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年俸制だから残業代は出ないと言われた
年俸制で採用されたとき、こう説明されなかったでしょうか。うちは年俸制だから残業代という考え方はない。年収であらかじめ決まっているのだから、何時間働いても同じだ。
あるいは、面接の場でこう言われたかもしれません。成果で評価するので時間は問わない。裁量に任せるから自由に働いてほしい。聞こえのよい言葉のなかに、残業代の話がすり替えられていることがあります。
入社を控えた身では、その場で細かく尋ねるのは難しいものです。せっかく決まった話を壊したくないという気持ちも働きます。だからこそ、後から確かめ直すことに意味があります。
この説明を、そういうものかと受け入れてしまう方は多いものです。年収で契約したのだから、時間で区切る発想がないのも当然だろう。そう思ってしまうのは無理もありません。
まして、入社したばかりの時期に契約の中身を細かく問いただすのは勇気が要ります。周りの社員も同じ条件で働いているなら、なおさら疑いにくいでしょう。その積み重ねが、長い年月になっていきます。
気づいたときには数年が過ぎている。相談に来られる方の多くが、そうした経緯をたどっています。遅すぎるということはありませんが、早いほど取り戻せる範囲は広くなります。
しかし、この説明は正しくありません。年俸制であっても、残業代が発生する場面はあります。むしろ、支払われていないケースのほうが多いといってもよいくらいです。
会社の側が嘘をついているとは限りません。年俸制なら払わなくてよいと信じ込んだまま制度を組み立てている会社は実際に少なくありません。誰も疑わないまま、その運用が何年も続いていきます。
制度が正しく運ばれているかを尋ねるのは、働く人として当然のことです。会社にとっても、早く気づけるほうが傷は浅く済みます。
ここで押さえておきたいのは、年俸制は賃金の決め方や支払い方の形にすぎず労働時間の規制を外す仕組みではないという点です。年収で決めたからといって、働いた時間に対する義務が消えるわけではありません。
この一点を知っているかどうかで、会社との会話はまるで変わります。年俸制だからと言われたときに、それは決め方の話ですねと返せる。その一言が言えるだけで、受け止め方は変わってくるものです。
もちろん、その場で言い返す必要はありません。知ったうえで黙っているのと、知らないまま従うのとでは、その後の選択肢がまるで違うということです。
裏を返せば、年俸制で働いてきた方も、支払われてこなかった残業代をさかのぼって請求できる可能性があるということです。長く勤めてきた方ほど、その額は積み上がっています。
毎日の残業が一時間や二時間でも、月にすればまとまった時間になります。それが何年も続いていれば、取り戻せる額は想像よりずっと大きくなるでしょう。一度きちんと確かめてみる価値があります。
とくに年俸制の職場では、時間の記録すら取られていないことがあります。誰も数えていないからこそ、実際にどれだけ働いてきたのかが見えにくくなっています。
実際、私たちのもとには、年俸制だからと諦めていた方からの相談が寄せられます。話を聞いてみると、時間の管理も受けているし、裁量も限られている。それでも残業代だけが出ていない。そうした状況です。
始業の時刻に間に合わなければ注意され、休むときは申請が要り、業務の進め方は上司が決める。それでいて時間に縛られない働き方だと説明される。この食い違いに気づくことが、出発点になります。
自分の一日を思い返してみてください。何時に出社し、誰の指示で動き、何を自分の判断で決めていたか。書き出してみると、思っていたより裁量が乏しいことに気づく方が少なくありません。
この記事では、年俸制とはどのような仕組みなのか、どのような場合に残業代が含まれていると認められるのか、認められないのはどんな場合かを、順にお伝えします。
あわせて、混同されやすい他の仕組みとの違い、請求に向けて集めるべき材料、会社への伝え方も取り上げます。自分の契約と照らし合わせながら読み進めてみてください。
いま年俸制で働いている方も、以前そうだった方も、自分の契約がどうなっていたかを思い出しながら読んでみてください。
実際にどうなるかは、契約書の書きぶりや日々の働き方によって変わります。気になる点があれば、抱え込まずに弁護士に確かめてみてください。
年俸制とはどのような仕組みか
まず、年俸制という言葉の意味を整理しておきます。ここを取り違えている方が、とても少なくありません。
年俸制とは、賃金の額を一年単位で決める仕組みです。月ごとに決めるか、年ごとに決めるか。その違いにすぎません。決めた額を、実際には毎月に分けて支払うのが一般的です。
十二回に分けて支払う職場もあれば、賞与にあたる分を含めて十六回などに分けて支払う職場もあります。どの分け方であっても、決め方の形が変わるだけで、労働時間の扱いには影響しません。
分け方が複雑になるほど、内訳は読み取りにくくなります。どの支給が何にあたるのかを、明細をたどって整理しておくと、後の判断がしやすくなります。
ここで大切なのは、これが決め方の話だという点です。労働時間をどう扱うか、割増をどう支払うかという話とは、まったく別の次元にあります。
たとえば、買い物で言えば値段の決め方の話です。一年分をまとめて決めるか、月ごとに決めるか。それによって、追加で頼んだ分の代金が要らなくなるわけではありません。感覚としては、そのような話です。
年間の契約を結んでいるからといって、追加で頼んだ仕事が無料になることはないでしょう。労働も同じです。決めた枠を超えて働いた分には、それに応じた対価が生じます。
法律は、決められた時間を超えて働かせた場合に割増の支払いを求めています。この定めは、賃金を月給で決めていようと年俸で決めていようと変わりません。
この点は、法律のどこを探しても例外が書かれていません。年俸制を理由に割増を免れる、という定めそのものが存在しません。会社の説明が制度の話なのか、単なる思い込みなのかを見きわめてください。
会社に根拠を尋ねてみるのもひとつの方法です。どの定めに基づいて支払っていないのかを問えば、説明が揺らぐこともあります。やり取りは記録に残る形で行いましょう。
では、なぜ多くの職場で誤解が広まっているのでしょうか。おそらく、年俸制という言葉が、時間に縛られない働き方を連想させるからでしょう。
海外の働き方を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、日本の法律のもとでは、賃金の決め方がどうであれ、労働時間に関する定めはそのまま適用されます。印象と制度は別だと考えてください。
制度として時間の縛りを外すには、別に定められた仕組みを使い、厳しい条件と手続きを満たす必要があります。年俸制にするだけでその効果が生じることはありません。
専門職や管理的な仕事で採られることが多いことも、その印象を強めています。自由に働いて成果で評価される。そんな響きが、時間の管理とは無縁だという思い込みを生んでいます。
営業職や技術職で広く採り入れられている職場もあります。しかし、どの職種であっても、時間に縛られた働き方をしているのなら、割増の対象から外れる理由にはなりません。
しかし、実際には多くの職場で、始業と終業の時刻が決められています。遅刻すれば注意もされます。それでいて残業代だけが出ない。この状態には、明らかに無理があります。
自由に働いてよいと言われながら、実際には毎朝決まった時刻に出社を求められている。そんな職場は珍しくありません。言葉と運用が食い違っているなら、運用のほうが実態を語っています。
年俸に残業代を含める場合の条件
もっとも、年俸のなかにあらかじめ残業代を含めておく形が、まったく認められないわけではありません。一定の条件を満たせば、有効になり得ます。
ですから、含める形そのものを否定する必要はありません。問題になるのは、条件を満たさないまま含めていることにしている場合です。自分の職場がどちらなのかを見きわめましょう。
きちんと区分けし、超えた分も支払っている職場であれば、それは適正な運用です。その場合は、含まれる時間を超えて働いた分がないかという点に絞って確かめることになります。
その条件として重く見られるのが、二つの点です。ひとつは、通常の賃金にあたる部分と残業代にあたる部分が明確に分かれていること。もうひとつは、含まれる範囲を超えた分が別に支払われることです。
この二つは、固定残業代と呼ばれる仕組みで求められる条件と同じ考え方です。あらかじめ含めておく形をとるなら、どこまでが何の対価なのかを明らかにしておく責任が会社にある、ということです。
裏を返せば、この責任を果たしていない会社は、含めていたという主張を通せません。あいまいなまま運用してきたつけは、会社の側が負うことになります。
ひとつ目の条件について、もう少し詳しく見ましょう。年俸のうちいくらが残業代にあたるのか、それが何時間分に相当するのか。これが契約書や給与明細から読み取れる必要があります。
読み取れるとは、あなた自身が計算できる状態にあるということです。会社に聞かなければ分からない、担当者しか知らない。そうした状態では、条件を満たしているとは言いにくいでしょう。
働く側が、自分の受け取る賃金の中身を理解できること。これは制度の土台にある考え方です。分からないまま働かせておいて、後から含まれていたと言うのは筋が通りません。
単に年俸には残業代を含む、と書いてあるだけでは足りません。それでは、実際にいくら支払われたのかが分からないからです。区分けができていない定めは、効力を認められにくくなります。
区分けが認められない場合、年俸の全額が通常の賃金として扱われることになります。すると、割増を計算する土台そのものが大きくなり、請求できる額も増えていきます。ここは見逃せない点です。
つまり、含めていたという会社の主張が崩れると、影響は二重に及びます。含まれていたはずの分が支払われていないことになり、計算の土台も上がる。この構図を知っておいてください。
ふたつ目の条件も重要です。含まれているとされる時間を超えて働いた場合、その超えた分は別に支払われなければなりません。含めたことを理由に、いくら働かせてもよいということにはなりません。
実際の運用を思い返してみてください。含まれる時間を超えた月に、追加の支払いを受けたことがあるでしょうか。一度もないのであれば、この条件は満たされていない可能性が高いといえます。
忙しさに波のある職場なら、超えた月と超えなかった月があったはずです。それなのに支給額が一定であれば、超過分の支払いが行われていないことを示しています。
- 通常の賃金部分と残業代部分が、金額として区分されている。
- 残業代部分が何時間分にあたるのかが分かる。
- その時間を超えた分は、別に計算して支払われている。
- 働く側が、契約の時点でこの内容を理解できる形になっている。
これらを満たしていない年俸制の職場は、実のところ珍しくありません。契約書を見返してみて、こうした区分けが見当たらないのであれば、請求できる可能性があります。
契約書が手元にない場合でも、諦める必要はありません。会社は労働条件を書面で示す義務を負っており、控えが残っているはずです。開示を求める対象になりますので、まずは尋ねてみてください。
入社時の案内や、年俸を通知する書面が残っていることもあります。毎年の改定のたびに交付されている職場なら、それらをそろえるだけでも推移が見えてきます。
認められないのはどんな場合か
では、逆に認められないのはどのような場合でしょうか。相談の場でよく見る形を挙げてみます。
ひとつ目は、契約書に一行だけ書かれている形です。年俸には時間外手当を含むものとする。この一文しかないなら、いくらが残業代なのかは誰にも分かりません。
この書き方は、実務でもっともよく見かけるものです。書いてある以上は有効だと会社は考えがちですが、金額も時間数も示されていない定めが、そのまま通ることは多くありません。
就業規則にも同じような一文しかない場合は、さらに根拠が乏しくなります。契約書と就業規則の両方を確かめて、どこまで具体的に書かれているかを見てみてください。
ふたつ目は、給与明細に区分がない形です。毎月同じ額が基本給として並んでいるだけで、残業代にあたる項目が見当たらない。これでは、支払い済みだという説明は通りにくくなります。
明細をいくつか並べて見比べてみましょう。残業が多かった月も少なかった月も、同じ額が並んでいるはずです。その事実こそが、時間に応じた支払いがされていないことを物語っています。
数か月分でも構いません。並べたときに数字が動いていないという一点が、後の話し合いで効いてきます。手元に残っているものから確かめてみてください。
みっつ目は、含まれる時間を超えても何も支払われない形です。仮に一定時間分を含めていたとしても、それを大きく超えて働いているなら、超過分は別に支払われるべきです。
この場合、含まれる範囲を超えた部分についてだけ請求するという進め方になります。全体が無効にならなくても、超えた分は取り戻せる。そうした部分的な解決もあり得るのです。
争点を絞れば、話し合いだけで決着することもあります。どこまで争うのかという判断も、弁護士と相談しながら決めていくとよいでしょう。
よっつ目は、そもそも説明を受けていない形です。入社時にそのような話がなく、契約書にも書かれていない。それでいて、後から年俸制だからと言われている。この場合、含める合意自体が成り立っていません。
途中から年俸制に切り替えられた方も、同じ問題を抱えることがあります。切り替えの際にどのような説明を受け、何に同意したのか。当時の書面が残っていれば、それが判断の材料になります。
いつつ目は、賞与にあたる部分と混ぜてしまっている形です。年俸を分割して支払い、その一部を賞与として扱う。このとき、どの部分が残業代なのかがますます不明瞭になります。
賞与として扱われる部分が割増の計算に含まれるかどうかも、争点になりやすいところです。あらかじめ額が決まっている支給であれば、通常の賃金と同じ性質だと見られる場合があります。
年俸に残業代が含まれているという扱いが認められるかは、次の点で判断されます。
| 確かめる点 | 認められる方向 | 認められない方向 |
|---|---|---|
| 金額の区別 | 年俸のうち何円が何時間分の残業代かが明示されている | 「残業代を含む」とだけ書かれている |
| 超過分の支払い | 想定を超えた残業には追加で支払っている | 何時間働いても年俸は変わらない |
| 賞与の扱い | 割増の基礎に正しく算入している | 年俸に含まれる確定額の賞与を基礎から外している |
年俸1,700万円の医師の事件で、最高裁は、残業代を年俸に含むという合意があっても、通常の賃金と残業代の部分を区別できない以上、残業代を支払ったことにはならないと判断しました(最高裁平成29年7月7日判決)。高い年俸をもらっていることだけでは、残業代を払わない理由にならないということです。
混同されやすい他の仕組み
年俸制の話をすると、必ず持ち出されるのが別の仕組みです。それらと混同されているために、話がややこしくなっている場面が多くあります。
まず出てくるのが、管理監督者という立場です。経営者と一体といえるほどの立場にある人は、時間外の割増の対象から外れます。しかし、これにあたるかどうかは肩書きではなく実態で判断されます。
会社が年俸制と管理職の扱いをひとまとめにして説明してくることもあります。しかし、この二つは別々に検討されるものです。どちらの主張も成り立たない場合は、通常どおり割増が必要になります。
年俸制で採用された方が、自動的にこの立場になるわけではありません。時間を管理され、決定権も乏しいのであれば、この立場にはあたらないと判断される余地があります。
会社は、年俸制であることをこの立場の根拠として持ち出してくることがあります。しかし、賃金の決め方と権限の有無は関係がありません。実際に何を決めていたかを振り返ってみてください。
次に出てくるのが、働く時間の配分を本人に委ねる仕組みです。一定の職種について、実際の労働時間にかかわらず定めた時間だけ働いたものとみなす扱いが認められています。
研究や設計、記事の制作など、進め方を本人に任せるのがふさわしい業務が対象とされています。営業や事務の仕事が幅広く含まれるわけではありません。自分の業務が本当に当てはまるのか、確かめてみてください。
対象になる業務であっても、労使での取り決めや届出がなければ効力は生じません。手続きが踏まれているかどうかは、職場に掲示されている書面などから確かめられます。
ただし、この仕組みを使うには厳しい手続きが要ります。対象となる業務が限られており、労使での取り決めや届出も必要です。手続きを踏まずに、事実上そのように扱っているだけの職場もあります。
この仕組みが適用されている場合でも、深夜や休日の扱いは別に残ります。すべての割増が消えるわけではないという点を、あわせて覚えておいてください。
そして忘れてはならないのが、深夜の割増です。管理監督者にあたるとされた場合でも、夜の時間帯に働いた分の割増は支払われます。年俸制の方も同じです。
深夜まで及ぶ勤務が続いているのであれば、まずこの部分だけでも確かめる価値があります。他の主張が難しい場合でも、ここは残る可能性が高いからです。
会社の説明が、年俸制、管理職、裁量のある働き方といった言葉を混ぜて語られているなら、いちど整理してみてください。それぞれ別の仕組みであり、条件も違います。
混ぜて語られるのは、どれか一つでは説明しきれないからということもあります。ひとつずつ切り分けて確かめれば、どの主張にも根拠がないと分かる場合もあります。
請求に向けて集めておきたいもの
年俸制の場合、集めるべきものにも特徴があります。
- 雇用契約書や年俸に関する通知を探し、賃金の定め方を確かめる。
- 給与明細をそろえ、項目がどう分かれているかを見る。
- 就業規則と賃金規程で、時間外の扱いがどう定められているかを確かめる。
- 実際に働いた時間が分かる記録を集める。
- 時間を管理されていた形跡や、裁量の乏しさが分かる材料を残す。
いちばん大切なのが、最初の二つです。年俸のなかに残業代が含まれているという主張が成り立つかどうかは、契約書と明細から読み取るしかありません。
この二つがそろえば、相談の場でおおよその見立てが立ちます。難しい判断は弁護士に任せて構いませんので、まずはこの二つを探すところから始めてください。
見つからない場合も、その事実自体が意味を持ちます。労働条件が書面で示されていないのであれば、それも会社の側の問題だからです。ないことを恥じる必要はありません。
契約書は、入社時に受け取ったきり見ていないという方がほとんどでしょう。改めて開いてみると、思っていた内容と違うことが書かれている場合もあります。
読むべきは、賃金の項目と労働時間の項目です。年俸の内訳がどう書かれているか、所定の労働時間が何時間とされているか。この二か所を確かめるだけでも、判断の手がかりになります。
給与明細は、できるだけ長い期間分をそろえてください。項目の立て方が途中で変わっていることもあり、その変化自体が判断の材料になります。
途中から新しい手当が現れている場合は、そのころに制度が変わった可能性があります。何がきっかけで変わったのかを思い出せれば、当時の説明の有無も確かめられます。
労働時間の記録も、当然に必要です。年俸制の職場では記録が取られていないこともありますが、その場合は自分の手元にあるものから組み立てていきます。
端末の起動と終了の履歴、業務のやり取りの時刻、自分でつけていた手帳。会社の記録がなくても、実際の働き方を示す材料は日常のなかに残っています。今から集め始めることもできます。
あわせて、時間を管理されていた形跡も残しておきましょう。出社時刻を指示された連絡、遅刻を注意されたやり取り。
勤怠の報告を毎月求められていた、休むときに申請が要った。そうした運用も同じ意味を持ちます。当たり前だと思っていた習慣が、実は主張を支える材料になります。
会社への伝え方と、その後の流れ
ここでの進め方が、その後を左右します。望みによって、最初の一歩は変わります。
この点でも進め方は変わってきます。どちらが正しいということはありませんので、自分の望みを軸に組み立ててください。
これからの扱いだけを問題にするなら、契約の内容を確かめるという形で切り出す方法があります。年俸のうち残業代にあたるのはいくらか。この問いだけでも、会社は向き合わざるを得ません。
この尋ね方であれば、対立の構図になりにくいという利点もあります。制度の確認として持ちかければ、会社も答えざるを得ませんし、こちらの立場も守りやすくなります。
答えられないのであれば、区分けができていないということです。その事実が、後の請求を支える材料にもなります。やり取りは記録の残る形にしておきましょう。
尋ねる相手は、給与を担当している部署が自然です。直属の上司に伝えると、個人的な対立に見えてしまうことがあります。誰に尋ねるかも、意外と大切な点です。
過去にさかのぼって請求したい場合は、正式な形で進めます。書面で求め、応じなければ話し合いの場を設けるよう働きかけ、それでも動かなければ労働審判などの手続きを検討します。
手続きに進むかどうかは、請求の規模と見込みを踏まえて決めます。時間も労力もかかりますから、その負担に見合うかどうかを冷静に見ておきたいところです。ここで急いでいただきたいのが、期限の問題です。
年俸制で長く働いてきた方ほど、この目減りは大きくなります。まずは見通しだけでも立てておいてください。
請求すると決めていなくても構いません。どこまでさかのぼれるのかを知っておくだけで、判断の期限が見えてきます。それだけでも相談する価値はあります。
そして、動く前に一度は弁護士に相談してみてください。契約書と明細を見てもらえば、含まれているという会社の説明が通るかどうか、その場でおおよその見当がつきます。選択肢を知って決めることに意味があります。
年俸制という言葉に、必要以上の力を感じる必要はありません。それは賃金の決め方にすぎず、あなたが働いた時間に対する権利を消すものではないからです。
まずは、契約書と直近の給与明細を手元に並べてみてください。年俸のうち残業代にあたる部分が読み取れるかどうか。
年俸の一部を夏と冬に分けて支払う形の場合は、注意が必要です。支払う額があらかじめ決まっている賞与は、割増賃金の計算の基礎から除けません。年俸の総額を12で割った額をもとに1時間あたりの単価を出すのが正しく、月々の支給額だけで計算されていれば、残業代は少なく見積もられています。
年俸制と残業代に関するよくある質問
年俸制なら、残業代は請求できないのですか
そのようなことはありません。年俸制は、賃金の額を一年単位で決めるという決め方の形にすぎず、労働時間の規制を外す仕組みではないからです。決められた時間を超えて働かせた場合に割増の支払いが必要になるという定めは、賃金を月給で決めていても年俸で決めていても変わりません。年俸制で働いてきた方も、さかのぼって請求できる可能性があります。
契約書に残業代を含むと書いてあります
その一文だけでは足りない可能性があります。年俸のうちいくらが残業代にあたるのか、それが何時間分に相当するのかが、契約書や給与明細から読み取れる必要があるからです。区分けができていない定めは効力を認められにくくなります。また、含まれるとされる時間を超えて働いた分は、別に計算して支払われなければなりません。
年俸制なら管理職と同じ扱いになりますか
なりません。この二つは別の仕組みです。経営者と一体といえるほどの立場にある管理監督者は時間外の割増の対象から外れますが、これにあたるかどうかは肩書きや賃金の決め方ではなく、実際の権限や働き方から判断されます。出退勤の時刻を縛られ、人や予算について自分で決められないのであれば、この立場だという会社の説明は通りにくくなります。
請求したいのですが、何から始めればよいですか
まず雇用契約書と給与明細を探してください。年俸のなかに残業代が含まれているという会社の主張が成り立つかどうかは、この二つから読み取るしかありません。あわせて、就業規則で時間外の扱いがどう定められているかを確かめ、実際に働いた時間が分かる記録を集めます。記録が取られていない職場でも、手元の材料から組み立てられる場合があります。
