事実上の倒産も含まれます。ただし後者では、労働基準監督署の認定が必要になります。
認定を求める申請は、働いていた側から出すことになります。会社が何もしてくれないからといって行き止まりではありません。あなたのほうから動かせる仕組みになっているのです。
認定を受けるには、会社が本当に活動を止めているのか、賃金を支払う能力がないのかといった点を確かめてもらうことになります。手続きには時間がかかりますので、早めの相談が肝心です。
対象となるのは、退職前の一定期間に支払期日が来ていた賃金と退職金です。ここには残業代も含まれます。働いた分の賃金である以上、当然のことです。
一方で、賞与は対象になりません。また、支払われる額には上限が設けられており、年齢によって区分されています。未払い分の全額がそのまま戻ってくる制度ではない、という点は押さえておいてください。
それでも、まったく手元に入らない状態から一定の額が戻るのですから、意味は大きいはずです。使えるものは使いましょう。
この制度は、申請しなければ何も起こりません。誰かが自動的に手続きを進めてくれるわけではないのです。対象になりそうだと感じたら、まずは窓口に問い合わせてみてください。
破産の手続きが進んでいる場合は、管財人が必要な証明を出してくれます。事実上の倒産であれば、労働基準監督署が同じ役割を担います。どちらの入り口から入るのかを間違えないようにしてください。
同じ職場で未払いを抱えている人がいるなら、一緒に動くほうが進みは早くなります。同僚の証言が、勤務の実態を裏づける材料にもなるからです。
申請には、未払いの額を示す資料が要ります。給与明細、雇用契約書、勤務の記録。これらがそろっているほど、手続きは滑らかに進みます。
立替払で埋まらない部分をどうするか
立替払には上限があります。そして賞与のように対象外のものもあります。では、埋まらなかった部分は諦めるしかないのでしょうか。
そんなことはありません。立替払を受けても、残りの部分についての請求権が消えるわけではないからです。会社に対して、あるいは場合によっては代表者個人に対して、請求を続ける道が残っています。
破産の手続きが進んでいるなら、債権の届出を通じて配当を受けることになります。届け出た額のうち、立替払で受け取った分は国に移りますが、残りはあなたのものです。
配当がいつになるのかは、財産の整理がどこまで進んでいるかによります。年単位で待つことも珍しくありません。すぐに入ってこないからといって、権利が消えたわけではないと覚えておいてください。
会社に一定の財産が残っていれば、優先的な地位が効いてきます。先ほどお話しした通り、賃金は列の前のほうに並べるからです。届出をしていなければ、この列に加わることすらできません。
事実上の倒産で法的な手続きが取られていない場合は、話が変わります。この場合、会社という器はまだ形の上では残っているため、通常の請求と同じ手段を取ることになります。
具体的には、内容証明郵便による請求から始まり、話し合いがつかなければ労働審判や訴訟に進むという流れです。相手方が応じなければ、財産を差し押さえるための手続きも視野に入ります。
もっとも、実際に回収できるかどうかは相手に財産が残っているかにかかっています。ここは冷静に見極める必要があるでしょう。労力に見合うかどうかは、専門家と相談しながら判断してください。
見極めといっても、あなたひとりで結論を出す必要はありません。相手の状況を調べる手立ては専門家の側にもあります。分からないまま諦めてしまう前に、一度状況を並べて見てもらってください。
見極めのポイントはいくつかあります。会社名義の不動産や車両が残っているか。売掛金が回収されずに眠っていないか。代表者が別の会社を立ち上げていないか。こうした点は調べる価値があります。
とりわけ、事業を別の会社に移して名前だけ変えて続けているようなケースでは、その新しい会社に対して責任を問える余地が出てくることもあります。あきらかにおかしいと感じたら、そのまま伝えてください。
また、代表者が会社の財産を私的に使い込んでいたような事情があれば、代表者個人に責任を追及できる場合もあります。こうした事情は、外からは見えにくいものです。
同僚と情報を持ち寄ると見えてくることがあります。ひとりでは断片にしか見えなかったものが、つなげると全体像になるからです。声をかけ合ってみてください。
ただし、感情に任せた行動には気をつけてください。会社の関係者を責め立てたり、外部に事実と異なる話を広めたりすれば、こちらが不利な立場に立たされることもあります。冷静さを保つことが、結局はいちばんの近道です。
会社が消える前にそろえておきたいもの
ここからは、実際に何を手元に置いておくべきかという話です。倒産の場面では、資料が急速に失われます。だからこそ、思い立ったときが行動のときです。
そろえておきたいものを整理しておきましょう。
- 給与明細。支払われた額と控除の内訳が分かる、いちばん基本の資料です。
- 雇用契約書や労働条件通知書。賃金の決め方が書かれています。
- 就業規則や賃金規程。写しを取れる立場にあるなら取っておいてください。
- 出退勤が分かるもの。タイムカードの写し、勤怠システムの記録、シフト表など。
- 業務上のやり取り。送信時刻の入ったメールやメッセージは、その時間に働いていた証しになります。
- 会社からの通知。解雇や休業に関する書面は、日付ごと保管してください。
これらのうち、会社の設備のなかにしかないものは特に急いでください。事務所が引き払われれば、二度と手に入らなくなるからです。
とはいえ、会社の情報を持ち出すことには注意も要ります。自分の労働条件や自分の勤務に関わるものにとどめてください。顧客の名簿や取引先の資料まで持ち出すのは、別の問題を生みます。
線引きに迷ったら、自分の権利を示すために必要かどうかで考えてみてください。それを超える範囲には手を出さないほうが安全です。
写しを取る、画面を撮っておく、自分宛てに送っておく。方法はいくつもあります。原本を持ち出さなくても、内容が残っていれば足りることがほとんどです。
手元にほとんど何もない場合でも、諦める必要はありません。銀行口座の入金履歴からは、いつどれだけ支払われたかが分かります。家族への連絡や交通系の利用履歴からは、勤務の実態が浮かび上がることもあります。
記憶が新しいうちに、いつからいつまでどのように働いていたかを書き出しておくことも役に立ちます。後からまとめようとしても、細部は驚くほど早く薄れていくものです。
書き出すときは、覚えている範囲で構いません。何時ごろ出社して何時ごろ帰っていたか、繁忙期はいつだったか、休日に出た月はあったか。ざっくりとした記憶でも、給与明細や入金の記録と突き合わせると輪郭がはっきりしてきます。
同じ職場にいた人と記憶を照らし合わせるのも有効です。自分ひとりの思い違いかもしれないと不安になっている方ほど、話してみると裏づけが取れることがあります。
あわせて、離職票や退職に関する書面の記載も確かめておいてください。退職の理由がどう書かれているかで、その後に受けられる給付の扱いが変わってくるからです。
倒産の兆しに気づいたときの動き方
給料の支払いが遅れ始めた。支給日に一部しか入らなかった。取引先への支払いが滞っているという話が聞こえてきた。こうした兆しに気づいたとき、どう動けばよいのでしょうか。
まず、支払いが遅れた事実そのものを記録に残してください。いつ、いくら遅れたのか。会社から何と説明があったのか。この積み重ねが、後で状況を説明するときに効いてきます。
そして、会社に対して支払いを求める意思を示しておくことが大切です。口頭でも意味はありますが、書面やメッセージなど形に残る方法のほうが確実でしょう。
賃金を請求できる期間には限りがあります。法律の改正でこの期間は以前より延びましたが、それでも無期限ではありません。古い分から順に消えていくことになりますので、放置は禁物です。
意思を示しておけば、その時点で請求の意思があったことを後から示せます。何も言わないまま時間が過ぎるのと、記録が残っているのとでは、後の交渉での立ち位置が変わってきます。
ここで悩ましいのが、辞めるべきかどうかという判断です。生活のことを考えれば早く次を探したい。しかし辞める時期によっては、制度が使えなくなることもあります。
この判断は、ひとりで抱え込まないでください。制度の条件は細かく、状況によって答えが変わります。専門家に事情を伝えたうえで決めたほうが、結果として損をしません。
相談は、会社が完全に止まってからでなければできないものではありません。むしろ、まだ動いている段階のほうが打てる手は多いのです。給料の遅れが一度でもあった時点で、話をしてみてください。
費用の心配で足が止まる方もいるでしょう。初回の相談を無料としているところもありますし、収入によっては費用の立替えを受けられる公的な仕組みもあります。まずは問い合わせてみることをおすすめします。
もうひとつ押さえておきたいのが、退職の理由の扱いです。会社の経営が行き詰まって辞めざるを得なかった場合、自分から辞表を出したとしても、実質的には会社の都合による退職と評価される余地があります。
この評価が変わると、失業給付を受けられる時期や期間に差が出ます。目先の手続きの速さだけで判断せず、後の生活まで見通して選んでください。
離職票の記載に納得できない場合は、その場でサインをせずに異議を述べることができます。すでに提出してしまった後でも、実情を示す資料があれば見直しを求める道は残っています。
賃金が支払われないまま働き続けることについても、慎重に考える必要があります。働いた分の請求権は積み上がっていきますが、回収できる見込みが乏しければ、負担ばかりが増えていくからです。
会社から、今は苦しいがいずれ必ず払うと言われて、そのまま働き続けている方もいます。その言葉を信じたい気持ちは分かります。けれども、支払いが遅れ始めてから状況が好転する例は多くありません。
いつまでに、いくら支払うのか。書面で示してもらうよう求めてみてください。応じてもらえるかどうかで、会社の姿勢がはっきりします。応じないのであれば、それが答えです。
最後にお伝えしたいのは、動き出す時期が結果を大きく左右するということです。会社の財産が残っているうち、資料が手に入るうち、制度の条件を満たしているうち。どれも時間とともに失われていきます。
おかしいと感じた時点で、一度専門家に事情を話してみてください。何もしないまま様子を見る期間が、いちばん取り返しのつかない時間になってしまいます。
会社がなくなるという出来事は、それ自体が大きな衝撃です。次の仕事を探しながら、住まいや家族のことも考えなければならない。手続きのことまで頭が回らないのが普通でしょう。
だからこそ、全部を自分で抱えなくて構いません。制度の入り口を案内してもらうだけでも、気持ちの負担はずいぶん軽くなるはずです。まずは声を出すところから始めてください。
会社の倒産と未払い残業代に関するよくある質問
会社が破産したら、残業代は完全に諦めるしかないのですか
そんなことはありません。未払いの残業代は賃金にあたりますから、破産の手続きのなかで優先的に扱われる立場にあります。会社に財産が残っていれば、そこから配当を受けられる可能性があります。さらに、国が賃金の一部を立て替える未払賃金立替払制度も用意されています。この制度の対象には残業代も含まれます。会社に財産がまったく残っていない場合でも、制度を通じて一定の額を受け取れる道があるということです。まずは会社がどの状態にあるのかを確かめ、管財人や労働基準監督署に相談してみてください。
社長と連絡が取れず、裁判所の手続きも始まっていません
いわゆる事実上の倒産にあたる可能性があります。この場合でも、労働基準監督署が事業の廃止と支払能力がないことを認定してくれれば、立替払の制度を利用できます。まずは会社の事務所の状況、同僚が把握している情報、取引先から聞こえてくる話などを整理してください。そのうえで労働基準監督署に相談し、認定に向けた手続きを進めることになります。認定には調査の時間がかかりますので、早く動くほど結論も早く出ます。並行して、手元の資料を集めておいてください。
立替払を受けたら、未払い分の残りは請求できなくなりますか
いいえ。立替払で受け取った部分についての請求権は国に移りますが、それを超える部分はあなたのものとして残ります。上限を超えた分や、そもそも制度の対象にならない賞与などについては、引き続き会社に請求できます。破産の手続きが進んでいるなら、債権の届出を通じて配当を求めることになります。法的な手続きが取られていない場合は、通常の請求と同じように内容証明郵便から始め、必要に応じて労働審判や訴訟を検討していく流れです。
会社の様子がおかしいのですが、今のうちに何をすべきでしょうか
まず、資料を手元に確保してください。給与明細、雇用契約書、就業規則、出退勤の記録、業務上のやり取り。会社の設備のなかにしかないものは、事務所が閉まれば取り戻せなくなります。あわせて、支払いの遅れがあればその事実を日付とともに記録してください。そして、辞めるかどうかを決める前に一度相談することをおすすめします。退職の時期によって使える制度が変わり、退職理由の扱いによって受けられる給付にも差が出るからです。判断を急がず、材料をそろえてから選んでください。
