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労基署に行けば解決すると思っていませんか
残業代が支払われない。休憩も取らせてもらえない。上司に伝えても取り合ってもらえない。そんなとき、まず頭に浮かぶのが労働基準監督署ではないでしょうか。
実際、相談の場でも、まず労基署に行ったほうがいいですかと尋ねられることがよくあります。公的な機関ですから、頼りになりそうだと感じるのは自然なことです。
費用もかかりませんし、身近な場所にあります。まずはそこから、と考えるのは理にかなった判断です。
会社と直接ぶつかるのは気が重い。かといって弁護士に頼むには費用の不安がある。そのあいだにある選択肢として、監督署が浮かぶのでしょう。
その感覚は間違っていません。実際、最初の一歩として監督署を選ぶことには合理性があります。問題は、そこに何を期待するかです。
ただ、行ってはみたものの、思ったような対応をしてもらえなかった。話を聞いてもらっただけで終わってしまった。そんな声も、同じくらい耳にします。
順番待ちの末に呼ばれて、十数分話して、また様子を見てくださいと言われた。それきり何も起きなかった。そうした経験をすると、公的な機関はあてにならないと感じてしまうでしょう。
けれども、その多くは役所の怠慢ではありません。持ち込まれた内容が、その役所の担当する範囲から外れていたか、動くために必要な形になっていなかったのです。
この落差はどこから生まれるのでしょうか。答えははっきりしています。労働基準監督署が何をする役所なのかが、正しく伝わっていないからです。
労働基準監督署は、たしかに強い権限を持っています。会社に立ち入り、帳簿を確かめ、是正を求めることができます。悪質な場合には、刑事の手続きにつなげる力まで備えています。
民間の相談窓口では、ここまでのことはできません。使い方さえ間違えなければ、非常に強い味方になります。
会社に電話一本入れてもらうだけで、態度が変わることもあります。それだけの重みがある存在です。
けれども、その力が向けられているのは、法律に違反した状態を正すという方向です。あなた個人のために未払い分を計算して取り立ててくれる、という役所ではありません。
守るのは社会全体のルールであって、個々の債権ではない。乱暴に言えば、そういう立ち位置です。
ですから、会社が是正の勧告を受けても、あなたの手元に自動的にお金が入るわけではありません。ここは冷静に理解しておく必要があります。
ここを取り違えたまま行くと、期待外れに感じてしまいます。逆に、役割を分かったうえで使えば、これほど心強い存在もありません。
使い方を知っているかどうかで、得られるものはまるで変わります。同じ窓口に同じ内容を持ち込んでも、伝え方ひとつで動き方が違ってきます。そして、この使い分けは誰でも身につけられます。特別な知識は要りません。
この記事では、労働基準監督署がどういう役所なのか、何を扱い何を扱わないのか、どう伝えれば動いてもらいやすいのか、そして扱ってもらえない部分をどうするかをお話ししていきます。
あわせて、相談と申告の違いにも触れます。この二つを分けて考えられるかどうかで、結果が大きく変わってくるからです。
この違いを知らずに窓口へ行くと、話を聞いてもらっただけで終わってしまいます。もったいない話です。読み終えるころには、自分の悩みをどこに持ち込めばよいのかが見えているはずです。行く前の三十分で読み終わる内容にしてあります。準備の一助にしてください。
すでに一度行ってみて、うまくいかなかったという方にも役に立つはずです。伝え方を変えるだけで結果が動くことがあります。
労働基準監督署はどんな役所か
まず、役所としての性格を押さえておきましょう。
労働基準監督署は、働く人を守るための法律が守られているかを見張る役所です。全国に置かれており、それぞれが管轄する地域の事業場を担当しています。
相談に行く先は、勤務先の所在地を管轄する監督署になります。自宅の近くではなく職場の近くだという点は、意外と間違えやすいところです。
支店や店舗で働いている場合は、その事業場の所在地が基準になります。本社の場所ではありませんので、迷ったら電話で確かめてください。
ここで働いているのが労働基準監督官と呼ばれる職員です。この人たちには、事業場に立ち入って調べる権限が与えられています。
会社の側は、この立入りを正当な理由なく拒めません。書類を隠したり、虚偽の説明をしたりすることも認められていません。
実際には、都合の悪い記録が見つからないという事態もあります。しかし、備え置くべき書類がないこと自体が指摘の対象になりますので、隠しても得にはなりません。
さらに、法律に違反する事実があると認められる場合には、捜査を行う権限も持っています。行政の職員でありながら、司法に関わる立場も併せ持っています。
この二つの顔を持っている点が、監督署の特徴です。指導で改まらなければ、次の段階へ移れる仕組みになっています。
会社の担当者がこの点を理解していれば、指導の段階で真剣に対応します。理解していない会社ほど、話がこじれる傾向があります。
この点が、他の相談窓口と大きく違うところです。話を聞くだけの窓口ではなく、実際に会社に踏み込む力を持っています。
この力があるからこそ、会社の側も監督署からの連絡を軽く扱えません。外から見られているという意識が、社内の運用を変えることがあります。
また、労働災害に関する事務も担当しています。仕事が原因で負傷したり病気になったりした場合の給付の手続きは、ここが窓口になります。
会社が手続きに協力してくれないという相談も、ここで受け付けています。本来は会社が進めるものですが、応じてもらえない場合には本人から動くことができます。
労災として扱われると保険料が上がるから、と難色を示す会社もあります。それは会社側の事情であって、あなたが我慢すべき理由にはなりません。
安全や衛生に関する指導も業務のひとつです。危険な機械が適切に管理されているか、健康診断が実施されているか。こうした点も見ています。
深夜の勤務が多い方の健康診断が行われていない、といった問題もここに含まれます。自分の職場に思い当たる点がないか、確かめてみてください。
健康診断は受けさせる義務が会社にあります。忙しいから後回しにされている、という状態が何年も続いているのであれば、それは指摘できる事柄です。
つまり、労働基準監督署は法律違反を正すことを軸にした役所です。この軸から外れる悩みは、ほかの窓口のほうが向いていることになります。軸に乗るのか、乗らないのか。その見極めが、遠回りを避けるいちばんの近道になります。
次の章で、その線引きを具体的に見ていきます。自分の悩みがどちらに入るかを考えながら読んでみてください。
相談できることと、扱ってもらえないこと
次に、実際に持ち込める内容を整理しておきます。ここがいちばん大切な部分です。持ち込む前にここを確かめておけば、無駄足を避けられます。
自分の悩みが右側なのか左側なのか。それが分かれば、次の一手も決まります。扱ってもらえるのは、法律にはっきりと違反している事柄です。代表的なものを挙げておきます。いずれも、条文に照らして判断できるものばかりです。
裏づけとなる記録さえあれば、比較的はっきりと結論が出る領域です。
- 賃金や残業代が支払われていない。
- 労働時間が法律の上限を超えている。
- 休憩や休日が与えられていない。
- 労働条件を書面で明示されていない。
- 就業規則が作られていない、または見られる状態にない。
- 解雇にあたって必要な予告や手当がない。
- 健康診断が実施されていない。
これらは、いずれも法律の条文に照らして白黒がつけやすいものです。だからこそ、監督署が動きやすい領域でもあります。
裏を返せば、条文に照らして判断しにくい事柄ほど、動いてもらいにくくなります。ここが分かれ目です。
おかしいと感じている度合いと、動いてもらえるかどうかは比例しません。ここは割り切って考える必要があります。一方で、扱ってもらいにくい事柄もあります。こちらも知っておいてください。
共通しているのは、どちらの言い分が正しいかを比べて判断する必要がある、という性質を持っている点です。
ひとつめが、解雇が不当かどうかという争いです。手続き上の問題ではなく、その解雇に理由があったかどうかは、当事者間の争いとして扱われます。
ただし、解雇にあたって必要な予告がなかった、予告に代わる手当が支払われていない。こうした手続きの面については、法律違反として扱われます。同じ解雇の話でも、切り口によって扱いが変わります。
二つめが、人事異動や配置転換の当否です。会社の判断が権利の乱用にあたるかどうかは、条文で一律に決まる話ではありません。
個別の事情を比べたうえで判断する必要があるため、行政が一律に線を引ける領域ではありません。
とはいえ、異動の背景に嫌がらせの意図があるような場合は、別の枠組みで相談できることもあります。まったく行き場がないわけではありません。
三つめが、慰謝料や損害賠償の請求です。金額を算定して相手から取り立てるのは、行政の役割ではありません。
この点は、多くの方が期待するところと実際の役割がずれる部分です。あらかじめ知っておいてください。
四つめが、職場での人間関係をめぐる悩みです。嫌がらせについては、別に相談を受ける枠組みが設けられています。
もっとも、嫌がらせの結果として体調を崩し、それが仕事に起因すると認められる場合には、労働災害として監督署が関わることになります。入り口が変わるだけで、まったく無関係というわけではありません。
ここで押さえておきたいのは、扱ってもらえないからといって、あなたの悩みが軽いという意味ではないという点です。単に、持ち込む先が違うというだけのことです。
窓口で断られると、自分の問題は取るに足らないものなのかと感じてしまいます。そうではありません。担当が違うだけです。
窓口でも、どこに行けばよいかを案内してもらえます。断られたと感じたら、では、どこに相談すればよいですかと尋ねてみてください。
監督署が持っている権限
では、動いてもらえた場合に何が起きるのでしょうか。順に見ていきます。流れを知っておくと、待つべき期間の見当もつきます。
すぐに動いてもらえるとは限りません。抱えている案件の数によっては、時間がかかることもあります。
まず行われるのが、事業場への立入りです。予告なく訪れることもありますし、事前に連絡が入ることもあります。
定期的に行われる調査と、申し出を受けて行われる調査があります。後者の場合、会社の側も何かあったのだろうと察することになります。
そこで確かめられるのが、帳簿や書類です。労働者名簿、賃金台帳、出勤の記録、就業規則。これらを見せるよう求める権限があります。
これらの書類は、会社に備え置きと保存が義務づけられているものです。用意されていないこと自体が、指摘の対象になります。
関係者から話を聞くこともできます。会社の担当者だけでなく、働いている人から直接聞き取りが行われる場合もあります。
聞き取りを受けたときは、事実をそのまま話して構いません。会社に配慮して曖昧に答えると、実態が伝わらないまま調査が終わってしまいます。
調べた結果、法律に違反する状態が見つかれば、是正を勧告する書面が出されます。会社は、いつまでにどう改めるかを報告することになります。
この報告があってはじめて、一連の手続きが区切りを迎えます。会社が期限までに動かなければ、あらためて指導が入ることになります。
この勧告そのものに強制力があるわけではありません。しかし、無視し続ければ次の段階に進みます。
また、勧告を受けたという事実そのものが記録に残ります。繰り返せば繰り返すほど、会社の立場は苦しくなっていきます。
公共の入札に参加している会社などでは、この積み重ねが事業そのものに響くこともあります。会社が本気で対応する理由は、そこにもあります。
悪質な場合や、繰り返し改めない場合には、捜査を経て検察官に送られることもあります。ここまで来れば、会社にとっては重い事態です。
ですから、勧告が出るというだけでも、会社の姿勢が変わることは少なくありません。外から指摘されたという事実は、社内の空気を動かします。
担当者が制度を理解していなかっただけ、という職場も実際にあります。その場合、指摘を受けて運用が一気に改まることもあります。
ただし、勧告によって支払われるのは、あくまで法律違反として明らかな部分に限られます。争いのある部分まで踏み込んで解決してくれるわけではありません。
会社が労働時間そのものを否定してくるような場合、監督署としてはどちらの言い分が正しいかを裁く立場にありません。そこから先は別の道になります。
労働基準監督署が扱う問題と、別の窓口に向かう問題を整理しておきます。
| 問題 | 主な相談先 |
|---|---|
| 残業代や給料の未払い、最低賃金割れ | 労働基準監督署 |
| 違法な長時間労働、36協定がない残業 | 労働基準監督署 |
| 解雇予告手当が払われない | 労働基準監督署 |
| 労災の申請 | 労働基準監督署 |
| 解雇そのものが不当か、パワハラ・セクハラ | 都道府県労働局の総合労働相談コーナー、弁護士 |
| 解決金の交渉や裁判 | 弁護士 |
監督署は、労働基準法などの違反を取り締まる役所です。会社に是正を指導することはできても、あなたに代わって未払い分を取り立てたり、解雇を撤回させたりする権限はありません。何を求めたいのかによって、行き先を選ぶことが大切です。
動いてもらうための伝え方
ここからは実践的な話です。同じ内容でも、伝え方によって動いてもらいやすさは変わります。
窓口の職員も、限られた人数で多くの案件を抱えています。ですから、伝わりやすい形で持ち込むことに意味があります。
準備に手をかけた分だけ、対応も具体的になります。逆に、漠然とした訴えのままだと、様子を見ましょうという答えになりがちです。
いちばん大切なのは、法律のどこに違反しているのかが分かる形で伝えることです。つらい、おかしい、という気持ちの部分だけでは、役所は動きにくいものです。
気持ちを抑えろという意味ではありません。事実と気持ちを分けて並べる、というだけのことです。事実が先にあれば、気持ちも伝わりやすくなります。
たとえば、残業代の未払いであれば、いつからいつまでの分がどれだけ支払われていないのかを示します。休憩であれば、どの日にどれだけ取れなかったのかを示します。
正確な金額まで出せなくて構いません。おおよそでも数字が添えられていると、話の具体性がまるで変わります。
一か月あたりどれくらい足りていないのか、それが何か月続いているのか。この二つを掛け合わせるだけで、規模の見当はつきます。次に大切なのが、裏づけとなる資料です。持っていくとよいものを挙げておきます。完璧にそろえてから行こうとすると、いつまでも行けません。今あるもので構いません。
雇用契約書と労働条件通知書。給与明細。出退勤が分かる記録。就業規則の写し。会社とのやり取りが残っているもの。そして、自分でまとめた経過のメモ。
このうち、就業規則は職場で見られる状態に置かれているはずのものです。求めても示されないのであれば、その事実自体が伝える価値のある情報になります。
出退勤の記録は、会社のものでなくて構いません。自分でつけた手帳やメモでも、日々書き留めたものであれば意味を持ちます。
すべてがそろっていなくても構いません。あるものを持っていけば、そこから何が足りないかを教えてもらえます。
三つめが、時系列に整理しておくことです。いつ何が起きたのかを順に並べた紙を一枚作っておくだけで、話が驚くほど早く進みます。日付、出来事、誰が関わったか。この三つを並べるだけで十分です。手書きでも構いません。この紙は、後に弁護士へ相談する際にもそのまま使えます。作っておいて損はありません。
四つめが、何をしてほしいのかを明確にすることです。是正の指導をしてほしいのか、まずは相談したいのか。ここがはっきりしていると、対応も具体的になります。この点は、次の章でお話しする相談と申告の違いに直結します。あわせて読んでみてください。
なお、行く前に電話で問い合わせておくと、必要なものを教えてもらえます。無駄足を避けるためにも、一度連絡してみてください。
窓口が混み合う時間帯や、予約が要るかどうかも、そのときに聞いておくとよいでしょう。仕事を休んで行く方が多いだけに、段取りは大切です。
相談と申告は違う
意外と知られていないのが、この違いです。ここを分かっていないと、期待した動きが得られません。行ったのに何も起きなかったという方の多くは、この段差でつまずいています。窓口の側から、申告にしますかと尋ねてくれるとは限らないからです。
相談というのは、話を聞いてもらい、助言を受けることです。窓口で状況を説明し、どう対応すべきかを教えてもらう。多くの方がイメージするのはこちらでしょう。
この形でも、状況の整理や、次に何をすべきかの見当はつきます。まったく意味がないわけではありません。
まだ在職していて、会社に知られたくないという段階であれば、あえて相談にとどめるという選び方もあります。
これに対して申告というのは、法律違反の事実があることを申し出て、監督署に権限を行使するよう求める行為です。こちらは、調査につながる道を開きます。
働く人には、この申し出をする権利が法律上認められています。会社の許しを得る必要も、遠慮する必要もありません。
相談だけで終わってしまうと、記録として残っても調査には至らないことがあります。会社に動いてほしいのであれば、申告という形を取りたい旨をはっきり伝えてください。
言い方はむずかしくありません。是正の指導を求めたいので申告として扱ってほしい、と伝えれば足ります。この一言があるかないかで、その後の扱いが変わります。覚えておいてください。
申告は書面でも口頭でも行えます。ただ、内容を正確に伝えるためには、書面にまとめて持参するほうが確実でしょう。
書面といっても、様式が決まっているわけではありません。誰が、いつ、どの事業場で、どのような違反を受けているのか。これが伝わればよいわけです。ここで気になるのが、会社に自分の名前が知られてしまうのではないかという点です。ここを心配して、申告に踏み切れない方はとても少なくありません。
申告したことを理由に不利益な扱いをすることは、法律で禁じられています。とはいえ、調査の内容から誰が申し出たか推測されてしまう場面はあり得ます。
とりわけ人数の少ない職場では、対象になった事柄から絞り込まれてしまうことがあります。この点は、正直にお伝えしておかなければなりません。
匿名での申告も可能ですが、その場合は具体的な事情を伝えにくくなり、調査が進みにくいという面もあります。どちらを選ぶかは、職場の状況を踏まえて決めてください。
同じ悩みを抱える同僚が複数いるのであれば、連名で申し出るという方法もあります。誰か一人が特定されにくくなりますし、事実の裏づけも強まります。
迷うのであれば、窓口でその不安も含めて相談して構いません。配慮のしかたを一緒に考えてもらえます。そこが決まっていると、選ぶべき道もはっきりします。
残りたいのであれば、慎重な進め方が要ります。辞める前提であれば、より踏み込んだ動き方もできます。
監督署では解決しない部分をどうするか
最後に、扱ってもらえない部分についてお話しします。ここを放置すると、結局は何も動きません。むしろ、多くの方が本当に望んでいるのはこちらの解決なのではないでしょうか。
会社に指導が入ることそのものより、自分の受け取るべきものを受け取りたい。そう考えるのは当然です。
まず、金額を取り戻したいという場合です。監督署の指導で支払われることもありますが、会社が争ってくれば、そこから先は当事者間の問題になります。
会社が支払いに応じたとしても、その額が本来受け取れるはずの額に届いているとは限りません。指導の対象は明らかな違反部分に限られるからです。
その場合には、会社に対して直接請求することになります。書面での請求から始め、応じなければ裁判所の手続きへ進むという流れです。
内容証明郵便を使えば、いつどんな内容で請求したかが記録に残ります。会社の対応が変わるきっかけになることもあります。
労働に関する争いについては、比較的短い期間での解決を目指す枠組みも用意されています。訴訟と聞いて身構える必要は必ずしもありません。
会社の側も、長引くことを望まない場合が多いものです。手続きに乗せた段階で話し合いに応じてくる、という展開は珍しくありません。
次に、解雇や人事異動の当否を争いたい場合です。これも当事者間の争いですから、交渉か裁判所の手続きということになります。
この場合、動き出す時期が結果を左右します。時間が経つほど、元の職場に戻るという選択肢は現実的でなくなっていくからです。
解雇を争う場合は、とりわけ早さが効いてきます。受け入れたと見られる行動を取らないよう気をつけてください。
三つめが、嫌がらせによる精神的な被害を回復したい場合です。慰謝料の請求は行政の役割ではありませんので、別の道を取ることになります。
ただし、体調を崩して働けなくなったのであれば、労働災害として認められる余地があります。その手続きの窓口は監督署ですから、まったく無関係ではありません。
いずれの場合も、監督署に行ったことが無駄になるわけではありません。調査の過程で会社の記録が明らかになれば、それはその後の交渉で使える材料になります。
会社が是正の勧告を受けたという事実も、交渉のなかで意味を持ちます。違反があったこと自体は、もはや争いにくくなるからです。
ですから、順序として監督署から入るという選び方は十分にあり得ます。大切なのは、そこで終わらせないことです。
費用をかけずに動ける第一歩として使い、その結果を見てから次を決める。そうした組み立て方は理にかなっています。
賃金を求められる期間には限りがあります。法律の改正で以前より長くなりましたが、古い月の分から順に範囲の外へ出ていきます。並行して動くことを考えてください。
監督署の調査を待っているあいだにも、時間は進みます。結果が出てから動き出そうとすると、取り戻せる範囲が狭まってしまいます。
どちらか一方を選ばなければならないわけではありません。両方を同時に進めるという組み立て方もあります。
監督署に行く前に、次のものを用意しておくと話が早く進みます。
- 会社の正式な名前と所在地、自分の雇用形態と入社日
- 給与明細、雇用契約書や労働条件通知書
- タイムカードや勤務の記録、残業の証拠
- いつ、何が起きたかを日付順にまとめたメモ
労働基準監督署に関するよくある質問
相談すれば、未払いの残業代を取り立ててもらえますか
取り立てそのものは、労働基準監督署の役割ではありません。この役所が担っているのは、法律に違反した状態を正すことです。調査の結果、支払いが行われていないことが明らかであれば是正の勧告が出され、それを受けて会社が支払うという流れになることはあります。しかし、金額に争いがある場合や、会社が労働時間そのものを否定してくる場合には、そこから先は当事者間の問題として扱われます。確実に取り戻したいのであれば、監督署と並行して請求の準備を進めておくことをおすすめします。
証拠がほとんどありません。それでも行く意味はありますか
あります。手元に資料が乏しくても、会社の側には賃金台帳や出勤の記録を備えておく義務があります。調査が入れば、これらが確かめられることになります。ただし、動いてもらうためには、法律のどこに違反しているのかが分かる形で伝える必要があります。いつからいつまで、どのような状態が続いているのか。自分でまとめた経過のメモでも構いませんので、時系列に整理して持っていってください。あわせて、今日から出退勤の時刻を書き留め始めることもおすすめします。
申告したことが会社に知られたら、不利になりませんか
申告したことを理由に、解雇したり不利益な扱いをしたりすることは法律で禁じられています。ですから、そうした対応を取られた場合には、それ自体が別の問題として扱われます。もっとも、調査の内容から誰が申し出たのかを推測されてしまう場面はあり得ます。不安があるのであれば、窓口でその点も含めて相談してください。伝え方や調査の進め方について、配慮を求めることができます。匿名という選び方もありますが、その場合は事情を伝えにくくなり、調査が進みにくい面があることも知っておいてください。
解雇が不当だと思うのですが、扱ってもらえますか
手続きの面と、理由の面で扱いが分かれます。解雇にあたって必要な予告がなかった、予告に代わる手当が支払われていない。こうした点は法律違反として扱われますので、監督署の対象になります。一方で、その解雇に正当な理由があったのかどうかは、当事者間の争いとして整理されます。会社の判断が権利の乱用にあたるかは、条文で一律に決まるものではないからです。理由の当否を争いたいのであれば、交渉や裁判所の手続きを検討することになります。まずは解雇の理由が書かれた書面を求めてください。
