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相手に払うお金と、相手からもらうお金を差し引けないか
ある取引先に対して、納品した商品の代金500万円が未払いのまま残っている。一方で、自社もその取引先から原材料を仕入れていて、来月には買掛金300万円を支払う予定になっている。取引先からの入金はまったくないのに、こちらだけ約束どおり300万円を振り込むのは納得がいかない。こうした場面で使えるのが相殺です。
相殺とは、互いに相手に対してお金を払う義務を負っているときに、その金額を対等な額で差し引いて、まとめて消してしまう仕組みです。先ほどの例であれば、300万円分を差し引き、自社は買掛金を支払わずに済み、取引先に対しては残りの200万円だけを請求すればよいことになります。
相殺の大きな特徴は、相手の同意がいらないことです。条件を満たしていれば、こちらから一方的に通知するだけで効果が生じます。裁判所の手続きも、相手の財産を探す手間もかかりません。相手に財産がなく、差押えをしても回収が難しい場面でも、自社が相手に支払う予定のお金があれば、その分は確実に回収したのと同じ結果になります。
一方で、相殺には法律で定められた条件があり、使えない場面もあります。条件を満たさないまま支払いを止めれば、今度は自社が支払いを怠ったとして責任を問われかねません。この記事では、債権回収の相談を受ける弁護士の立場から、相殺の仕組み、使える条件と使えない場面、通知の方法、相手が倒産したときの扱いまでを順に説明していきます。
取引先との間で、払うお金ともらうお金の両方があるなら、その組み合わせを思い浮かべながら読んでみてください。思わぬところに回収の手段が眠っているかもしれません。
相殺は、会社どうしの取引だけでなく、個人の間でも使えます。知人にお金を貸していて、その知人から別の用事で立て替えてもらったお金がある、といった場合にも、同じように差し引いて精算できます。ただし、会社の取引と比べて、どの債権がいつ生じたのかがあいまいになりやすいので、記録を残しておくことがなおさら重要です。
相殺とは|一方的な意思表示で債権と債務を消す仕組み
相殺は、民法505条に定められた制度です。二人の当事者が互いに同じ種類の債務を負っている場合に、一方の意思表示によって、対等な額で双方の債務を消すことができます。
相殺をする側から見て、自分が持っている債権を「自働債権」、相手が持っている債権、つまり自分が負っている債務を「受働債権」と呼びます。冒頭の例では、自社が取引先に対して持つ売掛金500万円が自働債権、取引先が自社に対して持つ買掛金300万円が受働債権です。
| 用語 | 意味 | 冒頭の例 |
|---|---|---|
| 自働債権 | 相殺をする側が、相手に対して持っている債権 | 自社の売掛金500万円 |
| 受働債権 | 相殺をされる側(相手)が持っている債権 | 取引先の売掛金(自社の買掛金)300万円 |
| 対当額 | 差し引いて消える金額(少ない方の額) | 300万円 |
| 残額 | 相殺の後に残る債権 | 自社の取引先に対する200万円 |
相殺には二つの役割があります。一つは、お互いに振り込み合う手間を省く、決済を簡単にする役割です。もう一つが、債権回収の場面で重要な、担保としての役割です。相手が支払いに応じない、あるいは支払う力を失っている場合でも、自分の債務と差し引くことで、実質的に債権を回収できます。
相殺をしても、差し引いた範囲の債権は消えるだけで、相手から現金が入ってくるわけではありません。それでも、本来なら支払うはずだった現金が手元に残るので、資金繰りの面では回収したのとまったく同じ効果があります。
相殺の効果はさかのぼる
相殺の意思表示をすると、その効果は、相殺できる状態になった時点にさかのぼって生じます。これを遡及効といいます。
たとえば、自社の売掛金の支払期日が4月末、自社の買掛金の支払期日が5月末だったとします。双方の債権が相殺できる状態になるのは5月末です。7月になってから相殺を通知しても、5月末の時点で差し引かれたものとして扱われ、5月末以降の遅延損害金は、差し引かれた部分については生じなかったことになります。
このため、相殺できる状態になった後であれば、多少通知が遅れても大きな不利益はありません。ただし、後で説明するように、相手の債権が差し押さえられたり、相手が倒産したりすると、相殺が制限される場面があります。相殺を使うと決めたら、早めに通知するのが原則です。
銀行が使っている相殺の力
相殺の担保としての力を最もよく使っているのが銀行です。銀行は、融資先の会社が預金口座にお金を置いていると、融資の返済が滞ったときに、その預金と貸付金を相殺して回収します。会社の側から見れば、預金は自分の財産ですが、銀行から見れば、会社に返すべき債務です。その債務と貸付金を差し引くことで、ほかの債権者より先に確実に回収できるわけです。
一般の会社どうしの取引でも、考え方は同じです。相手に支払う予定のお金は、相手にとっては財産でも、自社にとっては回収の引き当てになります。取引先に対する売掛金と買掛金が並んで存在しているなら、それ自体が一種の担保だと考えることができます。
相殺ができるための四つの条件
相殺ができる状態を、法律の言葉で「相殺適状」といいます。相殺適状にあるといえるには、次の四つの条件を満たす必要があります。
| 条件 | 内容 | 確かめるポイント |
|---|---|---|
| 債権が互いに対立していること | 当事者の双方が、相手に対して債権を持っている | 同じ当事者どうしか(グループ会社などは別の当事者) |
| 同じ種類の債権であること | どちらもお金の支払いを求める債権である | 一方が商品の引渡しなら相殺できない |
| 自働債権の支払期日が来ていること | 自分が持つ債権の支払期日を過ぎている | 受働債権は期日前でも、自分から期限を放棄すれば相殺できる |
| 相殺が禁止されていないこと | 法律や当事者の約束で相殺が禁じられていない | 不法行為の損害賠償、差押えが禁止された債権などに注意 |
当事者が同じであることが前提
相殺ができるのは、同じ当事者どうしの間だけです。自社が取引先の親会社に売掛金を持ち、その子会社に買掛金を負っている場合、自社は原則として相殺できません。親会社と子会社は、別の法人だからです。
グループ会社との取引が多い場合には、三者の間で「グループ内の債権債務を相殺できる」という合意をあらかじめ結んでおく方法があります。ただし、この三者間の相殺の合意は、相手が倒産した場合に効力が認められないことがあるため、設計には注意が必要です。
支払期日の組み合わせを確かめる
相殺をする側の債権、つまり自働債権は、支払期日が来ていなければなりません。相手にまだ支払いの義務がないのに、こちらが一方的に差し引くことは許されないからです。
反対に、受働債権、つまり自分が払う側の債務は、支払期日が来ていなくても構いません。自分が支払期日までの猶予を放棄して、前倒しで払ったことにすればよいからです。冒頭の例でいえば、自社の売掛金の期日が来ていれば、買掛金の期日が来月であっても、今すぐに相殺できます。
複数の債権がある場合の充当の順序
自社が取引先に対して複数の売掛金を持っている場合、どの売掛金から相殺に充てるかは、相殺をする側が指定できます。指定しなければ、支払期日が早いものから順に充てるなど、民法の定める順序に従います。
回収の観点からは、時効が近いものや、遅延損害金の率が低いものから先に相殺に充てるのが合理的です。相殺通知書では、どの債権をいくら相殺に充てるのかを請求書の番号などで特定しておくと、後で残額の計算をめぐって争いになりません。
相殺ができない場面
四つの条件を満たしていても、法律や約束によって相殺が禁止されている場面があります。ここを見落とすと、相殺が無効となり、支払いを怠ったとして遅延損害金を請求されることになります。
| 相殺が禁止される場面 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 悪意による不法行為の損害賠償 | わざと損害を与えた加害者が、被害者への賠償金と自分の債権を相殺すること | 民法509条 |
| 人の生命や身体を害したことの損害賠償 | けがをさせた側が、治療費などの賠償金と相殺すること | 民法509条 |
| 差押えが禁止された債権 | 給料の一定部分や年金など、差し押さえてはいけない債権を受働債権とすること | 民法510条 |
| 差押えを受けた後に取得した債権 | 相手の債権が差し押さえられた後に手に入れた債権で相殺すること | 民法511条 |
| 当事者が相殺しないと約束した場合 | 契約で相殺を禁止している場合 | 民法505条2項 |
従業員の給料との相殺
会社が従業員に貸したお金や、従業員が会社に与えた損害を、給料から一方的に差し引くことはできません。労働基準法24条は、給料を全額支払うことを求めており、会社が一方的に相殺することはこの原則に反するからです。
従業員が自由な意思で相殺に同意した場合には認められる余地がありますが、その同意が本当に自由な意思によるものだったかは、厳しく判断されます。社内の貸付金を回収したい場合は、給料との相殺ではなく、別に返済の約束を交わすのが安全です。
差押えと相殺の優先関係
自社が相手に支払う予定の買掛金について、相手の債権者が差押えをしてくることがあります。この場合でも、差押えの前から自社が相手に対する債権を持っていれば、支払期日の前後にかかわらず、その債権で相殺して差押えに対抗できます。
2020年4月の民法改正で、差押えの後に取得した債権であっても、差押えの前の原因に基づいて生じたものであれば相殺できることが明文化されました。たとえば、差押えの前に結んだ保証契約に基づいて、差押えの後に保証人として支払った場合の求償の債権などが、これにあたります。
下請取引で代金から差し引くときの注意
発注する側の会社が、受注する側に支払う代金から、何かの費用を差し引いて支払うことがあります。形は相殺に似ていますが、取適法(2026年1月に下請法から改正)の対象となる取引では、正当な理由のない差引きは、代金の減額として禁止されます。
たとえば、発注側が有償で支給した原材料の代金を、その原材料を使った製品の代金の支払日より前に、ほかの代金から差し引いて回収することは、早期決済として禁止されています。振込手数料を受注側の代金から差し引くことも、あらかじめ合意していない限り減額にあたります。発注側の立場で相殺を使うときは、取引が取適法の対象かどうかを先に確かめてください。
買掛金に差押えの通知が届いたときの対応例
自社が取引先に支払う予定の買掛金について、裁判所から債権差押命令が届くことがあります。取引先の別の債権者が、取引先の財産として自社への売掛金を差し押さえたという知らせです。この通知を受けると、自社は取引先に支払うことが禁じられ、差し押さえた債権者に支払うよう求められます。
このとき、自社も取引先に対して売掛金を持っていれば、あわてて差し押さえた債権者に払う必要はありません。差押えの前から持っていた売掛金であれば、それと買掛金を相殺したうえで、残った額だけを債権者に支払えばよいのです。差押命令が届いたら、まず取引先に対する自社の債権を洗い出し、相殺の通知を取引先に送ったうえで、裁判所に提出する陳述書にも相殺したことを書いておきます。
相殺の手続き|相殺通知書の送り方
相殺は、相手に対して「相殺します」と意思表示をするだけで効果が生じます。口頭でも有効ですが、後で争いになったときに備え、書面で通知し、相手に届いたことを証明できるようにしておくのが基本です。
- 相殺に使う自社の債権と、差し引く自社の債務を特定する(取引の内容、金額、支払期日)。
- 四つの条件を満たしているか、相殺の禁止に当たらないかを確かめる。
- 相殺通知書を作成し、差し引く金額と、残る債権の額を明記する。
- 内容証明郵便(配達証明付き)で相手に送る。
- 残額があれば、あわせて支払いを請求する。
相殺通知書に書くこと
相殺通知書には、次の事項を書いておきます。
- 自社が相手に対して持つ債権(自働債権)の内容と金額、支払期日
- 相手が自社に対して持つ債権(受働債権)の内容と金額
- 両者を対当額で相殺する旨の意思表示
- 相殺の後に残る債権の額と、その支払いの請求
相殺の意思表示に、条件や期限をつけることはできません。「来月末までに支払いがなければ相殺する」という書き方では、相殺の効力が生じないおそれがあるため、相殺する時点で無条件に通知してください。
相殺の意思表示は撤回できない
いったん相殺の通知が相手に届くと、その効果は確定し、後から撤回することはできません。相殺に使った自社の債権は、差し引かれた範囲で消えてしまいます。
そのため、通知を送る前に、どの債権をいくら相殺するのかを慎重に決める必要があります。たとえば、自社の債権のうち、保証人がついているものや担保があるものを相殺に使ってしまうと、保証や担保で回収できたはずの部分まで相殺で消費してしまうことになります。担保のない債権から先に相殺に充てるのが、回収を最大にする基本的な考え方です。
会計と消費税の扱い
相殺をしても、売上と仕入れはそれぞれ別の取引として計上します。売掛金と買掛金を差し引いて消したという記録を残すだけで、売上高や仕入高が減るわけではありません。消費税の申告や、仕入れの税額控除に必要な請求書の保存も、相殺とは関係なく、それぞれの取引ごとに必要です。
相手と連絡が取れないとき
相手の会社が事務所を閉め、郵便も届かなくなっている場合でも、相殺をあきらめる必要はありません。登記上の本店所在地に内容証明郵便を送り、受け取られずに戻ってきた場合は、代表者の住所に送る、登記上の代表者に直接届けるなどの方法を試みます。それでも届かなければ、裁判所の手続きを使って意思表示を届いたものとして扱う、公示による意思表示という方法もあります。
相手が倒産したときの相殺
相殺が債権回収の場面で真価を発揮するのが、相手が倒産したときです。相手が破産すれば、一般の債権者は、残った財産から債権額に応じてわずかな配当を受けられるだけで、回収できる割合はごく小さいのが通常です。
ところが、破産の手続きが始まる前から互いに債権債務があった場合、破産法67条により、債権者は相殺によって自分の債権を優先して回収できます。これを相殺権といいます。自社が相手に支払う予定のお金がある限り、その範囲では、ほかの債権者に先んじて全額を回収したのと同じ結果になります。
危機に陥った後に取得した債権には制限がある
ただし、何でも相殺できるわけではありません。相手が支払いを止めた後や、破産の申立てがあった後に、それを知りながら相手に対する債務を負ったり、相手に対する債権を買い取ったりした場合には、相殺が禁止されます(破産法71条、72条)。
たとえば、相手が支払いを止めたと知った後に、わざわざ相手から商品を買い入れて買掛金を作り、その買掛金と自社の売掛金を相殺する、といったやり方は認められません。一部の債権者だけが得をするのを防ぎ、債権者どうしの公平を保つための決まりです。
| 相手の状況 | 相殺の扱い |
|---|---|
| 危機の前から互いに債権債務がある | 破産しても相殺できる |
| 支払停止を知った後に、相手に対する債務を負った | 原則として相殺できない |
| 支払停止を知った後に、相手に対する債権を他人から取得した | 原則として相殺できない |
| 民事再生の場合 | 債権届出期間の満了までに相殺の意思表示をする必要がある |
民事再生や会社更生の手続きでも、相殺は認められますが、決められた期間内に意思表示をしなければならないなど、破産より厳しい制限があります。相手が再建型の手続きに入ったと知ったら、すぐに期限を確かめてください。
相手が倒産しそうなときに急ぐべきこと
相手の経営が危ういと感じたら、次のことを急いで確かめてください。
- 相手に支払う予定のお金が、今いくらあるか(買掛金、預り金、未払いの手数料など)
- 自社の売掛金のうち、支払期日が来ているものはいくらか
- 取引基本契約に、期限の利益喪失条項や相殺禁止の条項があるか
- 相手がすでに支払いを止めたり、破産を申し立てたりしていないか
支払停止の前に相殺の条件がそろっていれば、すぐに通知するのが最善です。相手が破産した後でも、破産の前から互いに債権債務があれば相殺はできますが、破産管財人から相殺の有効性を争われることもあります。通知の時期が早いほど、争いの余地は小さくなります。
具体例で考える:資金繰りに行き詰まった取引先との相殺
ある印刷会社は、長年の取引先である広告代理店に対して、印刷代金の売掛金を合計800万円抱えていました。一方で、同じ代理店から、自社の宣伝のためのウェブ広告を発注しており、その代金として350万円を翌月末に支払う予定でした。
ある日、代理店から「資金繰りが苦しく、今月の支払いは待ってほしい」と連絡がありました。印刷会社の社長は、翌月末に350万円を約束どおり振り込むべきか迷い、弁護士に相談しました。
弁護士はまず、売掛金800万円のうち、すでに支払期日を過ぎているものがいくらあるかを確かめました。期日が過ぎていたのは、先月末が期日の480万円分です。この480万円を自働債権とし、自社が払う予定の350万円と相殺すれば、翌月末を待たずに350万円分を回収できます。受働債権である350万円の期日はまだ来ていませんが、自社がその猶予を放棄すれば相殺できます。
印刷会社は、その週のうちに内容証明郵便で相殺を通知しました。残る売掛金450万円については、代理店と分割払いの合意を交わし、期限の利益喪失条項を入れました。その2か月後、代理店は破産を申し立てました。相殺の通知が支払停止の前に届いていたため、350万円分の回収は確定しており、破産手続で争われることもありませんでした。
もし、支払いを約束どおり振り込んでいたら、350万円は代理店の手元で他の支払いに消え、印刷会社は800万円全額について、わずかな配当を待つだけになっていたはずです。相殺できる組み合わせに早く気づいたことが、回収の成否を分けた例です。
別の例も見ておきましょう。ある工務店は、元請けの建設会社から、工事の遅れを理由に損害賠償として200万円を請求され、工事代金から差し引いて支払うと通告されました。工務店は、遅れの原因は元請けの設計変更にあり、損害賠償の債権そのものがないと考えていました。
このように、相手が主張する債権が本当に存在するかに争いがある場合、相手が一方的に相殺を主張しても、その債権が存在しなければ相殺は効力を持ちません。工務店は、設計変更の指示書と工程表をそろえて反論し、差し引かれた200万円を含む工事代金全額の支払いを求めました。相殺は、自分の債権が確かに存在することが前提です。相殺を主張する側も、主張される側も、債権の根拠をまず確かめることが大切です。
二つの例に共通しているのは、相殺の成否が、債権の存在と日付をどれだけ正確に示せるかにかかっているという点です。日ごろから、取引先ごとに売掛金と買掛金の残高と期日を並べて管理しておくと、いざというときに相殺の組み合わせをすぐに見つけられます。
相殺を回収の備えとして使うための契約の工夫
相殺を回収の手段として確実に使うには、取引の段階から契約で備えておくことが大切です。次の条項を取引基本契約に入れておくと、いざというときに相殺を使いやすくなります。
- 期限の利益喪失条項:相手に手形の不渡り、差押え、倒産手続の申立てなどがあったときに、すべての債務の支払期日が直ちに来たものとする条項
- 相殺予約の条項:一定の事由が生じたときに、当然に、または通知によって相殺できると定める条項
- 相殺禁止を定めないこと:相手のひな形に相殺禁止の条項がないか確かめる
相手から示された契約書に「本契約に基づく債権は、他の債権と相殺することができない」といった条項が入っていることがあります。この条項があると、相手が倒産しそうなときに、相殺による回収の道がふさがれてしまいます。契約を結ぶ前に、相殺を禁じる条項がないかを必ず確かめてください。
時効にかかった債権でも相殺できる場合がある
自社の債権が時効にかかってしまっても、時効が完成する前に相殺できる状態になっていれば、時効が完成した後でも相殺できます(民法508条)。相手に対して長く放置していた売掛金があっても、相手に支払う債務と同じ時期に存在していたなら、あきらめる前に相殺の可能性を確かめる価値があります。
相殺を考えたら、弁護士に確認を
相殺は、条件さえ満たせば通知一つで回収できる、非常に強力な手段です。その反面、条件の判断を誤ると、相殺が無効になり、自社が支払いを遅らせたことになってしまいます。とくに、相手が倒産に近い状況にあるときは、いつ債権を取得したか、相手の状況をいつ知ったかによって、相殺が認められるかどうかが変わります。
弁護士に相談すれば、相殺できる債権の組み合わせを洗い出し、条件を満たしているかを確かめたうえで、通知書の作成まで任せることができます。相手が破産や民事再生に入った後であれば、手続きの中で相殺を主張する方法や期限も含めて助言します。
相談の際は、取引基本契約書、個々の注文書や請求書、双方の債権の支払期日が分かる資料、相手とのやり取りを持参してください。払うお金ともらうお金の一覧を作っておくと、相殺の可否をすぐに判断できます。
とくに、相手が倒産の手続きに入った後は、破産管財人や再生債務者の代理人が相殺の有効性を細かく確かめてきます。債権を取得した日付、相手の支払停止を知った日付、通知を送った日付を、資料とともに説明できるようにしておくと、手続きの中で相殺が認められやすくなります。相殺を少しでも考えたら、通知を送る前に一度弁護士に確認してもらうことをおすすめします。
相殺に関するよくある質問
相殺するのに相手の同意は必要ですか
必要ありません。相殺の条件を満たしていれば、一方的に相手に通知するだけで効果が生じます。ただし、後で争いにならないよう、内容証明郵便で通知しておくことをおすすめします。
金額が違う債権どうしでも相殺できますか
できます。少ない方の金額(対当額)の範囲で相殺され、多い方の債権はその差額が残ります。残った債権は、あらためて相手に請求します。
相手から相殺を主張されたら、どうすればよいですか
相手の主張する債権が本当にあるか、支払期日が来ているか、相殺が禁止される場面に当たらないかを確かめてください。条件を満たしていなければ、相殺は無効であり、支払いを求めることができます。
口頭で相殺すると伝えただけでも有効ですか
法律上は有効です。しかし、言った言わないの争いになると、相殺の意思表示があったことを証明するのが難しくなります。相殺の効果をめぐって争いにならないよう、書面で通知し、届いた日を記録しておくのが確実です。
請求書で差し引いて振り込むのも相殺ですか
取引先との間で、毎月の請求書や支払通知書の上で差し引きをしている場合は、当事者の合意による相殺(相殺契約)として扱われるのが通常です。互いに合意していれば、法律上の相殺の条件を満たしていなくても差し引くことができます。ただし、合意の内容があいまいだと争いのもとになるので、差し引きの方法を取引基本契約に書いておくと安心です。
敷金と未払いの家賃は相殺するのですか
賃貸借が終わって建物が明け渡されたときは、未払いの家賃などは敷金から当然に差し引かれます。これは相殺の意思表示を必要としない、敷金の性質による扱いです。一方、賃貸借が続いている間に、借主の側から「敷金から家賃を差し引いてほしい」と求めることはできません。