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遺留分とは|計算方法・対象者・請求方法を完全網羅

この記事で分かること
- 遺留分の対象者と兄弟姉妹に遺留分がない理由
- 家族構成別の遺留分の割合早見表
- 遺留分の計算方法と4つの具体的な計算例
- 遺留分侵害額請求の7ステップ手順と時効管理
- 7つのケーススタディと請求成功のポイント
遺留分とは、法定相続人(配偶者・子・親)に保障された最低限の取り分。本記事では遺留分の対象者、家族構成別の割合早見表、4ステップの計算方法と4つの計算例、請求の7ステップ手順、時効1年・10年の管理、2019年改正のポイント、7つのケーススタディまで詳しく解説します。兄弟姉妹には遺留分がない点に注意が必要です。
目次[非表示]
遺留分とは何か
「遺留分って具体的にいくらもらえる?」「遺言で他の人に全財産が渡されてしまったが、自分には取り分があるのか?」「遺留分の請求はどうやってするのか?」――こうした疑問は、遺言書で不利な扱いを受けた相続人や、遺留分を侵害された方が必ず抱える切実なものです。
遺留分とは、法定相続人(配偶者・子・親)に法律で保障された最低限の取り分のことです。被相続人(亡くなった方)が遺言で「全財産を特定の人に渡す」と書いても、遺留分を持つ相続人は遺留分相当額の金銭を請求できます。本記事では、遺留分の対象者、計算方法、具体的なシミュレーション、請求の手順、時効、ケーススタディまで、実用的な情報を弁護士目線で詳しく解説します。
遺留分が認められる対象者
まず、遺留分が認められる対象者を確認しておきましょう。
遺留分の対象者(全員ではない)
遺留分が認められるのは、配偶者、子(代襲相続人含む)、直系尊属(親・祖父母)、です(民法1042条)。
重要な注意点として、兄弟姉妹には遺留分がありません。被相続人の遺言で全財産を他の人に渡せば、兄弟姉妹は法的に何も取れないのが原則です。
遺留分の対象者一覧
遺留分の対象者を一覧で見ていきましょう。
| 相続人 | 遺留分 |
|---|---|
| 配偶者 | あり |
| 子(実子・養子・認知された婚外子・代襲相続人含む) | あり |
| 親・祖父母(直系尊属) | あり |
| 兄弟姉妹・甥姪 | なし |
兄弟姉妹に遺留分がない理由
兄弟姉妹に遺留分が認められない理由は、血縁の遠さ、生活保障の必要性の低さ、被相続人の意思の尊重、などの立法判断です。
兄弟姉妹は被相続人と比べて独立した世帯を持つことが多く、生活保障の必要性が低いと判断されています。
代襲相続人の遺留分
代襲相続人(亡くなった子の代わりに相続する孫など)にも、遺留分が認められます。
たとえば、子が既に死亡していて孫が代襲相続人の場合、孫は子の遺留分を引き継ぎます。
ただし、兄弟姉妹の代襲相続人(甥姪)には、もともと兄弟姉妹に遺留分がないため、遺留分はありません。
相続放棄者の遺留分
相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったとみなされるため、遺留分もありません。
相続放棄者の子も代襲相続人にならないため、遺留分はありません。
遺留分の割合の早見表
遺留分の割合は、相続人の組み合わせで決まります。
基本ルール
遺留分の割合は、配偶者・子・親(直系尊属)のみが相続人なら法定相続分の1/2、親(直系尊属)のみが相続人なら法定相続分の1/3、です。
これは「総体的遺留分」と呼ばれ、相続財産全体に対する遺留分の割合を示します。
個別の遺留分(個別的遺留分)
各相続人の遺留分は、総体的遺留分×各相続人の法定相続分、で計算します。
たとえば、配偶者と子1人が相続人の場合、配偶者の遺留分は1/2×1/2=1/4、子の遺留分も1/2×1/2=1/4、となります。
遺留分の割合早見表
家族構成別の遺留分割合を早見表で見ていきましょう。
| 家族構成 | 遺留分 |
|---|---|
| 配偶者のみ | 配偶者1/2 |
| 配偶者と子1人 | 配偶者1/4、子1/4 |
| 配偶者と子2人 | 配偶者1/4、子それぞれ1/8 |
| 配偶者と子3人 | 配偶者1/4、子それぞれ1/12 |
| 配偶者と親(両親) | 配偶者1/3、親それぞれ1/12 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者1/2、兄弟姉妹は0(遺留分なし) |
| 子のみ1人 | 子1/2 |
| 子のみ2人 | 子それぞれ1/4 |
| 子のみ3人 | 子それぞれ1/6 |
| 親のみ(両親) | 親それぞれ1/6(1/3×1/2) |
| 親のみ1人 | 親1/3 |
| 兄弟姉妹のみ | 遺留分なし |
具体例で確認
具体例で遺留分を確認しましょう。
被相続人が遺言で全財産1億円を友人に遺贈、相続人が配偶者と子2人の場合。
配偶者の遺留分は1億円×1/4=2,500万円、子それぞれの遺留分は1億円×1/8=1,250万円。配偶者と子2人で合計5,000万円の遺留分侵害額請求が可能です。
被相続人が遺言で全財産6,000万円を内縁の妻に遺贈、相続人が長男・次男だけの場合。
長男・次男それぞれの遺留分は6,000万円×1/4=1,500万円。合計3,000万円の遺留分侵害額請求が可能です。
遺留分の計算方法
遺留分の計算には、いくつかのステップがあります。具体的な計算方法を見ていきましょう。
計算式の全体像
遺留分侵害額の計算式は、(基礎財産)×(個別的遺留分の割合)-(その相続人が受けた遺贈・特別受益・相続財産の額)、です。
基礎財産は、相続開始時の財産+生前贈与額(原則10年以内・相続人以外は1年以内)-債務、で計算します。
ステップ1 基礎財産の算定
基礎財産は、次のように算定します。
被相続人の積極財産(プラスの財産)+被相続人の生前贈与(相続人への贈与は10年以内、相続人以外への贈与は1年以内、ただし悪意の贈与は期間制限なし)-被相続人の債務(借金・未払金など)、です。
2019年改正により、相続人への贈与は原則10年以内に限定されました。
ステップ2 個別的遺留分の計算
各相続人の個別的遺留分は、総体的遺留分(1/2または1/3)×法定相続分、で計算します。
たとえば、配偶者と子2人が相続人の場合、配偶者の個別的遺留分は1/2×1/2=1/4、子の個別的遺留分は1/2×1/4=1/8(子2人合計1/4)、です。
ステップ3 遺留分侵害額の算定
遺留分侵害額は、(基礎財産)×(個別的遺留分の割合)-(その相続人の取得分)、で計算します。
取得分には、遺贈で得た財産、被相続人から受けた生前贈与(特別受益)、遺産分割で得た財産、が含まれます。
ステップ4 請求対象者の確定
遺留分侵害額請求は、遺贈・贈与を受けた人に対して行います。
複数の受遺者・受贈者がいる場合、まず受遺者から、次に新しい贈与から順に減殺対象となります(民法1047条)。
具体的な計算例
具体的な計算例で確認しましょう。
ケースA:被相続人の財産1億円、相続人は配偶者と子1人、被相続人は遺言で全財産を子に遺贈。
配偶者の遺留分は1億円×1/4=2,500万円。配偶者の取得分は0円のため、遺留分侵害額は2,500万円。配偶者は子に対して2,500万円の遺留分侵害額請求ができます。
ケースB:被相続人の財産5,000万円、相続人は子3人、被相続人は遺言で全財産を長男に遺贈。
次男・三男の遺留分はそれぞれ5,000万円×1/6(1/2÷3)=約833万円。長男に対して、それぞれ約833万円の遺留分侵害額請求ができます。
ケースC:被相続人の財産1億円(うち生前贈与5,000万円が長男に5年前に)、相続人は配偶者と子2人、遺言で残り5,000万円を友人に遺贈。
基礎財産は5,000万円+5,000万円(生前贈与)=1億円。配偶者の遺留分は1億円×1/4=2,500万円。子それぞれの遺留分は1億円×1/8=1,250万円。長男は既に5,000万円を受けているため遺留分侵害なし、次男は1,250万円の侵害額請求ができます。配偶者は2,500万円の請求が可能。
ケースD:被相続人の財産8,000万円、債務2,000万円、相続人は配偶者と子1人、遺言で全財産を子に遺贈。
基礎財産は8,000万円-2,000万円=6,000万円。配偶者の遺留分は6,000万円×1/4=1,500万円。配偶者は子に対して1,500万円の遺留分侵害額請求ができます。
遺留分侵害額請求の手順
遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求を行います。手順を具体的に見ていきましょう。
ステップ1 遺留分侵害の確認
最初のステップは、遺留分侵害の確認です。
被相続人の財産、自分の遺留分、自分が実際に受けた財産を確認し、遺留分が侵害されているか判断します。財産調査、財産評価、計算が必要となります。
ステップ2 時効の確認
遺留分侵害額請求権には時効があります。
時効は、相続開始と遺留分侵害を知った時から1年、相続開始から10年、です。1年は時効、10年は除斥期間で、これを過ぎると請求できません。
ステップ3 内容証明郵便での意思表示
時効を止めるため、内容証明郵便で意思表示を行います。
請求の意思を明確に伝え、後の証拠とします。書面の作成は、弁護士に依頼するのが確実です。
内容証明郵便を送付することで、時効の完成猶予効果が得られ、その後の交渉時間を確保できます。
ステップ4 交渉
内容証明郵便の送付後、相手方との交渉に入ります。
財産の評価額、生前贈与の取り扱い、遺留分侵害額の金額、支払い方法・時期、などを協議します。
合意できれば、和解書を作成して終了です。
ステップ5 調停
協議で合意できない場合、家庭裁判所での調停を申し立てます。
遺留分侵害額請求は、地方裁判所ではなく家庭裁判所の遺留分関連調停となります。中立的な調停委員の介在により、合意形成が促進されます。
ステップ6 訴訟
調停も不成立の場合、訴訟を提起します。
遺留分侵害額請求は、地方裁判所(原則として)に訴訟を提起します。判決確定により、強制力のある判断が得られます。
ステップ7 強制執行
判決確定後、相手方が任意に履行しない場合、強制執行を行います。
預貯金の差押え、不動産の競売、給与の差押えなど、強制的な手段で実現します。
手続きの期間と費用
手続きの期間と費用の目安は次のとおりです。
| 段階 | 期間 | 費用 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便のみ | 1〜3ヶ月 | 5万円〜10万円 |
| 交渉で合意 | 3〜6ヶ月 | 30万円〜100万円 |
| 調停で解決 | 6ヶ月〜1年 | 100万円〜200万円 |
| 訴訟で解決 | 1〜3年 | 200万円〜500万円 |
時効・除斥期間の詳細
遺留分侵害額請求の時効・除斥期間を詳しく見ていきましょう。
1年の時効
1年の時効は、「相続開始と遺留分侵害を知った時から1年」です(民法1048条前段)。
重要なポイントは、起算点が「知った時」であることです。被相続人の死亡と、それが遺留分を侵害する内容(遺言や生前贈与)であることの両方を知った時から1年です。
10年の除斥期間
10年の除斥期間は、「相続開始の時から10年」です(民法1048条後段)。
1年の時効と異なり、当事者の知不知に関係なく、相続開始から10年経過で請求権が消滅します。
時効起算点の判例
時効の起算点に関する重要判例として、最高裁昭和57年11月12日判決があります。
「遺贈・贈与の事実を知った時」ではなく、「それが自分の遺留分を侵害することを知った時」が起算点になるとしました。
時効を止める方法
時効を止めるためには、内容証明郵便による意思表示が最も実務的です。
時効期間内に内容証明郵便を送付し、その後6ヶ月以内に訴訟提起または調停申立てを行うことで、時効が完成しません(完成猶予)。
時効の確認方法
時効の起算点に不明確な点がある場合、弁護士への相談が必要です。
時効を見落とすと、遺留分を請求する権利を失ってしまいます。
2019年改正のポイント
2019年7月1日施行の民法改正により、遺留分制度が大きく変わりました。
変更点1 名称の変更
従来の「遺留分減殺請求」が、「遺留分侵害額請求」に変更されました。
名称変更とともに、権利の性質も大きく変わりました。
変更点2 現物返還から金銭債権化
最大の変更点が、現物返還から金銭債権化です。
従来は財産の現物(不動産の持分など)を取り戻す権利でしたが、改正後は金銭の支払いを求める権利となりました。
変更点3 共有不動産化のリスク解消
金銭債権化により、共有不動産化のリスクが解消されました。
従来は遺留分減殺請求により不動産が共有化されることが多く、後の管理・処分でトラブルが発生していましたが、改正後は金銭で解決できるようになりました。
変更点4 算定基礎財産の限定
改正により、算定基礎財産に算入される生前贈与の範囲が限定されました。
相続人への贈与は相続開始前10年以内、相続人以外への贈与は相続開始前1年以内、というルールです(ただし、悪意の贈与は期間制限なし)。
変更点5 受遺者・受贈者の取り扱い
受遺者・受贈者(遺贈・贈与を受けた人)が複数いる場合、まず受遺者から、次に新しい贈与から順に減殺対象となります。
これは改正前と同じルールが維持されました。
改正前後の適用境界
改正法の施行日は2019年7月1日です。
2019年7月1日以降に発生した相続には改正後のルール、2019年7月1日より前に発生した相続には改正前のルール、が適用されます。
遺留分を請求できるケース・できないケース
遺留分を請求できる典型的なケースと、できないケースを整理しておきましょう。
請求できるケース
遺留分を請求できる典型的なケースは、次のとおりです。
ケース1:被相続人が遺言で全財産を特定の相続人に遺贈し、他の相続人の取り分がなくなった。
ケース2:被相続人が生前に特定の相続人や第三者に多額の贈与をして、自分の取り分が減った。
ケース3:被相続人が遺言で全財産を第三者(内縁の妻・友人・公益団体など)に遺贈し、相続人の取り分がなくなった。
ケース4:被相続人が生命保険金の受取人を特定の相続人や第三者のみに指定し、極端な不平等が生じた(原則として遺留分の対象外だが、例外的に対象となる判例あり)。
ケース5:被相続人が事業承継のために特定の相続人に多くの財産を集中させ、他の相続人の取り分が減った。
請求できないケース
逆に、遺留分を請求できないケースは次のとおりです。
ケース1:自分が兄弟姉妹(または甥姪)の場合。兄弟姉妹には遺留分がないため、請求できません。
ケース2:すでに1年または10年の時効・除斥期間が経過している場合。
ケース3:自分が相続放棄をしている場合。最初から相続人ではなかったとみなされ、遺留分もありません。
ケース4:自分が相続欠格・相続廃除になっている場合。相続権を失っているため、遺留分もありません。
ケース5:遺留分を放棄した場合。生前または相続後に遺留分を放棄した場合、請求できません。
ケース6:基礎財産が小さく、遺留分相当額を既に取得している場合。
判断に迷う場合
判断に迷う場合は、弁護士への相談が有効です。
時効の起算点、生前贈与の取り扱い、生命保険金の扱いなど、専門的な判断が必要なケースが多くあります。
遺留分侵害額請求の典型的なトラブル
遺留分侵害額請求では、いくつかの典型的なトラブルがあります。
トラブル1 財産評価額の対立
最も多いトラブルが、財産評価額の対立です。
不動産や非上場株式の評価額について、請求者は高く評価したい、相手方は低く評価したい、という対立が生じます。
対応策として、複数の評価方法の比較、不動産鑑定士の関与、専門家による調整、が有効です。
トラブル2 生前贈与の特定
被相続人の生前贈与の特定をめぐって対立することもあります。
銀行の取引履歴開示請求、贈与契約書の存在、贈与税申告書の確認、などで特定します。
トラブル3 時効をめぐる対立
時効の起算点について、当事者間で見解が分かれることがあります。
相続開始の認識時期、遺留分侵害の認識時期、証拠の有無、などが争点となります。
トラブル4 支払い能力の問題
相手方に遺留分侵害額の支払い能力がないケースもあります。
分割払い、不動産の売却による支払い、強制執行などで対応します。
トラブル5 遺言無効の主張
相手方から、遺言無効を主張されることもあります。
意思能力欠如、形式不備、偽造などの主張で、遺留分侵害額請求が長期化します。
トラブル6 受遺者・受贈者の所在不明
受遺者・受贈者が所在不明の場合、戸籍附票による住所確認、弁護士照会の活用、などが必要となります。
2019年改正前の遺留分減殺請求
2019年7月1日より前に発生した相続には、改正前の遺留分減殺請求のルールが適用されます。
改正前の制度概要
改正前の遺留分減殺請求は、現物返還が原則でした。
たとえば、遺留分減殺請求により不動産の持分を取り戻す、というような形で、財産の現物を回復する権利でした。
共有不動産化のリスク
現物返還により、不動産が共有化されることが多くありました。
共有関係の解消には、共有物分割の手続きが必要で、長期化することが多かったです。
価額弁償の活用
改正前でも、価額弁償の規定により金銭で解決することは可能でした(改正前民法1041条)。
受遺者・受贈者の選択により、現物の代わりに価額相当の金銭を支払うことができました。
時効・除斥期間
時効・除斥期間は改正前後で同じく、1年・10年です。
改正前の時効ルールも、改正後と同じ判例(最高裁昭和57年11月12日判決)が適用されます。
現在も改正前ルールが適用されるケース
2019年7月1日より前に発生した相続(つまり2009年7月1日以降の相続まで)には、現在も改正前のルールが適用される可能性があります。
ただし、10年の除斥期間で、ほぼすべての改正前事案が消滅しつつあります。
遺留分の放棄
遺留分は、生前・相続後とも放棄が可能です。
生前の遺留分放棄
生前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条)。
被相続人が事業承継のために特定の相続人に財産を集中させたい場合などに活用されます。家庭裁判所は、放棄の動機、必要性、代償の有無を総合的に判断します。
相続後の遺留分放棄
相続後の遺留分放棄は、自由にできます。
放棄の意思表示があれば成立し、家庭裁判所の許可は不要です。書面で残しておくのが望ましいです。
放棄の効果
遺留分放棄をしても、相続人の地位は失われません。
遺産分割協議には参加し、法定相続分に応じた財産は取得できます。ただし、遺留分侵害額請求はできなくなります。
遺留分のケーススタディ
具体的なケーススタディで、遺留分の判断と請求の流れを見ていきましょう。
ケース1 配偶者と子の遺留分
【ケース】
被相続人:A(80歳)
相続人:配偶者B(78歳)、子C・Dの2人
財産:1億円
状況:被相続人は遺言で全財産を子Cに遺贈
配偶者Bの遺留分は1億円×1/4=2,500万円。子Dの遺留分は1億円×1/8=1,250万円。
B・DはCに対して遺留分侵害額請求が可能。合計3,750万円の請求。弁護士に依頼して交渉、内容証明郵便で時効中断、6ヶ月で和解成立。
ケース2 兄弟姉妹は遺留分なし
【ケース】
被相続人:E(65歳・独身・子なし・両親死亡)
相続人:兄F・妹G
財産:5,000万円
状況:被相続人は遺言で全財産を長年の親友Hに遺贈
F・Gは兄弟姉妹で遺留分なし。法的に何も取れません。
被相続人の意思が完全に実現できるケース。生前の家族関係次第では納得しがたい場合もあるが、法律上はEの意思が優先されます。
ケース3 生前贈与がある場合
【ケース】
被相続人:I(75歳)
相続人:子J・K・L
財産:5,000万円
生前贈与:Iは5年前に長男Jに1億円を贈与
状況:遺言で残り5,000万円を友人Mに遺贈
基礎財産は5,000万円+1億円(生前贈与)=1億5,000万円。各子の遺留分は1億5,000万円×1/6=2,500万円。
Jは既に1億円を取得しているため遺留分侵害なし。K・LはMに対して2,500万円ずつの遺留分侵害額請求が可能。さらにJに対しても、超過分の遺留分減殺の可能性あり。
ケース4 期限切れのケース
【ケース】
被相続人:N(75歳・3年前に死亡)
相続人:配偶者O、子P
状況:Oは遺言で全財産を子Qに遺贈されたことを知っていたが、家族関係を悪化させたくないと請求せず3年経過
1年の時効を過ぎており、遺留分侵害額請求は原則できません。
特殊な事情(知らなかったなど)があれば例外もあり得ますが、原則として時効消滅です。早期の対応の重要性を示すケース。
ケース5 不動産がある複雑なケース
【ケース】
被相続人:R(80歳)
相続人:配偶者S、子T・U
財産:1.5億円(自宅5,000万円・収益不動産5,000万円・預貯金5,000万円)
状況:Rは遺言で全財産を子Tに遺贈
Sの遺留分は1.5億円×1/4=3,750万円、Uの遺留分は1.5億円×1/8=1,875万円。合計5,625万円の請求。
Tは預貯金5,000万円のうちから支払い、不足分は不動産を売却して支払う形で合意。専門家チームで対応し、1年で解決。
ケース6 事業承継と遺留分
【ケース】
被相続人:V(78歳・中小企業経営者・配偶者は既に死亡)
相続人:子W(後継者)・X・Y
財産:3億円(自宅・事業用不動産・非上場株式・預貯金)
状況:Vは遺言で全財産を後継者Wに遺贈
X・Yの遺留分はそれぞれ3億円×1/6=5,000万円。合計1億円の請求。
Wは生命保険金活用、銀行融資、事業承継税制の活用などで代償金を確保。X・Yに5,000万円ずつ支払い、事業承継を実現。
ケース7 内縁の妻への遺贈と子からの請求
【ケース】
被相続人:Z(70歳)
相続人:子BB・CC(前妻との子)
状況:内縁の妻AA(60歳・20年同居)
財産:1.2億円
状況:Zは遺言で全財産をAAに遺贈
BB・CCの遺留分はそれぞれ1.2億円×1/4=3,000万円。合計6,000万円の請求。
AAは法的には負ける立場だが、Zとの長年の同居実績などを踏まえて、6,000万円の支払いと残り6,000万円の取得で合意。
ケーススタディから学ぶ点
複数のケースから、遺留分は法定相続人の最低限の取り分を保障する制度、兄弟姉妹には遺留分なし、時効1年・除斥期間10年の管理が重要、生前贈与も基礎財産に算入、事業承継など複雑なケースは専門家チームが不可欠、ことが確認できます。
遺留分と相続税の関係
遺留分の請求は、相続税にも影響します。
遺留分侵害額請求は相続税の対象
遺留分侵害額として受け取った金銭も、相続税の課税対象となります。
受遺者から遺留分相当額の金銭を受け取る形で、相続税の課税計算に組み込まれます。
申告期限への影響
遺留分侵害額請求は、相続税申告期限(10ヶ月)後に確定するケースが多くあります。
未確定の状態でとりあえず申告し、後の確定により修正申告(または更正の請求)を行うのが一般的です。
修正申告と更正の請求
遺留分侵害額が確定したら、4ヶ月以内に修正申告または更正の請求を行います。
受遺者側は減額となるため更正の請求、請求者側は増額となるため修正申告、を行います。
税理士の関与
遺留分関連の相続税申告は複雑なため、税理士のサポートが推奨されます。
弁護士と税理士の連携で、法律問題と税務問題を一括対応できます。
遺留分関連の専門家活用
遺留分侵害額請求では、専門家のサポートが極めて重要です。
弁護士の役割
弁護士は、遺留分侵害額請求の中心的な専門家です。
時効の管理、内容証明郵便の作成、相手方との交渉、調停・訴訟の代理、強制執行まで、すべてを担当します。
費用は、内容証明郵便のみで5万円〜10万円、交渉から訴訟までの包括対応で30万円〜100万円+成功報酬10〜20%、が目安です。
税理士の役割
税理士は、相続税申告、財産評価、節税対策などを担当します。
遺留分関連では、修正申告・更正の請求の対応が中心となります。費用は、財産評価で20万円〜50万円、修正申告で10万円〜30万円、が目安です。
不動産鑑定士の役割
不動産の評価額が争点となる場合、不動産鑑定士の関与が有効です。
客観的な不動産評価は、交渉・調停・訴訟で重要な根拠となります。費用は、物件あたり20万円〜50万円、が目安です。
ワンストップ事務所の活用
弁護士・税理士・不動産鑑定士が連携するワンストップ事務所は、遺留分対応で大きなメリットがあります。
複雑な事案では、専門家チームの活用が成功の鍵となります。
無料相談の活用
多くの専門家が初回無料相談を提供しています。
複数の事務所で相談を受け、信頼できる専門家を選ぶことが大切です。
2024年現在の動向
遺留分をめぐる2024年現在の動向を整理しておきましょう。
動向1 2019年改正の定着
2019年の遺留分改正(金銭債権化)が定着しつつあります。
不動産の共有化リスクが解消され、より明確な解決が可能となっています。
動向2 高齢化に伴う遺留分事件の増加
高齢化に伴い、遺留分関連の事件も増加しています。
被相続人の意思能力をめぐる争いも増えており、遺言無効と遺留分の両方が問題となるケースが多くなっています。
動向3 オンライン相談の普及
コロナ禍以降、オンライン相談の普及により、地方在住者でも遺留分の相談がしやすくなっています。
動向4 事業承継と遺留分
中小企業の事業承継において、遺留分の問題が重要視されています。
事業承継税制と遺留分の調整、生前の遺留分放棄など、専門的な対応が必要なケースが増えています。
動向5 デジタル遺品の評価
暗号資産・NFTなど新しいタイプの財産の評価も、遺留分計算で問題となります。
評価方法が確立されていない財産については、専門家のサポートが不可欠です。
遺留分に関するよくある質問
遺留分について、よくある質問にお答えします。
Q1 遺留分は必ずもらえる?
法定相続人(配偶者・子・親)なら、原則として遺留分相当額を請求できます。ただし、時効(1年・10年)に注意が必要です。
Q2 遺留分の請求は誰にする?
遺贈・贈与を受けた人(受遺者・受贈者)に対して請求します。複数いる場合、受遺者から優先的に請求します。
Q3 内縁の妻には遺留分はある?
ありません。法定相続人ではないため、遺留分も認められません。
Q4 兄弟姉妹に遺留分はない?
ありません。被相続人が遺言で全財産を他の人に渡せば、兄弟姉妹は法的に何も取れません。
Q5 遺留分は放棄できる?
生前は家庭裁判所の許可が必要、相続後は自由に放棄できます。
Q6 遺留分の計算で生前贈与はどう扱う?
相続人への贈与は10年以内、相続人以外への贈与は1年以内が原則対象(2019年改正)。悪意の贈与は期間制限なしです。
Q7 遺留分侵害額請求の時効は?
相続開始と遺留分侵害を知った時から1年、相続開始から10年です。
Q8 遺留分は遺言で奪える?
原則として奪えません。被相続人が遺言で「遺留分を侵害する」と書いても、遺留分は法律で保障されます。ただし、生前の遺留分放棄(家裁許可)があれば奪えます。
Q9 生命保険金は遺留分の対象?
原則として対象外(受取人固有の財産)。ただし、極端な不平等が生じる場合は例外的に対象となる判例があります。
Q10 遺留分侵害額請求の費用はどのくらい?
内容証明郵便のみなら5万円〜10万円、交渉から訴訟までで30万円〜500万円。財産規模により大きく変動します。
遺留分の請求を成功させる5つのポイント
最後に、遺留分の請求を成功させる5つの実務的なポイントを整理しておきましょう。
ポイント1 早期の専門家相談
最も重要なのが、早期の専門家相談です。
時効1年の管理、財産調査、計算など、専門知識が必要な対応が多いため、弁護士への早期相談が成功の鍵となります。
ポイント2 内容証明郵便での時効中断
時効が近い場合、まずは内容証明郵便での意思表示を行いましょう。
弁護士に依頼すれば、迅速かつ確実に作成・送付してもらえます。
ポイント3 財産調査の徹底
被相続人の財産・債務、生前贈与の有無、生命保険金の存在など、徹底的に調査します。
銀行への取引履歴開示請求も活用しましょう。
ポイント4 客観的な評価額の確保
不動産・非上場株式などの評価額は、争点となりやすいです。
不動産鑑定士の関与、複数の評価方法の比較などで、客観的な評価額を確保しましょう。
ポイント5 妥協と合意の精神
完璧な金額の獲得を目指すより、妥協と合意の精神で交渉しましょう。
訴訟で全額取得を目指すと時間・費用がかかり、結果的に得られる金額が減ることもあります。早期解決のメリットも考慮しましょう。
まとめ
遺留分とは、法定相続人(配偶者・子・親)に法律で保障された最低限の取り分です。被相続人が遺言で全財産を他の人に渡しても、遺留分相当額の金銭を請求できます(2019年改正で金銭債権化)。
遺留分の割合は、配偶者・子・親(直系尊属)のみが相続人なら法定相続分の1/2、親のみが相続人なら法定相続分の1/3です。兄弟姉妹には遺留分がない点に注意が必要です。
計算方法は、基礎財産(相続開始時の財産+生前贈与-債務)×個別的遺留分の割合-その相続人の取得分、で算定します。生前贈与は、相続人への贈与は10年以内、相続人以外への贈与は1年以内が原則対象です(2019年改正)。
請求の手順は、遺留分侵害の確認、時効の確認、内容証明郵便での意思表示、交渉、調停、訴訟、強制執行、の7ステップです。時効は、相続開始と遺留分侵害を知った時から1年、相続開始から10年です。
読者の方が「遺留分を請求したい」「遺留分が侵害されているか確認したい」と考えているなら、まずは相続に詳しい弁護士に早めに相談することを強くおすすめします。時効1年の管理、財産調査、計算など、専門的な対応が必要なため、早期の相談が成功の鍵となります。早期の対応が、確実な権利保護と家族関係の維持の両立につながる最善策となります。
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基礎控除額
4,200万円
課税対象額
800万円
相続税の総額(概算)
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