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刑事告訴とはどのような手続か
まず、刑事告訴という言葉の意味から確認していきましょう。ニュースやドラマで耳にすることはあっても、その正確な中身まで知っている方は多くありません。被害届や告発といった似た言葉との違いも含めて、土台となる部分を押さえておくことが、落ち着いた対応への第一歩になります。
被害者などが処罰を求める意思表示
告訴とは、犯罪の被害者やその他の一定の人が、警察や検察といった捜査機関に対して、犯罪があった事実を申告し、犯人の処罰を求めることをいいます。単に「こんな被害にあった」と伝えるだけでなく、「処罰してほしい」という意思をはっきり示す点に特徴があります。
告訴が正式に受理されると、捜査機関にはその事件について捜査を行う義務が生じます。つまり告訴は、捜査のきっかけになるだけでなく、捜査を進めるよう求める強い意味を持つ手続だということです。だからこそ、告訴されたという事実は、決して軽く考えてよいものではありません。
同じように犯罪を捜査機関に伝える行為でも、後で述べる被害届とは性質が異なります。被害届が「被害にあった」という事実の申告にとどまるのに対し、告訴は「処罰してほしい」という意思まで含んでいます。この違いが、捜査機関にとっての受け止め方や、その後の手続の進み方に影響してくるのです。まずは、告訴がそれだけ重い手続だということを理解しておきましょう。
告訴が起訴の条件になる罪もある
犯罪のなかには、起訴するために「告訴があること」が条件になっているものがあります。こうした、告訴がなければ起訴できない罪を親告罪と呼びます。親告罪では、被害者が告訴しない限り起訴できないため、そもそも刑事事件として進められません。
一方で、被害者の告訴があるかどうかにかかわらず、検察官が起訴できる罪もあります。これを非親告罪といいます。世の中の多くの犯罪はこの非親告罪に当たり、捜査機関は被害者の告訴がなくても、刑事事件として捜査を進め、起訴に持ち込むことができます。
つまり、親告罪と非親告罪では、被害者の告訴が持つ意味がまったく違います。親告罪では、告訴がなければそもそも刑事手続が始まりませんが、非親告罪では、告訴がなくても捜査も起訴も進められます。自分が関わってしまった事案がどちらに当たるのかを知ることは、対応の出発点として欠かせません。なお、どの罪が親告罪に当たるかは法律で個別に定められており、一般の方が見分けるのは簡単ではありません。
告訴ができる人は誰か
では、告訴は誰でもできるのでしょうか。告訴をする権利を持つ人のことを告訴権者といい、その範囲は法律で定められています。状況に応じて、誰が告訴できるのかを見ていきましょう。
原則は被害者本人
被害者が生きている場合、通常は被害者本人が告訴権者になります。自分が受けた被害について、自ら処罰を求めるのが基本のかたちです。また、被害者が未成年であるなど、法定代理人がいる場合には、その法定代理人も告訴をすることができます。
被害者本人と法定代理人は、それぞれ独立して告訴できるとされています。つまり、未成年の被害者の場合、本人が望まなくても保護者が告訴できる、という場面が生じることもあるわけです。逆に、保護者が望まなくても本人が告訴できる場合もあります。
被害者が亡くなっている場合など
被害者がすでに亡くなっている場合には、その配偶者や、親・子といった直系の親族、兄弟姉妹が告訴権者になります。ただし、被害者が生前に「告訴したくない」という意思を示していたときは、その意思に反して告訴することはできません。
このように、告訴権者の範囲は事案によってさまざまです。亡くなった方の名誉が傷つけられた場合や、被害者の親族が加害者である場合など、特別な定めが置かれている場面もあります。自分のケースで誰が告訴できるのかは、個別に確認しておくと安心です。
告訴権者については、原則以外にも、次のような特別な定めがあります。
- 被害者が亡くなった場合:配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が告訴できる(生前の反対の意思があれば不可)
- 亡くなった人の名誉が傷つけられた場合:その親族や子孫が告訴できる
- 被害者の親族などが加害者である場合:被害者本人の意思に関係なく独立して告訴できる場合がある
- 親告罪で告訴できる人がいない場合:検察官が告訴できる人を指定することがある
誰が告訴権者に当たるかによって、その後の対応の進め方も変わってきます。判断に迷う場合は、自己判断せず専門家に相談しましょう。
告訴されると前科がつくのではないかと不安になる方もいます。前科と前歴の違いを正しく知っておきましょう。
告訴・告発・被害届の違い
告訴と似た言葉に、告発や被害届があります。これらは混同されやすいのですが、それぞれ意味が異なります。違いを整理しておきましょう。
告発は第三者が行うもの
告発とは、被害者や告訴権者以外の第三者が、犯罪の事実を捜査機関に申告し、処罰を求めることをいいます。告訴は被害者など一定の立場の人が行うのに対し、告発は事件と直接の利害関係がない人でもできる、という点で違いがあります。
たとえば、ある不正を知った第三者が、その事実を捜査機関に申告するのが告発です。告訴と告発は、行う人の立場が違うだけで、捜査機関に処罰を求める意思表示である点では共通しています。なお、一定の立場の公務員には、職務上知った犯罪について告発する義務が課されている場合もあります。
被害届は事実を届け出るだけ
被害届は、被害にあった事実を捜査機関に届け出るものです。告訴との大きな違いは、処罰を求める意思表示が含まれているかどうかにあります。被害届はあくまで「こういう被害にあいました」という事実の申告にとどまり、必ずしも犯人の処罰を求める意思までは含みません。
そのため、告訴のように捜査機関に捜査の義務を生じさせる効力は、被害届にはありません。届け出を受けて捜査が始まることはありますが、告訴に比べると、処罰を求める意思の強さという点で性質が異なります。とはいえ、被害届がきっかけで捜査が本格化することもあるため、軽く見てよいわけではありません。
告訴されると何が起きるのか
では、実際に告訴されると、どのような流れになるのでしょうか。告訴された側の立場から、起こりうることを順に見ていきます。
捜査機関による捜査が始まる
告訴が受理されると、捜査機関は捜査を行う義務を負います。具体的には、関係者からの事情聴取、証拠の収集、現場の確認などが進められます。告訴された側にとっては、ある日突然、警察から連絡が来たり、出頭を求められたりする可能性があるということです。
捜査は、必ずしも告訴された側に通知されたうえで始まるとは限りません。本人が知らないうちに捜査が進んでいて、後になって連絡が来る、というケースもあります。だからこそ、告訴されるおそれがあると感じた段階で、早めに備えておくことが大切です。
捜査がどのように進むかは、事件の内容によって異なります。比較的軽い事案であれば、書類のやり取りや簡単な事情聴取で済むこともありますが、重い事案では、複数回にわたる取り調べや、自宅などの捜索が行われることもあります。いずれにしても、捜査が始まったという事実は、その後の手続が動き出したことを意味します。落ち着いて、しかし速やかに対応を考える必要があります。
取り調べを受けることもある
捜査の過程で、告訴された側が警察や検察の取り調べを受けることがあります。取り調べでは、事件についての説明を求められ、その内容が供述調書としてまとめられます。ここで話した内容は、その後の手続に大きく影響します。
取り調べにどう対応するかは、結果を左右する重要な場面です。何をどう話すべきか、不安なまま臨むのは避けたいところです。取り調べを受ける前に、弁護士に相談し、対応の方針を確認しておくことをおすすめします。緊張のなかで一人で受け答えをすると、本意でない内容が記録に残ってしまうこともあります。あらかじめ専門家と方針を共有しておけば、落ち着いて、自分の言いたいことを正確に伝えられます。
告訴されると逮捕されるのか
告訴されて最も不安に感じるのが、「逮捕されてしまうのではないか」という点でしょう。ここは正しく理解しておきたいところです。
必ず逮捕されるわけではない
告訴されたからといって、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕は、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあると判断された場合などに行われるものです。これらのおそれが小さいと判断されれば、身柄を拘束されないまま、在宅で捜査が進められることもあります。
とはいえ、事案の内容によっては逮捕に至る可能性もあります。逮捕されると、一定の時間、身柄を拘束されることになります。逮捕の有無は、事件の性質や本人の対応によって変わってくる部分です。
勾留されると拘束が長引く
逮捕に続いて、勾留という手続が取られることがあります。勾留は、逮捕後にさらに身柄の拘束を続けるための手続で、これが認められると拘束の期間が長くなります。勾留が長引けば、仕事や日常生活への影響も大きくなります。
身柄の拘束を避けたい、あるいは早く解放されたいという場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、対応を進めることが重要です。弁護人の働きかけによって、身柄拘束を避けたり、期間を短くしたりできる可能性があります。
身柄を拘束されると、仕事を休まざるを得なくなったり、家族に影響が及んだりと、日常生活への負担は大きくなります。だからこそ、勾留を避けるための働きかけや、勾留されてしまった場合に早期の解放を求める手続は、早ければ早いほど意味を持ちます。弁護人は、逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを具体的な事情で示し、身柄拘束の必要がないことを訴えていきます。こうした活動を的確に行うためにも、早い段階での相談が欠かせません。
逮捕された後の手続の流れは、あらかじめ知っておくと心構えができます。
告訴された場合に取るべき対応
では、実際に告訴された場合、あるいは告訴されそうな場合に、どう動けばよいのでしょうか。状況に応じた対応を見ていきます。
身に覚えがある場合
自分に思い当たることがある場合は、まず被害者への謝罪と示談交渉を検討することになります。被害者に誠意をもって謝罪し、被害の回復を図ることは、その後の処分に大きく影響します。被害者が許し、処罰を望まないという意思を示してくれれば、不起訴や軽い処分につながる可能性が高まります。
特に親告罪の場合、被害者が告訴を取り下げてくれれば、起訴そのものができなくなります。ただし、被害者との示談交渉を加害者本人が直接進めるのは、感情的な対立から難しいことが多いものです。弁護士が間に入ることで、冷静な話し合いが可能になります。
示談では、被害の弁償だけでなく、被害者の処罰感情をやわらげることも大切な要素になります。謝罪の気持ちを誠実に伝え、二度と同じことを繰り返さないと約束することが、被害者の納得につながります。こうしたやり取りを、当事者同士の直接交渉で実現するのは容易ではありません。第三者である弁護士を通すことで、被害者も安心して話し合いに応じやすくなり、結果として円満な解決に近づきます。
まったく身に覚えがない場合
一方、まったく身に覚えがない場合には、事実無根であることを適切に主張していく必要があります。やってもいないことを認めてしまえば、不利な結果につながりかねません。取り調べでどう対応するか、どのように事実を説明するかが重要になります。
無実を主張する場合こそ、早い段階で弁護士に相談することが欠かせません。一人で対応しようとすると、知らないうちに不利な供述をしてしまうおそれもあります。専門家とともに、適切な防御の方針を立てることが大切です。
目指すべきは不起訴という結果
身に覚えがある場合でも、ない場合でも、共通して目指したいのが不起訴という結果です。不起訴になれば、刑罰が科されず、前科もつきません。検察官が起訴するかどうかを判断する段階で、いかに有利な事情を示せるかが分かれ目になります。身に覚えがあるなら示談や反省の態度を、ないなら事実無根であることを、それぞれ適切に伝えていくことが重要です。
不起訴を引き出すための働きかけは、捜査の早い段階から始めるほど効果的です。起訴された後では取れる手段が限られてしまうため、告訴された、あるいはされそうだと感じたら、できるだけ早く動くことが肝心です。
不起訴を目指すために何ができるのか、その具体的な方法を別の記事で解説しています。
告訴が取り下げられるとどうなるのか
告訴された後、被害者が告訴を取り下げることがあります。この取り下げが、その後の手続にどう影響するのかは、罪の種類によって変わります。
親告罪では起訴できなくなる
親告罪の場合、告訴が取り下げられると、検察官は起訴することができなくなります。親告罪は告訴があることが起訴の条件ですから、その告訴がなくなれば、起訴の前提が失われるためです。つまり、親告罪では告訴の取り下げが、不起訴に直結する大きな意味を持ちます。
このため、親告罪の事案では、被害者との示談を通じて告訴を取り下げてもらえるかどうかが、結果を大きく左右します。示談交渉は、まさにこの点で重要な役割を果たします。被害者が納得して告訴を取り下げてくれれば、起訴を回避でき、前科を避けられる可能性が高まるからです。逆に、示談がまとまらないまま手続が進めば、起訴される可能性は残り続けます。だからこそ、親告罪では示談の成否が決定的な意味を持つといえます。
非親告罪では捜査が続くこともある
一方、非親告罪の場合は、告訴が取り下げられても、それだけで自動的に手続が終わるわけではありません。告訴の有無にかかわらず起訴できる罪だからです。ただし、被害者が許しているという事実は、検察官の処分の判断に有利な事情として考慮されます。
つまり、非親告罪であっても、示談を成立させ、被害者の宥恕を得ることには大きな意味があります。告訴の取り下げが直接の決め手にならなくても、処分を軽くする方向に働く可能性があるのです。
実際、非親告罪の事案でも、被害者との示談が成立しているかどうかは、不起訴になるか起訴されるか、また起訴された場合の刑の重さに、大きく影響します。「告訴が取り下げられても無意味だ」と考えてあきらめる必要はありません。被害者との間で解決を図る努力は、どの罪であっても結果を良い方向に動かしうるものです。だからこそ、示談交渉は早い段階から、弁護士とともに進めることをおすすめします。
刑事事件における示談がなぜ重要なのか、その意味と進め方をくわしく解説しています。
よくある質問
告訴に期限はありますか?
親告罪については、告訴ができる期間に一定の制限が設けられています。犯人を知った時から一定の期間を過ぎると、告訴ができなくなる仕組みです。一方、非親告罪には、こうした告訴期間の制限はありません。自分の事案がどちらに当たるか、また期限がどうなっているかは、弁護士に確認するのが確実です。
告訴されたら必ず前科がつきますか?
告訴されたからといって、必ず前科がつくわけではありません。前科がつくのは、起訴されて有罪が確定した場合です。告訴された後でも、不起訴になれば前科はつきません。被害者との示談などを通じて不起訴を目指すことが、前科を避けるうえで重要になります。
「告訴するぞ」と言われただけでも対応すべきですか?
まだ実際に告訴されていない段階であっても、早めに備えておくことをおすすめします。告訴されてから動き出すよりも、その前から状況を整理し、対応を準備しておくほうが、取れる選択肢は多く残されます。不安を感じた時点で、一度弁護士に相談しておくと安心です。
告訴と被害届のどちらをされたか分からないときは?
自分が告訴をされたのか、被害届を出されたのかが分からない、という場面もあるかもしれません。両者は処罰を求める意思の強さという点で性質が異なりますが、いずれにしても捜査が始まる可能性があることに変わりはありません。どちらであっても、早めに状況を整理し、対応を考えておくことが大切です。正確なことが分からないまま不安を募らせるより、弁護士に相談して見通しを立てるほうが、落ち着いて対処できます。
告訴されたことを家族に知られたくないのですが?
告訴された事実を、できるだけ周囲に知られたくないと考えるのは自然なことです。事案の内容や進み方によって状況は異なりますが、早い段階から適切に対応することで、影響を最小限にとどめられる場合もあります。どのように進めるのがよいかは、個別の事情によって変わりますので、不安な点は弁護士に率直に相談しておくとよいでしょう。
「告訴するぞ」と言われたら弁護士に相談を
ここまで、刑事告訴の意味と、告訴された場合の対応を見てきました。最後に、不安を抱えている方へお伝えしたいことがあります。告訴は、捜査機関に捜査の義務を生じさせる強い手続であり、状況によっては逮捕に至ることもある、軽視できないものです。
けれども、告訴されたからといって、すべてが決まってしまうわけではありません。被害者との示談、適切な主張、取り調べへの的確な対応によって、結果は大きく変わりうるものです。これらは個人で進めるには難しい面が多く、刑事手続に詳しい弁護士の力が欠かせない部分です。
「告訴するぞ」と言われた段階でも、すでに告訴されてしまった段階でも、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。早く動くほど、打てる手は多く残されています。一人で抱え込まず、まずは状況を専門家に伝えることから始めてみてください。
弁護士費用が気になる場合
弁護士への相談をためらう理由として、費用への不安を挙げる方は少なくありません。弁護士費用は、一般に着手金と報酬金などで構成されます。着手金は依頼の段階で支払うもの、報酬金は得られた結果に応じて支払うものという位置づけが一般的です。具体的な金額や内訳は事務所や事案によって異なるため、依頼の前に見積もりを確認しておくと安心です。
費用の負担が心配な場合でも、まずは相談だけしてみるという選択肢があります。状況を伝えたうえで、どのような対応が必要か、費用がどの程度かかりそうかを確認してから判断すればよいのです。不安を抱えたまま動けずにいるより、一歩踏み出してみることをおすすめします。
刑事事件の弁護士費用の相場や内訳について、くわしく整理した記事もあわせてご覧ください。
具体的な見通しや、自分のケースで取るべき行動については、刑事事件に強い弁護士に直接相談するのが確実です。