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年俸制の場合、残業代は請求できない?

この記事で分かること

  • 年棒制であっても残業代は請求できる
  • 固定残業代制度の場合も定められた時間を超えて労働すれば残業代は請求できる
  • 年棒制が理由で残業代が未払いの場合には弁護士に相談しよう

「年棒制だから残業代は出ない」ということは、雇用契約のもとで働いている限り誤解だと言えるでしょう。この記事では、年棒制であっても残業代が請求できる理由および固定残業代制度の場合はどうなるのか、未払いの残業代を請求する方法について解説します。

年俸制でも残業代は請求できる!

年俸制であっても残業代は請求できます。労働基準法では、賃金の決め方に関わりなく、法定労働時間を超えて労働すれば残業代を支給しなければならないと定められているからです。

年俸制とは?

年俸制とは、年を単位として賃金を決める制度のことです。賃金の決め方だけ取り出せば、日を単位として賃金を決める日給制、月を単位として決める月給制と同列に考えることができます。

ただし、年俸制を導入している多くの企業では、労働者と上司が話し合うことにより仕事の成果に応じて賃金が決められます。それにより、企業にとっては、

  • 仕事の目標とその達成度について、上司と部下でしっかりと話し合う機会を持てる
  • 在職年数や年齢によらず競争の機運が生まれ組織が活性化する
  • 新人であっても実力に応じた賃金が得られるため、優秀な人材を採用することが容易になり、また従業員の定着率が高まる
  • ベテラン従業員が多くなっても総額人件費がかならずしも上昇しなくなる

などのメリットがあるとされています。

年俸制でも法定労働時間を超えれば残業代は発生する

競争が激化する現代、年俸制のような実力主義・成果主義を企業が導入するのはもっともなことでしょう。しかし、年俸制の導入により大きな誤解が生じていることには注意しなければなりません。その誤解とは、

「年俸制だから残業代が出ない」

ということです。

年俸制とは、日を単位として賃金を決める日給制や月単位で決める月給制と同様に、「年単位で賃金を決める」という賃金の決め方の1つです。労働基準法では、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えて従業員を労働させる場合には、「割増賃金を支払わなければならない」と定められています。このことは、賃金の決め方には関わりがありません。賃金の決め方の1つである年俸制の場合にも、法定労働時間を超えて従業員を労働させたら割増賃金(=残業代)を支払わなければならないのは言うまでもないことです。

「年俸制は残業代が出ない」はプロ野球選手の年俸制との混同が原因

「年俸制は残業代が出ない」の誤解は、会社の従業員の賃金における年俸制と、プロ野球選手などの場合の年俸制とを混同することから生じるものでもあるでしょう。従業員と会社は雇用契約を結んでおり、その場合の賃金は労働基準法によって規定されます。残業代は、賃金の決め方によらず支給されなければならないことは、上で解説したとおりです。

それに対してプロ野球選手の場合、球団とは雇用契約を結んでいるのではありません。個人事業主として請負契約を結んでいますので、時間に対する賃金ではなく、請負内容や成果によって報酬が支払われることになります。会社の従業員とは契約の形態がまったく異なりますので、会社従業員の年俸制とプロ野球選手の年俸制とを同列に考えることはできません。

ワンポイントアドバイス
「年俸制だから残業代が出ない」が従業員だけの誤解である場合には、従業員が正しく理解し残業代を請求すれば事は済みます。しかし、会社がそのように誤解している場合には、誤解を解くのが容易ではないこともあるでしょう。会社の誤解を解き、残業代を請求するにはどうすればいいのかは、弁護士に相談するのがおすすめです。

年俸制における残業代の数え方

一般に給与は、どのような制度であっても「1日8時間、週40時間」の法定労働時間をもとに定められていなければなりません。年俸制と同様に残業代のごまかしが行われやすい変形労働時間制を採用している場合でも、平均して「1日8時間、週40時間」となるよう計算されている必要があります。

年俸制の場合、1年間にもらえる額はすでに決められていて、自分もそれに納得して働いているからもらえなくてもいいやと考える方もいますが、定期的に「1日8時間、週40時間」以上働いている方は、1年の労働時間の平均がこの法定労働時間を超えていることになり、それだけ残業代をもらうことができます。

しかしなかには、残業代が発生しない年俸制もあるので、次にこれについて見てみましょう。

年俸制で残業代が出ないケース

年俸制でも、法定労働時間を超えて働いている場合は残業代をもらうことができますが、「管理監督者である場合」と「みなし残業時間のなかで残業をしている場合」の2つのケースにおいては、残業代は出ません。

管理監督者である場合

管理監督者とは、出退勤の時間を自分で決めることができたり、一般の社員と明らかに異なる待遇を受けていたりするなどの基準をクリアした管理職の人のことをいいますが、管理監督者には残業代が出ません。

しかし一般に管理職と呼ばれる役職に就いている方でも、管理監督者の要件を満たしていない場合もあるので、残業代に関しては弁護士などに相談した方がよいでしょう。

みなし残業時間のなかで残業をしている場合

みなし残業とは、1ヶ月内でたとえ残業していなくても、決められた時間だけは残業しているとみなして残業代をあらかじめ給与に含めておくという制度です。
このみなし残業の時間内で残業している場合は、年俸制でも残業代が支払われることはありません。
みなし残業時間があらかじめ定められている場合でも、それ以上残業をしている場合は残業代を追加で受け取ることができますが、しかし実情は、定額残業制のように使用されていることが多いようです。

年俸制を採用していることが多い企業の種類

年俸制を採用している企業は多くなりつつありますが、現在のところはベンチャー企業や外資系企業で多く見られています。たとえ外資系企業であっても日本にある場合は日本の法律が適用されるため、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間は変わりません。「年俸制だから残業代が出ない」というのは、特定の状況を除いては大きな嘘になります。

年俸制を口実に残業代をごまかされやすい

もし経営者側が「うちは変形労働時間制だから残業代は出ない」といった場合にはすぐに労働基準監督署や弁護士に相談した方がよいでしょう。変形労働時間制でも、定められた期間の平均労働時間が1日8時間、週40時間を超えている場合は残業代が支払われます。

ワンポイントアドバイス
「残業代が出ない」を上司に言われた場合は、すぐに専門の弁護士に相談することをおすすめします。日ごろからそういう発言を上司がしている場合は、録音等の記録をとることで、交渉を有利に進めることができます。

年俸制の固定残業代制度(みなし残業)の場合は?

以上のように、年俸制であっても残業代は支払われなければなりません。ところで年俸制は、あらかじめ残業代を年俸に含めておく固定残業代制度(みなし残業)とともに導入されることも多くあります。この固定残業代制度の場合には、残業代はどうなるのでしょうか。

固定残業代制度でも定められた残業時間を超えれば残業代は請求可能

固定残業代制度でも、あらかじめ定められた残業時間を超えて労働した場合には、残業代を請求することができます。たとえば、「1ヵ月あたり20時間分」の残業代が固定で支払われている場合には、20時間を超える分の労働時間が残業代支給の対象となります。

基本給と残業代は明確に区分されていることが必要

固定残業代制度を導入する場合、基本給と固定残業代が明確に区分されていることが必要です。また、固定残業代が何時間分なのかについても、あらかじめ決められていなくてはなりません。これらが明確に定められていない固定残業代制度について、労働基準法違反と裁判所が判決を下した例もあります。

ワンポイントアドバイス
本来は支払わなければならない残業代を、曖昧に規定した固定残業代制度により支払わない企業もあります。残業代の支払いを受けるのは、法律で認められた労働者の権利です。会社の年俸制や固定残業制度が残業代の規定について十分でないと思ったら、弁護士に一度相談してみるのが良いでしょう。

年俸制で残業代を請求するための方法

「年俸制や固定残業代制度だから残業代は出ない」と従業員や企業が誤解することにより未払いとなっている残業代は請求することができます。ここでは残業代の請求方法について見ていきましょう。

1.残業代を計算する

残業代を請求するにあたっては、最初に残業代がいくらになるのか計算します。残業代は、年俸を12ヶ月で割り、さらにそれを1ヶ月あたりの所定労働時間で割った「時給」に、割増率と残業時間をかけたもの

残業代 = 年俸 ÷ 12 ÷ 所定労働時間 × 割増率 × 残業時間

となります。

割増率を計算する

よく知られているように、法定労働時間以上の残業には、通常の時給を割り増した残業代が支払われます。その割増率は法律で決められており、たとえば時間外労働の場合は1.25倍、法定休日労働の場合は1.35倍、休日に深夜労働をした場合は1.6倍となっています。

年俸制の場合でも、この割合をかけることで残業代を求めることができ、たとえば時給2000円程度の年俸制の人が休日出勤で深夜労働をした場合、時間当たり3200円の残業代がつくことになります。

2.証拠を揃える

次に、残業代を請求するには「たしかに残業した」という証拠が必要です。残業の証拠として、タイムカードや業務日誌が一般的です。ただし、そのような記録をきちんと残していなかった場合には、

  • 日記やスケジュール帳、メモ
  • 会社で使用しているパソコンのログイン・ログアウト記録
  • 会社から家へ「今から帰る」と送ったメールの送信履歴
  • 仕事中に受け取ったレシート
  • 「いつも○時まで仕事している」などの同僚の証言
  • 「いつも○時に商品を受け取りに来る」などの取引先の証言
  • 「いつも仕事で帰りが遅い」などの家族の証言

も証拠になります。

3.会社と交渉する

証拠を揃えたうえで、残業代の支払いを会社と交渉します。法律を遵守する会社なら、この時点で残業代の支払いに応じるでしょう。しかし、そもそも残業代が未払いとなるのは会社の管理に問題がある場合もあります。ブラック企業など悪徳企業の場合には、交渉にすら応じないこともあり得ます。

4.内容証明郵便を送る

残業代の支払いに交渉をしても応じてもらえない場合には、残業代を請求する内容証明郵便を会社に送ります。内容証明郵便は公的な書面であり、法的な手続きに入ることを示唆するものともなりますので、この時点で支払いに応じる企業もあるでしょう。

また、内容証明郵便には時効を止める効果もあります。未払い残業代の時効は2年ですので、内容証明郵便を送ることで時効によって請求額が目減りすることを防げます。

5.労働審判

内容証明郵便を送っても支払いが受けられなければ、労働審判に申し立てを行います。労働審判は、労働関係のトラブルを迅速に解決するために裁判所に設けられた手続きです。期日は3回までとされていますので、通常の訴訟と比較して早期での解決が期待できます。

ただし、当事者のどちらかが審判の結果に異議を申し立てた場合には、審判の結果は効力を失い、通常の訴訟に移行することとなります。

6.訴訟

労働審判でも解決できなかった場合には、裁判所に民事訴訟を提起します。民事訴訟が結審するまでには一般に半年~1年程度の期間がかかるでしょう。民事訴訟で訴えが認められれば、企業に対して残業代の支払いを強制的に求めることができます。

ワンポイントアドバイス
残業代の支払いは、法律によって認められた労働者の権利ですので、法律を遵守する一般の企業であれば未払い残業代の請求をすんなりと受けるでしょう。もし、請求を拒むようであれば、法的な手続きを訴訟も視野に入れて行使しなくてはなりません。手続きは、弁護士に判断を仰ぎながら慎重に進めましょう。

年俸制での残業代未払いは弁護士に相談しよう

未払い残業代の請求は、自分が在職している会社に対して行います。請求にあたっては、引け目や孤立感を感じるなど精神的な負担となることもあるでしょう。自分で会社と交渉することもできますが、できれば、法律の専門知識を持ち物心ともにサポートしてくれる弁護士に依頼するのも効果的です。労働問題に強い弁護士に、まず相談するところから始めてみてはいかがでしょうか。

残業代未払い・不当解雇など労働問題は弁護士に相談を
  • サービス残業、休日出勤がよくある
  • タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
  • 管理職だから残業代は支給されないと言われた
  • 前職で残業していたが、残業代が出なかった
  • 自主退職しなければ解雇と言われた
  • 突然の雇い止めを宣告された
上記に当てはまるなら弁護士に相談