2020/6/25 575view

経営者・会社役員の休業損害~算出方法に注意!役員報酬をふまえた補償額の考え方

この記事で分かること
  1. 経営者・会社役員が有利な休業損害を請求するためには、役員報酬の労務対価部分の計算が重要
  2. 労務対価部分は、利益配当部分との比率で計算する
  3. 労務対価部分の比率は、個別具体的に判断する
  4. 経営者・会社役員が事故で休業した場合には、企業損害を請求できるケースも
  5. 経営者・会社役員の休業損害は、交通事故に詳しい弁護士へ相談しよう

経営者・会社役員の休業損害は、一般的な会社員の休業損害よりも算出・請求方法が複雑です。経営者・会社役員の基礎収入は、役員報酬における労務対価部分の比率で計算しますが、労務対価部分の比率は個別具体的に判断する必要がありますので、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

経営者・会社役員の休業損害は算出方法が複雑

経営者・会社役員の休業損害は保険会社に認めてもらいにくい

交通事故の被害者には、治療のために働けず、本来得られるはずの収入が減少してしまうことがあります。このような場合、被害者は、「治療のために働けず減収したこと」を休業損害として加害者・保険会社に請求できます。

休業損害は、被害者が一般的な会社員であれば、勤務先が作成する休業損害証明書や源泉徴収票などをもとに、比較的簡単に算出・請求できますが、被害者が経営者・会社役員の場合は、一般的な会社員の場合よりも算出・請求方法は複雑です。また、休業損害を立証するための資料も、

  • 株主総会議事録(事故が原因で役員報酬が減額・不支給となったことがわかる議事録)
  • 法人事業概況説明書
  • 決算報告書
  • 月次損益計算書

など、一般的な会社員よりも多くの資料が必要です。

こうした事情から、被害者が経営者・会社役員のケースでは、知識のないまま保険会社と交渉すると、休業損害を適正な金額で認めてもらいにくいという問題があります。

適正な休業損害を請求するのに理解すべき点

経営者・会社役員が、適正な休業損害を請求するためには、正しい休業損害算出方法や、被害者本人の休業損害だけではなく企業損害が請求できるケースがある、といった点への理解が重要です。そこで本記事では、これらに焦点を当てて詳しく解説します。

ワンポイントアドバイス
経営者・会社役員と言っても、経営する企業は大企業から中小企業までさまざまです。商業登記簿の上では経営者・会社役員の地位にあっても、会社が小規模であれば、実質的には個人による自営業と判断されるケースもあります。そして自営業の場合には、経営者・会社役員と異なる方法で休業損害を算出します。自分がどちらのケースで休業損害を算出・請求すべきかわからない場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

経営者・会社役員の休業損害算出方法

経営者・会社役員の休業損害は、役員報酬の労務対価部分を基礎収入として算出する

経営者・会社役員の休業損害は、怪我の治療のために役員報酬が減額・不支給だった場合に、役員報酬の労務対価部分と呼ばれる部分を基礎収入(被害者の基本的な収入金額)として算出します。

役員報酬の労務対価部分とは

会経営者・役員の役員報酬は、

  • 労務対価部分
  • 利益配当部分

の2つに分けられます。

労務対価部分とは、役員報酬のうち、経営者・会社役員が実際に業務にたずさわり、労務に服したことで支払われる部分を指します。一方の利益配当部分とは、経営者・会社役員がその地位にあることで得られる、会社の利益の配当部分を意味します。

役員報酬の労務対価部分を計算するのは難しい

前述のとおり、経営者・会社役員の休業損害では、役員報酬のうち利益配当部分を抜いた労務対価部分を基礎収入として計算しますが、専門知識のない方が労務対価部分を計算するのは難しく、保険会社は役員報酬に労務対価部分はないものとして、経営者・会社役員の休業損害を認めないことがほとんどです。

そこで次章では、保険会社との交渉を有利に進められるよう、正しい労務対価部分計算方法を見ていきます。

ワンポイントアドバイス
基礎収入は、休業損害だけではなく、後遺障害が残った時に請求できる逸失利益の計算でも使用します。基礎収入が高額なほど、休業損害・逸失利益も高額になりますので、後遺障害が残った経営者・会社役員は、特に基礎収入に注意しましょう。なお、交通事故に詳しい弁護士であれば、休業損害だけではなく逸失利益にも通じています。逸失利益について詳しく知りたい場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

経営者・会社役員の休業損害における労務対価部分の計算方法

労務対価部分は利益配当部分との比率で計算する

休業損害をにおける役員報酬の労務対価部分は、利益配当部分との比率で算出します。

例えば、役員報酬が1000万円で、

労務対価部分30%:利益配当部分70%

であれば、

労務対価部分300万円:利益配当部分700万円

ですので、この労働対価部分300万円を基礎収入として休業損害として請求します。

労務対価部分の比率は個別具体的に計算する

では、労務対価部分の比率はどのように計算するのでしょうか?

実は、労務対価部分の比率には定型的な計算方法はなく、以下の要素を総合的に考慮し、個別具体的に求めていきます。

  • 被害者(※経営者・会社役員。以下同じ)の地位、年齢、職務内容
  • 被害者の役員報酬金額
  • 他の役員の役員報酬金額
  • 従業員の給与額
  • 事故後の被害者、他の役員の役員報酬支給状況
  • 会社の規模、収益状況
  • 類似規模の同業企業における役員報酬金額 など

なお、労務対価部分の判断要素となる「会社の規模、収益状況」を証明するためには、

  • 法人事業概況説明書
  • 決算報告書
  • 月次損益計算書

などが必要です。

労務対価部分の比率を計算できない場合

賃金センサスから休業損害を計算する

経営者・会社役員の休業損害で労務対価部分の比率を計算できない場合には、厚生労働省による賃金センサス(賃金構造基本統計調査)から休業損害を算出する方法もあります。

賃金センサスでは、職種や性別など労働者の属性ごとに、その平均賃金があきらかにされています。

経営者・会社役員の休業損害を賃金センサスから算出する場合には、賃金センサスの、性別・年齢別・学歴別の平均賃金を基礎収入として計算します。

ワンポイントアドバイス
役員報酬の労務対価部分は、会社が小規模であれば多く認められる傾向にありますが、他の判断要素をふまえ、総合的に判断されます。素人には労務対価部分の計算は難しいため、交通事故に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。

経営者・会社役員の休業損害では、企業損害を請求できる場合も

経営者・会社役員の休業損害では、その経営する会社が、加害者・保険会社に対し、経営者・会社役員の休業による企業損害を請求できる場合があります。

反射損害(肩代わり損害)が発生したケース

経営者・役員が、事故により休業し労務を提供できなかったにも関わらず、会社が役員報酬全額を支払った場合には、会社は、支払った役員報酬のうち、労務対価部分に相当する金額を反射損害(肩代わり損害)として加害者・保険会社に請求できます。

反射損害(肩代わり損害)を請求できる理由と認定のコツ

会社の中には、節税のため、役員報酬を定期同額給与として経費計上する会社も少なくありません。定期同額給与とは、会社が役員に対し支給する給与のうち、1ヶ月以下の一定期間ごとに同額で支給する給与を指しますが、定期同額給与では、定めた期間の途中で役員報酬を減額してしまうと、その役員報酬を経費として認めてもらえなくなる可能性が出てきます。

そのため、会社は、事故により経営者・会社役員から労務提供を受けられなかったとしても、役員報酬全額を支払うことがあります。

しかし、会社が実際には労務提供を受けられなかったことを考えると、支払った役員報酬のうち労務対価部分は無駄に支払わざるをえなかったとも考えられます。よって、会社は、無駄に支払わざるをえなかった役員報酬の労務対価部分を、反射損害(肩代わり損害)として加害者・保険会社に請求できるとされています。

もっとも、すべてのケースでこの論理が認められるわけではなく、被害者にはあきらかに休業の必要性があったと、保険会社や裁判所に認定してもらわねばなりません。認定のコツは、骨折して入院したなど怪我の程度が重症で業務に従事できなかったことを、きちんと主張・立証する点にあります。具体的にどのように主張・立証すればいいかわからない場合には、弁護士に相談しましょう。

営業損害が発生したケース

小規模企業なら認められる余地あり

経営者・会社役員が事故のために休業したために、会社の売上が減少し、営業損害が発生する場合があります。しかしながら、会社が加害者・保険会社に営業損害を請求することは、原則として認められていません。

ただし小規模企業の場合には、被害者である経営者・会社役員と会社が、経済的一体の関係であると考えられ、会社の損害は被害者の損害につながることから、例外的に営業損害の請求が認められる余地があります。

営業損害が認められるケースは、会社の資本金額、売上高、従業員数、被害者の地位・権限・業務内容などを総合的に考慮し、会社が個人事業・自営業と変わらないケースです。これは個別具体的に判断する必要がありますので、弁護士などのプロに相談するのが得策です。

ワンポイントアドバイス
直接の被害者である経営者・会社役員の休業損害と、間接的な被害者である会社の企業損害は、それぞれ別に請求します。交通事故に詳しい弁護士は、休業損害と企業損害それぞれの請求方法をよく知っていますので、スムーズな請求のためには交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

裁判例にみる経営者・会社役員の休業損害

ここでは、実際の裁判で経営者・会社役員の休業損害が認められた例をご紹介します。

役員報酬の減少額全額を休業損害と認定されたケース

被害者は、個人で建設業を営み、その後株式会社化し代表取締役に就任した48歳男性です。このケースでは、事故前と事故後の役員報酬月額を比較し、その減少額全額が休業損害として認定されました。

ポイントとなったのは、被害者について、

  • 会社設立以降は従業員を雇用せず、一人で従前と同様に現場作業を含む内装業、監督業を行っていた
  • 事故前の収入は月額40万円であり、事故後9ヶ月までは同額の支給を受けていたが、その後は月額20万円に減少した

点で、裁判所はこのような事情から、事故前の収入全額を労務対価と認め、月額報酬の減少額全額を休業損害と認めました。
※東京地裁平成26年4月23日判決

職責の大きい被害者の収入70%が基礎収入と認定されたケース

被害者は、電気事業・スポーツ事業を行う会社代表取締役の52歳男性です。このケースでは、被害者の職責の大きさ等の事情から、収入の70%が基礎収入と認定されました。

ポイントとなったのは、被害者について、

  • 代表取締役である
  • 決裁業務等をはじめとしてその職責は大きい
  • その業務に対して高額の対価が支払われても不自然であるとはいえない

などの事情があった点で、裁判所は、こうした事情は「報酬における労務対価部分の比率を高く認める方向に働く」としました。

ただし、「役員報酬の中には、単に業績との連動性があるというよりも、むしろ原告が提供する労務の質量と直接結びついていない部分が一定割合含まれている」ことから、収入の70%(月額196万円、年額2352万円)を基礎収入と認定した上で、休業割合(受傷により仕事に支障が出ている割合)を25%と認定しました。
※大阪地裁平成26年9月9日判決

企業損害が認定されたケース

被害者が社長を務める会社が、事故により休業した被害者へ支払った役員報酬を、企業損害の「反射損害(肩代わり損害)」と認定されたケースです。

ポイントとなったのは、会社について

  • 被害者が約7割の株式を有する同族会社である
  • 被害者が代表取締役である
  • 被害者は、取引先の開拓、維持を率先して行っていた
  • 被害者が会社と同一の訴訟代理人にその遂行を委任し、かつ被害者について生じた休業損害分を加害者に請求していない

点です。

裁判所はこのことから、会社は被害者及びその家族が事故前と同様の生活を維持・継続するために、被害者から労務の提供を受けていないにもかかわらず、減給することなく従前の給与を支払ったのであり、被害者が休業損害として加害者に対し請求し得るものを肩代わりして支払ったと認定しました。
※東京地裁平成5年12月14日判決

ワンポイントアドバイス
ここでご紹介したのは、数ある経営者・会社役員の休業損害裁判例のごく一部です。交通事故に詳しい弁護士であれば、相談者の状況を細かくヒアリングし、より近い裁判例を調べて適正な休業損害を計算してくれます。裁判例から適正な休業損害を計算したい場合には、弁護士に相談しましょう。

経営者・会社役員は休業損害のほかに慰謝料も請求できる

経営者・会社役員が交通事故被害に遭った場合、休業損害のほかに慰謝料も請求できます。

慰謝料とは、交通事故により受傷し精神的苦痛を負ったことに対し支払われる金銭です。

慰謝料と似た言葉に示談金・損害賠償金がありますが、示談金は示談した際に支払われる金銭、損害賠償金は損害をつぐなうために示談や裁判の際に支払われる金銭ですので、慰謝料は休業損害と同様に、示談金・損害賠償金の一部にあたります。

トータルでの示談金・損害賠償金の増額を目指そう

休業損害を請求する経営者・会社役員は、一般的な会社員以上に慰謝料にも注意を払って、トータルでの示談金・損害賠償金のアップを目指しましょう。

休業損害のひとつ「企業損害」には、認定にハードルがある

経営者・会社役員が被害者の場合、被害者本人の休業損害だけではなく経営する会社にも企業損害が発生する場合がある一方で、企業損害の認定には相応のハードルがあり、加害者・保険会社から十分な補償を受けられない可能性があります。

ですから、仮に企業損害を認定してもらえない場合でも、トータルで示談金・損害賠償金が増額するよう、慰謝料をより有利な金額で請求することをお勧めします。

弁護士基準で計算した有利な金額で慰謝料請求を

では、慰謝料をより有利な金額で請求するためには、どうしたらいいでしょうか?

実は慰謝料の計算には、以下の3種類の基準があります。

  • 自賠責基準(自賠責保険による最低限の支払い基準)
  • 任意保険基準(任意保険会社独自の支払い基準)
  • 弁護士基準(弁護士による支払い基準)

そして被害者に最も有利なのは、弁護士だけが使える弁護士基準による慰謝料計算です。企業損害の請求を検討しているけれども、認定されるか不安がある方は、特に、トータルでの示談金・損害賠償金増額を目指し、弁護士への相談をお勧めします。

ワンポイントアドバイス
休業損害・企業損害は、示談金・損害賠償金の一部でしかなく、損害費目には、慰謝料や逸失利益など様々なものがあります。交通事故に詳しい弁護士に相談すれば、休業損害・企業損害以外の損害費目にも注意を払い、より有利な金額で示談金・損害賠償金を算定してくれます。お悩みの場合には弁護士に相談しましょう。

経営者・会社役員の休業損害は弁護士に相談しよう

まとめ:経営者・会社役員の休業損害は、労務対価部分を有利に認めてもらうことが重要

経営者・役員の休業損害は、基礎収入の計算に用いる役員報酬の労務対価部分を、いかに有利に認めてもらうかが重要です。

労務対価部分は利益配当部分との比率で計算しますが、労務対価部分の比率は、会社の規模や収益状況などの判断要素を元に個別具体的に判断しますので、ここで法的に説得力のある主張・立証をすることが大切です。

経営者・会社役員が事故で休業した場合、会社は、経営者・会社役員が休業したために発生した企業損害を請求できるケースもある一方で、企業損害の認定には相応のハードルがあるため、被害者は休業損害・企業損害だけではなく、慰謝料などを含めたトータルでの示談金・損害賠償金の増額を目指しましょう。

経営者・会社役員の休業損害を弁護士に相談するメリット

経営者・会社役員の休業損害は、交通事故に詳しい弁護士に相談するのがベストです。

経営者・会社役員の休業損害は、一般的な会社員の場合と異なり、算出方法や請求方法が複雑ですが、交通事故に詳しい弁護士に相談すれば以下のメリットがあります。

  • 基礎収入の計算に用いる役員報酬の労務対価部分を、有利に計算できる
  • 素人には判断が難しい、労務対価部分の立証資料について教えてくれる
  • 労務対価部分の計算ができない場合でも、賃金センサスの平均賃金から適正な基礎収入を計算できる
  • 被害者の休業損害だけではなく会社の企業損害に詳しい
  • 慰謝料など休業損害以外の損害費目にも通じている

法的知識や交渉経験のない被害者が、百戦錬磨の保険会社と対峙するのは容易ではありません。より有利な金額で休業損害を請求するためには、ぜひ交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

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