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窃盗事件と強盗事件の違いとは?罪となる強盗罪の構成要件

この記事で分かること

  • 強盗罪は相手の財物を暴行や強迫を用いて奪うときに成立します。
  • 強盗罪の暴行や強迫は相手の反抗を抑圧する程度である必要があります。
  • 窃盗罪は相手の財物をこっそり盗むことであり、そこに暴行や強迫はありません。

強盗は窃盗と違い、物を奪うときに被害者の暴行や強迫が伴います。一項強盗と二項強盗があり、財物や利益を不法に奪います。強盗罪には様々な種類があり、それぞれ法定刑が異なりますが、どれも非常に重い刑罰になっています。

強盗罪とは何か

強盗罪(刑法、以下法令名なき時は同法、236条)は、暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取する罪で、5年以上の有期懲役に処せられます。また、暴行または脅迫をして、財産上の不当な利益を得たり、他人に得させたりした場合も同様の罪になります。

有期懲役とは、1ヶ月から20年と定められているため、強盗罪の場合は、5年から20年の懲役ということになります。

強盗罪には「一項強盗」「二項強盗」の2種類があります。

一項強盗とは、暴行又は脅迫をして、他人の財物を強取する強盗罪です。
二項強盗とは、暴行又は脅迫をして、本来はお金を払うべきサービスを不法に受けたり、人に受けさせたりする強盗罪です。

強盗罪の構成要件

暴行又は脅迫の程度は、「相手の反抗を抑圧するに足りるもの」です。これは犯人と被害者の性別や年齢、周囲の状況、凶器の有無等の総合的な判断が必要になります。あくまでも客観的に被害者の犯行を抑圧するに足りるかどうかであり、相手が実際に抑圧されたか否かは問わないというのが判例(最判昭和24年2月8日)の考え方です。

強取の態様は広く解釈

財物を奪い取る強取の態様は幅広く解釈されます。
無理やり奪い取ることだけでなく、反抗を抑圧された被害者が知らないうちに財物を奪われた場合や(最判昭和23年12月24日)、または被害者が財物を置いて逃げた後に、それを取得した場合(名古屋高昭和23年3月4日)も強取されたと判断されています。そうした例から、強取とは「相手方の自由意思に基づかない占有の移転」と考えてよいでしょう。

財産上不法の利益とは、1項強盗の財物以外のすべての財産上の利益を指します。典型的なものに債務の免除や履行期の延長などがあります。

事後強盗

事後強盗(238条)は準強盗罪と呼ばれるもので、①窃盗が、②財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、③暴行又は脅迫をしたときに、強盗罪と同じ5年以上の有期懲役刑で処されるものです。

事後強盗の暴行・脅迫は、財物を取り返されるのを防ぐため、もしくは逮捕を免れ又は罪跡を隠滅するために行われたもののことを言います。そうなると財物の取得した場面と、暴行・脅迫の場面での時間的場所的状況や、状況の継続性、関連性の判断が必要になります。

昏睡強盗

昏睡強盗も事後強盗と同じく、準強盗罪と呼ばれるものです。罪の構成要件は、①人を昏睡させて、②その財物を盗取したこと、で、法定刑は強盗罪と同じです。

昏睡とは、意識作用に一時的、継続的に障害を与えることを指します。具体的には睡眠薬や麻酔薬、あるいは大量のアルコールなどが想定されています。相手を殴って失神させた場合は、暴行の結果昏睡したのであり、暴行が強盗のための手段ですから、そのような場合は強盗罪が成立することになります。

ワンポイントアドバイス
強盗罪は5年以上の有期懲役という非常に重たい刑事罰が科せられます。執行猶予が認められるのは、3年以下の懲役刑なので、強盗罪に執行猶予は認められないことになります。保釈についても強盗罪は対象外です。

窃盗と強盗の違いとは

窃盗と強盗は、他人の財物を奪う罪として、似ている部分があります。特に事後強盗の場合は、窃盗なのか強盗なのか判断が難しい場合があります。事後強盗は既述したように「窃盗」が主体になりますから、窃盗との関連は深くなります。

窃盗罪とは

窃盗罪とは他人の財物をこっそりと盗む罪で、窃盗罪の場合、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
窃盗罪と強盗罪の大きな違いは、同じ財物を盗む行為に暴力や強迫があったかどうかです。空き巣や万引きなどの窃盗は被害者に見つからないようにこっそり盗みを働くため、そこに暴力や強迫はなく、比較的軽微な事件の場合は逮捕されても身柄は拘束されないことがあります。一方、強盗は暴力や強迫を伴い、被害者から財物を奪い取る、または奪いとろうとするもので、逮捕されればほとんどの場合、勾留されます。

また、窃盗罪であれば不起訴や執行猶予、保釈が考えられますが、強盗罪では不起訴や執行猶予はなく、保釈も認められていません。

スーパーマーケットの万引きを捕まえる警備員の活躍を扱ったドキュメンタリー番組を見たことはありませんか。万引き=窃盗で、窃盗犯が逮捕を免れようとして警備員に暴行を加えた場合は通常、事後強盗罪が成立します。以前、その手の番組で窃盗犯が自分の車に乗り込んで逃げようとした時に、警備員が発車させないように車の前を塞ぐというシーンが放送されました。その時に警備員は車を動かそうとする窃盗犯に対して「エンジンを切りなさい。そうしないと相当、罪が重くなるよ」と警告したのですが、それはまさに懲役10年以下、罰金刑もある窃盗罪から、懲役5年以上の事後強盗罪、警備員がケガをすれば無期又は6年以上の懲役の強盗致傷罪になることを指しているわけです。このように万引きが事後強盗(致傷)となる例は少なくありません。

現実は軽傷なら窃盗+傷害の処理も

窃盗罪において暴行があった場合でも、相手の反抗を抑圧するレベルに達していなければ、窃盗罪だけで起訴となります。また、警備員が傷害を負った場合でも、仮に暴行が反抗を抑圧する程度なのか微妙な状況であり、傷害の程度が軽微で態様も悪質でないなどの事情があれば窃盗と傷害(204条)の観念的競合(54条1項前段)での起訴になることもあるようです。

窃盗未遂でも事後強盗の主体に

窃盗と事後強盗の分岐点は財物取得と暴行・脅迫の関連性で問題となります。

事後強盗の暴行・脅迫は財物を取り返されるのを防ぐ、もしくは逮捕を免れ又は罪跡を隠滅するために行われるものです。これらが特に時間的場所的近接性がない場合、つまり「窃盗の機会」に行われたかどうか、難しい判断を迫られることがあります。以下、代表的な例を見てみましょう。

2つの判例で分かれた窃盗と事後強盗その1

まずは窃盗の機会に暴行・脅迫が行われなかった例です。

被告人は午後0時50分頃に被害者宅に侵入し財布などを窃取。数分後に外に出て自転車で約1キロ離れた公園へ行き、窃取した財布の中身を確認したところ3万円余しか入っていなかったために再度、被害者宅に引き返し午後1時20分頃に玄関を開けました。そこで家人がいることに気づき外に出ましたが、家の様子を不審に感じた家人に追いかけられ、逮捕を免れるためにナイフで脅して、その間に逃走したという事例です。原審は事後強盗罪の成立を認めました。しかし最高裁は事後強盗の成立を認めませんでした。「X1(被告人)は・・誰からも発見、追跡されることなく、いったん犯行現場を離れ、ある程度の時間を過ごしており、この間に、X1が被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕されうる状況はなくなったものというべきである。そうすると、X1がその後に再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても、その際に行われた上記脅迫が、窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない」(最判平成16年12月10日)としました。

2つの判例で分かれた窃盗と事後強盗その2

次は財物奪取から3時間後でも窃盗の機会が肯定された例です。

被告人X2は午後3時過ぎに被害者宅で指輪などを窃取しましたが、その後、外が寒いことなどから天井裏に数日間とどまろうと考えました。被害者が帰宅して家の中の様子が違うことに気づき、また、天井裏に人がいる気配がしたために警察に通報。午後6時10分にX2は天井裏に入ってきた警察官に対して逮捕を免れようとして刃物で切りつけて傷害を負わせました。最高裁は「窃盗の犯行後も、犯行現場の直近の場所にとどまり、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕されうる状況が継続していたのであるから、上記暴行は、窃盗の機会の継続中に行われたものというべきである」(最決平成14年2月14日)として事後強盗の成立を認めました。

暴行・脅迫後に財物奪取の意思

窃盗の機会に暴行・脅迫を行なった場合、事後強盗罪が成立します。では、暴行・脅迫の後に財物を奪おうと思ったとしたらどうなるのでしょうか。

反抗抑圧後の財物奪取

財物を奪うつもりがなくて、被害者を暴行・脅迫し、反抗を抑圧した後に財物を奪い取った場合、財物奪取に向けて新たな暴行・脅迫があったとすれば、全体として1つの強盗罪が成立する可能性があります。

もし、新たな暴行・脅迫がない場合には、①暴行罪・脅迫罪と窃盗罪が成立すると考えるか、②当初から財物奪取の意思を持っていたのと同じことなので、強盗罪が成立すると考えるかになります。

下級審を含め判例で見ると、当初から財物奪取の意思を持っていたのと同じとすることが多いようです。

典型例として強姦目的で暴行・脅迫を加え、反抗を抑圧した後に金銭を奪う犯行が挙げられ、そのような場合には強盗罪の成立を認めている例が目につきます(最判昭和24年12月24日)。

ワンポイントアドバイス
強姦目的で暴行し、その後に財物を奪った事件では、結果的に強姦罪(177条)と強盗罪の併合罪(45条)となりました。

罪が重たくなった強盗罪とは

強盗によって被害者にケガを負わせたり、もしくは死に至らしめたりした場合は強盗致死傷罪が成立します。

強盗致死傷罪(240条)の構成要件は①強盗が、②人を負傷させたとき、もしくは❶強盗が、❷人を死亡させたとき、です。法定刑は無期又は6年以上の懲役(強盗致傷)で、もし被害者を死亡させた時は死刑又は無期懲役と、極めて厳しいものになっています。

強盗致死罪は、結果的加重犯としての強盗致死罪はもちろん、殺意を持って被害者を殺害する強盗殺人罪も含みます(最判昭和23年11月4日)。

強盗強姦及び同致死

強盗強姦罪という極めて悪質な犯罪について、その詳細を見ていきましょう。

強盗強姦罪の構成要件は①強盗が②女子を強姦することです。強盗強姦致死罪は③よって女子を死亡させた時、です。

法定刑は強盗強姦罪が無期又は7年以上の懲役です。致死の結果が生じた場合は死刑又は無期懲役です。強盗強姦罪に傷害を負わせた場合の規定はありません。

強盗又は強盗未遂が強姦より先行が条件

強盗強姦罪は強盗が先行しなければなりません。前出の最判昭和24年12月24日は、強姦の後に財物を奪取した事案で、強盗強姦罪の成立を認めた原審を破棄して、強盗罪と強姦罪の併合罪としています。「強盗強姦罪は強盗罪と強姦罪との結合犯であるから、強姦罪と強盗罪に該当する行為とが同一機会に行はれさえすれば強盗強姦罪を構成するというのであれば、それは結合犯の概念を正解しないものと云うの外なく到底採用に値しない」と原審を厳しく非難する判決となっています。

強盗犯人が強姦して殺害した場合

強盗強姦致死罪は「よって女子を死亡させた」という結果的加重犯を規定しています。

強盗致死(240条)の「死亡させたとき」とは異なります。そのため、強盗強姦致死罪は結果的加重犯の場合のみ適用されます。最初から殺意を持っていた場合には強盗強姦罪と強盗殺人罪の観念的競合になります(最判昭和33年6月24日)。

強盗予備罪とは

強盗罪には予備罪が規定されています。強盗の危険性等を考慮して予防効果を狙っての規定と言えます。

強盗予備罪の構成要件は、①強盗の罪を犯す目的で、②予備をすること、です。法定刑は2年以下の懲役です。予備とは単なる計画では足らず、強盗の決意を外部に表す行為を必要とします。

強盗の予備をした者がさらに強盗の実行をした場合、予備罪は強盗罪や強盗未遂罪に吸収されます。

ワンポイントアドバイス
恐喝罪も暴行や強迫をして相手の財物を奪う点は強盗罪と似ていますが、その犯行が相手の犯行を抑圧する程度のものかどうかで違いがあります。暴行、脅迫はあったものの、犯行を抑圧する程度のものでなければ、強盗罪ではなく恐喝罪になるとされています。

強盗罪は罪が重いからこそ弁護士に相談

強盗罪は、非常に罪が重く不起訴はありません。重い罪だからこそ、すぐに弁護士を依頼することが重要です。弁護士が被害者に対して謝罪し深く反省している気持ちを被害者に示し、示談交渉することもできます。
刑事事件では逮捕直後から、弁護士を依頼できます。できるだけ、早い段階で、弁護士を依頼し、今後の行動について相談することをおすすめします。

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