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電車の中、ショッピングモール、更衣室。盗撮の被害は、私たちのすぐ身近で起きています。スマートフォンの普及で、誰もが手軽に撮影できるようになった今、盗撮事件は深刻な社会問題となっています。
盗撮は、軽い気持ちで手を出してしまう人がいる一方で、いったん逮捕されれば、前科がついたり職を失ったりと、その後の人生に大きな影響を及ぼします。また、混雑した場所で、身に覚えがないのに疑われる冤罪のリスクもあります。
この記事では、盗撮がどんな法律で取り締まられるのか、2023年に新設された撮影罪、どんな行為が盗撮にあたるのか、逮捕された後の流れ、そして前科を避けるために何が重要なのかを、わかりやすく解説します。盗撮は、被害者に深刻な被害を与える、決して軽くない犯罪です。万一のときに適切に対応できるよう、正しい知識を持っておきましょう。
盗撮を取り締まる法律
盗撮は犯罪です。でも、長らく「盗撮罪」という単一の罪は存在せず、状況によって適用される法律が変わるという、わかりにくい状態が続いていました。主に3つの法律が関わってきます。それぞれの内容を、順に見ていきましょう。
多くのケースで適用される迷惑防止条例
盗撮で最もよく適用されるのが、各都道府県の迷惑防止条例です。たとえば東京都の場合、公衆便所や公衆浴場、更衣室、公共の場所や乗物などで、通常は衣服で隠されている下着や身体を、カメラなどで撮影する行為が禁じられています。
違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。常習の場合は、さらに重く、2年以下の懲役または100万円以下の罰金です。なお、撮影しようとしてカメラを差し向けたり、設置したりする行為も処罰の対象になります。実際に撮影できていなくても、罪に問われる可能性があるのです。
個人宅などでの盗撮は軽犯罪法
迷惑防止条例が対象とするのは、主に公共の場所での盗撮です。個人宅は公共の場所ではないので、迷惑防止条例は適用されません。では、個人宅をのぞいたり盗撮したりした場合はどうなるのでしょうか。この場合、軽犯罪法が適用されるのが一般的です。
軽犯罪法には、盗撮そのものを処罰する規定はありません。ただ、正当な理由なく、人の住居や浴場、更衣場、便所など、通常は衣服をつけない場所をひそかにのぞき見た者を、拘留または科料に処すると定めています。個人宅の中をのぞいたり盗撮したりした場合は、この規定で処罰されることになります。軽犯罪法について詳しくは、をご覧ください。
住居侵入罪も成立することがある
盗撮の目的で他人の家や敷地に入った場合は、住居侵入罪(刑法130条)も成立します。これは3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
たとえば、盗撮目的で他人の住居に立ち入り、入浴中を盗撮したとします。この場合、住居侵入罪と軽犯罪法違反の両方にあたり、重いほうの住居侵入罪で処罰されることになります。住居侵入罪について詳しくは、で解説しています。
盗撮はなぜ起きるのか、その背景
盗撮は、なぜこれほど増えているのでしょうか。背景には、いくつかの要因があります。一つは、スマートフォンの普及です。誰もが高性能なカメラを常に持ち歩くようになり、撮影のハードルが下がりました。シャッター音を消すアプリや、小型のカメラ機器など、盗撮を容易にする道具が出回っていることも、問題を深刻にしています。
また、盗撮を繰り返してしまう人の中には、自分の意思だけでは行動を抑えられない状態に陥っている人もいます。一度の出来心ではなく、衝動的に繰り返してしまうケースです。こうした場合、刑事手続きへの対応だけでなく、専門的な治療やカウンセリングが必要になることもあります。後で触れますが、再発防止に取り組む姿勢は、刑事処分においても考慮されます。
盗撮による被害は、その場限りで終わらないという深刻さがあります。撮影された画像が、本人の知らないところで保存され、拡散されるおそれがあるからです。一度インターネット上に流出した画像は、完全に削除することが極めて困難です。被害者は、長期にわたって不安を抱え続けることになります。盗撮が、被害者の尊厳を深く傷つける犯罪であることを、改めて認識する必要があります。
新しくできた「撮影罪」
盗撮をめぐっては、近年、大きな法改正がありました。2023年に、性的な姿態を撮影する行為を処罰する新しい法律ができたのです。いわゆる「撮影罪」(性的姿態等撮影罪)です。
これまで盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例で取り締まられてきました。でも、条例は地域ごとに内容が異なり、すき間も指摘されていました。そこで、全国共通のルールとして、撮影罪が新設されたのです。性的な部位や下着などを、正当な理由なく、ひそかに撮影する行為が処罰の対象になります。法定刑は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。従来の迷惑防止条例より重い刑が定められています。
この法改正により、盗撮に対する取り締まりは、より厳しくなりました。盗撮は決して軽く考えてよい犯罪ではない、ということが、法律の上でも明確になったと言えます。
児童が対象の場合は、罪が一気に重くなる
盗撮で特に注意が必要なのが、撮影の対象が18歳未満の児童だった場合です。この場合、罪が一気に重くなります。
児童を対象とした盗撮は、児童ポルノ禁止法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)に触れる可能性があります。児童ポルノ製造罪として、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。相手が児童かどうかで、処分の重さは大きく変わります。とくに、対象が低年齢の子どもである場合には、より厳しく処罰される傾向があります。児童ポルノに関する罪について詳しくは、をご覧ください。
場所による適用法律の違い
盗撮で適用される法律は、場所によって変わります。整理すると、次のようになります。
| 盗撮した場所 | 主に適用される法律 |
|---|---|
| 駅・電車・商業施設など公共の場所 | 各都道府県の迷惑防止条例 |
| 個人宅など私的な空間 | 軽犯罪法(のぞき見) |
| 盗撮目的で他人の家に侵入 | 住居侵入罪(より重い) |
| 対象が18歳未満の児童 | 児童ポルノ禁止法(より重い) |
そして、2023年に新設された撮影罪は、全国共通のルールとして、これらと並んで適用されます。どの法律が適用されるかで、罪の重さも変わってきます。自分がどの罪に問われているのかを正しく把握することが、適切な対応の第一歩になります。
こんな行為も盗撮にあたる
盗撮の被害が社会問題になる中で、取り締まりの基準は厳しくなる傾向があります。「これも盗撮になるの?」と思うようなケースでも、検挙されることがあります。具体的に見ていきましょう。
服の上から撮影しても盗撮になる
意外に思われるかもしれませんが、洋服の上から撮影した場合でも、盗撮として処罰された事例があります。
商業施設で、細身のズボンをはいた女性の腰のあたりを、背後から携帯電話で複数回撮影したという事案です。ズボンの上からの撮影なので、犯罪と言えるのかが争われました。一審は無罪でしたが、二審で逆転有罪となり、最高裁もこれを支持しました。下着が写っていなくても、社会通念上、性的な道義観念に反する行為であり、被害者を著しく羞恥させ、不安を覚えさせるものだと判断されたのです。この判決以降、服の上からの盗撮でも有罪とされる例が続いています。
カメラを仕込んだ手の込んだ盗撮
盗撮には、手の込んだ手口もあります。靴の中に小型カメラを仕込み、女性の背後からスカート内を盗撮する手口は、数多く摘発されています。また、バッグにカメラを仕込み、書店などで床に置いて撮影する手口もあります。
こうしたハイテク機器を使った盗撮は、見抜くのが難しいのが現状です。なお、盗撮用の小型カメラを仕込んだ靴を販売していた業者が、盗撮を手助けしたとして、迷惑防止条例違反のほう助罪で逮捕された事例もあります。盗撮に使われると認識したうえで販売していれば、売り手も罪に問われるのです。このように、盗撮の手口は年々巧妙になっており、それに対する取り締まりも、撮影する本人だけでなく、道具を提供する側にまで及んでいます。盗撮に関わる行為は、どんな立場であっても、罪に問われうるということを知っておく必要があります。
撮影データの所持・提供も罪になる
盗撮は、撮影する行為だけが問題になるのではありません。撮影したデータを保存し続けたり、他人に提供したり、インターネット上に公開したりする行為も、処罰の対象になります。
新設された撮影罪では、盗撮した画像を提供する行為や、不特定多数に提供する行為、保管する行為も処罰されます。盗撮した画像をインターネット上に拡散すれば、被害はさらに広がり、罪も重くなります。一度デジタルデータとして拡散された画像は、完全に削除することが極めて困難です。盗撮が、被害者に深刻で回復しがたい被害を与える犯罪であることを、改めて認識する必要があります。
盗撮で逮捕された後の流れ
盗撮は、比較的軽微な犯罪です。出来心でやってしまったのなら、真摯に反省し、前科をつけずに済ませたいと考えるのが普通でしょう。逮捕後、事件がどう進むのかを見ていきます。
多くは現行犯逮捕
盗撮で逮捕されるのは、多くが現行犯逮捕です。撮影している現場を被害者や周囲の人に見つかり、その場で取り押さえられるパターンです。スマートフォンの撮影履歴が、証拠として確認されることもあります。なお、その場では逃げられても、後日、防犯カメラの映像などから身元が特定され、逮捕されることもあります。
略式手続きで終わることが多い
盗撮の場合、軽微な犯罪のため、略式手続きがとられることが多くなっています。略式手続きとは、簡易裁判所が非公開で、書面審理だけで罰金などを科す手続きです。検察官が被疑者の同意を得たうえで請求し、100万円以下の罰金または科料が科されます。法廷に立たずに済むため、早期に事件から解放されます。ただし、略式命令であっても罰金の有罪判決であり、前科がつくことに変わりはありません。略式だから前科がつかない、というのは誤解です。逮捕後の手続きの全体像については、もあわせてご覧ください。
勾留される場合もある
盗撮でも、証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断されれば、勾留されることがあります。勾留されると、原則10日間、最大20日間も身柄を拘束される可能性があります。勾留の仕組みについては、で詳しく解説しています。
家族が逮捕されたときの対応
家族が盗撮で逮捕されると、残された家族も強い不安に襲われます。盗撮はデリケートな問題だけに、誰に相談していいか分からず、抱え込んでしまう方も少なくありません。
こうしたとき、まず取るべき行動は、弁護士への相談です。逮捕直後は、家族でも本人と面会できませんが、弁護士なら接見できます。弁護士に依頼すれば、本人の状況を確認し、今後の見通しを家族に伝えてもらえます。また、被害者との示談交渉も、弁護士が窓口となって進めます。家族が逮捕されたときの対応については、で詳しく解説しています。
再発防止への取り組みが、処分に影響する
盗撮、とくに繰り返してしまうケースでは、再発防止への取り組みが、刑事処分に影響することがあります。
前に触れたとおり、盗撮を繰り返す背景には、自分の意思だけでは抑えにくい問題が潜んでいることもあります。こうした場合、専門の医療機関での治療や、カウンセリングを受けることが、再発防止につながります。そして、こうした取り組みは、検察官の処分判断や、裁判での情状として、有利に考慮されることがあります。
単に「反省しています」と述べるだけでなく、具体的に再発防止に取り組んでいることを示せれば、より軽い処分につながる可能性が高まります。家族のサポートを得て、治療を受ける体制を整えることも重要です。弁護士は、こうした情状面の主張についても、サポートします。
盗撮で前科を避けるには、示談が重要
盗撮で逮捕されたとき、前科を避けるために最も重要なのが、被害者との示談です。なぜ示談が重要なのか、見ていきましょう。
示談が成立すると、不起訴になりやすい
盗撮で起訴するかどうかは、検察官の裁量で決まります。そして、被害者の感情は、その判断に大きな影響を与えます。示談は、被害者に謝罪し、損害を賠償し、許してもらうものです。盗撮のような軽微な犯罪では、示談が成立していれば、検察官が起訴しないことが多くなります。
逮捕直後の早い段階で被害者の許しを得られれば、微罪処分となり、検察官に送致されずに事件が終わる可能性もあります。検察官に送致されても、示談が成立していれば、初犯なら起訴猶予となる可能性が十分にあります。刑事事件における示談の重要性については、で詳しく解説しています。
示談は起訴前に成立させる
示談には、タイミングが重要です。検察官が起訴・不起訴を決めるまでに、示談を成立させる必要があります。いったん起訴されると、その後に示談しても、起訴を取り下げてもらうことはできないからです。だからこそ、盗撮で逮捕されたら、早い段階で弁護士に依頼し、被害者との交渉にあたってもらうことが、前科を避けることにつながります。
被害者が分からない場合の贖罪寄付
盗撮では、撮影データから複数の被害者の映像が見つかることもあり、被害者を特定できない場合があります。その場合は、示談交渉ができません。でも、あきらめる必要はありません。
こうした場合には、贖罪寄付という方法で、反省の意を示すことができます。贖罪寄付とは、罪を償うという意味で、弁護士会などの団体にお金を寄付することです。寄付をすると、その弁護士会が証明書を出してくれます。被害者と示談ができない場合でも、贖罪寄付によって反省を示せれば、起訴猶予になる可能性があります。実際に、過去にそうした事例も数多く見られています。
盗撮に関する、よくある疑問
盗撮で逮捕されたら、会社にばれますか
必ずばれるとは限りません。早期に身柄を解放してもらえれば、会社を欠勤せずに済み、ばれるリスクを減らせます。だからこそ、不起訴を勝ち取り、早く釈放してもらうことが重要です。弁護士に依頼すれば、身柄解放に向けて速やかに動いてもらえます。
初犯なら、どんな処分になりますか
初犯で、被害者と示談ができていれば、不起訴や、罰金の略式命令で済むことが多いとされています。ただし、撮影対象が児童だった場合や、悪質な手口だった場合は、処分が重くなることがあります。見通しについては、弁護士に確認するとよいでしょう。
撮影しようとしただけで、実際には撮れていません。罪になりますか
罪になる可能性があります。新設された撮影罪では、撮影しようとした未遂も処罰の対象です。また、迷惑防止条例でも、撮影目的でカメラを差し向けたり設置したりする行為が処罰されます。実際に撮影できていなくても、罪に問われることがあるのです。
スマートフォンのデータは、消せば証拠になりませんか
データを消しても、証拠隠滅とみなされ、かえって不利になる可能性があります。また、削除したデータは、専門的な技術で復元できることもあります。証拠隠滅を図ると、勾留されやすくなるなど、状況が悪化するおそれがあります。安易にデータを消すのは避けるべきです。
盗撮は初犯なら不起訴になりますか
初犯で、被害者と示談ができていれば、不起訴や、罰金の略式命令で済むことが多いとされています。ただし、撮影対象が児童だった場合や、手口が悪質な場合、常習性が認められる場合は、処分が重くなります。また、被害者が特定できず示談ができない場合は、贖罪寄付などで反省を示すことになります。見通しについては、弁護士に相談しましょう。
盗撮で前科がつくと、どんな影響がありますか
前科がつくと、一定の職業に就けなくなることがあるほか、就職や転職で不利になる可能性があります。とくに、教員や公務員など、一定の資格や立場に関わる仕事では、影響が大きくなることがあります。だからこそ、不起訴を勝ち取り、前科を避けることが重要なのです。前科を避けるには、早期の示談が鍵になります。
家族の盗撮が発覚しました。どう対応すればいいですか
まず、弁護士に相談することをおすすめします。盗撮はデリケートな問題で、家族だけで抱え込みがちですが、専門家の助けが必要です。弁護士は、被害者との示談交渉を進めるとともに、本人が再発防止に取り組むためのアドバイスもします。家族としては、本人を支え、治療につなげることが大切です。
盗撮を疑われたら、まず弁護士に相談を
盗撮で逮捕されても、初犯や軽微な場合は、すぐに釈放されることもあります。でも、中には勾留されてしまう人もいます。そうした場合は、できるだけ早く弁護士を呼び、適切な対応をアドバイスしてもらうことが大切です。
盗撮は、前科がつくと、その後の人生に大きな影響を及ぼします。だからこそ、不起訴を勝ち取ることが重要です。そのためには、早期の示談交渉が鍵になります。盗撮を疑われたら、ためらわずに刑事事件に強い弁護士へ連絡してください。刑事事件に強い弁護士の選び方は、を参考にしてください。
なお、混雑した場所で、身に覚えがないのに盗撮を疑われる冤罪も起こりえます。その場合は、決して認めず、すぐに弁護士に相談することが重要です。痴漢の冤罪と同様、安易に認めてしまうと、後で覆すのが非常に困難になります。痴漢冤罪への対処法は、も参考になります。
