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会社役員の休業損害|役員報酬と企業損害の扱い

会社役員の休業損害|役員報酬と企業損害の扱い

この記事で分かること

  • 経営者・役員の休業損害が会社員と何が違うのか
  • 役員報酬のうち「労務対価部分」だけが対象になる理由と判断基準
  • 会社の損害(企業損害)を請求できるケースとできないケース
  • 個人事業主・自営業との違いと、経営者の休業損害の計算例
  • 後遺障害が残った場合の逸失利益への波及と交渉の注意点

経営者・役員の休業損害は、役員報酬のうち実際の労働に対応する「労務対価部分」が算定の基礎になります。会社のオーナーとして受け取る配当的な部分は対象外です。会社の損害(企業損害)は原則認められませんが、経営者と一体の個人会社では例外的に考慮されることもあります。報酬の中身と業務実態を資料で示すことが適正な補償のカギです。納得できないときは弁護士基準での再計算を検討しましょう。

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役員の休業損害は、会社員と何が違うのか

会社員なら、休んだ日数分だけ給与が減り、その減った額を請求すれば済みます。ところが役員の場合、そう単純にはいきません。

理由は、役員報酬の性質にあります。役員報酬は、働いた対価としての部分と、会社への出資や地位に対する分配としての部分が混じっていると考えられています。このうち休業損害の対象になるのは、前者だけです。

つまり、月額の報酬がそのまま基礎になるわけではありません。ここを理解しないまま交渉に入ると、提示された金額の低さに納得がいかないまま話が進みます。逆に、切り分けの理屈を知っていれば、どこを争えばよいかが見えてきます。

しかも、この割合はその場限りの話では終わりません。後遺症が残れば、同じ割合が将来の損害の計算にも使われます。最初に決まった数字が、そのまま何年分もの金額に効いてくるわけです。

さらに厄介なのが、報酬が減らないことです。役員報酬は事業年度の途中で簡単には変えられませんから、入院していても、休んでいても、毎月同じ額が振り込まれます。これを見た相手方は「損害は生じていません」と主張してきます。

想像してみてください。社員十名ほどの会社を経営していて、事故で入院した。営業も現場の判断も自分が担っていたため、受注は目に見えて落ちた。それでも役員報酬は規定どおりに支払われている。相手方に事情を伝えたところ、「報酬は満額出ていますね」と返された。

この一言で引き下がってしまう経営者の方は少なくありません。会社を回すことで頭がいっぱいで、賠償の交渉に時間を割けないという事情もあるでしょう。ただ、役員の事案は金額が大きくなりやすい類型でもあります。

報酬の水準が従業員より高いことが多く、そのぶん労務対価の割合を何割と見るかで、金額が大きく振れるためです。数十パーセントの差が、そのまま結果の差になります。

この記事では、労務の対価にあたる部分をどう切り分けるか、報酬が減っていない場合の考え方、会社に生じた損害を請求できるのか、そして必要な資料までを説明します。

休業損害の基本的な仕組みや、給与所得者の場合の計算方法については、総論の記事にまとめてあります。従業員としての給与も受け取っている方は、そちらもあわせてご覧ください。

読み進める前に、直近の決算書と、役員報酬を決めた議事録を手元に用意してください。どの資料がどう使われるのかを見ながら読むほうが理解が早くなります。

対象になるのは労務対価部分だけ

まず、この前提を押さえてください。

なぜ切り分けが必要なのか

役員報酬は、法律上は委任に対する報酬です。従業員の給与とは性質が違います。会社に出資し、経営の責任を負う立場に対して支払われる部分と、実際の業務に従事したことへの対価として支払われる部分が、一つの金額にまとめられています。

休業損害は、働けなくなったことによる損害です。ですから、働くこととは関係なく支払われる部分は、対象から外れます。この理屈自体は、争いのないところです。

争いになるのは、その先です。どこまでが労務の対価で、どこからが地位に対する分配なのか。報酬明細に区分が書かれているわけではありませんから、実態から推し量るほかありません。

相手方は低い割合を、こちらは高い割合を主張する。その間で着地点を探るのが実際の交渉です。だからこそ、根拠のある数字を先に示せるかどうかが効いてきます。

どこで線を引くのか

明確な計算式はありません。実務では、次のような事情を総合して判断されます。

  • 会社の規模と、役員の人数
  • その役員が実際に担っていた業務の内容と量
  • 従業員の給与水準と、役員報酬との差
  • 他の役員の報酬との均衡
  • 会社の利益の状況と、配当の有無
  • 同業他社の役員報酬の水準

小規模な会社で、代表者が営業も現場も担っているという実態があれば、労務対価の割合は高く評価されます。逆に、経営の判断だけを行い、日常の業務には関与していない場合は、割合が低くなります。

とはいえ、経営判断そのものも労務です。会議に出て意思決定をする、取引先と交渉する、資金繰りを組み立てる。これらは紛れもなく業務ですから、関与の度合いを丁寧に説明する価値があります。

示す材料としては、一日の業務の流れを書き出したものが分かりやすいでしょう。朝礼、現場の確認、見積もりの承認、取引先への訪問。実際にやっていたことを並べるだけで、説得力が出ます。

週単位や月単位で、定例の業務を書き出す形でも構いません。要は、報酬に見合うだけの労務を提供していた事実が伝わればよいのです。

ワンポイントアドバイス
相手方から労務対価の割合を示されたら、その根拠を尋ねてください。会社の実態を見ずに一律の割合を当てはめてくることがあります。実際の業務内容を具体的に示せば、割合は動きます。

報酬が減っていなくても請求できるのか

ここが最大の論点です。

減っていない場合の考え方

役員報酬が事故の後も満額支払われていた場合、相手方は損害の発生を否定します。現実に減収がない以上、一見すると筋が通っているようにも見えます。

実際、被害者側から見ても反論しにくい部分です。通帳を見れば、事故の前後で振込額は変わっていないのですから。

ただ、視点を変えてみてください。もし従業員が同じように休んだなら、給与は減っていたはずです。役員だけが減らないのは、制度上の事情によるものにすぎません。

しかし、会社が報酬を支払い続けたのは、経営上の判断や税務上の制約によるものであって、本人が働けたからではありません。実際には労務を提供できていないのに支払われている以上、その分は会社が負担していることになります。

会社からすれば、働いていない期間の報酬を支払い続けたわけです。損害がどこかに発生していないと考えるほうが不自然でしょう。問題は、それを誰の損害としてどう構成するかという技術的な点にあります。

この場合の整理は、事案によって分かれます。会社が支払った分について会社が請求する形をとることもあれば、本人の損害として構成することもあります。いずれにせよ、報酬が出ているから何もないという結論には直結しません。

この論点は、事案の内容や会社の形態によって組み立て方が変わります。判断が難しい領域ですので、早い段階で見通しを確認しておくことをおすすめします。

会社の顧問弁護士がいても、交通事故の賠償を扱っているとは限りません。分野が違えば、判断の精度も変わります。

減額した場合

事故を機に役員報酬を減額した場合は、その差額が損害として主張しやすくなります。ただし、減額の理由が事故によるものだと示す必要があります。

業績の悪化を理由に減額したのか、事故で業務に従事できなくなったから減額したのか。この違いが問われます。前者だと見られると、事故との結びつきが切れてしまいます。

事故の直後に減額していれば、時期の面でも説明しやすくなります。何か月も経ってからの減額は、他の要因を疑われやすいところです。

とはいえ、事業年度の途中で役員報酬を動かすには制約があります。無理に減額するより、支払い続けたうえで会社の負担として構成する道もありますので、進め方は相談のうえで決めてください。

減額した場合、社会保険料や所得税の扱いにも影響します。賠償だけを見て判断すると、別のところで負担が生じることがあります。

役員報酬の変更には、株主総会や取締役会の決議が必要です。その議事録に、事故により業務に従事できなくなった旨を記載しておけば、後の説明が楽になります。

議事録は後から作り直すものではありません。減額を決める段階で、記載の内容まで意識しておいてください。

賞与や退職慰労金への影響

役員賞与が業績に連動する仕組みであれば、事故による業績の悪化が賞与の減少につながることもあります。この点も、主張の対象になり得ます。

ただし、賞与の減少が事故によるものだと示すには、業績との連動の仕組みが規程などで明確になっている必要があります。慣行で決めていた場合は、説明が難しくなります。

過去数期分の賞与の支給実績と業績の推移を並べれば、連動の実態を示せることもあります。規程がないからといって、すぐに諦める必要はありません。

会社に生じた損害は請求できるのか

「自分が抜けたせいで、会社の売上が落ちた」。この損害はどう扱われるのでしょうか。

原則は請求できない

事故の被害者は役員本人であって、会社ではありません。会社は直接の被害者ではないため、売上の減少をそのまま請求することは原則としてできません。

これを認めてしまうと、加害者が負う責任の範囲が際限なく広がってしまう。そういう考え方に基づく整理です。

取引先が受けた影響、従業員の残業代、代替要員の採用費用。こうしたものを次々に認めていけば、賠償の範囲は歯止めを失います。この線引き自体には、それなりの合理性があります。

ですから、例外として認められるのは、会社という形をとっていても実質は個人の事業と変わらない、と言えるような場合に限られます。ハードルは高いと考えておいてください。

ただし、通らない主張だと決めつける必要もありません。自社の実態が一体性の評価に近いのであれば、主張してみる価値はあります。相手方が最初から認めることはまずありませんので、資料で押すことになります。

仮に会社の損害として認められなくても、労務対価部分の主張が消えるわけではありません。両方を並行して組み立ててください。

例外が認められる場合

ただし、会社と個人が実質的に一体だと評価できる場合には、例外的に会社の損害が認められることがあります。

想定されるのは、次のような会社です。

  • 代表者が株式のほぼ全部を保有している
  • 代表者の技能や資格がなければ事業が成り立たない
  • 代表者に代わって業務を担える人材がいない
  • 取引先との関係が代表者個人に依存している

いわゆる一人会社に近い形態であれば、会社と個人を区別する意味が乏しいという評価につながります。逆に、組織として業務が回る規模の会社では、この主張は通りにくくなります。

目安として、代表者が入院しても事業が通常どおり継続できるのであれば、一体性の主張は難しいと考えてください。逆に、事業が事実上止まったのであれば、検討する価値があります。

資格が必要な事業では、この主張が通りやすくなります。有資格者が代表者一人しかいない事務所や工事業者であれば、その人が動けない間は事業そのものが成り立ちません。

主張するために示すこと

単に「売上が落ちた」だけでは足りません。代表者が担っていた業務の具体的な中身、代替できる人材が社内にいなかったこと、そして売上の減少が事故の時期と対応していること。この三点を資料で示すことになります。

とくに二つ目が重要です。社内に代われる人がいなかったことを示すには、組織の構成と、各人の担当業務を明らかにする必要があります。口頭の説明だけでは足りません。

外部に業務を委託して穴を埋めた場合は、その費用も材料になります。代替のために実際の支出が生じた事実は、代われる人材がいなかったことの裏づけにもなります。

売上の推移は、前年の同じ時期と比べる形にしてください。季節変動のある事業では、単純な前後比較では実態が見えません。

受注してから納品まで時間がかかる事業では、影響が数か月遅れて表れます。売上の数字だけを追うと見落としますので、受注や商談の記録もあわせて示してください。

断らざるを得なかった案件があるなら、その連絡の記録を残しておいてください。失注の理由が事故にあったことを示す、直接の材料になります。

取引先から、事故の影響で発注を見送った旨の一筆をもらえるなら、なお有力です。事実の確認を求めるだけですから、応じてもらえることは少なくありません。

依頼する際は、賠償の請求に使う旨を正直に伝えて構いません。事情を説明したほうが、協力を得やすくなります。

個人事業主との違い

同じ経営者でも、法人化しているかどうかで扱いが変わります。

会社役員 個人事業主
基礎にするもの 役員報酬のうち労務対価部分 確定申告の所得
主な争点 労務対価と配当部分の切り分け 申告額の低さ、固定費の範囲
固定費の扱い 会社の損害として別に検討 本人の損害に含める余地がある
資料 法人の決算書、議事録、賃金台帳 確定申告書、帳簿、事業の記録

個人事業の場合、事業の損害と本人の損害が一体です。法人の場合はここが分離しているため、どちらの損害として構成するかという判断が加わります。

法人化していることが不利に働く、というわけではありません。ただ、個人事業なら自動的に本人の損害になるものが、法人では一段の説明を要するということです。

節税のために役員報酬を低く設定している会社では、休業損害も低く算定されがちです。申告や決算の形が、そのまま賠償額に影響してくる点は、個人事業主と共通する悩みです。

とはいえ、報酬額を後から修正することはできません。今ある数字を前提に、労務対価の割合と実際の業務量で主張を組み立てることになります。

なお、報酬が低く設定されている場合、労務対価の割合はむしろ高く評価されやすくなります。配当にあたる部分が乏しいと見られるためです。数字の低さが、必ずしも不利にだけ働くわけではありません。

もっとも、出発点となる報酬額そのものが低ければ、割合を高く取っても金額には限りがあります。どこまで争う実益があるかは、想定される結果と手間を比べて判断してください。

非常勤役員・名目的な役員の場合

役員という肩書があっても、実態はさまざまです。

非常勤の場合

週に数日だけ出社する、会議にのみ出席する。こうした形であれば、労務対価の割合は限定的に評価されます。ただし、ゼロになるわけではありません。実際に担っていた業務があれば、その範囲で主張できます。

出社日数、担当していた案件、決裁していた事項。こうした具体的な事実を示せるかどうかが分かれ目です。週に一度の会議に出ていただけであっても、その会議が経営上の意思決定の場であったなら、意味を持ちます。

他社の常勤役員を兼ねている場合は、そちらの収入との関係も整理が必要です。どちらの業務にどれだけ時間を割いていたのかを示してください。

名目だけの役員

親族が役員に名を連ねているが、実際の業務には関与していない。この場合、労務の提供がない以上、休業損害は認められにくくなります。

ただし、まったく関与していなかったという事案は、実際にはそう多くありません。経理を手伝っていた、来客の対応をしていたといった実態があれば、その範囲で主張できます。

逆に、肩書は役員でも実態は従業員に近い、という場合もあります。その場合は、実態に即して従業員と同様の扱いを求める余地があります。

使用人兼務役員の場合

役員でありながら、部長や工場長として従業員の業務も担っている形です。この場合、従業員としての給与部分については、通常の給与所得者と同じ考え方で算定できます。

報酬の内訳がどう区分されているかを、賃金台帳や給与規程で確認してください。区分が明確であれば、主張もしやすくなります。

区分がない場合でも、実際の業務から実質的に判断する余地はあります。従業員と同じ業務をどれだけ担っていたかを、具体的に示してください。

あわせて、雇用保険に加入していたかどうかも手がかりになります。加入していれば、従業員としての側面があったことの一つの材料です。

そろえておきたい資料

役員の休業損害は、資料の厚みで結論が変わります。早めに集め始めてください。

  1. 法人の決算書と勘定科目内訳明細書(できれば過去三期分)
  2. 役員報酬を定めた株主総会・取締役会の議事録
  3. 賃金台帳、給与規程、役員報酬の内訳が分かる資料
  4. 本人の源泉徴収票と、確定申告をしている場合はその控え
  5. 組織図、業務分掌が分かる資料
  6. 事故の前後の売上の推移(月次で、前年同月と比較できる形)
  7. 取引先とのやり取りのうち、事故の影響が分かるもの

五番目は見落とされやすい資料です。誰がどの業務を担っていたのかを客観的に示せれば、労務対価の割合を主張する土台になります。組織図がないなら、この機会に作っておくとよいでしょう。

資料の取りまとめは、経理の担当者や顧問の税理士に依頼するのが早道です。療養中に自分で集めようとすると、治療に充てるべき時間を削ることになります。

依頼するときは、何のために使う資料なのかを伝えておいてください。目的が分かれば、必要な期間や様式を判断してもらえます。

事故の事実を示す書類も必要になります。

社用車が損傷した場合は、修理費のほかに、修復歴が付いたことによる価値の下落も検討の対象です。

後遺症が残った場合に続く損害

休業損害として請求できるのは、症状固定の日までです。それより先の収入の減少は、逸失利益として扱われます。

役員の逸失利益も、基礎になるのは労務対価部分です。休業損害の段階でこの割合を低く決められてしまうと、その数字が逸失利益にも引き継がれます。逸失利益は将来にわたる損害ですから、影響は比較になりません。

ですから、最初の段階で割合の主張をきちんと組み立てておく意味があります。ここで安易に妥協すると、後から取り返すのは難しくなります。

この損害が生じるのは、後遺障害の等級が認定されたときに限られます。認定は提出された書面だけで判断されますから、必要な検査を受けておく必要があります。経営者は多忙で通院が途切れがちですが、ここは時間を確保してください。

症状固定の時期も、相手方の都合で決まるものではありません。医師の判断が基準になりますので、打診を受けてもその場で同意しないでください。

もう一点、労働能力がどれだけ失われたかの評価も争点になります。経営判断が中心の業務であれば、身体に障害が残っても従前どおり働けるはずだ、という反論が想定されます。これに対しては、実際にどの業務にどれだけ関与していたかを具体的に示すことになります。

現場に出る、車を運転して営業に回る、工場で作業を確認する。こうした実態があるなら、それを説明できるようにしておいてください。

経営者だからデスクワークだろう、という前提で判断されることがあります。中小企業の実態はそうではないことが多いのですから、思い込みには具体的な事実で反論してください。

相手方に言われがちなことと、その返し方

役員の事案で、実際によく聞くものを挙げておきます。

「報酬が満額出ているので損害はありません」

支払われた理由と、働けたかどうかは別の問題です。報酬が動かなかったのは、役員報酬の変更に手続上の制約があるからであって、本人が業務を遂行できていたからではありません。入院していた期間があるなら、その事実を示してください。

「役員報酬は労働の対価ではありません」

全額が対価でないのはそのとおりですが、全額が対価でないという話と、対価部分が存在しないという話は違います。実際に担っていた業務を示せば、その範囲は認められます。

「会社の売上減は関係ありません」

原則としてはそのとおりです。ただし、代表者と会社が実質的に一体だと評価できる事案では例外が認められています。自社がその類型に当たるかどうかを検討したうえで判断してください。

「この割合で計算します」と一方的に示される

割合に決まった数字はありません。どの事情をどう評価してその割合になったのかを尋ねてください。会社の実態を見ずに当てはめられている場合、説明を求めるだけで動くことがあります。

交渉で陥りやすい落とし穴

経営者の方に多く見られるものを挙げます。

事業を優先して治療を後回しにする

代わりがいないからと、痛みを抱えたまま出社する。気持ちは分かりますが、通院の間隔が空けば、症状の裏づけが弱くなります。後遺障害の認定にも影響します。

そして、無理をして働いた分だけ休業損害も減ります。事業を守ったつもりが、賠償の面では不利に働くという構図です。どちらを優先すべきかという話ではなく、治療を確保したうえで業務の配分を考えてください。

通えない事情があるなら、その旨を医師に伝えて記録に残してもらってください。やむを得ず空いたのか、症状が落ち着いたから行かなかったのかでは、読まれ方が違います。

自分で交渉して早く終わらせようとする

経営者の方は、交渉に慣れている分、自分で片づけようとしがちです。ただ、この領域は算定の枠組みを知っているかどうかで結果が変わります。交渉の巧拙とは別の話です。

相手方の担当者は、この種の事案を日常的に扱っています。こちらは初めてです。経験の差は、交渉の姿勢では埋まりません。

加えて、経営者は時間そのものが貴重です。交渉に割く時間を本業に回したほうが、会社にとって合理的だという判断もありえます。

弁護士費用特約が使えるかどうかも確認しておいてください。自家用車の契約に付いていることもあれば、会社の自動車保険に付帯していることもあります。

会社の資料を出し渋る

決算の内容を開示したくないという気持ちは自然です。しかし、労務対価の割合を主張するには、会社の実態を示すほかありません。出せる範囲を整理したうえで、必要なものは提出する判断が要ります。

提出は原本ではなく写しで足ります。何をいつ出したのかを控えておけば、後から確認を求められたときにも慌てずに済みます。

金額の大きさに見合った手当てをしない

役員の事案は、労務対価の割合ひとつで金額が大きく動きます。それにもかかわらず、費用を惜しんで検討を省いてしまうことがあります。

費用対効果を判断するには、まず動かせる幅を知る必要があります。

この領域は経験の差が出やすいため、依頼先の見極めも結果に影響します。

注意
事故を機に役員報酬を減額する場合、税務上の扱いにも影響が生じることがあります。賠償の主張をしやすくする目的だけで安易に動かさず、顧問の税理士に相談したうえで判断してください。

よくある質問

役員報酬を満額もらい続けています。それでも請求できますか

請求できる余地はあります。報酬が支払われたのは経営上の判断や税務上の制約によるものであり、実際に労務を提供できていない事実は変わらないためです。会社が負担した分をどう構成するかは、事案によって分かれます。

労務対価の割合はどうやって決まるのですか

決まった計算式はありません。会社の規模、役員の人数、本人が担っていた業務の内容、従業員の給与水準などを総合して判断されます。実際の業務を具体的に示せるかどうかが結果を左右します。

非常勤役員でも認められますか

実際に業務を担っていたのであれば、その範囲で認められます。常勤より割合は限定的になりますが、ゼロということにはなりません。出社の頻度や担当していた業務を示してください。

会社の売上が落ちた分は請求できますか

原則としてできません。被害者は役員個人であり、会社は直接の被害者ではないためです。ただし、代表者と会社が実質的に一体だと評価できる場合には、例外的に認められることがあります。

節税のために役員報酬を低く設定していました

設定された報酬額が出発点になります。ただし、決算の内容や本人が担っていた業務の実態を示すことで、労務対価の割合について主張する余地は残ります。

使用人兼務役員の場合はどうなりますか

従業員としての給与部分については、通常の給与所得者と同じ考え方で算定できます。賃金台帳や給与規程で区分が明確であれば、主張しやすくなります。

会社の決算書まで出さなければいけませんか

労務対価の割合を主張するには、会社の実態を示す資料が必要になります。何をどこまで出すかは、主張の組み立て方によって変わりますので、事前に整理しておくことをおすすめします。

入院中も会議に出て指示は出していました。不利になりますか

関与が続いていた分は、その範囲で就労できたと評価される可能性があります。ただし、通常の業務量と比べてどれだけ落ちていたのかを示せば、その差は主張できます。事故の前後で、担っていた業務がどう変わったのかを整理してください。

従業員が代わりに動いて業績は落ちませんでした

業績が維持されたことと、本人が労務を提供できなかったことは別の問題です。誰がどの業務を引き受け、そのために残業代や外注費が生じたのかを整理して示してください。数字が落ちていないことだけを理由に、請求を諦める必要はありません。

とくに、代替のために追加の支出が生じていたのであれば、それ自体が本人の労務が失われたことの裏づけになります。賃金台帳を事故の前後で比べてみてください。

事故直後にまず何をすればよいですか

警察への届け出と受診を済ませたうえで、役員報酬の内訳が分かる資料と、直近の決算書を手元にそろえてください。あわせて、自分が日ごろ担っていた業務を書き出しておくと、その後の主張が組み立てやすくなります。

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