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敷金(保証金)返還をめぐるトラブルとその対処法
この記事で分かること
- 敷金(保証金)とは担保のための預り金であり、原状回復にかかる費用以外は返還をすることが前提である
- 敷金(保証金)をめぐるトラブルの原因は、「原状回復の範囲」の捉え方による返還額に関するものが多い
- 敷金(保証金)返還をめぐるトラブルとなった場合は、速やかに弁護士などの専門家に相談しよう
賃貸物件の敷金(保証金)返還をめぐるトラブルは、双方の主張が対立し、清算するまでに時間が長くかかる可能性があります。この記事では、敷金(保証金)の内容と、トラブルになった際の具体的な対処法、未然にトラブルを防ぐ方法について解説します。
敷金(保証金)について知ってトラブルを防ごう
賃貸物件の入居時に、初期費用として「敷金」もしくは「保証金」などを貸主に支払った経験はありませんか? 敷金をめぐるトラブルを防ぐためには、まず、敷金(保証金)について知っておく必要があります。
敷金(保証金)とは
国土交通省住宅局がまとめた平成29年度住宅市場動向調査報告書によれば、物件を賃貸借する契約を行う際に、敷金(保証金)があったという世帯は、61.3%にのぼるという結果が出ています。
敷金(保証金)の定義
敷金(保証金)は、これまで民法に記載がなく、判例の中で認められてきたものです。しかし、平成29年5月26日に民法の一部を改正する法律が成立し、ようやく敷金が法律に記載されることとなりました。
改正法律では、敷金とは「いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されています。簡単にいえば、敷金という名前にこだわらず、賃貸物件の借主が支払うべきお金(毎月の賃料や原状回復の費用など)を支払わない場合に備えて担保とするお金のことをいいます。つまり、いざという時の「担保のためのお金」なので、賃貸物件の貸主は単にお金を預かっていることになります。
なお、入居時に支払う「礼金」とは全く性質が異なります。礼金の場合は、賃貸物件を借りる人が謝礼として支払うお金なので、返還されません。ちなみに、敷金(保証金)や礼金などは、貸主が設定することができ、貸主側が敷金を不要とした場合は、支払う必要もありません。ただ、その場合はあとで修繕費用を請求されることもあります。
返還の時期
敷金(保証金)の返還の時期について、改正法律では、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と明記されています。具体的には、賃貸物件の契約が終了して、通常の流れであれば、貸主もしくは管理会社が立ち合いのもと、賃貸物件を確認して明け渡しをしたときです。実情は明け渡しから1ヵ月前後で返還されている場合が多いようです。ただし、賃貸借契約の内容に、特別な記載があれば、その限りではありません。
敷金(保証金)返還をめぐるトラブルとは
それでは、どうして敷金(保証金)をめぐるトラブルが起きるのでしょうか。多くは敷金(保証金)の返還の段階でトラブルが起こります。ここでは具体的なトラブルの原因と実際に起きた事例を解説します。
敷金(保証金)返還をめぐるトラブルの原因
国土交通省住宅局がまとめた平成29年度住宅市場動向調査報告書によれば、賃貸住宅(普通借家)に関して困った経験としては、契約時については、「敷金・ 礼金などの金銭負担」が50.8%。また、退去時については、「修繕費用の不明朗な請求」が22.1%、 次いで「家賃、敷金の清算」が 17.9%と、いずれも、契約時、退去時ともに、敷金(保証金)をめぐる事柄が1位となっています。
返還される金額とは
敷金(保証金)をめぐるトラブルの主な原因は、返還される金額にあります。預り金だからといって、敷金(保証金)は全額返還されると決まっているわけではありません。敷金(保証金)は、「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務」を担保するお金なので、借主がお金を支払わなければならない場合は、敷金(保証金)から差し引かれます。
具体的には、以下の2つの場合が想定されます。
- 家賃を滞納している場合の賃料
- 原状回復にかかる費用
原状回復の範囲とは
借主は「原状回復義務」を負います。これは、賃貸物件を引き渡された時点以降で、賃貸物件に生じた「損傷」があれば、借主が元に戻さなければならないという原則です。
通常の使用及び収益によって生じた賃貸物件の損耗やその経年変化は「損傷」には含まれません。また、「損傷」があっても借主側に原因がない場合には元に戻さなくてもいいのです。しかし実際は、どのような「損傷」であれば借主側の負担になるのか、貸主側の負担になるのかが明確ではありません。「損傷」に該当するかどうかで争いが起きるのです。
敷金(保証金)返還をめぐるトラブルの具体例
ここでは、敷金(保証金)返還をめぐる具体的なトラブルをご紹介します。
借主側からみたトラブル
借主側からは、敷金(保証金)の返還額に対する不満が挙げられます。
- 賃貸物件を通常に使用して「損傷」もないと思っていたが、後日、敷金(保証金)は壁の張り替えなどの代金に充てられ、返還されなかった
- 敷金(保証金)以上の修繕費用を請求されたが、内訳が不明瞭で身に覚えがない
もともとの賃貸物件の状態や、賃貸期間などの具体的な事情により結果は異なります。「通常損耗」とは賃借人の通常の使用により生ずる賃借物の損耗、「経年変化」とは年数を経ることによる賃借物の自然的な劣化または損耗を意味します。
例えば、家具の設置によって床のカーペットが若干へこんだケースは、「通常損耗」にあたると考えられます。住む際に家具が一切ないなどとは考えられないからです。さらに、新築の物件を借りたとしても、年月が経てば、真っ白な壁も少しは色がくすむでしょうし、畳が擦り切れることもあるでしょう。このように、日照等による床や壁紙の変色などは「経年変化」にあたると考えられます。
一方で、喫煙によるたばこのやに、ペットにつけられた傷などは、「通常損耗」にも「経年変化」にも該当しないと考えられています。借主の不注意で雨水が入って床板が腐った場合なども同じです。
貸主側からみたトラブル
貸主側からは、敷金(保証金)を上回る修繕費用に対する不満が挙げられます。
- 夜逃げ同然に知らぬ間に退去され、家具やゴミはそのまま放置。敷金以上の修繕費用がかかったが、連絡がつかず泣き寝入りとなった
- 入居時の初期費用を少なくしようという善意から敷金(保証金)を設定しておらず、退去の際に修繕費用を請求したが払ってくれない
「損傷」の原因が借主側にある場合は、元に戻す費用を請求でき、敷金(保証金)から差し引くことができます。例えば、借主が正当な理由なく意図的に賃貸物件の一部を破損するケースや、借主が適切な汚れ防止の措置をせずに室内を汚したケースは、借主は元に戻さなければなりません。そのための費用を貸主は請求できます。
敷金(保証金)返還をめぐるトラブルの対処法
ここでは、敷金(保証金)返還をめぐってトラブルとなった場合の対処法、またトラブルを未然に防ぐ方法も併せて解説します。
敷金(保証金)返還をめぐるトラブルになった場合の対処法
敷金(保証金)返還をめぐるトラブルになった場合は大きく2つの方法があります。どちらを取るにしろ、専門的な知識が必要になるので、弁護士などの専門家に相談することが解決の第一歩といえます。適切なアドバイスを受けることも、交渉や訴訟を依頼することも可能です。
直接交渉
一つめの方法として、相手側に直接交渉することが考えられます。敷金(保証金)の金額の交渉や、借主からすれば敷金(保証金)を返還してほしい、貸主からすれば修繕費用を支払ってほしいなど、それぞれの言い分を相手側に伝えて交渉しましょう。場合によっては内容証明郵便で相手側に伝えることも必要です。交渉の方法なども専門的な分野となりますので、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
少額訴訟
2つめの方法として、交渉が決裂した場合に訴訟が考えられます。この場合、請求の金額が60万円以下であれば、少額訴訟として、通常の裁判よりも簡易な手続きで行うことができます。原則1回で判決が出るものなので、素早い解決が期待できます。
少額訴訟も訴訟の一種なので、訴状が必要です。専門的な知識が必要となるので、弁護士などの専門家への依頼も検討する必要があります。
敷金(保証金)返還のトラブルを未然に防ぐ方法
トラブル後の処理のことを考えれば、なんとしても事前にトラブルを回避したいものです。トラブルを未然に防ぐためには、どのようなことに気を付けなければいけないのか、3つの段階に分けて説明します。
契約時の注意点
契約の際は、賃貸借契約書をよく読んで理解することが重要です。見落としたとしても、署名、捺印すれば、その契約書に同意したことになるので注意が必要です。とくに、民法には「契約自由の原則」というものがあり、敷金(保証金)の返還の割合や、返還時期を半年後とするなどの特約も、権利濫用などと判断されない限り、当事者が認めれば可能です。
ですから、契約書の全ての内容に目を通し、気になれば、必ず確認をすることが重要です。注意すべき事項は以下となります。
- 敷金(保証金)が差し引かれる場合の内容
- 敷金(保証金)の返還時期
- 敷金(保証金)の振り込み手数料の負担
例えば、ハウスクリーニング代金は、貸主が次の契約者のために行うものであるため、通常は貸主負担と解されますが、特約で敷金(保証金)に含まれている場合があります。
入居時の注意点
入居の際は、家具などの荷物の搬入の前に、必ず賃貸物件を細かくチェックしましょう。床や壁、天井、窓など部屋全体、また設備関係、水回りの部分も要注意です。
入念にチェックし、汚れている、傷がある、壊れているなどの不備があった場合は、写真を撮って記録に残しましょう。先に貸主や管理会社に連絡をしておけば、退去の際に、借主側の原因で「損傷」したと揉める心配もありません。
賃貸物件の「損傷」が入居前からなのか、入居後なのかを明確にすることが大切です。
退去時の注意点
退去の際は、通常、両者の立ち合いが行われます。退去立ち会いとは「契約終了時に荷物を撤去した後、貸主・借主が、建物に「損傷」がないかを双方で確認し合う行為」のことです。貸主側は貸主もしくは管理会社の社員が立ち会うことが通常です。その際に以下を確認しておくことをお勧めします。
- 賃貸物件の現状の査定(通常損耗、経年劣化にあたるか、「損傷」にあたるか)
- 修繕費用の有無
- 敷金(保証金)の返還額
- 返還方法(振り込みか)と返還時期
- 返還されない場合に連絡できる窓口(連絡先)
また、予め交渉が難航しそうだと予想される場合は、弁護士などの専門家に相談して見積もりを立てておくこと、もしくは「敷金鑑定士」のような第三者的立場の人間に同行してもらうことも選択肢の一つです。
敷金(保証金)返還のトラブルは弁護士に相談しよう
敷金(保証金)の金額は家賃の1ヵ月、もしくは2ヵ月が相場で、決して少ない金額ではありません。敷金(保証金)返還は、金額をめぐってのトラブルがほとんどです。借主、貸主ともに双方の言い分があるため、交渉は長引く可能性もあります。
敷金(保証金)という特殊な分野では、専門的な知識が必要となります。早期に解決するには、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
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