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個人再生と住宅ローン|住宅資金特別条項を知っておこう
この記事で分かること
- 任意整理や自己破産では自宅を手放す必要がありますが、個人再生の住宅資金特別条項を利用すればその必要はありません
- 個人再生における住宅資金特別条項を利用すれば住宅を残したまま住宅ローン以外の債務を整理可能
- 住宅資金特別条項が許可されるのは、“再建型”の債務整理である個人再生の債務者保護の観点から
- 住宅資金特別条項を使っても、再生計画を履行できなくなった場合には住宅を手放すことになります
個人再生の住宅資金特別条項を利用すれば住宅を残したまま住宅ローン以外の債務を整理可能です。しかし利用には高いハードルがある上、再生計画を履行できなくなった場合には住宅を手放すことになります。
目次[非表示]
債務整理と住宅ローンの関係
債務整理をすると返済負担を軽減できますが、住宅ローンが残っている住宅がある場合、住宅ローンに影響がでることがあります。まずは各債務整理と住宅ローンの関係を見ていきましょう。
住宅ローンへの影響
言うまでもなく、土地や家を購入するには、多額のお金が必要です。そのため多くの場合、銀行等から融資を受けることになります。これが住宅ローンですが、債務整理の種類によっては影響が及び、自宅を手放す必要が出てくるのです。
まず、一切の債務が帳消しになる自己破産では生活に必要な最低限の財産以外は全て換金処分されるため、当然自宅の処分も免れません。次に、引き直し計算による利息カット等で返済負担を軽減する任意整理の場合はどうでしょうか。
任意整理の場合、任意というくらいですから整理の対象を自由に決定できます。そのため理論上は、住宅ローンを整理の対象から外せば自宅を保持できます。しかし住宅ローンは最大の返済期限で組んでいるケースがほとんどであり、また個々の返済額も多額になります。そおため、実質的には自宅を残したままその他の借金を返済していくのは困難な場合が多くなります。
個人再生ではで自宅を残せる
住宅は単なる財産ではなく生活の基盤となるもので、失えば債務者は経済的再建ができなくなってしまいます。そこで2001年、借金の返済に行き詰まった人が家を失い生活再建ができなくなることを防ぐ目的で設けられたのが個人再生制度です。
この制度は、債務者が返済計画を立て裁判所に申し立てることによって債務を圧縮するものです。返済計画案が認められれば債務額を大幅に圧縮可能で(5分の1程度)、それを原則3年で完済することになります。個人再生には『住宅資金特別条項』が定められており、マイホーム残しつつ、住宅ローン以外の借金を整理することができます。
住宅資金特別条項とは
住宅資金特別条項は一般には“住宅ローン特則”と呼ばれ、民事再生法196条以下に規定された「住宅資金貸付債権に関する特則」を指します。
耳慣れない言葉ですが、マイホームを残せるこの制度は個人再生の最大のメリットとも言えるものです。利用には再生申し立ての際、「申立書」と「債権者一覧表」にその旨を記載する必要があります。
住宅ローン“以外”の債務を整理する
住宅資金貸付債権とは、住宅の建設・購入・その敷地や借地権の取得・住宅の改良に必要な資金のうち分割払いの定めがある債権のことで、住宅ローンが代表的です。住宅資金特別条項はこの住宅資金債権については通常通り返済し、それ以外の債務を個人再生で整理する制度です。要するに住宅ローンは返済するので、自宅を手放さんくても済みます。
また、個人再生では他の債務の大幅な圧縮と長期の分割払いが認められ、債務全体を減額でいます。
個人再生では住宅ローン返済を継続できる方法がある
個人再生における住宅資金特別条項を利用すれば、住宅ローンを通常通り返済しつつ、ほかの債務を圧縮することができます。しかし住宅ローンも債務であることに違いありません。では、なぜ自宅を残すことが許されるのでしょうか。
抵当権と住宅ローンの関係
その理由を理解するには“抵当権”と住宅ローンの関係を把握することが必要です。
抵当権とは、住宅ローン等でお金を借りるときにその借金の担保として自宅や土地を確保しておくためのものです。平たく言うと、債務不履行に陥った場合に自宅や土地は競売にかけられ、換金処分されることを取り決める契約です。
つまり、「マイホーム」等と言いますがローンを完済しないうちは厳密には自分の家ではないわけです。義務ではありませんが、抵当権を設定しないと金融機関から融資を受けられないので、通常住宅ローンを組む際は抵当権を設定することになります。
仮に自己破産をした場合にこの抵当権が実行され自宅が売却されれば、その売却代金は保証会社や住宅ローン会社の持つ債権に優先的に分け与えられます。売却代金が住宅ローンの残債額よりも多ければ、残りは他の債務者に与えられますが、住宅ローンの残債額より少なかった場合、売却代金の全額が住宅ローンに充てられ、他の債務者には一円たりとも回らないことになります。
住宅資金特別条項の考え方
これらを踏まえた上で、住宅資金特別条項では住宅を手放さなくて済むそのわけを見ていきましょう。
自宅の価値が住宅ローンの残債額を下回っていれば抵当権付きの住宅が処分されてもその売却代金は全て住宅ローンに充てられるので、他の債権者には何の影響もないと言えます。つまり、住宅ローンを通常通り返済しつつ他の債務を圧縮するとしても、住宅ローン会社と他の債務者の間に不公平は生じないのです。
また自宅の価値が住宅ローンの残債額を上回る場合でもその余剰分を清算価値に上乗せし、再生計画の支払いに加算すれば、他の債務者にさして大きな損害は及びません。
住宅を残せる住宅資金特別条項
それならば、債務者の生活再建のためにも住宅を残す選択肢を与えようというのが、この住宅資金特別条項です。個人再生はそもそも債務者の再生を目的とした“再建型”の債務整理なので、このような考え方をするのです。もちろん、住宅ローンは一切減額されません。
あくまでも個人再生の対象から住宅ローンの債権者だけを外すことができる制度です。逆に言えば、他の借金を勝手に全額返済してはいけないのです。一部の債権者にだけ返済する偏波弁済(へんぱべんさい)は「債務者平等の原則」に反し、最悪裁判所に個人再生手続きを取り消されてしまうことがあるので注意が必要です。
個人再生で住宅ローンを残せる住宅資金特別条項に必要な条件
自宅を処分せずに住宅ローン以外の債務を整理できるこの制度は、債務者側に大変有利と言えます。それゆえ誰でも利用できるわけではなく、厳しい要件を満たす必要があります。
厳しい要件をクリアにする
再生計画において住宅資金特別条項付きの再生計画が認可されるためには、以下の要件全てを満たさなくてはなりません。
再生債務者に関する要件
住宅に関する要件
法定代位とは、弁済することについて正当な利益のない者が債務者に代わって弁済することを言います。ここで言う正当な利益のない者とは、例えば保証人、連帯債務者、抵当不動産です。ただし保証会社が代理弁済を行った場合、代理弁済後、6ヵ月以内に再生手続き開始の申し立てをすれば可能です。
住宅ローンに関する要件
再生手続きに関する要件
言わずもがな、個人再生そのものの要件も満たす必要があるので上記の要件の他、再生計画不認可事由がないことも求められます。
住宅資金特別条項に盛り込むべき内容
このように住宅資金特別条項を利用するには、様々なハードルをクリアすることが必要です。しかしそれだけでなく、盛り込む内容についても色々と決まりがあるのです。住宅資金特別条項には、「同意不要型」「そのまま型」「同意型」の3類型があります。
同意不要型
法律で同意不要型として定められているものは次の3つです。
期限の利益を回復する内容 | 「期限の利益」とは借金をしても定められた期限までは返済しなくてよい権利のことです。期限の利益喪失とはこの権利の喪失、つまり分割返済中に遅延した場合に、直ちに残債の一括返済を求められることです。期限の利益を回復する内容は住宅ローンのうち支払いが遅延した分の元金、利息及び遅延損害金を再生計画で定められた返済期間(原則3年、例外5年)内で返済するものです。 | |
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最終弁済期を延長する内容 | 返済完了時期を延長する内容です。再生計画通りの返済を履行することが著しく困難な場合は、債務者の年齢が70歳を超えない範囲で最大10年まで返済期間を延長することができます。 | |
元本一部の弁済を猶予する内容 | 上記2つの措置を講じてもなお再生計画に返済することが著しく困難な場合は、再生期間中は元本の一部の弁済を猶予する内容を特別条項に入れることができます。 |
そのまま型
また法律に定めはないものの、住宅資金特別条項付き個人再生をする人の多くが利用する、最もポピュラーな類型と言えるのがこれです。住宅ローン返済に遅延や滞納がなく、期限の利益も喪失していない場合に利用できます。
同意型
住宅ローン債権者の同意を得て、同意不要型やそのまま型以外の内容を自由に定めるものです。
個人再生の住宅ローンで気を付けるべき点
ここまでの解説で住宅資金特別条項のメリットは理解できたと思います。しかし住宅資金特別条項は借金問題解決に大いに役立つものの、注意すべき点がいくつかあります。
住宅資金特別条項が利用できないケースがある
住宅資金特別条項は条件さえ合えば非常に有用な制度ですが、使えない場合があることを忘れてはなりません。前述した適用要件を満たさない場合以外にも次のようなケースでは利用できないのです。
住宅ローン以外の抵当権が設定されているケース
自宅に住宅ローン以外の抵当権が付いていると住宅資金特別条項で住宅ローンの再生計画を立て直しても他の抵当権者によって差し押さえられてしまい意味がないので、適用除外となります。
その抵当権よりも後順位の抵当権等が設定されているケース
住宅以外の不動産に優先順位の低い抵当権者がいるケースも、同様の理由で適用除外となります。しかしこの場合でも、例えば家族に後順位抵当権の付いた借金を支払ってもらう等して、個人再生の開始までに後順位抵当権を抹消すれば適用可能です。
住宅資金特別条項の“落とし穴”
また、覚えておかなければならないのは、仮に住宅資金特別条項付きの再生計画が認可されても、必ず自宅を保持できるわけではないことです。弁済計画を履行できなくなった場合等、結局は住宅を手放す羽目になるケースも少なくないのです。
住宅資金特別条項は厳しい返済計画になりがち
前述の住宅資金特別条項の3類型はいずれも返済を続けるのは容易ではなさそうです。何故なら返済期間の延長や元金の支払い猶予では当面の負担を軽減することはできても、その後の返済額が跳ね上がったり返済総額がアップしたりして、結局は負担増になってしまいがちだからです。また住宅資金特別条項では住宅ローンは減額されないため、そもそもの負担も小さくないのです。
再生計画の途中で返済できなくなれば、手続きは廃止になり当然自宅も処分せざるを得ません。なお、「ハードシップ免責」と言って、返済計画を履行できないやむを得ない事情があった場合には免責を受けることが可能ですが、その要件は極めて厳しいものとなっています。
個人再生での住宅ローンについて心配なことは弁護士に相談
個人再生の住宅資金特別条項は条件さえ合えば、大いに役立つ制度です。しかし適用されれば必ず自宅を保持できるわけではなく、計画を履行できなければ手放す羽目になります。住宅資金特別条項を利用する際はこの辺りのことをきちんと考えた上で、慎重に行う必要があります。
住宅ローンが残っている自宅を残しながら債務整理したい場合は、弁護士などの法律のプロに相談することで、的確な手続きを進めることができるでしょう。
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