目次[非表示]
解雇を争うと決めたものの、何を求めるか迷っている方へ
不当な解雇だという確信はある。手続きを使って争おうという気持ちも固まった。けれども、いざ申し立てるとなると、ひとつ決めなければならないことがあります。
資料もそろえた。相談にも行った。それでも、最後のひとつが決まらない。そういう段階で足踏みしている方は少なくありません。決めきれないまま日が過ぎていくのが、いちばん惜しい時間です。
そして、解雇の事案では時間そのものが不利に働きます。迷っている期間も、会社にとっては都合のよい時間になってしまいます。とはいえ、慌てて中身の薄い申立てをしても意味がありません。要はつり合いです。
職場に戻りたいのか。それとも、辞めることは受け入れたうえで、相応のものを受け取って区切りをつけたいのか。この二つは、単なる好みの違いではありません。手続きの進み方そのものが変わります。
求める内容が違えば、会社の身構え方も変わってきます。ここを踏まえたうえで組み立てられるかどうかが、結果を分けます。
この選択は、実は手続きの入り口で問われます。何を求めるのかを書面に書かなければ、申立てそのものができないからです。
気持ちが定まらないまま書き始めると、主張全体がぼやけてしまいます。ここは避けて通れない関門です。
とはいえ、いま完全に決めきる必要もありません。後で述べるとおり、途中で変えられる余地は残されています。ですから、この段階で結論を出せなくても構いません。方向だけ定まれば十分です。読み進めるうちに、自然と傾きが見えてくるはずです。
そして、この選択が結果を大きく左右します。同じ事案でも、何を求めるかによって進み方も、着地の形もまったく変わってくるのです。
相談の場でも、ここで立ち止まる方がとても少なくありません。戻りたい気持ちはあるが、あんな扱いを受けた職場に本当に戻れるのか。かといって、辞めることを認めてしまうのは悔しい。
生活のことを考えれば早く決着させたい。けれども、それでは会社の思うつぼではないか。そんな思いも重なるでしょう。どちらを選んでも、間違いということはありません。大切なのは、選んだ理由を自分で説明できることです。説明できれば、後から悔いが残りません。
逆に、流されて決めたことは、どんな結果でも納得しにくいものです。その揺れは、当然のものです。安易に片方へ寄せる必要はありません。
怒りと生活のどちらを優先するのか、と迫られているようで苦しいはずです。ですが、この二つは必ずしも対立するものではありません。争う姿勢を保ちながら、結果として金銭で区切る。そういう進め方もあり得るからです。実際、多くの事案がその道筋をたどっています。
ただ、判断のための材料はお示しできます。それぞれの選択がどういう結末につながるのか、実務ではどう扱われているのか。実際の事案がどう決着しているかを知れば、自分の選択も見えやすくなります。
感情だけでも、損得だけでもない。その両方を踏まえて決めていきましょう。どちらか一方に偏った判断は、たいてい後で揺り戻しがきます。
この記事では、解雇事案がこの手続きに向いているかどうか、復職を求める場合、解決金で区切る場合、その金額がどう決まっていくのか、申立ての組み立て方、そして決断の時期についてお話しします。
手続きそのものの進み方や費用については、別の記事に譲ります。ここでは、解雇事案に固有の判断だけを扱います。読み終えるころには、自分がどちらに軸足を置くべきかが見えているはずです。
そして、途中で方針を変える余地がどれだけ残されているのかも分かります。それが分かれば、いま決めきれないことに焦る必要もなくなります。
労働審判が向いている解雇事案
まず、この手続きが自分の事案に合っているのかを確かめておきましょう。合っていない事案を無理に持ち込んでも、途中で行き止まりになってしまいます。入り口の見極めは、思っている以上に大切です。まずは、向いている型から見ていきます。心当たりがあるかどうかを確かめながら読んでみてください。
向いているのは、争点が絞られている事案です。解雇の理由が何であるかがはっきりしていて、そこを巡って主張が対立しているという形です。
逆に、何を理由に辞めさせられたのかすら曖昧なままだと、そこから解きほぐす作業が必要になります。その場合は、まず解雇の理由を記した書面を求めるところから始めてください。
それを受け取ってから、争点が絞れるかどうかを見極めても遅くありません。この書面は、会社に交付を求めることができます。
能力が足りないと言われた。規律に反したとされた。経営が厳しいからだと説明された。いずれも、問うべき点が明確です。会社の言い分が一本に絞られているほど、こちらの反論も組み立てやすくなります。
逆に、いくつもの理由を並べてくる会社は、どれも決め手を欠いていることが多いものです。後から理由が足されていくようなら、なおさらです。
加えて、手元に資料がそろっていることも条件になります。解雇の理由が書かれた書面、雇用契約書、給与明細、そして経緯が分かるやり取り。これらが揃っていれば、限られた期日のなかでも実態を伝えきることができます。
逆に、手元が薄いまま持ち込むと、こちらの言い分が伝わりきらないまま結論に向かってしまいます。そろえる時間と、早く動く必要性。この二つのつり合いを取ることになります。会社にしかない資料については、手続きのなかで提出を促す道もあります。
反対に、向いていない事案もあります。長年にわたる嫌がらせの積み重ねを主張したい、多くの関係者から話を聞く必要がある。こうした場合です。同僚の証言を積み上げなければ全体像が見えない、というような事案もこちらに入ります。
もっとも、そうした事案でも、争点を絞り込めば持ち込める場合があります。すべてを主張しようとせず、核心だけを取り出すという工夫です。
短い期間で結論を出す手続きですから、事実関係が広く複雑に絡んでいると、審理が追いつきません。
証人を何人も呼んで丁寧に事実を固めたいのであれば、初めから訴訟を選ぶほうが筋の通った選択になります。その場合、裁判所の判断で手続きが終わり、訴訟に委ねられることもあります。
そうなっても手続きが無駄になるわけではありませんが、時間はかかることになります。初めから見通しを立てておけば、心づもりもできます。相談の際に、その可能性についても尋ねておくとよいでしょう。
もっとも、迷うのであれば、まずこちらから入るという選び方は十分に合理的です。訴訟に移っても、それまでの主張と資料はそのまま使えるからです。
早く決着すればそれでよし、無理なら訴訟で仕切り直す。そう考えておけば、踏み出しやすくなります。実際、多くの事案はこの手続きのなかで終わります。
訴訟まで進む事案のほうが、むしろ少ないのです。まずはこちらで、と考えて差し支えありません。
復職を求めるという選択
では、それぞれの選択を見ていきます。まずは職場に戻る道です。本来あるべき姿はこちらだ、という考え方に立った選択です。
不当な解雇なのだから、元に戻すのが筋である。理屈としては、こちらが素直です。法律の建て付けも、この考え方を出発点にしています。
解雇が無効であれば、労働契約は続いていたことになります。ですから、従業員としての地位があることの確認を求めるのが、この場合の基本的な形です。辞めさせられた事実そのものをなかったことにする、という主張だと考えてください。
ですから、認められれば元の職場での立場がそのまま戻ることになります。役職も、勤続の年数も、途切れずに続いていたものとして扱われます。退職金や年金の計算にも、その期間が算入されることになります。
あわせて、働けなかった期間の賃金の支払いも求めます。会社が就労を拒んでいたのですから、その責任は会社が負うべきものだからです。この部分は計算で示せますので、主張としても組み立てやすい部分です。
それまでの月々の賃金と、解雇からの経過月数。この二つを掛け合わせれば、おおよその額が出ます。手続きに数か月かかることを見込めば、その分も加わります。
ただし、その全額がそのまま支払われるとは限りません。話し合いのなかで調整されるのが通常です。この選択が向いているのは、いくつかの条件がそろっている場合です。
自分に当てはまるものがいくつあるかを数えてみてください。多く当てはまるほど、この道を選ぶ意味は大きくなります。
ひとつも当てはまらないのであれば、次の選択肢を検討したほうがよいかもしれません。
- その職場でしか活かせない技能や資格を持っている。
- 勤続が長く、退職金や年金の面で不利益が大きい。
- 職場に理解者が残っており、戻れる余地がある。
- 解雇の理由が明らかに不当で、周囲もそう受け止めている。
- 次の職を探すことが年齢や地域の事情から難しい。
反対に、慎重に考えたほうがよい場合もあります。解雇を主導した人物がそのまま上司として残っている、職場の人数が少なく顔を合わせざるを得ない、といった状況です。
戻った先で待遇を下げられたり、仕事を与えられなかったりする懸念もあります。そうなれば、また別の争いが始まってしまいます。そうした扱いを受けた場合に備えて、調停の内容に条件を書き込んでおくこともできます。どの部署に戻すのか、待遇をどうするのか。踏み込んで決めておけば、後の争いを防げます。
戻ったところで居心地の悪さに耐えられず、結局は自分から辞めることになる。そういう例も現実にはあります。その場合、解決金という形で得られたはずのものも受け取れないままになってしまいます。戻れるかどうかだけでなく、戻った後に働き続けられるかまで見通しておいてください。
それでも、復職を求めるという姿勢を示すこと自体に意味があります。会社にとっては、あなたが戻ってくることが最も避けたい結末だからです。社内の秩序への影響を考えれば、会社としては何としても避けたいはずです。
ほかの従業員への波及を恐れる会社ほど、この傾向は強くなります。同じ立場の人が社内に何人もいる場合は、なおさらです。
そのため、復職を求めていると、解決金の話が出てきたときの水準が上がることがあります。交渉の材料としての側面も持っています。この点を理解したうえで方針を選ぶかどうかで、結果はずいぶん違ってきます。もっとも、駆け引きとして使うだけでは、期日での受け答えに無理が生じます。
解決金で区切るという選択
次に、金銭による解決です。実務では、こちらの形で決着する事案が多くを占めます。現実的な選択として、多くの方がここに落ち着いていきます。
妥協という言葉で片づけるべきものではありません。限られた時間と体力をどこに使うかという、前向きな判断だからです。
会社が一定の額を支払い、働く側は合意によって退職する。そういう内容で調停が成立する形です。
解雇そのものは撤回され、あらためて話し合いのうえで辞める。書面のうえでは、そういう整理になります。この整理であれば、経歴のうえでも解雇されたという記録が残りません。次の就職活動での説明もしやすくなります。履歴書に何と書くかで悩む必要もなくなります。この選択の利点は、はっきりしています。区切りがついて、次に進めるということです。
いつ終わるとも知れない状態から抜け出せる。その価値は、経験してみないと分からないほど大きいものです。
眠れない夜が続いていた方が、決着した途端に表情が変わる。そうした場面を何度も見てきました。
争いを抱えたまま職を探すのは、精神的な負担が大きいものです。決着すれば、その重みから解放されます。
面接で前職の退職理由を聞かれるたびに答えに詰まる。そうした状態が続くのは、想像以上にこたえます。決着していれば、円満に退職したと答えられます。
また、会社の側も応じやすい形です。復職となれば社内の調整が必要になりますが、金銭で済むなら決裁が通りやすいからです。相手が応じやすい形を選ぶことは、譲歩ではなく戦略でもあります。
早く多く受け取ることが目的なら、そこに至る道筋は柔らかいほうがよいわけです。そのため、話がまとまりやすく、期日の回数も少なくて済む傾向があります。
早く終われば、そのぶん負担も軽くなります。時間もまた、支払っているもののひとつだからです。期日ごとに仕事を休む必要も減ります。
合意の内容には、金額以外の要素も盛り込めます。離職の理由をどう記載するか、退職の日をいつにするか、口外しないことを約束するかどうか。会社が発行する証明書に何と書くかまで、取り決めておくことができます。
とりわけ離職の理由は、その後に受け取れる給付の時期を左右します。金額の交渉に気を取られて、この部分を見落とさないでください。会社の都合による離職として扱われるかどうかで、生活の立て直し方が変わってきます。
一方で、この選択にも割り切りが必要です。会社の非を公に認めさせることはできませんし、職場に戻る道は閉じます。
調停の内容には、会社が非を認めたという文言が入らないのが通常です。そこに納得できるかどうかが分かれ目になります。謝罪を求めたい気持ちがあるのなら、その旨を早い段階で伝えておいてください。気持ちのうえで納得できるかどうか。そこは、ご自身で確かめてから決めてください。
周囲に説明したいという思いが強いのであれば、口外しない約束をどこまで受け入れるかも考えどころになります。家族に話すことまで禁じられては困るはずですから、範囲は確かめておきましょう。
二つの選択を比べると、次のようになります。
| 比べる点 | 復職を求める | 解決金で区切る |
|---|---|---|
| 得られるもの | 職場に戻る地位と、解雇期間中の賃金 | 退職を前提としたまとまった金銭 |
| 向いている人 | 今の仕事や待遇を手放したくない | 会社との関係は修復できないと感じている |
| 気をつけたい点 | 戻った後の人間関係や配置 | 転職先を探す時間と、金額の見通し |
申立ての段階では、解雇の無効と職場への復帰を求めておき、期日の話し合いのなかで解決金による退職に切り替える、という進め方がよく使われます。はじめから金銭だけを求めると、交渉の出発点が低くなりがちだからです。
解決金はどう決まっていくのか
気になるのは金額でしょう。考え方をお伝えします。いくらもらえるのかが分からなければ、判断のしようがないからです。とはいえ、期待どおりの数字をお伝えできるわけではありません。
まずお断りしておくと、一律の目安としてお示しできるものではありません。事情がひとつ違えば、水準がまるごと動いてしまうからです。
数字をひとつ挙げてしまうと、それが基準として一人歩きします。交渉の場では、かえって不利に働くこともあります。
会社の側から、こういう事案ならこの程度だと言われて、低い水準で納得してしまう。そうした場面を避けるためでもあります。他人の事例がそのまま自分に当てはまるとは限りません。では、何によって動くのでしょうか。要素を挙げておきます。六つに整理してお話しします。自分の事案に当てはめながら読んでみてください。
ひとつめが、解雇が無効と判断される見込みの強さです。会社の言い分に無理があるほど、こちらの立場は強くなります。
理由を記した書面すら出してこない、説明が二転三転する。そうした事情は、こちらに有利に働きます。会社が自信を持っていないことの表れだからです。逆に、指導の記録や処分の経緯をきちんと残している会社は手ごわくなります。
二つめが、解雇されてから経過した期間です。無効であればその間の賃金が発生していることになりますから、時間が経つほど積み上がります。会社が早く決着させたがる背景には、この積み上がりへの警戒があります。
ですから、こちらが焦って安く手を打つ必要はありません。もっとも、長引けば生活も苦しくなります。そこは天秤にかけて考えることになります。
三つめが、それまで受け取っていた賃金の額です。計算の基礎になる部分ですから、当然に影響します。給与明細を数か月分そろえておけば、この部分はすぐに示せます。
手当を含めた総額で考えますので、基本給だけを見ないようにしてください。四つめが、勤続の年数です。長く働いてきた方ほど、失うものが大きいと評価されます。
その職場で築いてきた立場や、退職金の算定にも影響が及ぶからです。十年、二十年と勤めてきた方であれば、その重みは相当なものになります。
五つめが、解雇の進め方に悪質な点があったかどうかです。ここが加われば、上積みの理由になります。
大勢の前で告げられた、身に覚えのない事情を社内に広められた。そうした事情があれば、必ず伝えてください。言いにくいことかもしれませんが、こちらに有利に働く事情です。
六つめが、会社に支払う体力があるかどうかです。理屈のうえで認められても、支払えなければ回収できません。
経営が傾いている会社が相手であれば、多少低くても早く受け取るという判断が理にかなうこともあります。倒産してしまえば、認められた額すら受け取れなくなるからです。
これらを踏まえて、審判員が水準を示してくることが多いでしょう。その提示が妥当かどうかは、事前に見通しを立てておくと判断しやすくなります。
その場で即答を求められることもありますので、どこまでなら受け入れられるかの線は先に決めておいてください。その線は、生活に必要な額から逆算して決めるとよいでしょう。
申立ての内容をどう組み立てるか
ここは実務的な話です。知っておくと役に立ちます。書面の書き方ひとつで、後の選択肢の広さが変わってきます。
ここは知っているかどうかで差がつく部分です。迷っているのなら、まずは復職を求める形で申し立てるという選び方があります。
実務では、この形から入る事案が多くを占めます。後から選び直せる余地を残しておけるからです。
従業員としての地位があることの確認と、その間の賃金の支払い。この二つを求める形です。この書き方であれば、解雇が無効だという主張が正面から立ちます。そして、賃金の請求も自然につながります。
そのうえで、期日のなかで解決金による決着に切り替えることは可能です。話し合いの手続きですから、途中で方針を変えられます。
審判員のほうから、金銭での解決を考えられませんかと促されることもあります。その場で応じるかどうかを決めれば足ります。持ち帰って考えたいと伝えれば、次の期日まで時間を取ることもできます。
逆に、最初から金銭だけを求めて申し立てると、そこから復職へ戻すのは難しくなります。辞めることを前提にしていると受け取られるからです。いったん示した姿勢を覆すのは、交渉のうえでも不利になります。会社の側も、辞める前提なのだと理解して交渉に臨んできます。
ですから、選択肢を残しておきたいのであれば、復職を求める形から入るほうが柔軟だということになります。入り口を広く取っておいて、進みながら絞っていく。そういう組み立てです。相手の出方を見てから決められる、という利点もあります。
もっとも、明らかに戻る気がないのに形だけ復職を求めるのも考えものです。期日で問われたときに、答えに詰まってしまいます。
審判員は、その受け答えから本心を読み取ります。ちぐはぐな印象を与えれば、かえって信用を損ねます。主張と態度が一致していることは、それ自体が説得力になります。
自分のなかで、どちらでもよいのか、それとも決まっているのか。そこは整理しておいてください。正直に、条件次第で考えたいと答えて構いません。取り繕う必要はありません。むしろ、その答えのほうが自然に受け止められます。
あわせて、解雇の効力とは別に請求できるものも確かめておきましょう。未払いの残業代、解雇予告に関する手当、退職金。これらは併せて求められます。
解雇の争いに気を取られて、こちらを見落とす方が少なくありません。数年分の残業代がまとまった額になることもあります。ひとつの手続きでまとめて解決できるのですから、確かめておく価値は十分にあります。
決断のタイミングと、変更の余地
最後に、時期の話をしておきます。何を求めるかと同じくらい、いつ動くかが結果を左右します。
そして、この点は自分の判断だけで変えられる部分でもあります。解雇を争うのであれば、早く動くことが何より大切です。
離職票を受け取って手続きを進めたことが、解雇を認めたと受け取られないかを心配する方もいます。そこは事情を説明できますので、生活のための手続きは進めて構いません。
とくに復職を求めるのであれば、この点は重く効いてきます。半年も一年も何も言わずにいた方が、いまさら戻りたいと言っても説得力を欠きます。
本当に戻る気があるのなら、なぜすぐに言わなかったのか。そう問われれば、答えに窮してしまいます。
体調を崩していたなど、動けなかった事情があるのなら、それを説明できるようにしておいてください。
ですから、まずは解雇の効力を認めない旨と、働く意思があることを、書面で会社に伝えておいてください。
この一通があるかどうかで、その後の立ち位置が変わります。申立ての準備が整うまでの時間を稼ぐ意味もあります。文面は難しいものでなくて構いません。
次に、その間の生活をどうするかです。争っているあいだ収入が途絶えるのは、現実的な問題です。
気持ちのうえで争いたくても、家計が持たなければ続けられません。ここは正面から向き合っておく必要があります。途中で力尽きて取り下げることになれば、それまでの労力も無駄になってしまいます。
解雇をめぐって争っている場合に備えた仕組みも用意されていますので、行政の窓口で相談してみてください。争っているという理由で何も受け取れない、という状態にならないよう配慮された仕組みです。存在を知らないまま困っている方が多いので、まずは尋ねてみてください。
次の職に就いても、それまでの主張が消えるわけではありません。ただし、そこで得た収入は、後の計算で一定の範囲で差し引かれることがあります。ですから、次の職で得た収入の記録も残しておいてください。後の計算で必要になります。
この点は不利益のように見えますが、次に進むことをためらう理由にはなりません。生活を立て直すことのほうが優先です。差し引かれるのはあくまで一定の範囲であり、全額が消えるわけでもありません。
申立てまでの準備は、次の順で進めます。
- 解雇理由証明書を会社に請求し、解雇の理由を書面で確定させる。
- 解雇の理由に反論できる事実と資料を集める。
- 復職と解決金のどちらを本命にするかを、家族とも話し合って決める。
- 弁護士と申立書を作り、裁判所に申し立てる。
不当解雇の労働審判に関するよくある質問
復職を求めれば、本当に職場に戻れるのですか
戻れる場合もありますが、実務では金銭による決着に至る事案が多くを占めます。会社の側が復職を受け入れるには社内の調整が必要になりますし、争った相手を迎え入れることへの抵抗もあるからです。ただし、復職を求めること自体には意味があります。会社にとっては、あなたが戻ってくることが最も避けたい結末ですから、その姿勢を示していると解決金の水準が上がることがあります。また、話し合いの手続きですから、途中で方針を変えることもできます。まずは復職を求める形から入り、様子を見ながら決めるという進め方も十分に合理的です。
解決金はどれくらいになりますか
一律の目安としてお示しできるものではありません。事案によって幅が大きく開くからです。動かす要素としては、解雇が無効と判断される見込みの強さ、解雇されてから経過した期間、それまで受け取っていた賃金の額、勤続の年数、解雇の進め方に悪質な点があったかどうか、そして会社に支払う体力があるかどうかが挙げられます。とりわけ、無効であればその間の賃金が発生していることになりますので、時間が経つほど積み上がる関係にあります。まずは自分の賃金の額と、これまでの経過期間から見当をつけてみてください。
最初から解決金だけを求めて申し立ててもよいですか
できますが、慎重に考えてください。金銭だけを求めると、辞めることを前提にしていると受け取られ、そこから復職へ戻すことは難しくなるからです。逆に、復職を求める形から入っておけば、期日のなかで解決金による決着へ切り替えることができます。選択肢を残しておきたいのであれば、後者のほうが柔軟です。ただし、明らかに戻る気がないのに形だけ求めるのも考えものです。期日では審判員から直接その点を問われますので、自分のなかで整理してから臨んでください。
争っている間の生活が心配です
解雇をめぐって争っている場合に備えた仕組みが用意されていますので、行政の窓口で相談してみてください。あわせて、次の職を探すことをためらう必要もありません。そこで得た収入は後の計算で一定の範囲で差し引かれることがありますが、生活を立て直すことのほうが優先されるべきです。手続きにかかる費用についても、収入が一定の水準を下回る方であれば、国が立て替える制度を利用できる場合があります。お金の心配で争うこと自体を諦めてしまう前に、使える制度がないかを尋ねてみてください。
