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不動産オーナーが知っておくべき「民事調停」の基礎知識
この記事で分かること
- 調停では当事者間での合意による解決を目指す
- 賃料増減請求では訴訟の前に調停が必要
- 民事調停には様々なメリットがある
- 民事調停の手続きは簡単にできる
- 調停を行うか、訴訟を行うかは弁護士に相談することが重要
不動産オーナーが巻き込まれるトラブルを解決するために、民事調停が重要になる場合もあります。調停の概要や、メリット、手続きの方法は、不動産オーナーの方が知っておくと役立つ内容です。
目次[非表示]
調停とはどのような制度?
調停には、離婚や相続などの家庭内のトラブルを扱う「家事調停」と、第三者とのトラブルなどを扱う「民事調停」の2つに分かれます。「家事調停」では財産分与や遺産分割で、不動産を所有している場合に不動産が関わってきますが、「民事調停」では賃料や敷金などに関する不動産全般に関する問題が対象となります。
裁判では、双方の主張や証拠などをもとにして裁判官が判決を下しますが、調停では「調停委員」がそれぞれの言い分を聞いた上で、当事者の歩み寄りを促すことで、当事者間の合意によって解決を目指すことになります。手続きが簡単で短い期間で済むことや、当事者間の合意を目標としますので、裁判と比べて円満に解決できる可能性が高まることがメリットになります。
不動産関連トラブルで調停が利用される場合とは?
まずは、不動産オーナーが関わる可能性の高い不動産トラブルで、調停が利用されるのはどのような場合であるかについて説明します。
賃料増減請求は訴訟の前に調停が必要
賃貸借契約をしている際に、土地・建物の価格の変動や、税制面などのさまざまな経済事情によって、周囲の賃料と比較して不適当と思われる家賃になってしまう場合や、不動産の相続や売買が行われて賃貸人が変わり、賃料をより適正な価格にしたいと考える場合などがあります。
そのような場合には、賃料の増額や減額を請求することができます。しかし、不動産オーナーが増額したいと考えて請求を行ったとしても、賃借人には増額を納得してもらえないことも多く、紛争にまで発展してしまう場合もあります。
賃料の増減でもめた場合に、すぐに裁判で決定して欲しいと考える場合もあると思いますが、賃料増減請求は「調停前置主義」がとられており、すぐに裁判に持ち込むことは出来ず、まずは調停を申し立てなければなりません。
そのため、賃料の増額・減額請求で紛争になった場合には、一部例外の場合を除いて、いきなり裁判で判決を出してもらうことはできず、まずは調停を行い専門家を交えた話し合いでの解決を図っていくことになります。
調停で取り扱われる主な不動産トラブル
賃料の増額や減額についてのトラブルは、訴訟前に調停を申し立てるように定められていましたが、その他の不動産トラブルでも調停が用いられる場合があります。
平成28年に裁判所が受け付けた民事調停の11.1%は不動産関連となっており、一般的に調停が用いられているイメージのある交通事故の割合が6.8%となっていますので、不動産関連の11.1%という数字は、調停が用いられている件数が一定数あることを示していると言えます。
調停で取り扱われる主な、不動産トラブルを紹介します。
- 土地、建物の登記についてのトラブル
- 売買代金や請負代金についてのトラブル
- 建物、部屋の明渡しについてのトラブル
- 家賃、地代の未払いの問題についてのトラブル
- 敷金返還の問題についてのトラブル
これらのトラブルは裁判で解決することもできますが、次で紹介するメリットやデメリットを考慮して、調停を行うかどうかを考える必要があります。
不動産トラブルで調停を利用する5つのメリット
ここでは、不動産オーナーが、不動産トラブルにまきこまれた場合に、裁判ではなく民事調停を利用するメリットを5つ紹介します。
円満な解決を目指すことができる
民事調停では、トラブルの当事者同士で話し合いを行い、お互いの合意による解決を目的としています。そのため、法律や判例に基づいた判決が行われる裁判と比べて、トラブルの状況に応じた円満な解決を目指すことができます。
上でも紹介しましたが、実際に、トラブルが解決した後でも関係が続くような、離婚や相続に関する紛争では、裁判前に調停が必要とされています。不動産関連で調停前置主義がとられている家賃の増額・減額についても、借主と貸主は家賃変動後も付き合いが続くと考えられます。
安く、早く解決できる
民事調停にかかる費用は、裁判費用よりも低額で、原則本人が出席することになるため弁護士費用もかかりません。調停後の訴訟を前提としているような場合には、弁護士が代理出席することもありますので、事前に弁護士への無料相談などを活用するのも有効と言えます。
当事者間の話し合いとはいえ、調停委員が間に入りポイントを絞った話し合いを行うため、2、3か月程度で調停が成立し、解決することを見込むことができます。
簡単な手続きで利用できる
裁判は弁護士などが代理となって行うことがほとんどであり、訴訟に必要となる書類を当事者である不動産オーナーなどが用意するというのは極めて困難です。
一方、民事調停は、一般の当事者が利用する前提で設けられている制度のため、簡易裁判所の窓口で手続きについての案内を受けることができたり、備え付けられているパンフレットや、パターン別に分かれた申立書を利用したりすることができ、法律の知識がなくても利用することができます。
民事調停の利用方法については後程詳しく説明をします。
非公開で行われる
民事調停は非公開で行われるため、他の関係者などに知られたくないようなことなども話すことができます。調停委員も当然ですが守秘義務があるため、調停中に知った情報を他の人に話すこともありません。
裁判ですと、原則的に公開されており、誰でも法廷で傍聴を行うことができますので、裁判中に話したことが他の人に知られてしまう可能性もあります。例えば、家賃の増額減額についても、もとの金額などを他の借主に知られたくないということも考えられますので、非公開であることは調停の大きなメリットと言えます。
判決と同じ効力がある
ここまでで4つのメリットを紹介してきましたが、もっとも大きなメリットは、調停が成立すると裁判と同じ効力を持つということです。
調停が成立すると、当事者同士が合意した内容が裁判所書記官によって「調停調書」としてまとめられ、判決と同等の効力を持つことになります。そのため、調停調書でまとめられた内容に従わないような場合には、資産の差し押さえなどの強制執行を申し立てることができます。
- 1.円満な解決を目指すことができる
- 2.安く、早く解決できる
- 3.簡単な手続きで利用できる
- 4.非公開で行われる
- 5.判決と同じ効力がある
ただ、民事調停をしても合意にいたるとは限りませんので、調停を行う前には裁判も見据えて弁護士に相談をしておいた方がよい場合もあります。
不動産についての民事調停はどのように進むの?
最後に、実際に不動産オーナーなどが民事調停をしようと考えた場合、どのような流れで民事調停の手続きが進んでいくかについて説明します。
調停を申し立てる
不動産オーナーが民事調停を行いたいと考えた場合には、まず民事調停の申立書を提出する必要があります。
民事調停の申立書は、トラブルごとに定型書式が作られており、不動産トラブルでは「賃料等調停」、「建物明渡調停」の定型書式があります。これらの書式は、裁判所のホームページからPDFをダウンロードすることができます(民事調停で使う書式|裁判所)。例えば、賃料の不払いによる建物明渡調停であれば、申立ての趣旨や賃貸借契約の内容、賃料が未納になっている期間などを記載することになります。
調停の申立書を作成するにあたっては、申立書の記入例もありますし、簡易裁判所の窓口に行って案内を受けることもできますので、一般の方でも比較的簡単に自分で申立てを行うことを行うことができます。
調停委員の指名が行われる
民事調停を行う際には、裁判官1名と調停委員2名以上で「調停委員会」を構成して手続きを進めていきます。この調停委員は民間から選ばれるのですが、様々な法律問題に対応するために、幅広い知識と経験、あるいは専門的な知識を持つ人が迎えられています。
調停委員として選ばれる不動産に関連する専門家としては、不動産鑑定士、税理士、司法書士、建築士などがあげられます。不動産トラブルにおける民事調停では、これらの不動産関連などに幅広い知識と経験を持つ調停委員が専門家として意見を発する場合もあります。
調停では、一般市民としての知識と経験を持つ調停委員と、法律の専門家である裁判官が協力しながら、法律のみではなく、一般的な感覚に合うような解決を図ることになります。
調停期日の決定と、相手への通知がされる
調停委員会が構成された後には、初回の話し合いを行う日時である「調停期日」が決められます。調停期日が決まると、調停の相手方に通知書が届くことになります。
ここで相手側も、調停期日の前に、事情などを書面で説明することができます。また、調停を申し立てられたことを知って、今までは話し合いに応じてこなかった相手であっても、話し合いを求めてくるようなケースもあります。
調停の話し合いが行われる
調停の手続きは裁判所で行われますが、法廷ではなく、調停室で行われます。調停では、調停委員と裁判官から構成される「調停委員会」が、当事者の話を中立の立場でよく聞いた上で、一般的に妥当と考えられる解決策を提示するなどします。
ただし、調停委員会は解決策の提示をするなどのアドバイスは行いますが、強制的に解決策を決めることはできませんので、あくまでも当事者間の合意ができるように導くことになります。
多くの場合は、2、3回の調停期日が設けられ、3か月程度かけて結論を出すことになります。また、当事者が顔を合わせたくないような場合には、交互に調停室に入って調停を進めていくことも可能です。
調停の終了
調停期日に行われた話し合いの結果、当事者双方が合意できた場合には、調停は成立となります。調停が成立した場合には、合意内容が「調停調書」としてまとめられ、裁判の判決と同じ効力を持つことになります。
一方で、意見が最後まで合わずに、これ以上話し合っても合意が見込めないような場合には、調停は不成立となり、調停手続きは終了となります。このような場合でも、裁判所の判断を決定として示すこともあり、双方から2週間以内に異議申し立てがない場合には、この決定が確定され判決と同じ効力を持つことになります。決定に異議申し立てがあった場合や、調停が不成立で終わった場合には、訴訟手続きに進むことも可能です。
- 1.調停の申し立て
- 2.調停委員の指名
- 3.調停期日の決定
- 4.相手への通知
- 5.調停期日
- 6.調停の終了
調停の手続きは、申立書の作成が多少難しいですが、一般の人でもできるようになっています。不動産トラブルに巻き込まれてしまった場合には、解決のための選択肢として「民事調停」もあることを覚えておくと良いでしょう。
不動産トラブルは弁護士に相談しましょう!
調停手続き自体は、法律の知識が必ずしも必要ありませんので、一般の方でも進めることができます。しかし、調停を行うか、訴訟を行うか、それとも他の方法で対応するかなど、不動産トラブルを解決するためには、法律の専門的なアドバイスが必要になります。
今後の不動産トラブルを予防するためにも、不動産オーナーには気軽にアドバイスを受けることのできる、不動産に強い弁護士が必要になりますので、まずは弁護士への相談を行うことをおすすめします。
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