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固定残業代(みなし残業)とは~固定残業代だと残業手当はつかない?

この記事で分かること

  • 固定残業代制度とは残業の有無にかかわらず、一定の残業代を含めた賃金が支払われる制度です。
  • 固定残業代制度には「固定残業代に基づくみなし残業」と「みなし労働時間制に基づくみなし残業」が存在し、それぞれ細かい決まりがあります。
  • 制度そのものは違法ではありませんが、固定残業代制度を理由に深夜手当や休日手当を支払わないなど、違法な運用が問題となっています。

固定残業代制度とは残業の有無にかかわらず、一定の残業代を含めた賃金が支払われる制度です。固定残業代の算出方法は複雑なので弁護士に依頼するのが得策です。

固定残業代制度(みなし残業制度)とは

セクハラにパワハラ、賃金不払いにリストラ…。労働トラブルにもさまざまなものがありますが、そのうちの一つが固定残業代制度(みなし残業制度)にまつわる問題です。

近年導入する会社も増えているこの制度ですが、実は無制限に使えるものではなく、適用にはいろいろと条件があるのです。

まずは、労働と賃金の関係性をおさえた上で、みなし残業の仕組みについて基本的なところをみていきましょう。

労働者は本来労働した時間分の給与を受け取る

賃金は労働者の生活の糧となる重要なもので、労働基準法でも賃金支払いについて明記されています。そしていうまでもなく賃金は労働の対価として発生するものであり、労働者は働いた時間分の給料をすべて受け取る権利を有します。

つまり、残業をすれば残業代が発生しますが、逆に早退すればその差額分の給与支払いは受けられないわけです。

固定残業代制度(みなし残業制度)とは

ところが、一部の職種では実労働時間を正確に測ることが難しいのです。そこで用いられるのが「固定残業代制度」です。固定残業代制度とは企業があらかじめ一定額の残業代を月給に組み込んでおき、実際の労働時間にかかわらず、一定の給料を支払う制度です。

制度が生まれた背景は

本来であれば賃金は労働の対価として発生するものですから、労働者は働いた時間分の給料すべてを受け取ることができます。

しかし、例えば直行直帰の営業職や、在宅勤務などのテレワークでは労働時間の把握が困難です。

また、近年では研究職やコンサルタント、システムエンジニアなど、結果がすべてであるゆえに従来の労働時間による賃金計算方法がそぐわない職種も増えています。

更に、労働時間ではなく出来高で評価する「成果主義」の考え方も広がっています。

こうした事情を背景に、実際の労働時間にかかわらず、一定の残業代を含めた賃金を支払う、みなし残業制度を導入する企業が増えているのです。

固定残業代制度を適用するには条件を満たす必要がある

ただし、固定残業代制度は無条件に適用できるものではありません。固定残業代制度を利用する事業所は一定の条件をクリアする必要があります。

まず、事業所は「従業員に固定残業代制度を適用する旨を伝えること」が求められます。口頭ではなく書面で通知しなければなりません。

ワンポイントアドバイス
固定残業代制度とは残業の有無にかかわらず、一定の残業代を含めた賃金が支払われる制度です。就業規則などに「固定残業代と残業時間を明確に記載すること」も必要条件となっています。

固定残業代制度の仕組みやルール

固定残業は大きく「固定残業代に基づくみなし残業」と「みなし労働時間制に基づくみなし残業」の2つに分けられ、適用可能なケースや残業代の発生条件が異なります。ここではそれぞれの仕組みやルールなどを解説します。

固定残業代に基づくみなし残業

まずは、固定残業代に基づくみなし残業です。これは企業があらかじめ残業時間を想定し、一定の残業代を月給や年俸に含んで労働者に支給する賃金支払い方法です。

つまり、実際の残業時間がみなし残業として設定された残業時間に到達していなくても、給与の額は一定なのです。

残業の有無にかかわらず残業代込みの給与が受けられる

固定残業代に基づくみなし残業制度では、事前にその業務にかかることが想定される残業時間分の割増賃金が組み込まれた額が支給されます。

固定給は端から“残業をしたとみなされた”額になっているので実際には残業をしていなくても、安定した額を得られるわけです。

ですから、効率的に勤務に取り組み、早めに切り上げても給与は変わりません。浮いた時間をほかのことに使うといったことが可能になるのです。

みなし残業時間の超過労働時間分は別途支払われる

また、これが誤認されがちなポイントなのですが、固定残業代制度はどんなに残業しても給与が同じになるシステムではありません。あらかじめ企業がみなし残業として取り決めた残業時間を超過した労働分については別途支給される必要があります。

例えば、みなし残業時間を20時間に設定している場合に30時間残業すれば10時間分は別に支払われなくてはならないことになります。

みなし労働時間制に基づくみなし残業

では続いて、みなし労働時間制に基づくみなし残業について解説します。みなし労働時間制は労働時間の把握が難しい、あるいは時間による賃金の算出が難しい業務に従事する者に対して労使間で合意した労働時間を1日の労働時間とみなす制度です。

適用できるのは労働時間の把握が難しい職種に限られる

みなし労働時間制はあらゆる仕事に取り入れられるものではなく、適用できる職種が決まっています。

適用対象となるのは「事業場外労働のみなし労働時間制」と「裁量労働制」です。

事業場外労働のみなし労働時間制

事業場外での労働が基本となるために、労働時間の把握が困難な業務に適用できます。直行直帰の営業や在宅勤務、テレワークなどに適用可能です。

裁量労働制

裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」に分かれます。

専門業務型裁量労働制にはコンサルタントや研究職などが、企画業務型裁量労働制には経営企画スタッフなどが適用可能です。

みなし労働時間が法定労働を超えた場合のみ残業代が発生する

みなし労働時間制を適用するには、そのみなし労働時間について労使間の合意が労使協定において成立している必要があります。

この労働時間が法定労働時間の8時間に満たない場合、無論みなし労働は発生してないことになり、残業代も発生しません。

一方8時間を越えればその超過分と法定労働時間の差がみなし労働時間となり、残業代が発生するわけです。

例えば、労使協定において10時間の労働時間で合意した場合において10時間働けば、2時間分のみなし残業代が発生することになります。

ワンポイントアドバイス
固定残業代制度には「固定残業代に基づくみなし残業」と「みなし労働時間制に基づくみなし残業」のが存在し、それぞれ細かい決まりがあります。

固定残業代制度で揉めるケース

固定残業代制度は法令で定められた制度ではなく、会社が任意に導入しているシステムですが、適切に運用していれば、何ら違法性はありません。しかし、会社がこの制度を違法に利用し、トラブルになるケースが増えているわけです。ここではそうしたケースについて紹介します。

みなし残業時間の超過分の労働に対しても残業代が支払われない

取り決めたみなし残業時間を超過して労働したにもかかわらず、残業代が支払われないケースです。これは固定残業代制度のトラブルで最も多いものの一つといえます。

みなし残業時間を明記せず固定残業代制度を適用するケース

みなし残業時間を就業規則などに明記することなく、残業代込みとして給与支払いがなされるケースです。

この場合、企業が固定残業代制度を利用するには「固定残業代と残業時間を明確に記載すること」が必要条件になる点を把握していない可能性も無きにしもあらずですが、ほとんどのケースではみなし残業時間を曖昧にすることで違法に賃金をカットしていると考えられます。

残業時間を把握していないケース

本来であれば固定残業代制度を採用していても、使用者は労働者の労働時間は管理しなくてはなりません。

しかし、中には管理が不要との誤認を持っている使用者もあります。

そうすると使用者は当然、労働者がみなし残業時間を超過して労働してもその事実、また時間を把握できないので超過分の残業代が支払われることはないわけです。

休日手当・深夜手当がつかない

休日労働や深夜労働の賃金割増が、給与の計算に入っていないケースも少なくありません。ありがちなのが、時間外手当は考慮されているものの、休日手当・深夜手当がついていないケースです。

休日勤務は35%、深夜勤務は25%増で賃金計算されなければならない

固定残業代制度でも、通常の賃金計算システムと同様、休日勤務や深夜勤務については法で定められた割増率を考慮して支払われなければなりません。

使用者は休日労働に対しては35%、深夜労働に対しては25%の割増賃金を支払う義務があります(労働基準法第37条)。

前述の通り、みなし労働時間制に基づくみなし残業は適用できる職種が決まっています。ところが適用外の職種であるにもかかわらず、みなし労働時間制として、残業代を支払わないケースもあります。

問題となるのは労働基準法第38条の「労働時間を算定し難いとき」

これについては実際の判例を見てみましょう。
平成24年にツアー会社の添乗員が、当該業務は労働時間の把握が可能で事業場外みなし労働時間制は適用できないと主張し、時間外労働割増賃金の支払いなどを求めて会社を提訴しました(阪急トラベルサポート事件)。

この裁判の争点になったのは添乗業務が、労働基準法第38条の「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかです。

この事例では裁判所は会社に対して割増賃金の支払いを命じています。

判決理由は「ツアーの日時や目的地等が旅行日程で定められていた」、「旅行会社から添乗員に対して、旅行日程どおりに業務を行うよう指示がされていた」「不測の事態の際には会社の指示に従うよう要求されていた」「添乗日報などで会社が業務を詳細に把握できた」などから、労働時間の把握が難しいとは言えないとの判断に至ったことです。

ワンポイントアドバイス
制度そのものは違法ではありませんが、固定残業代制度を理由に深夜手当や休日手当を支払わないなど、違法な運用が問題となっています。

固定残業代制度で押さえておきたいこと

労働者が損をしないためには、残業代が適切に支払われているか知る必要があります。そのために、固定残業代の算出方法を確認しておきましょう。

固定残業代の算出方法

固定残業代の算出方法は“ (賃金総額-固定残業代)÷月平均所定労働時間×割増賃金率×時間外労働時間数”です。例えば1か月辺りの所定労働時間が172時間の会社で賃金総額が30万円の従業員が、30時間労働した場合、

X=(30-X)÷172×1.25×30となり、固定残業代は約53,445となります(固定残業代=Xとする)。

なお、上記は深夜残業や休日労働はなかった場合の計算式であり、深夜残業や休日労働があれば割増率は異なります。

弁護士に依頼するのが得策

このように固定残業代の計算は慣れない者にとっては非常にややこしく、複雑です。

しかし、だからといって正確な残業代を把握できないのでは、会社にちょろまかされていてもそれに気づかず、損をしてしまうことにもなり兼ねません。

そのため、弁護士に相談するのが得策です。また近年では、違法に固定残業代制度が適用される事例が増え、簡易の計算ツールなども存在します。利用するのも一手でしょう。

とはいえ、前提となる数字に誤りがあれば正確な額は出ないので、弁護士への依頼がベターと言えます。

残業代の請求方法

では計算の結果、未払い残業代が発覚した場合、それを請求するにはどうすればいいのでしょうか。

段階を踏んで請求する

会社との関係性をなるべく悪化させないためにも段階を踏んで請求することが必要です。
まずは会社と交渉してみましょう。

最もこの段階で応じてくれるくらいなら端から支払っているので、会社の手違いで残業代が出ていない場合を除き、支払いを受けられる可能性は低いと言えます。

支払いに応じてくれない場合、書面で請求しましょう。このときポイントとなるのが内容証明郵便で送ることです。内容証明郵便とは送り主や宛先、差出日時やその内容を郵便局が証明してくれるもので、相手方に心理的圧力をかけられます。

それでも支払われなければ労基署へ駆け込む、あるいは労働審判を起こすなどの手立てをとるといいでしょう。

ワンポイントアドバイス
賃金請求権には2年の時効が存在する点に注意が必要です。労働基準法には「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。(第115条)」との規定があります。

固定残業代制度について正確な知識を備えておくことが大切

固定残業代制度は本来労働者側のメリットとなる制度ですが、悪用する会社も少なくありません。また意図せずして誤った運用をしている場合もあるでしょう。いずれにせよ、労働者が損をしないためには正しい知識を備え、不利益を被りそうになった場合に対応できるようしておくことが大切です。

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