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ひき逃げ被害者の慰謝料はどうなる?示談金の増額割合と損害賠償の請求方法
この記事で分かること
- ひき逃げでも損害賠償の請求先は加害者本人。
- ひき逃げの慰謝料額は増額が見込める。
- 加害者が特定できなくても、国の保障制度や保険会社の特約を利用して補償を受けられる。
ひき逃げでも、慰謝料を含めた損害賠償の請求先は加害者になるため、まずは加害者を特定することが重要です。加害者の特定に時間がかかったり、加害者に損害賠償を負担する能力がなかったりした場合は、国の保障制度などの利用を検討しましょう。
目次[非表示]
ひき逃げで確実に慰謝料を取るために被害者がすべきこと
まずは、そもそもひき逃げとはどういった状況のことを指すのかを法律の視点から押さえつつ、今後慰謝料を確実に取るためにすべきことを把握しましょう。
「ひき逃げ」とは法律上の義務を怠って現場から離れること
「道路交通法」という法律では、交通事故を起こしたときは、その車の運転者と乗車していた人はただちに車を停車して、事故に遭った人の救護や道路上の安全への配慮に努めなければならないことが明記されています。具体的には、以下のようなことを行うことが義務づけられています。
- 交通事故被害者(負傷者)の救護
- 危険を防止するための措置(事故車両をほかの車の通行に影響しない場所へ移動するなど)
- 警察への通報
- 現場に留まり、事故状況などについて警察に報告すること
事故当事者にもかかわらず、これらの義務を怠って事故現場から離れることを一般的には「ひき逃げ」と呼んでいます。
ひき逃げに遭ったら行うべき3つの対策
ひき逃げは、事故後すぐに適切な処置を行わないことで、本来ならば助けられるはずの命を失ってしまう可能性もある、大変危険な行為です。ひき逃げの加害者には当然重い刑事罰が課せられますし、加害者は被害者に対して、慰謝料を含めた損害賠償金を支払う義務も負っています。
しかし、逃げられたまま加害者を特定することができなければ、罪に見合った罰を受けさせることも、損害賠償を請求することもできません。後々確実に慰謝料を含めた損害賠償金を支払ってもらうためにも、ひき逃げの被害に遭ったら、以下のような対策を行いましょう。
加害者の情報を整理し、警察に報告する
事故に遭ったすぐは気が動転してあわててしまうものですが、まずは落ち着いて、加害者の車両の特徴を把握することに努めましょう。車両ナンバーがわかればベストですが、確認する余裕がなければ、車種や色、ボディの形など、どんな情報でもかまいません。それらの情報を忘れないようにメモし、警察へ連絡した後に報告してください。今は比較的安価で性能のよい製品もありますから、ドライブレコーダーをつけておくとより安心です。
必ず必要な治療を受ける
ひき逃げの場合も、基本的に損害賠償の請求先や事故のケガに必要な入通院・治療費などの負担先は加害者自身となります。そのため、加害者がまだ判明していない段階では、自己負担で病院へ通わなければならないケースもあります。
しかし、自己負担で治療を受けたくないと治療を後回しにした場合、事故からある程度時間が経過してからの受診となるため、事故とケガとの因果関係があいまいになってしまう可能性があります。
結果として、本来ならば相手に負担してもらえるはずの治療費などを自費で支払わなければならないことになりかねないため、事故によってケガを負ったり、いつもと体の調子が違ったりしたときは、必ずすぐに病院で治療を受けてください。その際、治療費の明細や領収書などは確実に保管しておきましょう。
早めに弁護士へ相談する
ひき逃げの場合、通常の事故よりも慰謝料が増額される傾向にあります。とはいえ、慰謝料などの損害賠償金を負担する相手方保険会社は、できるだけ支払いを少なくするために、相場より低い金額で示談金を提示してくる場合があります。このとき、示談金に納得がいかなければ、弁護士を介して示談交渉を行うか、最終的には訴訟を起こし、裁判で争うことになります。
このように、ひき逃げでは、最終的に弁護士へ依頼しなければならなくなるケースも少なくありません。そのため、事故が起きた段階で訴訟も視野に入れ、早めに弁護士へ相談しておくことをおすすめします。相談が早ければ早いほど、担当弁護士が事故状況を把握しやすくなります。また、示談交渉や裁判で争う際の材料として、情報をより多く集めることも可能になります。
ひき逃げの慰謝料は通常の事故より増額する傾向に
慰謝料の決め方は、ひき逃げの場合も通常の事故のときと基本的には同じです。しかし、実際に示談や裁判で決着する金額は、通常よりも増額される傾向にあります。
ひき逃げで請求できる慰謝料の種類
ひき逃げの被害にあったときに加害者へ請求できる慰謝料の種類は、通常の事故のときと同じく主に3種類あります。
入通院への慰謝料
事故によって負ったケガを治すためにかかった入通院・治療費は、一切を加害者へ請求することが可能です。加えて、ケガの程度により入院や通院がともなう場合には、それらによって被害者が負った精神的苦痛に対する慰謝料を請求することが可能になります。
後遺障害への慰謝料
事故によるケガの程度が大きい場合、治療を行ってもなお体に後遺症が残るケースがあります。この場合、後遺症を負ったことに対する精神的苦痛への慰謝料と、本来後遺症がなければ得られるはずだった将来の収入である逸失(いっしつ)利益を請求することが可能です。
死亡への慰謝料
交通事故被害者が亡くなってしまった場合に、その遺族が請求することのできる慰謝料です。
慰謝料額を決めるための3つの基準
交通事故の慰謝料額はひき逃げを含め、あらかじめ定められた3つの基準をもとに決定されます。
自賠責基準
自動車を運転する人には必ず、自賠責保険に加入することが義務づけられており、自賠責保険をもとにした算定基準を自賠責基準といいます。自賠責保険は交通事故被害者に対して最低限の補償を目的としたものであるため、自賠責基準をもとにして算定される慰謝料額はもっとも低くなります。
任意保険基準
各保険会社が独自に定める算定基準です。自賠責保険ではまかなうことのできない範囲の補償を想定しているため、任意保険基準で算定する慰謝料額は、自賠責基準よりは高いのが通例です。とはいえ、任意保険会社によっては、自賠責基準とほとんど変わらない算定基準を用いているケースもあります。
裁判所基準
過去の裁判例をもとにした基準であり、実際に裁判で争う際にも用いられます。裁判所基準で算定する慰謝料額は、3つの算定基準の中ではもっとも高額になります。弁護士が示談交渉を行う際にも用いられる基準のため、弁護士基準と呼ばれることもあります。
交通事故の慰謝料額は、どの基準をもとに算定するかによって大きく変わります。また、ひき逃げの場合は被害者の心情もある程度考慮されることから、弁護士を介した示談交渉や裁判では、通常の交通事故よりも慰謝料額は増額される傾向にあります。
事故の程度にもよるため一概にはいえませんが、過去のひき逃げに関する民事裁判例によれば、通常の事故と比較して1.1~1.3倍程度の増額が見込めるようです。事例により、1.5倍の増額が認められたケースもあります。
ひき逃げの加害者が見つからなかったときの補償はどうなる?
ひき逃げの場合も、慰謝料を含めた損害賠償の請求先は、あくまで加害者となります。とはいえ、加害者が見つからないからと事故被害者が何の補償も受けられないことは、被害者にとってはあまりに酷なことだといえるでしょう。加害者が見つからない間の治療費などは、被害者が自分で負担するしかないのでしょうか?
政府保障事業制度について
政府保障事業とは、ひき逃げなどにより補償が受けられない可能性のある事故被害者を救済するための国の制度です。慰謝料などの算定に用いられる基準はもっとも低い自賠責基準となりますが、政府保障事業制度を利用すれば、慰謝料、入通院・治療費、休業損害など、最低限の補償を受けることが可能です。
ひき逃げの加害者には、加入が義務づけられている自賠責保険に加入していない、飲酒運転をしていたなどの事情があるケースが少なくありません。つまり、たとえ加害者が見つかったとしても、支払能力がなかったり加害者の身柄が警察に拘束されてしまったりすることで、加害者本人が損害を賠償できない可能性があります。
ひき逃げで加害者が特定できないケースのほか、このように加害者による補償が実質不可能なケースにおいても、制度の利用対象となります。
被害者が加入する保険から補償を受けられるケースも
そのほか、加害者から補償を受けられなかった場合に、被害者自身が加入する任意保険から補償を受けられるケースもあります。
人身傷害補償保険に入っているか確認
人身傷害補償保険とは、保険加入者に過失があるかどうかに関係なく、加入者が事故によってケガを負ったり亡くなったりしてしまった場合に、その損害を補償するものです。本来は、自分にも一定の過失がある交通事故において、相手方から補償されない自己の過失分の補償を受けるためなどに利用されるケースが多いです。しかし、ひき逃げなどで加害者が特定できないケースにも適用できます。
無保険車傷害補償特約がついていないか確認
無保険車傷害補償特約とは、加害者が任意保険に加入していない場合に、特約内の限度額において、自賠責保険ではまかなえない損害を補填するものです。加害者が任意保険に加入していない場合のほか、以下のようなケースでも適用が可能になります。
- 加害者が任意保険に加入しているが、免責規定(加入者本人の故意による事故など)により保険金が支払われないケース
- 加害者が任意保険に加入しているが、支払われる保険金が損害賠償額に満たないケース
- ひき逃げなど加害者が特定できないケース
など
車両保険に入っているか確認
先にご紹介した制度や保険・特約は、あくまでも人身に対する補償となるため、ひき逃げにより車両が損害を受けた場合に何らかの補償を受けることができません。車両の修理費などに対する補償が受けられるかどうかは、自身の加入する任意保険で車両保険に加入しているかを確認してください。
ひき逃げにあったら慰謝料請求は弁護士へ相談を
ひき逃げの場合、身体へのダメージはもちろんですが、精神的にも非常に大きな負担を強いられることになります。にもかかわらず、適切に対応しなければ、必要な補償を受けることすらままならないケースもあります。ご自身での解決が難しいと思ったら、迷わず弁護士へ相談してみましょう。
無料相談を活用し、十分な慰謝料獲得を
- 保険会社が提示した慰謝料・過失割合に納得が行かない
- 保険会社が治療打ち切りを通告してきた
- 適正な後遺障害認定を受けたい
- 交通事故の加害者が許せない