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交通事故での刑事裁判~加害者の違法行為を処罰する裁判

この記事で分かること

  • 交通事故の加害者は刑事責任として「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」に問われることがあります。
  • 交通事故案件の大半は略式手続きで処理されます。
  • 公判手続きの流れは「冒頭手続き(人定質問、起訴状朗読、黙秘権の告知、罪状認否)→証拠調べ(検察官の冒頭陳述、検察官・弁護士の証拠調べ)→被告人質問→弁論手続き(検察官の論告・求刑、弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述)→判決」となります。
  • 示談が成立していれば刑事処分は軽くなります。

交通事故の加害者は刑事責任として「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」に問われることがあります。交通事故案件の大半は略式手続きで処理されます。公判手続きの流れは「冒頭手続き(人定質問、起訴状朗読、黙秘権の告知、罪状認否)→証拠調べ(検察官の冒頭陳述、検察官・弁護士の証拠調べ)→被告人質問→弁論手続き(検察官の論告・求刑、弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述)→判決」となります。示談が成立していれば刑事処分は軽くなります。

交通事故における刑事責任とは

交通事故でも、横領や殺人事件などと同様、刑事裁判にかけられることがあります。まずは交通事故加害者に発生する責任やその根拠を踏まえた上で、刑事責任について解説していきます。

交通事故加害者にはどんな責任が発生する?

交通事故に巻き込まれたら、被害者は理不尽な受難にやり場のない怒りがこみあげてくることでしょう。では、加害者はどのような責任に問われることになるのでしょうか。

交通事故の加害者は「刑事責任」「行政処分」「民事責任」を負う

ケースにもよりますが、交通事故加害者は基本的に民事責任や行政責任、刑事責任の3つに問われることになります。まず民事責任は不法行為に基づく賠償責任で、被害者に対して負うものである点で他の2つと異なります。

行政責任とは「道路交通法」に基づく責任です。行政機関である都道府県公安委員会によって下される処分で、“行政処分”とも呼ばれます。具体的には免許に関するもので免停や免取などがあります。

そして刑事責任は国から罰則を科される法律上の責任です。「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に基づき所定の刑罰を受けることになります。

交通事故における刑事責任―罪状や刑罰は

多くの場合加害者も意図的に事故を起こしているわけではありません。しかし違法行為をしていることに違いはないのでこうした責任が発生することになるのです。次に、刑事責任についてその罪状やどんな刑罰があるのかなどを見ていきましょう。

罪状は

まずは罪状を確認しましょう。人身事故の加害者は以下の罪に問われることになります。

過失運転致死傷罪

自動車を運転する際に必要な注意を怠り人を死傷させた場合、過失運転致死傷罪に問われることがあります。過失運転致死傷罪は7年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金を科する罪です(刑法211条2項)。

危険運転致死傷罪

危険運転致死傷罪は、過失運転致死傷罪よりも悪質なケースに適用されます。人に怪我をさせた場合「危険運転過失致傷罪」で1月以上15年以下の懲役、人を死亡させた場合は「危険運転過失致死罪」で1年以上20年以下の懲役に処せられます(刑法208条の2)。

殺人罪

殺意のもとに起こした事故で人を死に至らしめた場合、当然ながら殺人罪が適用されます(刑法119条)。死刑または無期、もしくは5年以上の懲役となります。

刑罰の種類は

刑罰には懲役や禁錮、罰金、科料があり、違法行為の内容や程度によって受ける罰が決まります。また、この内懲役や禁錮は本来であれば刑務所に収容される刑罰ですが、執行猶予が付けば刑務所に入らずに済みます。

ワンポイントアドバイス
交通事故の加害者は刑事責任として「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」に問われることがあります。

交通事故から刑事裁判までの流れ

交通事故の裁判にも民事裁判と刑事裁判があります。民事裁判は主に賠償請求に応じなかった場合に、被害者によって提起される裁判です。

一方の刑事裁判は加害行為が悪質だった場合などに、検事が起訴し執り行われるものです。民事裁判の目的が加害者から被害者への金銭支払いであるのに対し、刑事裁判の目的は加害者の違法行為を処罰することにあります。

とは言えもちろん違法行為、つまり事故を起こしたからと言って、即裁判になるわけではありません。ここでは交通事故から刑事裁判までの流れを解説します。

人身事故を起こせば違法行為で逮捕となることも

交通事故は突発的に起こるものなので、誰にも予期することはできません。またほとんどの場合、加害者も意図的に事故を起こしているわけではありません。しかしそうであっても、人身事故を起こせば過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪の違反に当たり、加害者は犯罪者として逮捕されることもあるのです。

違法行為で逮捕されることもある

人身事故を起こした場合その加害行為は過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪の違反に当たります。そしてこうした違法行為を根拠に逮捕されるケースもあるのです。駆けつけた警察官によって現行犯として逮捕されることもあれば、在宅捜査となり後日逮捕されるケースもあります。

逮捕の目的は証拠隠滅や逃亡を防ぐことにあり、一概には言えませんが、犯人が逃走する恐れがあると警察が判断した場合に逮捕されることが多いです。

悪質な事案では逮捕される

中でも悪質な事案、例えば飲酒運転や無免許運転、時速50㎞以上のスピード超過など危険運転致死傷罪が適用されるケースでは逮捕は免れないでしょう。また過失運転致死傷罪であっても被害者が重傷を負ったり、死亡したケースでは逮捕される可能性が高くなります。

更に人身事故を起こしたにもかかわらず逃走するいわゆる“ひき逃げ”では加害者が特定されれば100%逮捕されます。

逮捕されてもほとんどは略式手続きとなる

しかし仮に逮捕されたからと言って、必ずしも裁判にかけられるわけではありません。むしろほとんどは略式手続きで処理されます。

膨大な交通事故のすべてを正式な裁判にかけることの現実的でない

平成29年度の交通事故件数は472,165件です。つまり1日1300件近くの事故が起きている計算になります。逮捕案件に限定するにしてもかなりの数です。このように日々あちらこちらで巻き起こる交通事故案件のすべてを正式な裁判で審理するとなると大変な時間と労力が必要になってしまいます。

そこで大半は略式手続きでの処理となる

そこで、交通事故の大半は「略式手続き(略式裁判)」で処理されるのが実情なのです。100万円以下の罰金または科料が見込まれる事件で、かつ被疑者に異議がない場合、検察官が簡易裁判所に略式命令の請求を行います。

請求を受けた簡易裁判所は書面審査を行い、略式命令が妥当との判断に至れば公判手続き、すなわち正式な裁判を経ることなく被疑者に一定額の罰金または科料の刑を科します。これを「略式手続き(略式裁判)」と呼びます。

ワンポイントアドバイス
交通事故案件の大半は略式手続きで処理されます。

刑事裁判(公判手続き)の流れ

このように交通事故ではそのほとんどが略式手続きで片が付き、法廷にて裁判が行われるケースは一部となります。では法定での正式な審理となった場合どのように進められるのでしょうか。ここでは公判手続きがとられるケースや公判手続きの流れを紹介していきます。

交通事故で正式な刑事裁判が開かれるケースとは

自動車事故における逮捕案件にもいろいろなケースがありますが、その内正式な刑事裁判が開かれるのは「100万円以下の罰金または科料以外の刑が相当な事件」や多くの車両が巻き込まれた事故など「事件の内容が複雑な場合」です。

公判手続きの流れ

では公判手続きの流れを見ていきましょう。

冒頭手続き

まずは冒頭手続きです。

人定質問

初めに裁判長が被告人に対して氏名・年齢・本籍地・住所・職業を尋ねます。
人違いでないかを確認するのです。

起訴状朗読

次に検察官が起訴状を読み上げます。起訴状は刑事裁判を提供するにあたり検察官が裁判所に提出する書類です。

起訴状には「被告人を特定する事項」「公訴事実」「罪名」が記載されています。被告人を特定する事項としては氏名・年齢・本籍地・住所・職業が記載されます。また被告人が拘留されている場合は、その旨も記載があります。

公訴事実とは当該法廷で裁かれる犯罪事実のことです。公訴事実は“訴因を明示して記載しなければならない、訴因を明示するには、できるかぎり日時・場所・方法をもって罪となるべき事実を特定しなければならない”とされています(刑事訴訟法第256条)。

公訴事実では被告人がいつ、どこで、何を、誰に対しどのような手段で行ったのかが記載されます。罪状は犯罪名です。

黙秘権の告知

裁判長が被告人は黙秘権を有する旨を伝えます。犯罪者であっても、自分に不利な証言を強いられることはないわけです。

被告人および弁護人の陳述(罪状認否)

被告人や弁護人が事件に関する陳述をします。具体的には罪状の認否についての陳述となります。一般的な裁判では否認や一部否認するケースもありますが、交通事故の場合は罪を認めることがほとんどです。

証拠調べ手続き

冒頭手続きが終わると証拠調べ手続きに移ります。検察官や弁護士が、裁判所に証拠を提出する手続きです。なお裁判官はこの時初めて証拠を確認することになります。これは前もって証拠を目にしていると先入観が生まれ、判決に影響しないとも限らないからです。

検察官の冒頭陳述

冒頭陳述では、検察官が事件の内容を説明します。被告人の生い立ちや事故の状況などを起訴状よりも詳細に説明することになります。

証拠調べ

次に検察官と弁護士が裁判所に証拠を提出し、証拠として採用されれば内容が調べられます。初めに検察側の証拠を調べ、立証が済んだら弁護士側の証拠調べに移ります。交通事故の刑事裁判における証拠には例えば警察によって作成された事故調査書や事故映像を記録したドライブレコーダーなどがあります。

被告人質問

続いて被告人質問に入ります。
罪状を認めている場合は、反省の念や被害者への謝罪の意を述べます。事実関係に争いがある場合は、被告人は裁判官に直接言い分を説明できます。

弁論手続

次は弁論手続きです。

検察官の論告・求刑

検察官によって事件についての意見が述べられ、求刑が行われます。

弁護人の最終弁論

弁護士が弁論します。罪状を認めている場合は量刑が軽くなるよう、被告に有利な意見を述べます。事実関係に争いがある場合、検察官の論告・求刑に対する反論を述べます。

被告人の最終陳述

最後に被告人も意見を述べることができます。

判決

そしてついに判決が下ります。裁判官が証拠や証言を検討し、後日判決を言い渡すことになります。有罪か無罪か、またその結論に至った理由が、有罪の場合、罪状と共に言い渡されます。

ワンポイントアドバイス
公判手続きの流れは「冒頭手続き(人定質問、起訴状朗読、黙秘権の告知、罪状認否)→証拠調べ(検察官の冒頭陳述、検察官・弁護士の証拠調べ)→被告人質問→弁論手続き(検察官の論告・求刑、弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述)→判決」となります。

交通事故の刑事裁判について知っておきたいこと

以上、交通事故で発生する法的責任や罪状、刑事裁判にかけられるケースやその流れを解説してきました。最後に交通事故の刑事裁判の費用や示談による影響など、知っておきたいポイントを紹介します。

刑事裁判の費用について

民事裁判にかかる費用としては、申立手数料や印紙代、書類作成提出費用、出廷した当事者の旅費・日当・宿泊費などがありますが、原則敗訴した方が負担することとなります。では刑事裁判の場合どんな費用を誰が負担するのでしょうか。

無罪の場合かからない

まず、無罪判決が言い渡された場合、費用はかかりません。これは理にかなっていると言えます。何の罪もないのに裁判に手間や暇をとられたのですから、むしろお金を要求したいぐらいのものでしょう。

有罪の場合被告人が負担することもあるが、実際は払わないことがほとんど

一方、有罪の場合はどうでしょうか。有罪判決が下った場合、原則的には判決までにかかった訴訟費用の全部または一部を被告人が支払う取り決めとなっています。これは刑事訴訟法にも定められているルールですが、実務上は訴訟費用を被告人に負担させるケースはほとんどありません。

示談は刑事裁判に影響するのか

近年、芸能人の強制わいせつ事件や大学スポーツの反則問題などでしばしばメディアで取り上げられる「示談」。刑事事件における示談は通常罪を軽くするために行われるものですが、交通事故事件においても被害者と加害者の間に示談が成立している場合、影響はあるのでしょうか。

示談の有無は刑事処分に影響あり

示談の成立は、被害者に加害者へ対する積極的な処罰感情はないこと、また加害者側にも誠意があることを意味します。ですから示談が成立していれば、執行猶予が付く可能性が高くなります。

とは言え、示談が成立していれば必ず執行猶予が付くわけではありません。酒酔いや無免許を伴った死亡事故など、この上ない凶悪事件の場合、実刑は免れないと考えてよいでしょう。ただこうした場合でも、示談があれば刑期が2割程度短くなることはあります。

ワンポイントアドバイス
示談が成立していれば刑事処分は軽くなります。

刑事裁判になる交通事故は少数だが…

刑事裁判になるのは、交通事故の中でも一握りのケースだけです。しかし誰でも重大事故の加害者になる可能性はあるのです。また反則金の不払いでも刑事裁判にかけられることがあるので注意しましょう。

裁判沙汰になりそうな事故を起こしてしまったり、巻き込まれてしまった場合は、法廷での強い味方となる弁護士に、早めに相談しておくようにしましょう。

交通事故に巻き込まれたら弁護士に相談を
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  • 保険会社が提示した慰謝料・過失割合に納得が行かない
  • 保険会社が治療打ち切りを通告してきた
  • 適正な後遺障害認定を受けたい
  • 交通事故の加害者が許せない
上記に当てはまるなら弁護士に相談