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マタハラ被害の基本パターン~女性社員の妊娠・出産で起こりうる職場トラブル

この記事で分かること

  • 妊娠・出産・育児休業などを理由とする不利益な取扱いは禁止
  • 事業主には上司・同僚からのマタハラを防止する措置を講ずる義務がある
  • マタハラに対しては法的な措置も検討できる

マタハラは、法律でどのように定義されているのでしょうか?また、マタハラの体験談や判例、対策法にはどのようなものがあるのでしょう?この記事では、マタハラの法律上の定義や意味、マタハラの体験談と判例、およびマタハラ被害にあった場合の対策法について解説します。

マタハラとは?法律上の定義と意味

マタハラは、法律でどのように定義されているのでしょう?男女雇用機会均等法および育児・介護休業法により、

・妊娠・出産・育児休業などを理由とする解雇などの不利益な取扱いは禁止

とされていることはもちろんのこと、さらに平成29年1月1日の法改正により、

・事業主は、上司・同僚からのマタハラの防止措置を講ずる義務がある

と定められています。

妊娠・出産・育児休業などを理由とする不利益な取扱いは法律で禁止

妊娠・出産・育児休業などを理由とする解雇などの不利益な取扱いは法律で禁止されています。定められている法律は、男女雇用機会均等法第9条第3項および育児・介護休業法第10条などです。禁止されている、不利益な取扱いの理由およびその取扱いは以下にあげる通りです。

禁止されている不利益な取扱いの理由

  • 妊娠した
  • 出産した
  • 産前・産後の休業を取った
  • 育児休業を取った
  • 妊婦健診のために仕事を休んだ
  • 軽易な業務への転換を請求した、また実際に転換した
  • つわりや切迫流産などのために仕事ができなかった、または仕事の効率が低下した
  • 残業や休日出勤、深夜業務をしないことを請求した、または実際にしなかった

など。

禁止されている取扱い

  • 解雇する
  • 契約の更新をしない
  • パートになれと強要する
  • 降格させる
  • 自宅待機を命ずる
  • 賃金やボーナスを減給する
  • 昇進や昇格で不利な評価をする
  • 普通ならありえない配置転換
  • 育児のための所定労働時間の短縮措置を取らない
  • 育児のための始業時間変更等の措置を取らない

事業主は上司・同僚からのマタハラの防止措置を講じる義務がある

平成29年1月1日に改正された男女雇用機会均等法(第11条第2項)および育児・介護休業法(第25条)により、上司や同僚などからのマタハラの防止措置を事業主が講じることが義務付けられました。上司や同僚などからのマタハラには、

  1. 制度等の利用への嫌がらせ
  2. 状態への嫌がらせ

の2つのタイプが定義されています。

マタハラのタイプ1 制度などの利用への嫌がらせ

制度などの利用への嫌がらせとは、社内で整備されている妊娠・出産・育児のための制度などを利用させないようにすること、および制度を利用したことを理由に解雇などの不利益な取扱いを示唆する言動を取ること、嫌がらせをすることなどです。典型的な事例は次のようなものとなるでしょう。

  • 産休の取得を相談したところ、上司から「休みを取るなら辞めてもらう」といわれた
  • 妊娠が理由で立ち仕事を免除してもらったら、同僚から「あなたばっかり座って仕事をしてずるい」としつこくいじめられ、仲間はずれにされた

ここで「制度など」とは、具体的には以下のものです。

男女雇用機会均等法が対象とする制度や措置

  • 産前休業
  • 妊婦健診
  • 軽易な業務への転換
  • 残業や休日出勤・深夜労働の免除
  • 育児時間

など。

育児・介護休業法が対象とする制度や措置

  • 育児休業
  • 子供の看護休暇
  • 所定外労働の制限
  • 時間外労働の制限
  • 深夜業の制限
  • 育児のための所定労働時間の短縮措置
  • 始業時間変更等の措置
  • 介護のための所定労働時間の短縮等の措置

マタハラのタイプ2 状態への嫌がらせ

状態への嫌がらせとは、妊娠・出産したことにより、解雇などの不利益な取扱いを示唆したり、嫌がらせをしたりすることです。典型的な事例は次のようなものとなるでしょう。

  • 上司に妊娠を報告したら「他の人を雇うので辞めてもらうしかない」と言われた
  • 「就職したばかりなのに妊娠し、産休・育休を取るなど図々しい」と職場の先輩に何度も言われた

状態への嫌がらせの対象となる事由は、次の通りです。

  • 妊娠したこと
  • 出産したこと
  • 産休を取ったこと
  • つわりなどにより業務の効率が下がったこと

など。

事業主に義務付けられていること

改正された男女雇用機会均等法および育児・介護休業法により、すべての事業主に対して以下のことが義務付けられています。

事業主の方針の明確化および周知・啓発

マタハラの内容や、マタハラ発生の原因、「マタハラはあってはならない」とする事業方針、妊娠・出産・育児などで利用できる制度について、社内で周知・啓発する。

相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備

マタハラの被害を受けた人やマタハラを目撃した人が相談しやすい窓口を社内に設ける。

マタハラが発生した際の迅速かつ適切な対応

マタハラの相談があったときには、

  • すみやかな事実確認
  • 被害者への配慮
  • 行為者への処分
  • 職場全体に対し再発防止の措置をとる

などを行なう。

マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置

マタハラの原因や背景となる要因を解消するために、業務体制の整備など必要な措置をとる。

あわせて講ずべき措置

マタハラの相談者や行為者のプライバシー保護のための措置を講じ、マタハラの相談や事実関係の確認への協力を理由として不利益な取扱いがあってはならないと定め、周知・啓発する。

ワンポイントアドバイス
以上のように、平性29年の法改正によりマタハラに対する規制は大きく強化されることとなりました。ただし規制は、法律の条文や厚生労働省の政令などによって定められているために、自分のケースが「マタハラである」とすぐには判断できないこともあるでしょう。その場合には弁護士に相談してみるのもおすすめです。法律の専門家である弁護士は、マタハラであるかどうかを的確に判断し、善後策についても相談に乗ってくれるでしょう。

マタハラの体験談や判例

次に、マタハラの体験談や裁判での判例を見てみましょう。

事例1 マタハラによる降格

体験談

理学療法士として病院に勤務していました。妊娠をしましたので軽い業務を希望しますと、それまで副主任であったのにその役職を外されました。

「妊娠中だから仕方がない」と思いそれは承諾しましたが、育児休業を取り、休業期間が終わって職場復帰してみても、相変わらず副主任に戻してもらうことはできません。降格によって職場で孤立やあつれきが生まれ、結局退職に追い込まれました。

裁判の判例(平成26年10月23日 最高裁判所)

この件に関し、女性は訴訟を提起し最高裁まで争われました。最高裁は「妊娠による降格は原則禁止」とし、最終的に女性は慰謝料として100万円、降格時から退職までの副主任手当30万円を含む175万円の賠償が認められました。

事例2 マタハラによる流産・解雇

体験談

私立幼稚園に教諭として勤務していましたが、内縁の夫とのあいだで妊娠し、切迫流産で入院することになってしまいました。

園長に報告いたしましたら、「教師としても社会人としても無責任」などと非難され、また「育児休業期間中の代替要員の採用は難しい」などと退職を勧められるなどしました。その後、安静が必要だったのに出勤を命ぜられ、やむなく出勤しましたところ再入院し流産しました。結局、入院中に「後任が見つかった」と連絡があり解雇されました。

裁判所の判例(平成15年3月13日)

園長の教諭に対する一連の言動は男女雇用機会均等法に違反する違法行為であるとして、解雇は無効、園長に対する慰謝料請求が認めらました。

ワンポイントアドバイス
マタハラは、法律に違反する違法行為であり、訴訟が提起されるケースも多くあります。マタハラにより退職に追い込まれたり、心身に重大な影響がでるなどした場合には、弁護士に相談したうえで法的な措置も検討しましょう。

マタハラ被害にあった場合の対策法

最後に、マタハラ被害にあった場合の対策方法を見ていきましょう。

対策法1 会社の相談窓口に相談する

上で解説したように、会社はマタハラ被害を受けた場合の相談窓口を設けなければならないと法律で定められています。まずは会社の相談窓口に相談するのが良いでしょう。

対策法2 公的な相談窓口に相談する

都道府県の労働局では、マタハラについての相談も受け付けています。相談料は無料で、匿名での相談もできます。

対策法3 弁護士に相談する

ケースによっては法的措置を検討しなければならないこともあるでしょう。その場合は弁護士に相談しましょう。労働問題が専門の弁護士なら、マタハラ被害について的確な対応をしてくれます。

ワンポイントアドバイス
マタハラ被害を相談する際には、具体的な事情を詳しく伝えなくてはなりません。したがって、
・マタハラ被害にあった日時・場所・相手・内容
・マタハラによってどのような影響があったか(仕事や体調などで)
などについては、しっかりと記録しておくようにしましょう。

マタハラ被害は弁護士に相談しよう

マタハラは、出産や育児があるために被害を受けても泣き寝入りしてしまいがちです。

しかしマタハラは、母性を侵害する卑劣な行為であると同時に違法な行為です。しっかりと解決しましょう。その際に、労働問題に強い弁護士に相談することで、よりスムーズな対応がとれるでしょう。

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