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交通事故・同乗者の取り扱い~損害賠償責任・慰謝料請求・保険の適用はどうなる?

この記事で分かること

  • 同乗していた車が事故を起こしけがを負えば加害者や運転手に対して賠償請求できます
  • 同乗者に対しても、自賠責保険は適用可能です。任意保険の場合は、契約内容や運転者との続柄によります。
  • 賠償請求は被害者請求でするのが得策です。

同乗していた車が事故を起こしけがを負えば加害者や運転手に対して賠償請求できますが、好意同乗の場合、減額されることもあります。共同不法行為や危険運転幇助犯として、同乗者も損害賠償責任や刑事責任を負うことがあるので注意が必要です。

交通事故を起こしたとき同乗者にも損害賠償責任がある

交通事故で負傷すれば加害者に対して損害賠償請求することができます。では、自分が同乗した車が事故を起こし、けがを負った場合、どうなるのでしょうか。

まずは被害者となった際の賠償の請求先など損害賠償における同乗者の扱いを見ていきましょう。

同乗者の損害賠償請求先は加害者と運転者

事故が起こり怪我をした場合、相手方車両など直接的な加害者に対してはもちろん賠償請求できます。

そして、同乗者は、原則運転者に対して賠償請求することもできます。

好意同乗の場合

しかし、注意しなければならないのが親切心で乗せてもらった際に事故が起こった場合です。

例えば深夜まで酒を共にしていて終電を逃した場合や、残業で遅くなった場合、友人や会社の同僚に家まで車で送ってもらうこともあるでしょう。

このように運転者の好意や親切心で車に無償で同乗させてもらうことを「好意同乗(無償同乗)」といい、好意同乗中の事故では同乗者が請求できる賠償額が減ることがあるのです。

信義則上不条理が発生するため賠償額が減ることも

好意同乗中に運転者が事故起こし、けがをしてしまった場合も、原則同乗者は運転者を加害者として賠償請求することができます。

ところが、保険会社は好意同乗者に20%前後の過失があるとし賠償金の減額(好意同乗減額)を主張してくるケースがあります。それは、運転者が好意同乗者の全損害の賠償責任を負うこととすれば信義則上不公平が生ずるためです。

要するに「本来であれば同乗させる義務はないが運転者の親切心からタダで“乗せてあげている”のにも関わらず、その損害の全額を請求されたのでは、運転者はたまったものではない」とする考えから賠償額が減額されるわけです。

実際に昭和40年代から50年代にかけては、好意同乗を理由とする減額を多くの判例で認めています。

近年の動向

けれども最近の判例の動向を見てみると、同乗の事実だけで過失を負うとするこの考え方は認められない傾向にあります。とはいえ、好意同乗減額が全く認められなくなったわけではありません。

たとえば好意同乗者が運転の邪魔をしたり、スピード超過を煽るなど、自ら事故発生のリスクを増大させたり、飲酒や無免許での運転であることを把握したうえで同乗するなど事故発生の客観的リスクが極めて高い事情が存在することを知りながら同乗した場合には、賠償額は減額されます。

つまり、好意同乗者に責めに帰すべき事由があるとみなされる場合、好意同乗減額が認められるのです。

ワンポイントアドバイス
同乗していた車が事故を起こしけがを負えば、加害者や運転手に対して賠償請求できますが好意同乗の場合、減額されることもあります。

交通事故を起こしたとき同乗者も自動車保険が適用される

同乗した車が事故を起こし、けがを負った場合、同乗者も慰謝料などの損害賠償請求が可能です。このとき保険は適用可能なのでしょうか。自動車保険の特徴と併せてみていきましょう。

自動車保険は2種類ある

自動車保険にも大きく「自賠責保険(自動車損害賠償保険)」と「任意保険」があります。まずは賠償範囲など、自動車保険における基本的な事柄を再確認しておきましょう。

自賠責保険は限度額があり対人のみが対象

自賠責保険とは、自動車の購入と同時に加入が義務付けられている強制保険です。「自動車損害賠償保険法」によって交通事故の被害者を確実かつ迅速、公平に救済する目的で定められたものであり、対象は人身事故のみとなります。

また、広く救済するため保険金の支払い額に関してもけがの場合120万円、死亡の場合3000万円の上限が設けられています。

自賠責保険の不足分をカバーするのが任意保険

しかし、交通事故のケースは様々です。人身損害が120万円を上回ることもあります。そして、当然物件損害だけにとどまる物損事故においても、被害者は経済的損害を被っているわけです。

こうした場合、対人のみを補償の対象とし、かつ限度額が定められている自賠責保険だけではカバーしきれません。そこで自賠責保険の不足分を補うのが任意保険です。

任意保険は細かくわけると多くの種類がありますが、大別すれば「対人賠償保険」「対物賠償保険」「搭乗者傷害保険」「人身傷害補償保険」「車両保険」「自損事故保険」「無保険車傷害保険」の7つになります。

同乗者に対する自動車保険

では、自動車保険は同乗者に対しても適用されるのでしょうか。これに関しては自賠責保険と任意保険とで扱いが異なるので注意が必要です。

まず自賠責保険に関しては、適用可能です。上限までなら保険金支払いを受けられることになります。

任意保険の適用の可否は契約内容や運転手との続柄による

任意保険で同乗者を補償対象に含む保険は搭乗者傷害保険、人身傷害補償保険、自損事故保険、対人賠償保険があります。ただ、対人賠償保険については運転手との続柄次第で同乗者は賠償を受けられません。

と言うのも、対人賠償保険はそもそも相手方車両の搭乗者や歩行者を賠償する保険であり、この“対人”とは他人、つまり家族以外の人を指します。

従って対人賠償保険は子供や配偶者など家族に対しては賠償されないのです。ですから、仮に友人と子供が同乗していた場合、保険適用の対象となるのは友人のみとなります。

ワンポイントアドバイス
同乗者に対しても、自賠責保険は適用可能です。任意保険の場合、適用の可否は契約内容や運転者との続柄によります。このように、同乗車両が事故に巻き込まれ、同乗者が被害に遭った場合、加害者や運転手に対して賠償請求でき、運転者との続柄によるものの保険は適用されます。

交通事故を起こしたとき、同乗者も責任に問われることがある

同乗者が、加害者側にまわることも当然あります。この場合、事故を起こしたのは運転者になるわけですが、同乗者も何らかの責任に問われる可能性があるのでしょうか。

結論から言えば、答えは「Yes」です。

運転者が危険運転をしようとするとき、同乗者はそれを阻止する義務を負います。にもかかわらず義務を果たさなかったことで事故が起こった場合、同乗者に「共同不法行為責任」が発生し、賠償責任を負うことになるケースがあるのです。

そして、賠償額は運転者の過失割合の大きさによって増減することとなります。交通事故、それも危険運転をしていたケースにおいて過失がゼロとなることは実際にはあり得ませんが、仮に運転者の過失がゼロの場合、賠償責任は発生しません。

飲酒運転の同乗者

また飲酒運転や無免許運転など悪質な違反運転を黙認・幇助した場合、民事責任のみならず、同乗者は刑事責任を負う場合もあります。

とはいえ、事故の直接の加害者は運転者です。そのため同乗者と運転手が全く同じ罪を問われるわけではありません。

飲酒運転幇助は重罪

飲酒運転に関しては近年社会的批判が高まっていることもあり、同乗者にも重い刑事責任が科されることがあります。その量刑は、運転者の酒酔いの程度によって変わり、

酒気帯び運転の場合 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
酒酔い運転の場合 3年以下の懲役または50万円以下の罰金

となります。

ポイントとなるのは、同乗者が運転者の飲酒運転を知っていたかどうかです。

過去に飲酒運転で致死傷事故を起こした加害者が危険運転致死罪に問われた事件で、同乗者を運転手がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、同乗して運転を黙認し続けたとして、危険運転致死の幇助罪を認めた判例があります。(平成25年4月15日最高裁判所第三小法廷)。

無免許運転の同乗者

同様に無免許運転に同乗した場合も刑事罰を処されることがあります。

道路交通法はその第64条で「何人も、自動車(中略)又は原動機付自転車の運転者が第八十四条第一項の規定による公安委員会の運転免許を受けていないこと(中略)を知りながら、当該運転者に対し、当該自動車又は原動機付自転車を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する自動車又は原動機付自転車に同乗してはならない。」と定めています。

つまりこの場合もやはり運転者が無免許であることを知っていたか、否かがポイントとなるのです。運転者の無免許を知りながら同乗していた場合、同乗者には2年以下の懲役または30万以下の罰金刑が科せられます。

ワンポイントアドバイス
共同不法行為や危険運転幇助として同乗者も損害賠償責任や刑事責任を負うことがあります。

交通事故を起こしたとき同乗者の損害賠償請求方法

同乗者が損害賠償請求するには、どうすればよいのでしょうか。ここでは賠償請求の方法やその際のポイントを解説していきます。

被害者請求と加害者請求

交通事故で損害賠償請求する方法には大きく「被害者請求」と「加害者請求」があります。自賠責保険ではまず被害者が加害者に損害賠償請求し、その領収書など必要書類を添えて加害者側が保険会社に保険金支払いを請求します。これが「加害者請求」です。

けれども例えば、事故の過失割合に争いがあるような場合や加害者に資力がない場合、また加害者が任意保険に加入していない場合などでは、被害者に対して賠償金を支払わないことがあります。

こうした場合に、被害者の方から加害者の保険会社に賠償請求する方法が「被害者請求」です。被害者請求手続きにおける損害調査の中で後遺障害等級認定も行われます。

被害者請求方法は

被害者請求をするにはまず相手方の保険会社を調べ、保険金請求の書類を送付してもらいます。

書類が届いたら内容を確認し請求に必要な書類を集め、自賠責保険に提出します。請求手続き自体はこれで完了ですが、提出後に自賠責保険から問い合わせがあれば対応しなければなりません。

例えば資料の取り寄せなどを要求されることがありますが、応対しなければ先に進まないのですぐに応じるようにしましょう。

損害賠償請求を被害者請求で行うべき理由

一般的に、“交通事故における損害賠償請求は被害者請求で行うべき”と言われますが、なぜなのでしょうか。それには後遺障害等級認定が関係してきます。

適切な後遺障害等級認定を獲得できる

後遺障害等級認定を獲得する方法としては前述の被害者請求のほか「事前認定」があります。

事前認定とは相手方の任意保険会社が認定手続きを行う方法で、いわば加害者請求における後遺障害等級認定手続きです。費用もかからず被害者は楽ですが、相手方の保険会社が手続きをするわけですから、被害者側に不利な認定結果になるリスクもあります。

他方、被害者請求では書類を集める手間や費用はかかりますが、自分で行う分、適切な後遺障害等級の認定を獲得しやすくなるのです。

保険金を前倒しで受け取ることができる

また、加害者請求における事前認定と被害者請求では、保険金支払いを受けられるタイミングも異なります。事前認定では、ほとんどの場合加害者側の任意保険会社から自賠責保険の分も含めて賠償金が一括で支払われます。これを「一括支払い」と言います。

けれども、一括支払いには難点があるのです。それは保険金支払いを受けられるのは示談成立後である点です。つまり、後遺障害等級の賠償金も示談成立まで支払われないわけです。

ワンポイントアドバイス
事故後は治療費や生活費が必要になるので、それでは具合が悪いでしょう。
その点、被害者請求では、後遺障害が認定されれば、認定された等級の自賠責の保険金を、示談成立を待たずして受け取れます。

同乗者がいる自動車での交通事故は弁護士に相談を

交通事故はいつ何時起こるか予測できません。交通事故を起こしたとき、加害者側も被害者側にも同乗者がいることは、大いにあり得ることです。同乗者がいて交通事故を起こすと、責任の範囲も複雑になり、保険や慰謝料、損害賠償請求についても、素人の判断では難しくなります。

同乗者を巻き込んだ交通事故を起こしたときは、交通事故に強い弁護士に相談し、適切なサポートを受けることをおすすめします。

交通事故に巻き込まれたら弁護士に相談を
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