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クレーム対応の基本|クレームは会社への贈り物にもなる
お客様からのクレームを受けると、多くの人は身構えてしまうものです。できれば避けたい、面倒な出来事だと感じる方も多いでしょう。しかし、クレームは必ずしも悪いものばかりではありません。適切に向き合えば、商品やサービスを良くするヒントになり、お客様との関係をむしろ深めるきっかけにもなります。
大切なのは、クレームにどう向き合うかという心構えと、その具体的な進め方を知っておくことです。備えがあれば、いざクレームを受けても、慌てずに対応できます。
クレームとは、お客様が商品やサービス、あるいは対応に対して抱いた不満や要望を、会社に伝えてくるものです。その多くは、「もっと良くしてほしい」という期待の裏返しでもあります。わざわざ不満を伝えてくれるお客様は、裏を返せば、その会社にまだ期待を持ってくれているとも言えます。だまって離れていくお客様のほうが、実は会社にとっては痛手なのです。
不満を感じたお客様の多くは、何も言わずに、ただ静かにその会社から離れていきます。二度と利用せず、その理由を会社に伝えることもありません。会社は、なぜお客様が離れたのかも分からないまま、じわじわとお客様を失っていくことになります。その点、クレームを伝えてくれるお客様は貴重です。会社が気づいていない問題を教えてくれ、改善の機会を与えてくれているからです。クレームを「厄介ごと」としてではなく、「改善のヒント」として受け止められるかどうかで、その後の会社の成長は変わってきます。もちろん、後で述べるように、なかには悪質なものもありますが、まずはクレームの持つ前向きな側面を理解しておくことが大切です。
とはいえ、なかには通常の対応では収まらない、悪質なクレームも存在します。大切なのは、正当なクレームには誠実に応え、悪質なものには毅然と線を引くという、両方の姿勢を持つことです。この記事では、クレーム対応の基本的な進め方と、通常のクレームと悪質なクレームをどう見分けるかを、弁護士の視点から見ていきます。従業員を守りながら、お客様との良い関係を保つためのヒントにしてください。
なぜクレーム対応が重要なのか
クレーム対応は、単に目の前の不満を鎮めるだけの作業ではありません。会社の評判や、お客様との長期的な関係を左右する、重要な仕事です。
まず、クレームへの対応の仕方は、そのお客様がその後もお客様であり続けるかどうかを大きく左右します。不満を伝えたときに、誠実に耳を傾け、適切に対応してもらえたお客様は、かえって会社への信頼を深めることがあります。一方、対応がぞんざいだと、不満はさらに大きくなり、そのお客様は二度と戻ってこないでしょう。
興味深いことに、クレームをきっかけに、かえってその会社のファンになるお客様もいます。不満に対して会社が真摯に向き合い、期待以上の対応をしてくれたとき、お客様は「この会社は信頼できる」と感じるのです。問題が起きたこと自体はマイナスでも、その後の対応次第で、マイナスをプラスに転じることさえできます。逆に、対応を誤れば、それまで満足していたお客様まで失いかねません。クレーム対応は、お客様との関係を左右する分かれ道なのです。だからこそ、目の前の不満を鎮めるだけでなく、その先の関係まで見据えた対応が求められます。
さらに、対応のまずさは、一人のお客様を失うだけにとどまりません。ぞんざいな対応を受けたお客様が、その体験を周囲やインターネット上で語れば、その評判は広く伝わっていきます。近年は、こうした情報が一瞬で広がる時代です。たった一件のクレーム対応の失敗が、会社全体のイメージに影を落とすこともあり得ます。だからこそ、クレーム対応は軽視できない、重要な仕事なのです。
ひとたび「あの会社の対応はひどい」という評判が広まると、それを打ち消すのは容易ではありません。悪い評判は良い評判よりも速く、広く伝わる傾向があります。しかも、いったんインターネット上に書き込まれた情報は、長く残り続けることがあります。一件一件のクレーム対応は小さなことのように見えても、その積み重ねが会社の評判を形づくっていきます。逆に言えば、丁寧なクレーム対応を続けていれば、それが会社の良い評判につながっていくということです。目の前のお客様への誠実な対応が、会社全体の信頼を守り、育てていくのだと考えると、その重要性がより実感できるでしょう。
通常のクレームへの対応の進め方
まずは、正当なクレームへの基本的な対応の進め方を見ていきましょう。多くのクレームは、この基本を押さえた誠実な対応で、円満に解決へと向かいます。
クレーム対応と聞くと難しく感じるかもしれませんが、基本の流れはシンプルです。相手の話をよく聞き、不便をかけたことへのお詫びの気持ちを伝え、事実を確認して、会社としての対応を示す。この流れを丁寧に踏むことで、多くのクレームは解決へと向かいます。一つひとつの段階を順に見ていきましょう。
まずは相手の話をよく聞く
クレーム対応の出発点は、お客様の話を最後までしっかり聞くことです。不満を抱えたお客様は、まず自分の話を聞いてほしいと思っています。話をさえぎったり、すぐに反論したりすると、かえって相手の感情を逆なでしてしまいます。相手が何に不満を感じ、何を求めているのかを、丁寧に受け止めることが大切です。
人は、自分の話をきちんと聞いてもらえると、それだけで気持ちが落ち着くものです。不満を抱えて連絡してきたお客様も、まずは話を受け止めてもらうことで、感情の高ぶりが和らいでいきます。逆に、話の途中で「それは違います」「でも」と反論を始めると、お客様は「聞いてもらえていない」と感じ、感情がさらに高ぶってしまいます。会社側に言い分があったとしても、それを伝えるのは相手の話を十分に聞いた後です。まずは相手の言葉に耳を傾け、その不満や要望をしっかりと受け止める。この最初の姿勢が、その後の対応を円滑に進める土台になります。あいづちを打ちながら、相手が話しやすいように聞くことを心がけましょう。
不便やお詫びの気持ちを伝える
お客様に不快な思いや不便をかけたことについては、その点についてお詫びの気持ちを伝えます。ここで大切なのは、会社に非があるかどうかがまだ分からない段階でも、お客様が不快な思いをしたという事実に対しては、誠実に向き合う姿勢を示すことです。ただし、事実関係が不明なうちに、すべての責任を認めるような言い方をするのは避けるべきです。
この使い分けは、少し難しく感じられるかもしれません。ポイントは、「お客様が不快な思いをしたこと」と「会社に法的な責任があること」を分けて考えることです。お客様に不便や不快な思いをかけたことについては、その点に対して率直にお詫びの気持ちを伝えてかまいません。それは誠実な姿勢の表れです。一方で、まだ事実がはっきりしないうちに「すべて当社の責任です」と言い切ってしまうと、後で事実が違っていた場合に困ることになります。「ご不便をおかけして申し訳ありません」という気持ちの表明と、「会社の責任をすべて認めます」という表明は、別のものだと理解しておく必要があります。誠実さを示しつつ、責任の所在については事実確認を経てから対応する。この姿勢が大切です。
事実を確認し、対応を示す
次に、何が起きたのかという事実を確認します。お客様の話と、会社側の記録などを照らし合わせ、状況を正確に把握します。そのうえで、会社としてどう対応するのかを、お客様に分かりやすく示します。対応できることとできないことを、誠実に伝えることが信頼につながります。
事実の確認は、適切な対応を決めるための大切な土台です。お客様の話だけ、あるいは会社側の記録だけで判断するのではなく、両方を照らし合わせて、実際に何が起きたのかを冷静に把握します。そのうえで、会社としてどう対応できるのかを検討し、お客様に伝えます。このとき、できないことを「できるかもしれない」と曖昧にせず、対応できる範囲を誠実に示すことが大切です。過大な期待を持たせて後で果たせないより、できることとできないことをはっきり伝えるほうが、結果的にお客様の信頼を得られます。誠実な対応の積み重ねが、クレームをむしろ関係強化の機会に変えていくのです。
通常のクレームと悪質なクレームの線引き
クレーム対応で難しいのが、通常のクレームと悪質なクレームをどう見分けるかです。この線引きができないと、正当な声を邪険に扱ったり、逆に不当な要求に振り回されたりしてしまいます。
この見分けは、クレーム対応の要とも言える部分です。正当なクレームを悪質なものと勘違いして冷たくあしらえば、大切なお客様を失い、会社の評判も傷つきます。反対に、悪質なクレームを正当なものと思い込んで際限なく応じれば、従業員が疲弊し、不当な要求がエスカレートしていきます。どちらの誤りも避けるために、正当か悪質かを的確に見分ける目を持つことが求められます。
見分けるうえでの目安になるのが、二つの視点です。一つは、要求の内容が正当かどうか。もう一つは、要求を伝える手段や態度が、社会的に許される範囲に収まっているかどうかです。この二つの視点から見ると、線引きがしやすくなります。
この二つの視点は、どちらか一方だけでは十分ではありません。両方の面から総合的に見ることで、はじめて的確な判断ができます。現場では、とっさに判断を迫られる場面も多いものですが、この二つのものさしを頭に入れておけば、冷静に見極める助けになります。
たとえば、商品の不具合を指摘し、その修理や交換を求めることは、要求の内容として正当です。しかし、その不具合を理由に、社会通念を超えた過大な金銭を要求したり、実現不可能な対応を執拗に求めたりすれば、要求の内容が不当だと言えます。また、たとえ言い分に理由があっても、大声で怒鳴る、長時間拘束する、脅すといった手段を用いれば、その伝え方は許される範囲を超えています。
ここで注意したいのは、内容と手段は別々に見る必要があるということです。要求の内容が正当でも、その伝え方が度を超えていれば問題になりますし、逆に穏やかな口調でも、要求そのものが著しく不当であれば問題です。たとえば、正当な不具合の指摘であっても、それを何時間も従業員を拘束して主張し続ければ、手段の面で行き過ぎています。反対に、丁寧な言葉づかいであっても、不具合とは釣り合わない法外な金銭を求めていれば、内容の面で不当です。このように、内容と手段の二つの面から冷静に見極めることで、通常のクレームと悪質なクレームを区別できるようになります。一方の面だけで判断すると、見誤ることがあるので注意が必要です。
悪質なクレームへの対応|従業員を守る視点
悪質なクレームに直面したときは、通常のクレームとは異なる対応が必要です。ここで最優先すべきは、対応にあたる従業員を守ることです。
通常のクレームであれば、誠実な対応によって解決へと向かいます。しかし、悪質なクレームは、どれだけ誠実に対応しても収まらないことが少なくありません。相手の目的が、問題の解決ではなく、理不尽な要求を通すことや、従業員を困らせること自体にある場合もあるからです。こうしたクレームに、通常と同じように何とか満足させようと対応し続けると、従業員が疲弊するばかりです。悪質なクレームには、通常とは違う心構えと対応が必要になります。その中心にあるのが、従業員を守るという視点です。
まず大切なのは、従業員を一人で対応させないことです。悪質なクレームを一人で受け続けると、従業員は精神的に追い詰められてしまいます。上司や複数の従業員で対応にあたる体制を整え、一人に負担が集中しないようにしましょう。相手の言動があまりに目に余る場合には、その場で対応を打ち切る判断も必要です。
一人で悪質なクレームに対応していると、従業員は逃げ場のない状況に追い込まれます。相手の理不尽な言動を、たった一人で受け止め続けなければならないからです。そこに上司や同僚が加われば、従業員の心理的な負担は大きく軽くなります。また、より上の立場の者が対応を代わることで、相手の態度が落ち着くこともあります。複数の目があれば、後で事実を確認する際にも役立ちます。悪質なクレームは、個人の頑張りで乗り切るものではなく、組織として立ち向かうものだと考えることが大切です。従業員を孤立させないことが、被害を最小限に抑える鍵になります。
次に、やり取りの記録を残すことが重要です。いつ、どのような言動があったのかを記録しておくと、後の対応の判断材料になります。悪質な要求が繰り返される場合や、要求がエスカレートする場合には、こうした記録が大きな意味を持ちます。
記録は、できるだけその場に近いタイミングで、具体的に残しておくことが望まれます。時間が経つと記憶があいまいになり、正確さが失われてしまうからです。日時や場所、相手の具体的な言動、対応した従業員などを整理して記録しておくと、後で状況を振り返るときに役立ちます。特に、同じ相手による悪質なクレームが繰り返されている場合には、こうした記録の積み重ねが、相手の行為の悪質さを示す重要な手がかりとなります。会社として今後どう対応するかを判断する際にも、また専門家に相談する際にも、こうした記録があるとないとでは大きな差が出ます。面倒に感じても、記録を残す習慣をつけておくことが、いざというときの備えになります。
従業員の心身の状態にも、目を配る必要があります。悪質なクレームにさらされ続けると、従業員は大きなストレスを抱えます。対応した従業員を気遣い、必要に応じて休息を取らせるなどの配慮も欠かせません。
会社が従業員を気遣う姿勢を見せること自体が、従業員にとって大きな支えになります。理不尽な思いをしたとき、会社が自分の側に立ってくれると感じられれば、従業員は安心して働き続けられます。反対に、会社が何のフォローもしなければ、従業員は孤立感を深め、会社への信頼を失っていきます。悪質なクレームへの対応は、従業員を守る会社の姿勢が問われる場面でもあるのです。
クレーム対応の体制を整えるために
クレームに適切に対応するには、その場の対応力に頼るだけでなく、あらかじめ社内の体制を整えておくことが有効です。備えがあれば、いざというときに落ち着いて対応できます。あらかじめ整えておきたい備えには、次のようなものがあります。
- クレーム対応の基本的な手順を、社内で共有しておく。
- 現場対応と、上司や窓口への引き継ぎの線引きを決めておく。
- 通常のクレームと悪質なクレームの見分け方を、従業員に伝える。
- 悪質なクレームに直面した場合の対応方針を、あらかじめ定めておく。
これらの備えは、一つずつでも整えていく価値があります。特に、悪質なクレームへの対応方針をあらかじめ決めておくことは、従業員を守るうえで大きな意味を持ちます。以下で、具体的に見ていきましょう。
まず、対応の手順をあらかじめ決めておくことが役立ちます。どこまでが現場での対応で、どこからは上司や専門の窓口に引き継ぐべきなのか。その線引きを明確にしておけば、従業員は迷わずに動けます。特に、悪質なクレームと判断される場合の引き継ぎのルールを決めておくと、従業員が一人で抱え込むことを防げます。
手順が決まっていないと、従業員は「どこまで自分で対応すべきか」「いつ上司に相談すべきか」の判断に迷い、結果として一人で抱え込んでしまいがちです。あらかじめ、「このような場合は上司に引き継ぐ」「これ以上はこの窓口に回す」といった線引きを決めておけば、従業員は安心して対応にあたれます。特に、相手の言動が悪質だと感じたときに、ためらわず上位者や専門の窓口に引き継げるルールがあることは、従業員を守るうえで重要です。引き継ぐことは、決して対応の放棄ではありません。適切な人が適切に対応するための、正当な手順なのだと従業員に理解してもらうことも大切です。
また、クレーム対応についての研修を行うことも有効です。基本的な対応の進め方や、通常のクレームと悪質なクレームの見分け方を学んでおけば、いざというときに適切に行動できます。知識と心構えがあるだけで、従業員の不安は和らぎます。
研修では、実際に起こりうる場面を想定して練習しておくと効果的です。頭で理解しているだけでは、いざ本番になると思うように対応できないものです。あらかじめ、どんな言葉で応じればよいのか、どの段階で引き継ぐべきなのかを具体的に確認しておけば、実際の場面でも落ち着いて動けます。また、通常のクレームと悪質なクレームの見分け方を共有しておくことで、従業員がその場で適切に判断できるようになります。研修は一度きりではなく、折に触れて繰り返し行うことで、対応の質が組織全体で高まっていきます。従業員が自信を持ってクレームに向き合えるようになれば、それは会社にとっても大きな財産になります。
- お客様の話を最後まで聞き、不満の内容を正確に把握する。
- 不便をかけたことへのお詫びの気持ちを、誠実に伝える。
- 事実を確認し、会社としてできる対応を分かりやすく示す。
- 悪質だと判断される場合は、上位者や窓口に引き継ぐ。
そして、対応に迷う場合や、相手の言動が目に余る場合には、専門家に相談することをおすすめします。どこまで対応すべきか、どこで線を引くべきかの判断は、簡単ではありません。専門家の助言を得ることで、会社としてとるべき対応の見通しが立てやすくなります。
特に、相手の言動が悪質でエスカレートしている場合や、金銭を要求されている場合などは、慎重な対応が求められます。こうした場面では、自社だけで抱え込まず、早めに専門家の意見を求めることで、適切な対応の道筋が見えてきます。
日ごろから相談できる専門家がいれば、いざというときにすぐに助言を求められます。トラブルが大きくなる前に、相談できる体制を整えておくと安心です。
クレーム対応でやってはいけないこと
適切なクレーム対応を知ることと同じくらい、避けるべき対応を知っておくことも大切です。よかれと思ってした対応が、かえって事態を悪化させてしまうことがあるからです。ここでは、特に気をつけたい対応を見ていきます。いずれも、うっかりやってしまいがちなものばかりです。
まず避けたいのが、お客様の話を最後まで聞かずに、すぐ反論したりさえぎったりすることです。不満を抱えたお客様は、まず自分の話を受け止めてほしいと思っています。それをさえぎられると、「話も聞いてもらえない」という新たな不満が生まれ、問題がこじれてしまいます。たとえ会社側に言い分があっても、まずは相手の話を最後まで聞く姿勢が大切です。
次に、事実が分からないうちに、その場しのぎで安易な約束をしてしまうことも避けるべきです。お客様を早く納得させたい一心で、実現できるかどうか分からない対応を口約束してしまうと、後でそれが果たせなかったときに、さらに大きな不満やトラブルを招きます。できることとできないことを見極め、確実に対応できる範囲で誠実に答えることが大切です。
また、たらい回しにすることも、お客様の不満を大きくします。担当者が次々と代わり、そのたびに最初から説明させられれば、お客様はうんざりしてしまいます。引き継ぐ場合には、それまでのやり取りをきちんと共有し、お客様に同じ話を繰り返させないよう配慮することが求められます。
クレーム対応に関するよくある質問
クレームを受けたら、まず何をすべきですか
まずは、お客様の話を最後までしっかり聞くことです。不満を抱えたお客様は、自分の話を聞いてほしいと思っています。話をさえぎったり、すぐに反論したりすると、かえって感情を逆なでしてしまいます。相手が何に不満を感じ、何を求めているのかを丁寧に受け止め、そのうえで事実を確認し、会社としての対応を示していく、という流れが基本です。まずは聞く姿勢を大切にしましょう。
最初の対応で相手の話をしっかり受け止められると、その後のやり取りがずっと進めやすくなります。反対に、最初の段階で相手の感情を高ぶらせてしまうと、本来は簡単に解決できたはずの問題まで、こじれてしまうことがあります。クレーム対応は最初が肝心だと言われるのは、このためです。焦って早く解決しようとするより、まずは相手の話にじっくり耳を傾けることが、結果的に早い解決につながります。
クレーム対応で、すぐに謝ってはいけないのですか
お客様が不快な思いをしたことについて、その点をお詫びすること自体は問題ありません。むしろ、誠実な姿勢を示すうえで大切です。ただし、会社に非があるかどうかがまだ分からない段階で、すべての責任を認めるような謝り方をするのは避けたほうがよいでしょう。「不便をおかけしたこと」へのお詫びと、「会社の責任を全面的に認めること」は区別して考える必要があります。事実を確認したうえで、責任の所在に応じた対応をすることが大切です。
「謝ると責任を認めることになるから、一切謝ってはいけない」と考える方もいますが、それは行き過ぎです。まったく謝らない冷たい対応は、かえってお客様の感情を害し、問題をこじらせます。大切なのは、何に対して謝るのかを意識することです。お客様に不便や不快な思いをかけたこと、その点についてはお詫びの気持ちを率直に伝えてよいのです。一方で、事実がはっきりしないうちに会社の法的な責任まで認めてしまうのは避ける、ということです。この区別を意識しながら、誠実な姿勢は失わずに対応することが、適切なクレーム対応につながります。
お客様の要求にはすべて応じるべきですか
そうとは限りません。正当なクレームには誠実に対応すべきですが、社会通念を超えた過大な要求や、実現不可能な要求にまで応じる必要はありません。すべての要求に応じようとすると、かえって問題を長引かせ、従業員を疲弊させてしまいます。要求の内容が正当かどうか、伝え方が許される範囲に収まっているかを見極め、不当な要求にはきっぱりと線を引くことが大切です。判断に迷う場合は、専門家に相談するとよいでしょう。
「お客様の言うことだから」と、どんな要求にも応じようとするのは、かえって危険です。不当な要求に一度応じてしまうと、相手はさらに要求をエスカレートさせることがあります。また、一人のお客様の不当な要求に特別に応じれば、他のお客様との公平性も保てなくなります。応じるべき正当な要求と、応じる必要のない不当な要求を、きちんと線引きすること。それが、健全な顧客対応を続けるうえでも、従業員を守るうえでも欠かせません。どこで線を引くべきか迷ったときは、一人で抱え込まず、上司や専門家に相談して判断することが大切です。
悪質なクレームで従業員が疲弊しています。どうすればよいですか
まず、その従業員を一人で対応させないことが大切です。上司や複数の従業員で対応にあたり、一人に負担が集中しないようにしましょう。相手の言動が目に余る場合には、対応を打ち切る判断も必要です。また、対応した従業員の心身の状態に目を配り、気遣うことも欠かせません。会社が組織として従業員を守る姿勢を示すことが、何よりの支えになります。対応に迷う場合は、専門家に相談し、会社としての方針を固めておくと安心です。
従業員が疲弊しているサインを見逃さないことも大切です。悪質なクレームにさらされ続けると、従業員は表面上は平静を装っていても、内心では大きなストレスを抱えていることがあります。元気がない、対応を怖がるようになった、といった変化に気づいたら、無理をさせず、必要に応じて休息を取らせるなどの配慮が求められます。従業員の心身の健康は、何よりも優先すべきものです。会社が従業員を守る姿勢を明確に示し、実際に支える行動をとることが、従業員の安心につながり、ひいては職場全体の力になります。