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自営業・個人事業主の休業損害|所得と固定費の扱い

自営業・個人事業主の休業損害|所得と固定費の扱い

この記事で分かること

  • 自営業・個人事業主でも休業損害を請求できること
  • 確定申告の所得を基礎にした計算方法
  • 店舗家賃など事業の固定費の扱い
  • 自営業者特有の休業の証明方法
  • 申告所得や固定費をめぐるトラブルと対処

自営業者・個人事業主も事故で事業を休んで収入が減れば休業損害を請求できます。計算は確定申告の所得を基礎に行い、店舗家賃など事業の固定費も損害として認められることがあります。申告所得や固定費の範囲は争いになりやすい点。本記事では計算方法・固定費の扱い・休業の証明を弁護士目線で解説します。

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自営業でも休業損害は請求できる

会社員なら、勤務先が休業損害証明書を書いてくれます。給与明細もあり、休んだ日数も勤怠で分かります。ところが自営業の場合、そうした資料が一つもありません。誰も証明してくれないのです。

だからといって、請求できないわけではありません。自営業者、個人事業主、フリーランス。いずれも休業損害の対象です。ただ、示し方が会社員とはまったく違います。ここを知らないまま進めると、相手方の見立てがそのまま通ってしまいます。

会社員であれば、勤務先が作った書類を提出すれば手続きが進みます。自営業では、何をどう示すかをこちらで組み立てなければなりません。手間はかかりますが、そのぶん主張できる幅も広いということでもあります。

会社員の休業損害は、給与が減った分という一本道です。自営業では、所得の減少に加えて、固定費の負担、受注機会の喪失、場合によっては廃業に至る損害まで視野に入ります。組み立て方次第で、金額は大きく変わります。

想像してみてください。一人で工務店を営んでいて、事故で腕を骨折した。現場に出られず、受注していた工事は断るしかない。それでも事務所の家賃と車のリース料は毎月出ていく。相手方に事情を伝えたところ、「確定申告の所得を基準にします」と言われ、提示された金額は想像よりはるかに低かった。

この違和感の正体は、二つあります。一つは、申告上の所得が実際の収益力を反映していないこと。もう一つは、休んでいる間も出ていく固定費が計算に入っていないことです。どちらも、こちらから持ち出さなければ検討されません。

この記事では、基礎になる所得の考え方、申告額が実態より低い場合の扱い、休業中も出ていく固定費の主張、そして事業が完全には止まっていない場合の日数の示し方までを説明します。

休業損害の全体像や、休業損害証明書の扱いについては、総論の記事にまとめてあります。会社員としての給与収入もある方は、そちらもあわせてご覧ください。

読み進める前に、直近の確定申告書の控えを手元に用意してください。どの欄の数字が使われるのかを見ながら読むほうが、理解が早くなります。

基礎になるのは確定申告の所得

出発点は、事故の前年の確定申告です。

所得金額を日額に直す

申告書に記載された所得金額を、一年の日数で割って一日あたりの額を求めるのが基本の考え方です。売上ではなく、経費を差し引いた後の所得を使います。

売上を基礎にできないのは、売上には仕入れや材料費が含まれているからです。休業していればそれらの支出も発生していませんので、売上をそのまま損害とするのは筋が通りません。ここは相手方の言い分が正しい部分です。

問題は、そこから先です。所得だけを見ると、事業を維持するために出ていった費用が視野から外れます。この抜けをどう埋めるかが、自営業の請求の勘どころになります。

ここで、収入が年によって大きく変動する事業もあるでしょう。その場合、前年だけを見るのではなく、過去数年の平均を用いる方法が採られることがあります。事故の前年がたまたま不調だったのであれば、その事情を示す意味があります。

逆に、事業が右肩上がりで伸びていた場合も、前年だけを見ると実態より低くなります。直近の売上の推移を示して、事故の時点の収益力を主張する余地があります。

青色申告特別控除の扱い

青色申告をしている方は、申告書上の所得が控除の分だけ低く表示されています。これは税務上の優遇であって、実際の収益力が低いわけではありません。控除前の金額を基礎とすべきだと主張する余地があります。

この点は見落とされやすく、こちらが指摘しなければ、そのまま低い数字で計算されます。申告書の控えを手元に置いて、どの金額が使われているかを確かめてください。

あわせて、専従者給与の扱いも確認しておきましょう。家族に支払っている給与が経費として差し引かれている場合、その家族が事業に不可欠な戦力であったかどうかによって、扱いの考え方が変わることがあります。

ワンポイントアドバイス
相手方から提示を受けたら、どの年の、どの欄の金額を基礎にしたのかを尋ねてください。青色申告特別控除が差し引かれたままだったり、事故の前年だけで判断されていたりすることがあります。

申告所得が実態より低い場合

ここが自営業者の相談で最も多い論点です。

なぜ問題になるのか

経費を多めに計上している、家事按分が大きい、あるいは申告そのものをしていない。理由はさまざまですが、申告上の所得が実際の生活水準と釣り合っていない事業者は珍しくありません。

本人にしてみれば、税の計算と賠償の計算は別物という感覚かもしれません。ところが相手方から見れば、本人が公的に申告した数字こそが最も信頼できる資料です。この認識の差が、交渉のずれを生みます。

相手方は、申告書に書かれた数字を前提に計算します。「実際にはもっと稼いでいます」と口で言っても、それだけでは動きません。

動かすには、申告書以外の資料で実態を示すほかありません。しかも、申告と食い違う理由まで説明できなければ、主張として通りにくくなります。

説明の筋としては、たとえば次のようなものがあります。減価償却が大きく計上されている、開業初年度で設備投資が集中していた、前年に一時的な損失があった。いずれも、申告額が収益力を表していない理由として説明可能です。

どう組み立てるか

実態を示す資料を積み上げることになります。使えるのは、次のようなものです。

  • 事業用口座の入出金の記録
  • 請求書、領収書、契約書などの取引の記録
  • 帳簿、売上台帳、予約表、作業日報
  • 取引先からの発注実績が分かる書面
  • 事故がなければ受注していたはずの案件の証拠

それでも、申告額を大きく超える主張が通るとは限りません。申告は本人が行ったものですから、それと食い違う主張には説明が要ります。過度な期待はせず、示せる範囲で組み立てるという姿勢が現実的です。

なお、家事按分のように、税務上は経費でも実質的には生活費にあたる支出があります。こうした部分を所得に戻して考える主張が通ることもあります。帳簿の内訳が分かる形にしておいてください。

ただし、これは税務上の申告が誤っていたと自ら述べることにもなりかねません。どこまで主張するかは、税務上の影響も含めて慎重に判断してください。

申告していない場合

無申告の場合でも、収入があった事実を示せれば請求の余地はあります。ただし、資料が乏しければ、平均賃金の統計を基礎にする形で処理されることもあります。

この場合、本来の収益より低い水準に落ち着く可能性が高くなります。申告をしていなかったことの影響は、こうした場面で現れます。

とはいえ、平均賃金を基礎にできれば、まったく認められないよりはるかに良い結果です。無申告だから請求できない、と考えて諦める必要はありません。

収入があった事実を示す資料としては、入出金の記録、取引先との契約書、請求書の控えなどが考えられます。手元にあるものを集めるところから始めてください。

いつ支払われるのか

自営業の場合、損害額の確定に時間がかかります。稼働の落ち込みを資料で示す作業が必要になるためです。そのぶん、支払いも会社員より遅くなりがちです。

生活や事業の資金に窮するようであれば、先に一部を支払ってもらえないか相談してください。相手方が応じない場合でも、自分の保険や相手方の自賠責への直接請求といった手段があります。

固定費はどう扱われるか

自営業に特有の、そして見落とされやすい費目です。

休んでも出ていく費用

事業を止めている間も、支払いが続く費用があります。店舗や事務所の家賃、リース料、従業員の給与、駐車場代、保険料、通信費。こうした費用は、売上がなくても発生します。

これらは、事業を維持するために必要だった支出として、損害に含める余地があります。所得がゼロになった分だけでは、実際の打撃を反映しきれないからです。

考え方としては、こうです。事業が通常どおり回っていれば、家賃は売上の中から支払われ、その残りが所得になっていました。売上が止まれば、所得が消えるだけでなく、家賃の支払い原資まで失われます。この二重の打撃を反映させる必要があるわけです。

この理屈は、相手方の担当者も理解しているはずです。それでも提示に含まれていないのは、こちらが主張していないからという場合がほとんどです。

変動費との区別

一方、仕入れや外注費のように、売上に連動して発生する費用は扱いが違います。休業していれば、これらは支出そのものが発生していません。したがって、損害には含まれないのが原則です。

ただし、仕入れてしまった材料が使えなくなった、発注済みの外注をキャンセルできなかったという場合は別です。実際に負担が生じたのであれば、その分は主張の対象になります。

生鮮品を扱う事業では、この論点が特に効いてきます。廃棄せざるを得なかった在庫があるなら、数量と金額を記録しておいてください。

区分 例 扱い
固定費 家賃、リース料、従業員給与、保険料 損害に含める余地がある
変動費 仕入れ、外注費、材料費、荷造運賃 原則として含まれない
区分が難しいもの 水道光熱費、通信費 実態に応じて判断される

区分が難しい費目は、休業中も実際に支払いが生じたかどうかで判断することになります。請求書や引き落としの記録が根拠になります。

細かく見えるかもしれませんが、休業が数か月に及べば、固定費の合計は相当な額になります。所得の日額だけを追っていると、この部分がまるごと抜け落ちます。

固定費の一覧は、月ごとの支払いを書き出すだけで作れます。通帳の引き落としを追えば、漏れも防げます。早い段階で作っておくと、交渉の材料になります。

従業員の給与

従業員を雇っている場合、休業中も給与を支払い続けたなら、その分は損害として主張できます。逆に、休業手当の制度を利用した、あるいは支払いを止めたという場合は、実際に負担した額が基準になります。

家族に手伝ってもらった場合も、実際に対価を支払ったのであれば検討の対象です。記録が残る形にしておいてください。

従業員に休業手当を支払った場合、その額と根拠を整理しておきましょう。公的な助成を受けたのであれば、その分は差し引かれます。実際にいくら負担したのかが基準です。

休業日数をどう示すか

会社員と違い、自営業には「休んだ日」という区切りがありません。ここも工夫が要ります。

完全に止まっていない場合が多い

ケガをしていても、電話の対応はできる、書類の作成はできる。こうした形で事業が部分的に続いていることは珍しくありません。この場合、全部を休業日として主張するのは難しくなります。

逆に言えば、少しでも働けたからといって、損害がなかったことにもなりません。できたことと、できなかったことを分けて示すのが実務的な進め方です。

たとえば、現場作業はできなかったが、見積もりの作成と電話対応は続けた。この場合、売上への寄与が大きい部分が止まっていたのであれば、その実態に沿った割合を主張することになります。時間で按分するとは限りません。

実務では、就労できた度合いに応じて割合で評価する考え方が採られます。現場に出られなかった期間、稼働を半分に落とした期間、通常に戻った期間。この推移を示すことになります。

割合の区切り方に決まった型はありません。医師の診断、実際の稼働記録、受注の状況。これらを突き合わせて、実態に近い形を組み立てます。細かく区切るほど説得力は増しますが、資料が伴わなければ意味がありません。

示す材料

予約表、作業日報、現場の記録、受注のやり取り。事故の前後で比べられる資料があれば、稼働の落ち込みを説明できます。断らざるを得なかった案件があるなら、その連絡の記録も有効です。

売上の推移も材料になります。ただし、季節変動のある事業では、前年の同じ時期と比べる形にしないと実態が見えません。

入金の時期がずれる事業にも注意が要ります。事故の月に入金があったとしても、それは以前に納めた分の売上かもしれません。売上の計上時期と入金の時期を混同しないでください。

相手方が入金ベースで見ている場合は、その点を指摘してください。事業の実態と合わない計算になっていることがあります。

事業の形によって論点が変わる

ひとくちに自営業といっても、事業の形はさまざまです。焦点になる部分も変わります。

身体を使う一人親方

職人、配送、施術業など、本人が動かなければ売上が立たない事業です。休業の影響が最も直接的に出ます。逆に言えば、稼働できなかったことを示しやすい類型でもあります。

身体が資本である以上、後遺症が残ったときの影響も大きくなります。腕や腰に障害が残れば、同じ仕事を続けられるかどうかに関わります。この点は、逸失利益の主張でも重要になります。

代わりの職人を手配した場合、その費用も損害として検討の対象になります。自分が稼働できなかった穴を埋めるための支出だからです。支払いの記録を残しておいてください。

ただし、代替の手配費用と休業損害の両方を重ねて請求することはできません。どちらで組み立てるのが実態に合うかを整理してから主張してください。

店舗を構えている場合

従業員が営業を続けられるなら、売上は完全には止まりません。ただし、代表者が抜けた分の質や量の低下は生じます。固定費の主張が中心になる場面です。

代表者が抜けたことで、仕入れの判断や新規の営業が止まることもあります。売上の数字には遅れて表れますので、時間差を意識して資料を集めてください。

受注してから納品する場合

制作業や士業などでは、事故の直後に売上が落ちるとは限りません。受注の減少が数か月後に現れることもあります。売上の推移だけを見ると影響が見えにくいため、受注や商談の記録で示すことになります。

納期を延ばしてもらったやり取り、辞退した見積依頼、途中で切れた商談。こうしたものが、事故の影響を示す材料になります。メールやメッセージの履歴を消さずに残しておいてください。

常連の取引先から、事故の影響で発注が減った旨の一筆をもらえるなら、それも有力な資料になります。頼みにくいと感じるかもしれませんが、事実の確認を求めるだけですから、応じてもらえることは少なくありません。

依頼するときは、賠償の請求に使う旨を正直に伝えて構いません。隠して頼むより、事情を説明したほうが協力を得やすくなります。

家族で営んでいる場合

配偶者や子が事業を手伝っている場合、本人が倒れた影響は家族全体に及びます。誰がどの業務を代わったのか、そのために何を諦めたのかを整理しておいてください。

家族が本業を休んで事業を支えた場合、その家族側にも影響が出ています。直接の請求とは別の論点になりますが、事情として伝えておく意味はあります。

そろえておきたい資料

請求にあたって用意する資料を、まとめておきます。会社員のように一枚の証明書で済む話ではありませんので、早めに集め始めてください。

  1. 確定申告書の控え(できれば過去三年分)と青色申告決算書
  2. 事業用口座の取引履歴
  3. 帳簿、売上台帳、請求書と領収書の控え
  4. 家賃やリースの契約書と、支払いの記録
  5. 従業員の賃金台帳、出勤簿
  6. 予約表、作業日報など稼働状況が分かるもの
  7. 断った案件や納期を延ばしたやり取りの記録

事故の直後は治療で手一杯になりますが、資料は時間が経つほど集めにくくなります。家族や従業員に依頼できる部分は、任せてしまって構いません。

顧問の税理士がいるなら、申告関係の資料の取りまとめを頼むのが早道です。どの数字を使うかの説明も、専門家から受けたほうが正確です。

資料は、原本ではなく写しを提出してください。事業に必要な書類ですから、手元に残らないと困ります。提出した内容は、自分でも控えておきましょう。

資料が多くなると、どれを出したか分からなくなりがちです。提出日と内容を一覧にしておけば、後から確認を求められたときにも慌てずに済みます。

事故の事実そのものを示す書類も必要です。

廃業や縮小に至った場合

ケガが重く、事業を続けられなくなることもあります。

廃業による損害

事故がなければ続けられたはずの事業を畳んだ場合、その損害を請求できる余地があります。ただし、事故とのつながりを示す必要があり、ハードルは低くありません。事故の前から経営が悪化していたのではないか、という反論が想定されます。

事故の前の業績が安定していたこと、ケガの内容が事業の遂行に不可欠な能力を損なったこと。この二点を資料で示すことになります。

また、廃業のほかに、規模を縮小した場合も同じ考え方が当てはまります。店舗を閉じた、従業員を減らした、受注を絞った。その判断が事故によるものであれば、主張の対象になります。

設備や在庫の処分

廃業に伴って設備を処分した、在庫が無駄になったという場合、その損失も検討の対象になります。処分時の記録を残しておいてください。

契約の途中解約に伴う違約金が生じた場合も、同じです。リース契約や賃貸借契約を解約した際の負担は、事故と結びつけて主張できる余地があります。

事業用の車両が損傷した場合

営業に使っている車が壊れたなら、修理費のほかに、修復歴が付いたことによる価値の下落も請求できる余地があります。

後遺症が残った場合に続く損害

休業損害として請求できるのは、症状固定の日までの分です。そこから先に生じる収入の減少は、逸失利益という別の費目に移ります。

自営業者の逸失利益も、基礎になるのは申告所得です。休業損害で申告額の低さが問題になったなら、逸失利益でも同じ論点が繰り返されます。しかも逸失利益は将来にわたる損害ですから、基礎収入の差が金額に与える影響は、はるかに大きくなります。

ですから、休業損害の段階で基礎収入の主張をきちんと組み立てておく意味があります。ここで低い数字が定着してしまうと、その後の交渉でも引きずられます。

そして、逸失利益が発生するのは後遺障害の等級が認定された場合です。認定は書面審査で決まりますので、必要な検査を受け、症状の経過を記録に残しておく必要があります。

身体を使う事業では、労働能力がどれだけ失われたかの評価も争点になります。同じ等級でも、デスクワークの方と現場に出る方とでは、実際の影響がまるで違うからです。この点は、具体的な業務内容を示して主張することになります。

一日のうちどの作業にどれだけ時間を使っていたのか、どの動作が欠かせないのか。抽象的に「現場仕事です」と伝えるより、具体的に示すほうが伝わります。

相手方に言われがちなことと、その返し方

相談の場でよく聞くものを挙げます。

「申告所得がこの額なので、これ以上は出せません」

申告額が出発点になるのは事実です。ただし、青色申告特別控除が差し引かれたままになっていないか、事故の前年だけで判断されていないかを確かめてください。前提の取り方で金額は変わります。

提示を受けたら、計算の根拠を書面で示してもらってください。どの年の申告書の、どの欄を使い、何日分として計算したのか。分解すれば、争うべき場所が特定できます。

まとまった金額だけを提示されて判断するのは避けましょう。根拠を説明できない項目があるなら、そこは詰める余地が残っています。

やり取りは、日付と内容を記録に残してください。自営業の請求は資料の積み上げで決まりますから、交渉の経緯そのものも材料になります。

「事業は続いているので損害はありません」

事業が継続していることと、本人が働けたかどうかは別の問題です。稼働がどれだけ落ちたのかを、記録で示してください。

従業員が代わりに働いた結果として売上が維持されたのであれば、それは本人の労働が失われた事実を打ち消すものではありません。誰が何を担ったのかを整理して伝えてください。

「家賃は事故がなくてもかかる費用です」

事故がなければ、その家賃は売上によって回収されていたはずです。売上が失われた以上、回収できなかった固定費は損害だという整理になります。

この主張には、契約書と支払いの記録という裏づけが必要です。口頭で「家賃がかかっている」と伝えるだけでは動きません。

「休業損害証明書を出してください」

自営業者には、勤務先が作成する証明書がありません。代わりに、確定申告書と事業の記録を提出することになります。書式がないことを理由に請求を諦める必要はありません。

注意
実態より高い収入を主張するために、資料に手を加えることは絶対に避けてください。整合しない資料が出れば、主張全体の信用が失われます。示せる範囲で組み立てるのが結局は近道です。

治療と事業の両立で気をつけたいこと

自営業の方に共通する悩みが、休めないという現実です。

代わりがいない以上、痛みを抱えたまま現場に出る。その気持ちは分かります。しかし、無理をして症状が長引けば、治療期間も後遺障害の評価も影響を受けます。結果として、損害が拡大することもあります。

無理をして働けば、その分だけ休業損害も減ります。売上を守ったつもりが、賠償の面では自分の首を絞めていた、ということも起こりえます。どちらが得かという話ではなく、体を治すことを優先してください。

事業を止められないのであれば、できる業務とできない業務を分けて、無理のない範囲で続ける形を考えてください。その記録が、そのまま稼働の落ち込みを示す資料にもなります。

通院の間隔が空くことにも注意が必要です。仕事の都合で通えないのであれば、その事情を医師に伝えて記録に残してもらってください。理由のある中断と、症状が治まったための中断とでは、意味がまったく違います。

支払いを打ち切られたとしても、通院を続ける道は残されています。事故の直後にどう動いたかが、その後の選択肢を左右します。

物損と人身の扱いの違いも、押さえておくと判断しやすくなります。

よくある質問

自営業でも本当に休業損害をもらえますか

もらえます。会社員のような証明書がないだけで、請求できる権利に違いはありません。確定申告書と事業の記録を使って、収入と稼働の落ち込みを示すことになります。

確定申告の所得が少ない場合はどうなりますか

申告額が出発点になりますが、青色申告特別控除の扱いや、対象とする年の取り方で金額は変わります。実態を示す資料があれば、それを踏まえた主張も可能です。ただし、申告と大きく食い違う主張には説明が必要です。

店舗の家賃や従業員の給料は請求できますか

休業中も支払いが続いた固定費については、損害に含める余地があります。契約書と実際の支払い記録を用意してください。仕入れなど、休業によって発生しなかった費用は含まれません。

休んだことをどうやって証明すればよいですか

予約表、作業日報、現場の記録、受注のやり取りなどで、事故の前後の稼働を比べる形になります。断らざるを得なかった案件があれば、その連絡の記録も有効です。

開業して間もなく、前年の所得がありません

開業後の売上の推移や、受注の見込みを示して主張することになります。資料が乏しい場合は、同種の業種の平均賃金を基礎にする方法が採られることもあります。

事故で廃業した場合も補償されますか

請求できる余地はありますが、事故と廃業のつながりを示す必要があります。事故前の業績が安定していたこと、ケガが事業の遂行に不可欠な能力を損なったことを、資料で説明することになります。

法人化している場合はどうなりますか

役員報酬のうち、労務の対価にあたる部分が休業損害の対象になります。個人事業とは考え方が変わりますので、報酬の性質をどう切り分けるかが争点になります。

取引先に迷惑をかけたくないので、事故のことを伝えていません

心情は理解できますが、事故の影響を示す資料が集まらなくなります。納期の調整や受注の辞退を事故と結びつけて説明できなければ、損害として主張しにくくなるためです。取引に差し支えない範囲で、事実を伝えておくことをおすすめします。

従業員が代わりに働き、売上は落ちませんでした

売上が維持されたからといって、本人の労働が失われた事実は変わりません。誰がどの業務を代わったのか、そのために追加の人件費や外注費が生じたのかを整理して示してください。売上の数字だけで判断されるべきものではありません。

なお、代わりに働いた従業員に残業代を支払ったのであれば、その負担も損害として整理できます。賃金台帳を見比べて、事故の前後で人件費がどう動いたかを確かめてください。

人を新たに雇い入れた場合も同じです。事故がなければ生じなかった支出であることを示せれば、主張の対象になります。

仕事を続けながら通院しています。不利になりますか

働けていた分は休業損害から差し引かれますが、通院そのものが不利になることはありません。むしろ、間隔を空けずに通うことが、症状を裏づける材料になります。

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