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労災保険の仕組みと使い方~通勤中・仕事中の交通事故に使える労働者の権利

この記事で分かること

  • 労災保険とは、労働者が業務災害や通勤災害によってケガをした場合などに、国が保険金を支払う制度である
  • 労災保険は通勤中・仕事中の交通事故でも使うことができる
  • 交通事故で労災保険を使うと、治療費に限度額がない、休業補償を120%受け取れる場合があるなどメリットは多い
  • 労災保険は労働者の権利、交通事故で使うデメリットはほとんどない
  • 交通事故で労災保険が使えるかは、まず弁護士に相談を

通勤中・仕事中の交通事故では、労災保険を使える場合があります。交通事故における労災保険の使用は、労働者の権利であり、メリットが多い一方でデメリットは少ないです。ご自分のケースが労災保険使用可能かどうか、どのように使ったらよいかは、素人には判断が困難なため、まずは専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。

交通事故でも労災保険を使える場合があります!

あるとき不意に巻き込まれる交通事故。これが通勤中・仕事中に起きた交通事故の場合、加害者の保険会社だけではなく、実は労災保険を使える場合があるのです。

通勤中・仕事中の交通事故には、労災保険を賢く使おう

ケガを伴う交通事故に遭った場合、被害者の方は、ケガの痛みに加えて、治療費や休業損害など金銭面でもお困りのことと思います。

こうしたとき、損害賠償の窓口となるのは、通常、加害者の任意保険会社です。加害者が任意保険に加入していれば、加害者の任意保険会社は、自賠責保険の賠償金と任意保険の賠償金をまとめて取り扱って、被害者に支払いをします(注1)。
けれども、通勤中・仕事中の交通事故では、ご自分の加入している労災保険を使うこともできます。事案によっては、労災保険を使ったほうがいい場合もありますので、労働者の権利として、賢く労災保険を使いましょう。

(注1:賠償金の支払いの流れとしては、最初に相手方の自賠責保険から賠償金が支払われ、次に、相手方の自賠責保険の枠で足りない部分の賠償金を、相手方の任意保険から支払われます。)

加害者の自動車保険を使うのか、自分の労災保険を使うのかは自由に決められる

加害者の自賠責保険および任意保険を使うのか、それとも自分の労災保険を使うのかは、被害者の意思で自由に決められ、特にどちらを優先しなければならないということはありません。
ただし、加害者の自賠責保険および任意保険で支払われる賠償金と、労災保険で支払われる給付金の二重取りはできませんので、この点を注意する必要があります。

通勤中・仕事中の交通事故でも使える労災保険とは

労災保険とは、正式には「労働者災害補償保険」と言います。どのような制度かと言うと、業務上発生した災害(業務災害)および通勤により発生した災害(通勤災害)によって、労働者が

  1. ケガをした
  2. 病気になった
  3. 障害を負った
  4. 死亡した

場合に、国が労働者に保険金を支払うというものです。

以下では、
交通事故における「業務災害」、「通勤災害」とは具体的にどのようなものか見ていきましょう。

交通事故における業務災害とは

業務災害とは、

  1. 事業主の支配・管理下で業務に従事していたときに
  2. 業務遂行に伴う災害が発生し、労働者に、業務との因果関係の認められる負傷、疾病、障害又は死亡が発生した

場合を言います。

交通事故における業務災害の具体例を挙げると、

  1. 労働者が、徒歩で取引先に向かう途中に交通事故に遭った
  2. 労働者が、会社の営業車で取引先から帰社する際に交通事故に遭った
  3. タクシー運転手が業務で車を運転中に交通事故に遭った

などのケースが考えられます。

しかし、業務時間中であっても、私的行為をしている間に起こった災害は業務と災害との因果関係が認められず、業務災害に当たりません。また、休憩時間中の災害や、出張中の災害などが業務災害に当たるか否かは、事案によって異なります。

交通事故における通勤災害とは

通勤災害とは、

  • 勤務先への通勤に起因する災害が発生し、労働者に、通勤との因果関係の認められる負傷、疾病、障害又は死亡が発生した

場合を言います。

交通事故における通勤災害の具体例を挙げると、

  1. 労働者が、自宅から徒歩で勤務先に向かう途中、交通事故に遭った
  2. 労働者が、勤務先から自家用車で自宅に帰る途中、交通事故に遭った

などのケースが考えられます。

しかし、通勤災害における「通勤」とは、「就業に関連して住居と就業の場所との間を、合理的経路及び方法により往復する」ことを言いますので、終業後に友人と会うために寄り道をし、その帰りに交通事故に遭った場合などは、通常、通勤災害に該当しません。
一方で、日用品の購入のため通勤を中断し、購入後に通常の往復の経路に復帰した後は、「通勤」として扱われます。往復の経路の中断が、日常生活上必要な行為である場合には、「通勤」と認められるのです。もっとも、具体的にどのような事案が通勤災害に当たるかは、上記で述べた業務災害と同様に事案によって異なります。

ワンポイントアドバイス
通勤中・仕事中の交通事故でも、すべての事案が労災保険の対象になるとは限りません。判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

交通事故で労災保険を使うメリット

ここでは、労災保険を使うメリットについて順次に見ていきたいと思います。

メリットその1:労災保険は、自賠責保険と異なり、治療費に限度額がない

労災保険を使用した場合は、加害者の自賠責保険を使用した場合と異なり、治療費に限度額がありません。

自賠責保険を使用してケガの治療をする場合、治療費は自賠責保険から出ますが、自賠責保険の支払いには120万円の上限があります。この120万円を超過した場合、加害者が任意保険に加入していれば、加害者の任意保険会社が超過分を負担します。もし、加害者が任意保険に加入していなければ、加害者本人に請求することになりますが、面倒な交渉が必要となりますし、加害者がきちんと支払ってくれない場合もあります。

けれども、労災保険には、治療費の限度額はありませんので、安心して治療を続けることができます。

メリットその2:労災保険では、被害者に過失があっても治療費全額が支払われる

労災保険における治療費とは

労災保険では、業務災害や通勤災害に当たる交通事故被害に対し、被害者に治療費が支払われます。
この治療費は、療養(補償)給付と呼ばれ、「業務災害又は通勤災害による傷病により療養するとき」に給付されます。

療養補償給付には、

  1. 療養の給付(労災指定医療機関等で、無料で治療を受けられる現物支給)
  2. 療養の費用の支給(労災指定医療機関以外で治療を受けた場合に、その費用を事後に支給する現金支給)

があります。

被害者に過失がある交通事故での治療費

交通事故において被害者に7割以上の過失があった場合、自賠責保険では治療費が2割減額されて支払われます。また、任意保険の場合は、自賠責保険の枠を超過して支払うことになったとき、被害者の過失が7割未満であっても、その過失割合と同じだけ、損害賠償額が減額されます。

しかし、労災保険では、過失割合に関わらず、治療費の100%が支払われます。

メリットその3:治療費の打ち切りを気にせず治療に専念できる

ケガの治療を続けていると、加害者の任意保険会社から、「もう完治している」、「症状はすでに安定し、これ以上の治療を続けても症状は改善しない」と言われることが多々あります。これは、治療費の支払いを打ち切ります、ということです。

その点、労災保険では、加害者の任意保険会社からしつこく治療費打ち切りを打診、通告されることがありません。

メリットその4:労災保険を使うと、休業補償を120%受け取れることも

労災保険における休業補償とは

労災保険では、業務災害や通勤災害に当たる交通事故被害に対し、労働者に休業補償金が支払われます。
この休業補償金は休業(補償)給付と呼ばれ、「労働者が業務上または通勤が原因となった負傷や疾病による療養のため、労働することができず、そのために賃金を受けていないとき」に給付されます。

交通事故で労災を使った場合、休業補償を120%受け取れる仕組み

休業(補償)給付は、前述の要件に該当するようになった日の4日目から、休業1日につき、平均賃金額の60%を支給されます。
これでは本来の休業損害に40%足りませんが、この残りの40%は、加害者の自動車保険会社より支払ってもらうことが可能です(この時点で休業補償は100%になります)。

しかし、労災保険における休業(補償)給付のおトクな点は、上記に上乗せする形で、別途、休業特別支給金が支給されるということです。休業特別支給金の額は、休業1日につき、平均賃金額の20%を支給されます(この時点で休業補償は120%になります)。

労災保険を使用せず、加害者の自賠責保険・任意保険のみを使用して、そちらから100%の休業補償を受けることは可能です。けれども、その場合には、労災保険の休業特別支給金のようなものはありませんので、労災保険を使ったほうが、休業補償の受領金額は多くなります。

メリットその5:交通事故で労災保険を使った場合、後遺障害補償を手厚く受け取れる

労災保険を使うと、自賠責保険・任意保険の補償金額に上乗せして支払われる給付金がある

労災保険では、症状が安定し、これ以上の治療を続けても症状が改善しない状態になり、一定の障害が残った場合は、障害(補償)年金または障害(補償)一時金が支給されます。

障害(補償)年金は1〜7級、障害補償一時金は8〜14級まで等級が分かれており、それぞれ給付額が違いますが、平均賃金額に所定の日数をかけて算出されます。
障害(補償)年金は、基本的に、労働者が亡くなるまで支給され、障害(補償)一時金は、その名のとおり一回のみ支払われます。自賠責保険・任意保険でも、後遺障害の程度に応じて、逸失利益(注2)と慰謝料が支払われますが、これらは一時金であり、障害補償年金とは違い、死亡するまで補償が受けられるものではありません。

なお障害(補償)年金、障害(補償)一時金が支給される場合には、それぞれ後遺障害の程度に応じて、下記の特別金が上乗せされて給付されます。

  1. 障害(補償)年金の場合=障害特別支給金 + 障害特別年金
  2. 障害(補償)一時金の場合=障害特別支給金 + 障害特別一時金

冒頭で述べたとおり、自賠責保険・任意保険の賠償金と、労災保険の給付金の二重取りはできませんので、障害(補償)年金と障害(補償)一時金で支給された金額は、自賠責保険・任意保険の賠償金から差し引かれます。しかし、労災保険のおトクな点は、障害(補償)年金・障害(補償)一時金に上乗せされる特別金は賠償金から差し引かれないということにあります。労災保険を使うと、特別金のぶんだけ、後遺障害補償を手厚く受け取れるのです。

(注2:後遺障害により労働能力が減少し、将来の収入が減ることに対する賠償金のことです。)

メリットその6:労災保険を使うと、後遺障害認定時に、正確な障害の症状を伝えられる

労災保険での後遺障害認定では、被害者は医師と直接面談して障害の程度を確認してもらい、等級認定を受けられます。

一方、自賠責保険による後遺障害認定は、基本的に医師の診断書等による書面審査のみです。したがって、実際の障害の状態が、等級認定の際に正確に伝わりきらない可能性があります。
自賠責保険の後遺障害認定は、後遺障害の程度に応じて1級から14級まで等級が分かれており、それぞれ慰謝料が違いますので(32〜1,100万円)、被害者としては、より正確に自分の障害の重さを認定してもらいたいものです。

そこでポイントとなるのは、先に労災保険の後遺障害認定を受けておくと、自賠責保険の後遺障害認定の際に、労災保険の後遺障害認定の結果を参考にされるケースが多いということです。前述のとおり、労災保険の後遺障害認定では、医師と直接面談して症状を確認してもらえますので、自賠責保険の後遺障害認定でも、より正確な障害の状態を伝えられます。

メリットその7:その他、交通事故で労災保険を使用した場合に給付されるもの

詳細は割愛しますが、労災保険では、これまでに述べた給付金の他にも、

  1. 傷病補償年金
  2. 介護補償給付
  3. 遺族補償年金/遺族補償一時金

などの給付金がもらえます。

ワンポイントアドバイス
交通事故で労災保険を使うメリットは多数あります。加害者の自動車保険を使う場合よりも、ぐっと有利になる場合もあるのですから、ご自分の事案と照らし合わせて、労災保険を使うべきか否か検討するとよいでしょう。

交通事故で労災保険を使うデメリットはほとんどない

交通事故で労災保険を使う場合のデメリットとは

交通事故で労災保険を使うデメリットは、ほとんどありません。

しいて言えば、

  1. 労災保険指定医療機関以外での治療は、被害者あるいは被害者の勤務先の会社による一時的な立て替えが必要になる
  2. 労災保険は仕組みや手続きが複雑なので、素人が一人で行うのは難しい

ということでしょうか。

ワンポイントアドバイス
労災保険は仕組みや手続きが複雑なので、勤務先の会社が交通事故での労災保険使用に詳しくない場合などは、素人の被害者は困ってしまいます。そんな時は、労災保険を管轄する労働基準監督署や弁護士に相談するとよいでしょう。

交通事故での労災保険の使い方

勤務先の会社に、労災保険の申請を依頼する

労災保険の申請は、勤務先の会社に手続きを依頼して行います。通勤中・仕事中に交通事故に遭った場合、可能な限り早く、勤務先の会社に連絡をしましょう。

労災保険は、正社員以外でも使えます

労災保険は、労働者(パート・アルバイト・日雇い労働者を含みます)を一人以上雇用する事業主には加入義務があり、加入手続きは事業主の側で行います。したがって、正社員以外であっても、労災保険を使うことは可能です。

会社が労災保険に加入していない場合でも、救済策があります

勤務先の会社が、労災保険に未加入あるいは保険料の滞納をしている場合でも、労災保険を使用するための救済策があります。
それは、労災保険を事後的に適用させる、というものです。労災保険は労働者保護を目的としていますので、勤務先の会社が労災保険に未加入であっても救済策はあるのです。

会社が労災申請を嫌がる場合もある?その場合の対処法は?

なかには、勤務先の会社が「労災保険を使うと保険料が上がるので、使わないでほしい」などと言う場合もあるかもしれません。

確かに、労災保険には、安全対策を怠って業務災害を起こした会社の保険料を、そうでない会社の保険料よりも重くする制度があります。
ただし、この制度が適用されるのは、簡単に言うと、

  1. 社員数が100名以上の会社
  2. 社員数が20名以上100名未満で、業務に危険性のある事業を営む会社

です。
これらに当てはまらない会社は、業務災害が起きたからといって保険料が上がるわけではありません。
また、通勤災害の場合は、保険料は一切上がりません。会社が安全対策を行っていても防ぐことができない性質のものだからです。

そもそも、仮に労災保険を使ったことで会社の保険料が上がったとしても、労災保険の使用は労働者の権利です。労災制度は、労働者の権利を守るために制定された制度ですから、堂々と労災申請すべきなのです。それでも会社が嫌がった場合、具体的な対処法としては、所轄の労働基準監督署の労災課や弁護士に相談するなどの方法があります。

医療機関へ届け出る

労災指定医療機関を受診した場合

労災指定医療機関を受診した場合、診療時に、労災保険を使いたい旨を伝えましょう。そしてその後、医療機関の窓口に、治療費を現物支給してもらうための書面を出すことにより、被害者の治療費負担がなくなります。

労災指定医療機関以外を受診した場合

労災指定医療機関以外を受診した場合は、被害者または被害者の勤務先の会社は、診療費を全額立て替えます。その後、その医療機関に、治療費を返金してもらうための書面を提出して、診療内容を記入してもらいます。この書面と、治療費の領収書を労働基準監督署に提出すれば、立て替え金が事後に全額返金されます。

労働基準監督署に届け出る

交通事故のように、第三者(加害者)の行為による災害が起きた場合は、労災保険を使用するにあたり、労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出する必要があります。
なお「第三者行為災害届」には、

  1. 交通事故証明書
  2. 示談書の写し(示談成立の場合)
  3. 死亡診断書(被害者が死亡している場合)

などを添付しなければなりません。

ワンポイントアドバイス
交通事故での労災保険を使うには、勤務先の会社の協力が必要です。非協力的な会社の場合は、労働者の権利を守る弁護士に相談するとよいでしょう。

交通事故の労災保険使用についてお悩みの場合は、弁護士に相談を!

交通事故の相談については、無料相談を行っている弁護士も!

これまで、通勤中・仕事中の交通事故における労災の仕組みと使い方について見てきましたが、交通事故における労災保険には、メリットが多数ある一方で、デメリットはほぼありませんでした。
けれども、交通事故と言っても態様は様々であり、ご自分の事案が労災保険を使えるものなのかは、素人に容易にわかるものではありません。また、労災保険の申請に非協力的な勤務先の場合には、申請を依頼するにも苦慮することでしょう。

そこで弁護士の出番です。
交通事故の被害者は、被害に遭っただけでも大きなダメージを受けていますので、複雑な労災保険について、一人で対応する余裕がない場合も多いです。けれども弁護士は、交通事故の専門家です。通勤中・仕事中の交通事故に使える労災保険について、わかりやすく説明し相談にのってくれます。きっと、労働者の権利を守る大きなサポート役となってくれるでしょう。

交通事故に関しては無料相談を行っている弁護士も増えてきていますので、一人で悩まずに、まずは弁護士に相談することをオススメします!

交通事故に巻き込まれたら弁護士に相談を
無料相談を活用し、十分な慰謝料獲得を
  • 保険会社が提示した慰謝料・過失割合に納得が行かない
  • 保険会社が治療打ち切りを通告してきた
  • 適正な後遺障害認定を受けたい
  • 交通事故の加害者が許せない
上記に当てはまるなら弁護士に相談