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相手方の保険会社から示談金の提示が届いた。金額を見ても、これが妥当なのかどうか判断がつかない。そんなとき、まず確かめるべきことがあります。その金額は、どの基準で計算されているのか。ここを知らないまま署名すると、本来受け取れるはずの額を大きく下回ったまま終わることがあります。
交通事故の慰謝料には、三つの算定基準があります。同じケガ、同じ通院期間でも、どの基準を当てはめるかで結論はまったく違います。この記事では、三つの基準がそれぞれ何であるか、なぜ差が生じるのか、そして自分の提示がどの基準によるものかを見抜く方法を、弁護士の視点から整理します。
交通事故の慰謝料には三つの種類がある
基準の話に入る前に、慰謝料そのものの種類を押さえておきます。交通事故で請求できる慰謝料は、次の三つに分かれます。
| 種類 | 何に対する補償か | 金額を左右する要素 |
|---|---|---|
| 入通院慰謝料 | ケガの治療で入院や通院を強いられた精神的苦痛 | 治療期間、実際の通院日数、ケガの程度 |
| 後遺障害慰謝料 | 治療を終えても症状が残ったことへの精神的苦痛 | 認定された後遺障害等級 |
| 死亡慰謝料 | 命を失った本人と、遺族の精神的苦痛 | 亡くなった方の家庭での立場、遺族の人数 |
三つは別々の損害項目なので、該当するものを合算して請求します。たとえばむちうちで半年通院し、14級の後遺障害が認定されたなら、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の両方が対象になります。
そして、この三つのどれについても、次に説明する算定基準の違いが効いてきます。
慰謝料を算定する三つの基準
交通事故の賠償実務では、慰謝料を算定するための基準が三つ並存しています。誰が、何のために作った基準かを知ると、なぜ金額に差が出るのかが見えてきます。
| 基準 | 誰が定めたか | 性格 | 水準 |
|---|---|---|---|
| 自賠責基準 | 国。自動車損害賠償保障法にもとづく | 被害者救済のための最低限の補償 | 三つのなかで最も低い |
| 任意保険基準 | 各保険会社。社内で独自に設定 | 内容は公表されていない | 自賠責よりやや高い程度にとどまることが多い |
| 弁護士基準 | 裁判所の判断の積み重ね。裁判基準とも呼ばれる | 交渉や訴訟で用いられる法的に妥当な水準 | 最も高い |
三つの基準を知っておく意味
基準の存在を知らないまま示談すると、提示された金額が低いことにすら気づけません。「保険のプロが計算したのだから正しいのだろう」と考えてしまうのは自然な反応です。
しかし、相手方の保険会社は被害者の代理人ではありません。自社の支払いを適正な範囲に収めるのが役割です。悪意があるわけではなく、立場が違うというだけのことです。
提示を受けるまでの流れ
三つの基準が実際に登場する場面を、順を追って見ておきます。
治療中は、相手方の任意保険会社が病院へ治療費を直接支払っていることが多く、慰謝料の話は出てきません。治療が終わり、後遺障害の申請をするなら等級が確定した後で、はじめて示談の提示が届きます。
このとき提示されるのは、相手方の任意保険会社が自社の基準で計算した金額です。被害者が自分で交渉している限り、弁護士基準の金額が最初から示されることはありません。ここが、多くの方が取りこぼす分岐点になります。
自賠責基準は「最低限」の線
自賠責保険は、すべての自動車に加入が義務づけられた強制保険です。加害者に資力がなくても被害者が最低限の補償を受けられるようにするための制度で、支払いの基準は告示で定められています。
あくまで最低限なので、実際に生じた損害をすべて補うものではありません。傷害分には支払いの上限があり、それを超える部分は相手方の任意保険や本人に請求することになります。
任意保険基準は「公表されていない」
相手方の任意保険会社が示談交渉で使う基準です。かつては各社共通の基準がありましたが、現在は会社ごとに独自の基準を持っており、その中身は外部に公開されていません。
被害者が自分で交渉する場合、保険会社はこの基準にもとづいて提示してきます。根拠を示さずに「これが相場です」と言われても、外から検証する手段がないのが、この基準の特徴です。
弁護士基準は「裁判所が認める水準」
過去の裁判例を整理して作られた基準で、裁判所が判決を出す際の目安になっています。実務では、弁護士会が発行する書籍に掲載された算定表が広く用いられます。
弁護士が示談交渉に入ると、この基準を前提に主張を組み立てます。相手方の保険会社も、訴訟になれば結局この水準で判断されることを知っているため、交渉の段階で弁護士基準に近づけてくることが多くなります。
それぞれの計算の仕組みは、次の記事でさらに掘り下げています。
なぜ基準によってこれほど差が出るのか
同じ被害に対して、なぜ三つも基準があるのか。疑問に思われるのは当然です。理由は、それぞれの基準が置かれている立場の違いにあります。
自賠責基準は、限られた保険料で広く被害者を救済するための制度なので、水準を高く設定できません。任意保険基準は、営利企業である保険会社が支払いを抑える方向で設計したものです。そして弁護士基準は、裁判で争われたときに裁判所が妥当と認めてきた水準の蓄積です。
基準の違いは全項目に及ぶ
基準の差が出るのは慰謝料だけではありません。逸失利益の算定でも、労働能力喪失期間をどこまで取るか、基礎収入を何で見るかといった前提の置き方で違いが生まれます。休業損害の日額の計算方法にも、同じことがいえます。
つまり、慰謝料の水準を弁護士基準に合わせただけでは足りません。賠償の全項目について、どんな前提で計算されているかを確かめる必要があります。
差は被害が重いほど広がる
三つの基準の開きは、被害が重いほど金額として大きくなります。軽傷であれば差は限られていますが、後遺障害が残った場合や死亡事故では、同じ等級でも数倍の開きが生じます。
だからこそ、重い被害を負った方ほど、どの基準で提示されているかを確かめる意味が大きくなります。
三つの基準は場面によって使い分けられる
三つが常に競合しているわけではありません。手続きの段階によって、どれが表に出るかが変わります。
| 場面 | 使われる基準 |
|---|---|
| 被害者請求で自賠責保険から直接受け取るとき | 自賠責基準 |
| 相手方の任意保険会社と被害者本人が示談交渉するとき | 任意保険基準 |
| 弁護士が代理人として交渉するとき | 弁護士基準を前提に主張 |
| 訴訟で裁判所が判断するとき | 弁護士基準 |
自賠責には支払いの上限がある
自賠責保険から支払われる額には、政令で定められた上限があります。傷害分は120万円まで、後遺障害分は等級に応じて75万円から4,000万円まで、死亡分は3,000万円までです。
実際の損害がこれを超える場合、超過分は相手方の任意保険会社か本人に請求することになります。重い被害ほど、自賠責だけでは足りないということです。
自賠責分は上乗せの土台になる
自賠責保険から支払われた分は、最終的な賠償額から差し引かれます。二重に受け取れるわけではなく、あくまで先に確保した分という位置づけです。
ただ、示談がまとまるまでには時間がかかります。被害者請求で自賠責分を先に受け取っておけば、その間の生活費や治療費に充てられます。金額は最低限でも、受け取る時期が早いという利点があります。
訴訟まで進むとどうなるか
交渉で折り合いがつかなければ、訴訟で裁判所の判断を求めることになります。裁判所は弁護士基準で算定するため、判決になれば水準はそちらに寄ります。
加えて、判決では遅延損害金と弁護士費用相当額が加算されることがあります。ただし解決までに時間がかかるため、多くの事案では訴訟の前に和解が成立します。訴訟という選択肢があること自体が、交渉の後ろ盾になるという側面もあります。
任意保険基準で示談すると弁護士基準には戻せない
示談が成立すれば、その内容で確定します。後になって「弁護士基準ならもっと高かった」と気づいても、差額を請求することはできません。基準を確かめるべきタイミングは、署名の前しかないということです。
入通院慰謝料はどう決まるか
入通院慰謝料は、治療期間と通院日数を基礎に算定されます。ただし、基準ごとに計算の仕方が違います。
自賠責基準の計算
自賠責では、告示で定められた日額4,300円に、対象となる日数を掛けて算定します。対象日数は、治療期間と実際の通院日数の2倍を比べて、少ないほうです。
たとえば3か月の治療期間で通院が30日なら、通院日数の2倍である60日が対象になります。逆に通院が50日なら、治療期間の90日が上限です。通院の頻度が低いと、それだけで対象日数が削られるという仕組みになっています。
整骨院との併用
併用する場合は、通院した記録を両方とも残しておいてください。施術の回数だけが多く、医師の診察がほとんどないという状態は避けたいところです。
手技による施術で楽になるという方は多く、整骨院に通うこと自体は問題ありません。ただし、慰謝料の算定や後遺障害の審査で材料になるのは、医師の診断と検査結果です。整形外科での受診を軸に据えたうえで併用する、という順序を守ってください。
主治医の了解を得ないまま施術だけを受け続けると、支払いを止める理由にされることがあります。
通院期間が長引いたとき
治療が長期に及ぶと、相手方の保険会社から打ち切りを打診されることがあります。むちうちでは3か月から6か月あたりが目安として持ち出されがちです。
ただ、症状固定を判断するのは主治医であって、治療費を負担している側ではありません。回復の見込みが残っていると医師が判断しているなら、それを根拠に治療の継続を申し入れてください。
入院を伴うと水準が上がる
弁護士基準の算定表は、入院期間と通院期間の組み合わせで額が決まる形になっています。入院があると、同じ治療期間でも通院だけの場合より高い水準になります。
骨折で手術を受けた、脳の損傷で集中治療を受けた。こうした事案では入院期間が長くなり、そのぶん慰謝料も大きくなります。退院後の通院期間も、あわせて算定に含まれます。
ケガの重さで表が変わる
弁護士基準では、むちうちや打撲のように画像で異常を示しにくいケガと、骨折や脱臼のように客観的な所見があるケガとで、用いる表が分かれています。同じ3か月の通院でも、どちらの表を当てはめるかで結論が違ってきます。
相手方の保険会社が軽いほうの表を前提に計算していることがあります。骨折しているのに軽傷用の水準で提示されていないか、確かめておいてください。
弁護士基準の計算
弁護士基準では、入院期間と通院期間を縦横にした算定表を用います。むちうちなど他覚的所見に乏しいケガと、骨折など重いケガとで別の表が使われ、後者のほうが高い水準になります。
基本的には治療期間で決まりますが、通院の間隔が空きすぎている場合には、実際の通院日数をもとに調整されることがあります。この点は自賠責基準と共通しています。
通院した日数がどう反映されるかは、次の記事でくわしく扱っています。
後遺障害慰謝料はどう決まるか
後遺障害慰謝料は、認定された等級に応じて原則として一律に定まります。被害者の年齢や性別、収入には左右されません。
等級は1級から14級まであり、数字が小さいほど重い障害です。労働能力喪失率で見ると、1級が100パーセント、14級が5パーセントとされ、慰謝料の水準もこの差に対応する形で開いていきます。
ここでも基準の違いが効きます。同じ等級であっても、自賠責基準と弁護士基準では数倍の開きが生じ、等級が重くなるほど、その差は金額として広がります。
併合という取り扱い
複数の部位に後遺障害が残った場合、それぞれの等級を組み合わせて全体の等級を決める併合という仕組みがあります。単独では12級と13級でも、併合によって11級と評価されることがあります。
軽く感じる症状も、申告から漏らさないでください。他の障害と組み合わさることで、結論が変わる場合があります。
認定されなかった場合
症状が残っていても等級が認定されなければ、後遺障害分の慰謝料も逸失利益も請求できません。この差は非常に大きく、賠償の規模が桁で変わることもあります。
非該当だった場合でも、異議申立てによって再審査を求められます。ただし、同じ資料を出し直しても結果は変わりません。認定理由を読み、何が足りなかったのかを特定したうえで、新しい材料を用意する必要があります。
逸失利益とセットで考える
後遺障害が認定されると、慰謝料とは別に逸失利益も請求できます。障害が残ったことで将来の収入が減る分を補うもので、多くの事案では慰謝料より大きな金額になります。
逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間の掛け算で決まります。喪失率は等級ごとに定まっていますが、基礎収入と喪失期間は事案ごとの判断です。ここでも保険会社は低めに見積もってくることが多く、争点になりやすい部分です。
等級認定が先、金額はその後
後遺障害慰謝料を請求するには、まず等級の認定を受ける必要があります。認定されなければ、症状が残っていても後遺障害分の慰謝料は請求できません。
逆にいえば、等級がひとつ違うだけで、慰謝料も逸失利益も規模が変わります。適正な等級を取ることが、賠償全体の土台になります。
等級ごとの位置づけと、自分がどこに当たるかを確かめる手順は、次の記事で一覧にしています。
死亡慰謝料はどう決まるか
死亡慰謝料は、亡くなった本人の慰謝料と、遺族固有の慰謝料に分かれます。本人分は相続人が引き継いで請求し、遺族分は遺族自身の権利として請求します。
自賠責基準の内訳
自賠責では、本人分として400万円が定められています。遺族分は請求できる人数によって決まり、1人なら550万円、2人なら650万円、3人以上なら750万円です。亡くなった方に扶養されていた遺族がいる場合は、これに200万円が加算されます。いずれも告示で定められた固定の金額です。
ここでいう遺族とは、配偶者、子、父母を指します。養子や養親、内縁の配偶者、認知された子や胎児も含まれます。
遺族固有の慰謝料とは
本人の慰謝料は、亡くなった方が受けた精神的苦痛に対するもので、相続人が引き継いで請求します。これに対して遺族固有の慰謝料は、家族を失った遺族自身の苦痛に対するものです。
この二つは別の権利なので、両方を請求できます。相続分の割合とは別に、遺族一人ひとりが自分の権利として主張できるという点も押さえておいてください。
弁護士基準では立場で変わる
弁護士基準では、亡くなった方が家庭でどんな立場にあったかによって水準が変わります。一家の生計を支えていた方、配偶者や母親、それ以外の方という区分です。生計を支えていた立場であるほど、高い水準になります。
自賠責保険から支払われる額の仕組みについては、こちらの記事で扱っています。
慰謝料以外にも請求できるもの
示談金の総額は、慰謝料だけで構成されているわけではありません。次のような項目が含まれます。抜けていないか確かめてください。
- 治療費。入院、通院、手術、投薬にかかった実費
- 通院交通費。電車やバスの運賃、自家用車のガソリン代。歩行が難しくタクシーを使った場合はその実費も対象です
- 休業損害。仕事を休んだ分の減収。有給休暇を使った場合も対象になります
- 逸失利益。後遺障害が残った場合や、死亡した場合の将来の収入減
- 付添看護費。入院中や通院時に付き添いが必要だった場合
- 装具・器具の費用。義肢、車いす、補聴器など。買い替えを見込んだ額か
- 将来介護費。重い後遺障害が残り、介護が必要になった場合
- 家屋・車両の改造費。生活のために必要となった改修
これらにも基準の違いが影響します。とくに休業損害の日額の算定方法や、逸失利益の前提の置き方は、保険会社の提示と弁護士基準とで開きが出やすい部分です。
提示された金額がどの基準か見抜く方法
保険会社から届いた提示書に「任意保険基準で計算しました」とは書かれていません。ただ、いくつかの手がかりから見当をつけることはできます。
- 内訳を出してもらう。総額だけでは判断できません
- 入通院慰謝料が、通院日数に日額を掛けた形になっていないか確かめる。その形なら自賠責基準に近い計算です
- 後遺障害慰謝料が、等級に対して明らかに低い水準になっていないか確認する
- 担当者に「どの基準で算定したか」を直接尋ねる。答えを渋るなら、弁護士基準ではないと考えてよいでしょう
- 下の計算ツールで、弁護士基準での見込みと比べる
ご自身の場合にどのくらいの水準になるのか、下のツールに治療の状況を入れて確かめてみてください。提示額との差が大きければ、そこに交渉の余地があります。
交通事故 慰謝料の3基準比較シミュレーター
自賠責基準
¥120,000
任意保険基準
¥150,000
弁護士基準
¥530,000
※ 簡易計算です。実際の金額は治療実日数・後遺障害の有無・休業損害などにより異なります。任意保険基準は各社非公開のため業界平均値で算出しています。
既払い金の扱いを確かめる
治療費として相手方の保険会社が病院に直接支払った分は、損害額に含めたうえで、最後に既払い金として差し引かれます。提示された総額が思ったより小さいとき、この控除が原因のことがあります。
控除自体は正当な処理ですが、何がいくら差し引かれているのかは確認しておいてください。過失割合がある事案では、既払い金の扱いによって最終的な受取額が変わります。
内訳を出してもらう意味
総額だけを示されると、どこが低く見積もられているのか分かりません。項目ごとに分解して初めて、争うべき点が見えてきます。次のような形で出してもらってください。
- 治療費として支払われた額
- 通院交通費
- 休業損害。日額と対象日数の内訳も含めて
- 入通院慰謝料。算定の根拠となった期間と日数
- 後遺障害慰謝料。等級と、その等級での金額
- 逸失利益。基礎収入、喪失率、喪失期間の内訳
- 過失相殺として差し引かれた額
- 既払い金として控除された額
書面での提示を求めれば、通常は応じてもらえます。口頭の説明だけで済ませると、後から検証できません。担当者が交代したときに、以前の説明との食い違いを指摘できなくなるという問題もあります。
「相場です」という言葉に注意
担当者から「これが相場です」と説明されることがあります。ただ、それは保険会社の社内基準における相場であって、裁判所が認める水準とは限りません。相場という言葉の主語が誰なのかを意識して聞いてください。
提示が低いと感じたとき、何が原因なのかを整理する方法は、次の記事にまとめました。
弁護士基準で算定してもらうには
被害者が自分で交渉している間、保険会社が弁護士基準を当てはめてくることはまずありません。「弁護士基準で計算してほしい」と申し入れても、「当社の基準ではこれが上限です」と返されるのが通常です。
弁護士が交渉に入ると水準が変わる
弁護士が代理人として交渉に入ると、状況は変わります。示談がまとまらなければ訴訟になり、訴訟になれば裁判所は弁護士基準で判断する。保険会社はそれを知っているため、交渉の段階から弁護士基準に近い水準で応じてくることが多くなります。
これは、弁護士が入ったから金額が上がったというより、本来の水準に戻ったと捉えるのが正確です。
途中から依頼することもできる
自分で交渉を進めていて、途中から代理人を立てることも可能です。示談書に署名していなければ、いつでも切り替えられます。
ただし、それまでのやり取りで不利な事実を認めてしまっている場合、後から覆すのは簡単ではありません。迷いが生じた時点で、いったん交渉を止めて相談するほうが確実です。
相談時に持参するもの
相談を有効に使うために、手元にある資料を持参してください。交通事故証明書、診断書、診療報酬明細書、保険会社からの提示書、後遺障害の認定通知。これらがあれば、その場でおおよその見通しを立てられます。
すべてそろっていなくても構いません。何もない状態でも、事故の状況と治療の経過を話していただければ、次に何をすべきかは整理できます。
費用倒れにならないか
軽傷で損害額が小さい事案では、弁護士費用が増額分を上回ってしまう可能性があります。これを費用倒れといいます。
ただ、弁護士費用特約が使えるなら、この心配はほぼ要りません。特約は費用を保険で賄う仕組みなので、増額分がそのまま手元に残る形になるからです。まず特約の有無を確かめ、ない場合は相談の場で見通しを聞いてみてください。
依頼するタイミング
示談の提示が届いてから相談する方が多いのですが、実際にはもっと早い段階で相談する意味があります。
治療の途中であれば、通院の仕方や必要な検査について助言を受けられます。後遺障害の申請前であれば、診断書に何を書いてもらうべきかを整理できます。これらは、後から取り返しがきかない部分です。
示談の提示を受けた時点では、すでに土台が決まっていることが少なくありません。迷っている段階でも、一度相談しておく価値があります。
費用の心配について
加入している自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、費用を保険で賄えることがほとんどです。ご本人の契約になくても、同居のご家族や別居している未婚のお子さんの契約が使える場合があります。特約の利用は、翌年の保険料の等級に響きません。
特約がない場合でも、増額分が費用を上回る事案は少なくありません。初回の相談を無料にしている事務所も多いので、まず見通しを確かめてみてください。
示談前に確認しておくこと
署名すれば内容は確定し、後から覆すことはできません。次の点は、署名の前に必ず確かめておいてください。
- 慰謝料がどの基準で算定されているか
- 入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料のうち、該当するものがすべて計上されているか
- 治療費、通院交通費、休業損害、逸失利益といった慰謝料以外の項目が抜けていないか
- 過失割合の根拠が示されているか
弁護士基準の算定表をどう読むかは、こちらの記事で解説しています。
交通事故の慰謝料に関するよくある質問
物損事故として届け出た場合、慰謝料は請求できますか
原則としてできません。慰謝料は身体への被害に対する補償なので、人身事故として届け出ている必要があります。ケガをしているなら、診断書を警察に提出して人身事故への切り替えを済ませてください。
治療中に示談を持ちかけられました。応じてよいでしょうか
治療が終わっていない段階では、入通院慰謝料の額が確定していません。後遺障害が残るかどうかも分かりません。この時点で示談すると、その後の治療分や後遺障害分を請求できなくなります。治療を終え、必要なら等級認定を受けてから示談に進むのが順序です。
保険会社の提示が弁護士基準かどうか、自分で確かめられますか
弁護士基準の水準は、書籍として公表されている算定表で確認できます。ただ、表の読み方や、どの表を使うべきかの判断には慣れが要ります。下の計算ツールを使えば、おおよその見込みはつかめます。
任意保険基準で示談すると、何か不利がありますか
示談そのものは有効に成立します。ただ、弁護士基準との差額は、受け取れなかった額としてそのまま残ります。一度成立すると、後から差額を請求することはできません。
健康保険を使って治療を続けられますか
できます。相手方の保険会社が治療費の支払いを打ち切っても、健康保険に切り替えて通院を続けることは可能です。その分の治療費は、後から相手方に請求できます。第三者行為による傷病届を保険者に提出する必要があるので、手続きの方法を確認してください。
過失割合があると慰謝料はどうなりますか
慰謝料を含む損害額の合計に対して、被害者側の過失割合の分が差し引かれます。この調整を過失相殺と呼びます。慰謝料だけが対象外になることはありません。過失が2割なら、受け取れるのは損害額の8割です。
慰謝料に税金はかかりますか
交通事故の損害賠償として受け取る慰謝料には、原則として所得税がかかりません。逸失利益や休業損害も、同様に非課税として扱われるのが一般的です。
まとめ
交通事故の慰謝料は、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準という三つの物差しのどれで測るかによって、結論がまったく変わります。最も低いのが自賠責、最も高いのが弁護士基準。そして保険会社が自分から示してくる金額は、通常は低いほうの二つのどちらかです。
提示を受けたら、金額そのものより先に、それがどの基準によるものかを確かめてください。内訳を出してもらい、計算の形を見て、担当者に尋ねる。それだけで、判断の材料はかなり集まります。
そして、弁護士基準で算定された額を受け取るには、多くの場合、弁護士が交渉に入る必要があります。費用が気になるなら、まず弁護士費用特約の有無を確かめてみてください。取りこぼしを防ぐ最初の一歩は、そこにあります。
あなたの慰謝料はいくら?3基準で比較診断
自賠責基準
¥120,000
任意保険基準
¥150,000
弁護士基準
¥530,000
※ 簡易計算です。実際の金額は治療実日数・後遺障害の有無・休業損害などにより異なります。任意保険基準は各社非公開のため業界平均値で算出しています。
